太平洋経済展望(PEO)構造問題プロジェクト(太平洋経済協力会議(PECC)のInternational Project)は、「Macro-financial Linkages and Financial Deepening(マクロ金融リンケージと東アジアの金融市場発展)」をテーマに第2回目の国際専門家会合を開催した。本プロジェクトでは、2010年3月に第1回国際専門家会合を開催、アジア通貨危機(1997-98年)と世界金融危機(2008年)という2度の金融危機を経験した東アジアにおけるマクロ金融リンケージの進展や特徴について議論が行われており、今回はこの成果を踏まえ最終論文取りまとめに向けて開催したものである。概要は以下のとおり。
日 時:2010年9月11日(土)~12日(日)
場 所:関西経済連合会会議室(大阪)
プロジェクト参加エコノミー:オーストラリア、中国、香港、インドネシア、日本、フィリピン、シンガポール、チャイニーズ・タイペイ、
タイ(9ヵ国・地域)
コーディネータ:高阪 章・大阪大学大学院国際公共政策研究科教授
参加者:上記エコノミーから9名をはじめ国内外からの専門家、PECC各国委員会、オブザーバー等、計38名。
会合の概要:
冒頭、PEO日本委員会委員長代理の田邊隆一特命全権大使(関西担当)から歓迎挨拶のあと、高阪コーディネータから第1回会合のレビューと本会合における議論の狙い等について説明があり、その後セッション毎に議論が展開された。
2度の危機を通じたマクロ的な金融の結びつきの変化、国際投資フローの構成・規模の変化、国内金融市場の深化、さらには、アジアの新興債権エコノミー(中国、香港、チャイニーズ・タイペイ)、その他の新興エコノミー(インドネシア、タイ、フィリピン)、先進国(日本、オーストラリア)といった各エコノミー・グループ毎の問題について各々発表と意見が交わされた。
最後に、各国専門家は2010年12月下旬を目途に最終論文の提出を約束し、盛会のうちに2日間の議論を終えた。
なお、2011年4月を目途に本テーマに関する論文のエグゼクティブ・サマリーをとりまとめる予定である。
(問い合わせ先 PEO日本委員会事務局 e-mail:peo@kiser.or.jp)
太平洋経済展望(PEO)構造問題プロジェクト(太平洋経済協力会議(PECC)のInternational Project。コーディネータは日本の高阪章・大阪大学大学院教授)は、2009年~2010年の研究テーマを「Macrofinancial Linkages and Financial Deepening(マクロ金融リンケージと東アジアの金融市場発展)」とする研究活動を進めており、2010年3月に第1回目の国際専門家会合を開催した。概要は以下のとおり。
◆本テーマ設定の背景と狙い
グローバル資本市場の統合化により、各国経済はマクロ金融リンケージを深め、景気循環の増幅効果を強めている。本プロジェクトでは、近年におけるマクロ金融リンケージが東アジアの金融発展プロセスにどのような影響を及ぼしているのかについて考える。
97-98年のアジア金融危機は、太平洋地域の貿易・投資活動を支えるより強固なアジア域内金融システムの必要性を示した。実際、アジア新興国は、域内金融協力を模索するとともに、国内金融市場の再構築に努め(世界銀行2007)、先進国もまた、金融市場統合化というトレンドの中で、新興市場への金融リンケージを再構築した(IMF2009)。
今回のグローバル金融危機において、新興国の金融・資本市場においては、市場開放度の違いに由来する各国特有のショックに加え、地域共通の大きなショックが起きていることを確認したが、アジア太平洋地域の金融構造がどれほどショックに強いのかということに対して答えを見出したい。
◆プロジェクト参加国・地域(2010年3月現在):
オーストラリア、中国、コロンビア、香港、インドネシア、日本、チャイニーズ・タイペイ、タイ、フィリピン、米国
◆第1回国際専門家会合の概要
日時:2010年3月6日(土)-7日(日)
場所:関西経済連合会会議室(大阪)
参加者:
上記プロジェクト参加国・地域のうち、オーストラリア、フィリピンを除く国・地域から13名の専門家、PECC各国委員会、オブザーバー等 計42名。
会合の概要:
1日目は、野上義二PEO日本委員会委員長(PECC日本委員会委員長)より挨拶、高阪章コーディネータより本プロジェクトの趣旨説明の後、専門家から提出された各国論文に基づき活発な議論を展開した。日本からは白塚重典・日本銀行金融研究所参事役が論文発表を行った、夕食会では、田邊隆一特命全権大使(関西担当)から歓迎の挨拶をいただいた。
2日目は、アジア太平洋地域において存在感を高める中国について、リーマン・ショック後の経済動向や金融・資本市場の深化などを議論、その後、総括討議を行い、2010年9月の第2回目の国際専門家会合開催を決め、2日間の日程を終えた。
(問い合わせ先 PEO日本委員会事務局 e-mail:peo@kiser.or.jp)
“External Adjustments under Increasing Integration in the Pacific Region”
2000年代に入って、世界経済全体で経常収支不均衡が相当期間にわたって持続している。この対外不均衡の調整が、いつ、どのような形で起こるのかが重要な政策問題となった。本研究課題では、太平洋地域における経済統合化の進展に伴う長期的な対外調整プロセスの構造変化としてこの問題を取り上げた。
今回とくに注目したのは、市場統合化という構造変化の含意である。まず、資本市場の統合化は、投資が内外の生産的な機会に配分されている限り、一国の貯蓄投資のバランス(経常収支不均衡)の短期的な解消は重要ではなくなることを意味する。他方、財市場の統合化は、生産ネットワークのグローバル化という形で、国際垂直分業を深化させ、また価格の弾力性を増大させる。すなわち、本研究では、経済統合化の進展という新たな国際経済環境を背景に、対外収支決定要因と同不均衡の持続性を再検討することによって、最近の対外調整メカニズムを明らかにし、これらのマクロ経済政策に対するインプリケーションを導く。
研究の成果: 2008年9月に開催した第2回国際専門家会合では、急展開をみせるグローバル金融危機を意識しながら、中長期的な対外調整メカニズムの構造変化が論じられた。なかでも、ゲストスピーカーであるカリフォルニア大学バークレー校Barry Eichengreen教授は、サブプライムローン破綻に始まる危機が国際金融市場に与える深刻なインパクトと関係者の議論の動向を詳細に報告し、いまや、マクロ経済政策の関心はグローバル・インバランスからグローバル金融危機にシフトしたことを如実に示した。
とはいえ、対外不均衡の解消のために、どれだけ総需要の変化で負担し、どれだけは為替変動で賄うかという問題は依然として残っている。このメカニズムに構造変化が起こっているのではないかというのが、ここでの関心事である。2009年初めにかけて、各専門家から最終報告書が提出され、それをベースに、主査が報告書を責任編集した。
2009年5月にワシントンDCで開催されたPECC総会に提出した同報告書の内容は以下のように要約できる:
1)金融統合化と金融リスク
金融統合化はリスク投資を促進し、資産市場バブルの発生確率を高めるため、当局は新たな環境に応じた金融規制改革とマクロ経済運営改革に取り組む必要がある。この意味で、新興市場が外貨準備を積み増し、他方、企業部門が留保利潤(企業貯蓄)を手厚くして、国および部門のバランスシート強化を図っているのも増大する金融リスクに対する保険行動と理解できる。金融統合化はグロスの金融フローを拡大し、その結果、所得収支が経常収支の動向を支配する傾向がみられ、かつ、蓄積された対外債権債務は為替変動による資産効果を増幅する可能性が大きくなっている。
2)米国のインバランスのサステイナビリティ(持続可能性)
1970年代以降のポスト・ブレトン・ウッズ体制では、金融統合化を背景に比較優位をもつ米国が「世界のバンカー」を卒業し、「世界のファンドマネージャー」としてリスク投資を拡大してきた。対外インバランスはその結果であり、これを大幅修正することができるのか、また、そうする必要があるのかについては議論の余地がある。
3)為替調整
対外インバランスの調整に必要な為替調整の大きさが議論されてきたが、国際垂直分業の拡大、金融統合化などの進展は、経常収支における貿易収支の相対的比重を小さくし、為替レートの対外調整の役割を限定的なものにしている。
4)新興市場の金融開放度
東アジア新興市場の金融開放度が不十分であり、外貨準備蓄積を拡大しながらの通貨安政策がインバランスの原因であるとする議論は誤りであり、金融市場構造に脆弱性を抱えているこれらの市場が、金融統合化に伴う潜在的金融リスクに対して慎重に資本自由化を進め、保険としての外貨準備蓄積に努める戦略は一定の合理性をもつものと解釈できる。
5)マクロ経済政策の選択肢
標準的な世界マクロ一般均衡モデルが示すように、米国のインバランス解消に最も直接的、かつ効果的な政策選択は(日欧やアジアの黒字縮小ではなく)米国の貯蓄率向上に他ならない。その手段としては、財政収支改善と家計貯蓄改善がもっとも現実的な政策選択であると思われ、とくに世界経済の同時縮小が不可避である現在では、米国以外の先進国、新興市場の通貨高は景気回復の処方箋たり得ないと思われる。
6)新たな金融規制の枠組み
以上より、少なくとも短期的あるいは中期的にグローバル・インバランスの解消が必要なのかどうかは明かではないが、今回のグローバル金融危機の結果の予想もしなかったハードランディングが、これまで必要とされてきた対外調整だったのかどうかは確かでない。統合化が進行しているとき、金融資本はそれぞれの投資視野からますます自由に移動することとなる。米国の対外資産の(事後的)収益率が米国の対外債務の収益率よりはるかに高いことがよく知られている。投資期待における非対称性がITバブル後の米国への金融フローを生じさせてきた。為替レート変化の対外調整機能が低下していることを考えれば、単純な規制の強化ではなく、経済統合化に適した規制の改善によって国際投資家に、より安全で健全な金融環境を提供する努力こそが必要だと思われる。
主な研究活動
■2008年3月16、17日(大阪)
第1回構造問題国際専門家会合
■2008年9月6、7日(大阪)
第2回構造問題国際専門家会合
■2009年5月
研究成果報告書(Executive Summary)刊行
■2009年5月2日(ワシントンDC)
第18回PECC総会にて野上PEO日本委員長より報告
■2010年3月
研究成果報告書(Background Papers)刊行予定
“Aging and Economic Growth Potential in the Pacific Region”
この課題は最近注目されており、とくに、先進国、新興市場国に顕著な人口高齢化のもたらすリスク、すなわち、(1)経済成長率鈍化、(2)技術革新停滞、(3)年金など財政負担増、が懸念されている。
最近の議論では、(3)に注目されることが多いが、ここでは、高齢化速度のもっとも大きな太平洋地域を対象に、(1)と(2)に注目して、各国の実情を相互理解し、可能な政策選択を探る。
最初にすべき作業は、人口動態の正確な把握である。人口予測の不確実性は避けられない問題だが、高齢化、出生率低下、長寿化は、過去、いずれも過小評価されてきた。この傾向は今後も続くのか、各国の経験も調べる。
高齢化の経済的影響については、とくに検討を要するのは、高齢化と労働供給、貯蓄・投資行動の関係の各国での相違(あるいは類似)を明らかにすることである。やや技術的になるが、過去の時系列データをベースに推計されたパラメータが将来予測にどの程度使えるものなのかも議論する。
政策対応としては、(1)労働供給、(2)貯蓄、(3)生産性、をそれぞれ増加させる措置が必要になる。それぞれについて、どのような具合的選択肢があり、それがどのように実施され、あるいは実施が計画されているかを相互理解しておきたい。場合によっては他地域(北欧など)も検討していく。
主な研究活動
■2006年3月18、19日(大阪)
第1回構造問題国際専門家会合
■2006年9月23、24日(大阪)
第2回構造問題国際専門家会合
■2007年4月
研究成果報告書(Executive Summary)刊行
■2007年5月2日(シドニー)
第17回PECC総会にて高阪国際コーディネータよりプレゼンテーション
■2007年6月
研究成果報告書(Background Papers)刊行
"Macroeconomic Management under Debt Workouts in the Pacific Region"
金融グローバル化の下で金融危機が頻発している。80年代米国における貯蓄金融機関が破綻、90年代日本の金融破綻、90年代新興市場の金融危機、債務危機など、債務処理は各国に共通する深刻な政策課題となっている。ここではとくに、バランスシートの改善を目的とした債務処理が財政政策や金融政策などのマクロ経済運営をどのように制約しているのか、マクロ経済安定の機動的な達成のためにはどのような債務処理の仕組みが望ましいのかと、各国の経験を比較することで明らかにする。
主な研究活動
■2003年8月30、31日、9月3日
第15回PECC調整委員会・常任委員会(ブルネイ):
タスクフォースとしての活動継続および研究テーマについて承認
■2004年3月20、21日(大阪)
第1回構造問題国際専門家会合
■2004年9月25、26日(大阪)
第2回構造問題国際専門家会合
■2005年8月
研究成果報告書(Executive Summary)刊行
■2005年9月5日(ソウル)
PECC総会においてパネルディスカッションを開催。
■2006年3月
研究成果報告書(Background Papers)刊行
■2008年7月
研究成果報告書(和文概観)刊行
“Infrastructure Development in the Pacific Region”
日本では、道路公団問題をはじめ、公共投資の有効性が疑問視され、経済援助でもインフラ投資の効果が再検討されるに至っている。本研究では、物的および人的/知的社会共通資本(伝統的産業基盤、通信革命、教育、再訓練など)への投資が、外部効果や学習効果を通じてどれ程経済成長に貢献するか(投資ファイナンスも含め、社会的損益も視野に入れる)を、各国の経験に照らして考察した。
分析の切り口として、
(1)マクロ的見地からの経済効果の検証
(2)ミクロ的見地からの制度組織面の分析
(3)新しい概念でのインフラ(ハードに限らずソフトも対象)
の3点をポイントとした。
通信、観光、人材育成などセクター別のアプローチはあるが、インフラ投資をひとまとめにしてマクロ的な成長に結びつけた議論を展開するには至っていない。世界銀行では、国際比較可能なインフラデータベースを用いた成長回帰(growth regression)の方法によって、国横断的にインフラ投資の成長効果を図り、民営化・民活導入による効率化を唱道した。アジア通貨危機による債務問題で民活路線が頓挫しかかり、誰が投資リスクを背負うのかといった現実的な議論も展開される中、世界銀行が発したメッセージの含意を、個別国の文脈で再検討してみる意義は大きい。
どのようなインフラがどのような状況で必要とされるのか、そのためのリソースをどう工面するか、財政再建の努力の中で、各国の発展段階に応じた有効な資源配分と資源利用の効率化をどのように図るか。こうした問題意識に立って、インフラ開発の現代的意義を再構築することに努めた。
研究成果は、第15回PECC総会(ブルネイ)ワークショップにおいて、成果報告と討論のセッションを開催して発表した。
なお、2006年12月に、国際的に著名な英国の出版社=Routledge社から、商業出版された。
“Fiscal Policy Issues in the Pacific Region”
財政政策に関する諸課題について、マクロ経済とミクロ経済の両面から、過去を振り返るとともに、現在および将来に向けて政策構想を打ち出すことが求められている。本研究では、マクロ面として、
(1)マクロ経済安定化
(2)財政赤字の維持可能性
を論点に取り上げ、短期の需要管理と長期の債務動学との間の基本的ジレンマ等の考察を行うとともに、ミクロ面では、
(3)財政支出の効率性と合理化
を取り上げ、公共部門と民間部門との分業協業関係などについて検討を行った。
1996年5月に刊行されたIMF“World Economic Outlook”は、過去20年間にわたって享受した世界平和と繁栄の下で、先進工業国が前例のないほどの膨大な公的債務を抱えたことに対して警告を発している。北米や欧州に対しては、公的債務の対GDP比率が適正水準へと引き下げられていない点を、ラテンアメリカの途上国には、財政不均衡を抑制し、国家の市場介入を縮小すべきであることを、強く訴えた。その一方で、当時の東アジアは、財政運営が健全であることで知られ、財政赤字は小さく、債務も無視できるほどであった。
しかし、その後5年を経て、世界の状況は一変した。太平洋地域では、米国をはじめとする先進国は、日本を除き、財政健全化で大きな前進を遂げ、ラテンアメリカも一定の成果をあげた。これに引き替え、東アジアのいくつかの経済は、アジア経済危機からの回復過程で財政出動に頼り、その結果として将来の公的債務管理の問題に直面しつつある。長期不況に悩む日本は、今や世界でもっとも深刻な財政再建問題に直面していることはよく知られている。
財政規律の重要性は、政策当局のよく知るところであるにもかかわらず、このような対照的なパフォーマンスの差が現れるのはなぜか。財政政策課題に関する経験を吟味し、比較することによって、将来の政策形成の一助たることを目指した。
研究成果は、第14回PECC総会(香港)においで、分科会を開催して発表するとともに、2002年4月のAPEC財務大臣代理会合の場でも、報告を行った。
2004年3月、国際的に著名な英国の出版社=Routledge社から、商業出版された。