25%追加関税の対米自動車輸出への影響

Trend Watch No.100

洞察・意見 » トレンドウォッチ

ABSTRACT

貿易統計(通関ベース)から、2024年の日本の輸出額(確々報)は107.1兆円であり、それに占める主要国のシェアを確認すると、米国は21.3兆円(19.9%)、中国は18.9兆円(17.6%)、韓国は7.0兆円(6.6%)と続き、米国が第一の輸出相手国となっている。

次に、財別(大分類)に輸出金額とシェアを確認すると、輸送機器は24.5兆円(22.9%)、一般機械は19.2兆円(17.9%)、電気機器は17.9兆円(16.7%)が上位3位を占める。輸送機器のうち、自動車は17.9兆円(579.9万台)、乗用車は16.2兆円(512万台)、自動車の部分品は4.0兆円(229万トン)となっている。

対米輸出額(21.3兆円)のうち、輸送機器は7.7兆円(シェア:36.0%)、うち自動車は6.0兆円(シェア:28.3%、137.6万台)、自動車の部分品は1.2兆円(シェア:5.8%)となる。2024年の対米自動車輸出額は名目GDP(609.3兆円)比1.0%に相当する。

トランプ大統領は関税率引き上げを政策の重要な武器の一つとして主張してきた。3月26日に輸入自動車に25%の追加関税をかけることを発表した。この政策は4月3日から発動され、乗用車の現行税率2.5%が追加関税で27.5%、トラックは現行税率25.0%が50.0%にそれぞれ上昇することを意味する。本稿の目的はこの政策変更がどのような影響を日本経済に及ぼすかを検討することである。教科書的な輸出関数を用いて推計を行い、関税の追加引き上げの影響を見る。

DETAIL

はじめに

貿易統計(通関ベース)から、2024年の日本の輸出額(確々報)は107.1兆円であり、それに占める主要国のシェアを確認すると、米国は21.3兆円(19.9%)、中国は18.9兆円(17.6%)、韓国は7.0兆円(6.6%)と続き、米国が第一の輸出相手国となっている。

次に、財別(大分類)に輸出金額とシェアを確認すると、輸送機器は24.5兆円(22.9%)、一般機械は19.2兆円(17.9%)、電気機器は17.9兆円(16.7%)が上位3位を占める。輸送機器のうち、自動車は17.9兆円(579.9万台)、乗用車は16.2兆円(512万台)、自動車の部分品は4.0兆円(229万トン)となっている。

対米輸出額(21.3兆円)のうち、輸送機器は7.7兆円(シェア:36.0%)、うち自動車は6.0兆円(シェア:28.3%、137.6万台)、自動車の部分品は1.2兆円(シェア:5.8%)となる。2024年の対米自動車輸出額は名目GDP(609.3兆円)比1.0%に相当する。

トランプ大統領は関税率引き上げを政策の重要な武器の一つとして主張してきた。3月26日に輸入自動車に25%の追加関税をかけることを発表した。この政策は4月3日から発動され、乗用車の現行税率2.5%が追加関税で27.5%、トラックは現行税率25.0%が50.0%にそれぞれ上昇することを意味する。本稿の目的はこの政策変更がどのような影響を日本経済に及ぼすかを検討することである。教科書的な輸出関数を用いて推計を行い、関税の追加引き上げの影響を見る。

 

 

1.対米自動車輸出

図表1は、1988年1-3月期から2024年10-12月期にかけての日本の対米自動車実質輸出額と、米国の実質GDPの推移を示したものである。米国実質GDPと対米自動車実質輸出額には正の相関がみられる。図表1からわかるように、2000年以降で日本の対米自動車輸出が大きく減少したのは、09年1-3月期、11年4-6月期、20年4-6月期である。これらは、リーマンショック(世界金融不況)、東日本大震災、コロナショックの時期に対応する。

図表1 対米自動車輸出と米国実質GDP

出所:財務省「普通貿易統計」及びBEAより作成

 

次に図表2を見てみよう。同期間における日本の対米自動車実質輸出額と、日米の自動車の相対価格の推移を示したものである。自動車の相対価格は、ドルベースの日本の輸送機器の輸出物価指数と米国自動車消費者物価指数との相対比である。上記の3つの時期を除けば、相対価格と自動車輸出には明瞭な負の関係が見られる。

 

図表2 対米自動車輸出と自動車相対価格

出所:財務省「普通貿易統計」及びBEAより作成

 

 

2.対米自動車輸出関数

教科書的には、輸出(輸入需要)は2つの説明変数(相対価格と相手国の所得)の関数である。関数は対数変換した2つの説明変数の係数、価格弾力性(α)と所得弾力性(β)の値で特徴づけられる。

 

log(対米自動車実質輸出額)=定数項+α×log((1+輸入関税率)×相対価格)+β×log(所得)

相対価格=(日本の輸送機器輸出価格指数/為替レート)/米国の自動車消費者物価指数

所得:米国実質GDP

 

なお、自動車の輸入関税率は、乗用車とトラックの関税率の加重平均値である。推計された対米自動車輸出関数の結果は図表3に示されている。対米自動車輸出の相対価格の弾力性は-0.501、所得弾力性は0.576と推計される。

 

図表3 対米自動車輸出関数の推計結果

 

 

3.含意

ここで、現行の関税率(乗用車:2.5%、トラック:25.0%)が追加的に25%引き上げられるため、結果、自動車の関税率(乗用車とトラックの税率の加重平均値)は当初の2.95%から27.95%となる。結果、相対価格は24.3%(1.2795/1.0295-1)上昇し、日本の対米自動車輸出関数の価格弾力性は-0.501であるから、自動車輸出は12.2%(=-0.501×24.3%)減少することになる。以上から2024年の自動車輸出金額(6.0兆円)は7,338億円減少することになり、これは同年の名目GDPの0.12%に相当する。内閣府によれば、日本のGDP潜在成長率が0.5%(2024年)であるから、0.12%の減少は決して小さな影響ではないといえよう。

自動車輸出の大幅減少は当該関連産業に大きな影響を与える。2020年産業連関表によれば、輸送機械産業への最終需要が1単位増加した場合の経済全体への生産波及は2.48であり、これは仮設部門を除いた36部門のうち最大の大きさである。

以上が相対価格を通じた対米輸出への影響であるが、関税引き上げが消費者物価にパス・スルーすることにより米国内ではインフレが加速する。インフレの加速は実質所得を目減りさせるため、自動車の需要を削減する効果を持つ。所得弾力性が0.576であるから、米国実質GDPが1%減少した場合、対日自動車輸入は0.58%減少することを意味する。本稿では、関税引き上げの影響を価格効果に限定したが、所得効果を含めればその影響は一層拡大する。

25%追加関税の決定に対して、日本やEUは交渉での解決を模索しているが、トランプ大統領の関税政策は不確実性が高い。このため自動車産業のサプライチェーンへの影響については不透明感が高まっている。しばらくその推移を注視したい。

pagetop
loading