太平洋経済協力会議(PECC)「State of the Region(SOTR:太平洋地域の現況報告)2007-2008」の発表
DATE: 2007-12-12
太平洋経済協力会議(PECC)「State of the Region(SOTR:太平洋地域の現況報告)2007-2008」の発表
太平洋経済展望(PEO)日本委員会(財団法人関西社会経済研究所内)は、PECC地域 体の2007年の実質GDP成長率は4.9%程度で、2006年からわずかに低下するというアジア大洋州地域の経済予測を発表しました。詳細については、特に下記のSOTRのポイントを参照下さい。
(稲田 義久氏 太平洋経済展望(PEO)日本委員会 短期予測部門主査、
(財)関西社会経済研究所 マクロ分析プロジェクト主査、甲南大学経済学部長・教授)
太平洋経済協力会議(PECC)地域の「State of the Region(SOTR)2007-2008」について
アジア太平洋の産学官で組織する太平洋経済協力会議(PECC)の作業部会=太平洋経済展望(PEO)は、これまで、加盟国・地域のうち18ヵ国・地域の経済予測をとりまとめ毎年、公表してきたが、18年度より、PECCとして別添のとおり「State of the Region」(SOTR)を取りまとめ公表することになりました。この度その2007-2008年版が発行されましたので、その概要を発表いたします。
* SOTRは、①域内専門家へのアンケート調査に基づくアジア太平洋地域の課題の評価と、②従来から行なってきた産学官の共同による中立的な経済予測の分析(今回で20回目)、から構成されており、APEC(アジア太平洋経済協力会議)への政策提言を意図した内容になっている。
* アンケート調査は2007年8月に実施したもので、アジア太平洋各国・地域の382名から回答を得た。
* 日本経済の予測については、PEO日本委員会(事務局=(財)関西社会経済研究所)の稲田義久・短期予測部門主査(甲南大学経済学部教授)が中心となりとりまとめた。
SOTRのポイント
(短期予測)
* PECC地域全体の2007年の実質GDP成長率は4.9%程度で、2006年からわずかに低下する。米国の景気減速を東アジアが補った格好。2008年も同程度の成長であるが、米国経済は回復し、東アジア経済の多くが純輸出の低調により緩やかに減速。
* 新たなリスクとしては、最近の不安定な金融市場が、実体経済、特に米国に波及すること。サブプライムローン問題による被害の程度は、約3,000億ドルになりうる。これは、ドル下落とともに、投資、雇用、資産価格、消費者マインドに対する下方圧力となるだろう。金融部門のシステミック・リスクや米国の深刻な景気後退をもたらす深刻な市場崩壊が起こる可能性も全くないとは言えない。
* ただし、米国では主要中央銀行による信用市場支援措置が功を奏し、一般住宅ローン市場、金融派生商品投資や消費活動に対する資金の流れが着実に改善している。米国の2007年の実質GDP成長率は2006年(2.9%)より鈍化の2%程度となるが、減速は2008年半ばには底を打ち、2009年を通じて成長は加速するとみる。
* 日本経済は2007年後半に減速し、年平均で2.1%、2008年1.8%の成長を予測。民間消費は引き続き成長の牽引役となり、GDP成長への寄与率は 2007年1%ポイント、2008年0.8%ポイント、2009年0.7%ポイントの伸びとなる。労働需給逼迫に対して就業者が増加し世帯全体の家計所得を増やすため、2007年後半から2008年、2009年を通じて個人消費は緩やかに拡大。国内のダウンサイドリスクの一つは、構造改革推進への政治的意思に対する新たな疑念。(中長期の課題、地域機構)
* オピニオン・リーダーに対する調査で重要と確認された中長期の課題として、①環境問題とエネルギー安全保障への関心の増加②ドーハラウンドの行き詰まりとその結末③継続する環太平洋におけるインバランスという3つの大きなリスクがある。
* APECは最大範囲のメンバーシップを擁し、進んだ活動プログラムをつくっているが、自発的な経済協力という大きな制限があるとともに、交渉やルール化をはかる組織ではないため、機関としての発展は困難。
* アンケート調査では、環太平洋レベル、サブ・リージョナル・レベルのいずれにおいても地域機関の現状にかなりの不満があることを示す。一般には、APECとASEANは、後発の東アジアサミット(EAS)とASEANプラス3よりは良い評価で、EASがAPECの重要な競争相手になると考えているのは 30%に過ぎない。