ABSTRACT
本稿では、オーバーツーリズム解消の一助ともなる広域・周遊化を目指したプログラムを提案する。APIRでは、関西の観光地における「ブランド力」指標確立に向けたWebアンケート調査を実施した。今回はその結果に基づき、単に近隣の観光地を結んだ周遊プランではなく、観光客の旅行目的に基づく属性別の新たな関西広域周遊プランを示す。以下は分析の要約と得られた含意である。
- 本調査では、観光地のブランド力を3つの定量的な指標(満足度、紹介意向と再来訪意向)で評価した。紹介意向については、在留外国人の方が日本人より高い傾向にある。紹介意向と総合満足度との関係では、在留外国人の方が日本人よりも、紹介意向の評価が総合満足度のそれを上回っている。すなわち、在留外国人は観光地の満足度に関わらず、当該地の紹介意向が高い。
- また、再来訪意向についてみると、欧米豪の人は、日本の観光地に満足し、何度でも行きたいと思っている。これは、彼らは特に日本の文化、自然に関心が強いことが影響していると考えられる。また、日本人やアジアの人は観光地に満足するが、再来訪意向は低く、訪問は1回で十分と考える人が多い。アジアや関西の人は観光地の情報量が多いこともあり、相対的に評価が厳しい。
- アンケート調査から得られた結果を基に、旅行者の関心事の高い3つの旅行目的を抽出し、それらの目的を繋いだ属性別の周遊プランを作成した。その結果、日本人に共通する要素としては、「食」、「都市観光」や「買物」がキーワードである。うち、関西在住者と関西以外在住者とでは、幾分異なったルートも考えられる。すなわち、前者は「温泉」が、後者はそれに加え「自然の豊かさ」の体験がキーワードとなっている。在留外国人には、「地域文化」や「自然の豊かさ」を体験するルートが考えられる。これらのルートは、地理的には遠方のエリアを繋いだものとなっているが、外国人の目的からすれば、許容できるものと考えられる。
DETAIL
はじめに
関西におけるポスト万博を見据えた観光戦略では、オーバーツーリズム解消の一助ともなる広域・周遊化を目指したプログラム作りと一層の訴求が重要となる。そのためにも、観光地におけるブランドの掘り起こしに加え磨き上げが必要となる。
APIR では 2023 年 12 月から 24 年 1 月にかけて、関西の観光地における「ブランド力」指標確立に向けた Web アンケート調査を実施した。本調査の目的は観光地のブランド力を 3 つの定量的なベンチマーク指標(満足度、再来訪意向と紹介意向)で評価することにある。その指標を用いることで、単に観光地を結んだ周遊プランではなく、観光客の旅行目的に基づいた属性別の新たな関西広域周遊プランの提供を意図している。
本稿の展開は以下の通りである。1.では、今回実施したアンケート調査の概要を説明する。2.では、日本人(関西在住と関西以外在住)及び在留外国人(アジアと欧米豪)の旅行者が各観光地へどのような旅行目的で来ているのかを明らかにする。また、3.では、各府県の観光地について、旅行者が訪問地へ訪れる前の期待と訪問後の満足感を比較する。4.では、観光地に対する総合満足度、紹介意向及び再来訪意向の 3 指標を試算し、それらを比較することによって観光地の旅行者による評価を明らかにした。5.では、2.の結果を用いて、旅行者の属性(旅行目的)に基づいた視点から関西の広域観光周遊に向けたプランを検討する。一例として、3 つのグループに分けて周遊ルートを造成した。
1.アンケート調査の概要
関西と関西以外に在住している日本人及び日本在留の外国人を対象に Web アンケート調査を行った。本アンケート調査は、コロナ禍以降の新たな旅行動態を把握し、観光客の属性に基づく関西広域周遊プラン作成を目的としている。このため、対象となる観光地エリアへの「宿泊を伴う訪問実績」が、2022 年以降で 2 エリア以上あり且つ少なくとも1エリアは「兵庫県・奈良県・滋賀県・和歌山県」のいずれかを訪れた人を対象とした。サンプル数については、日本人 500 名、外国人 200名とした。
観光庁(2010)は、観光地についての顧客満足度、再来訪意向や紹介意向は、観光地のサービス品質と密接な関係があると想定している。観光地でのリピーターの獲得や維持において、顧客満足度は重要な要素ではあるが、その他の要因も観光地に対する『ロイヤリティ』に関連しているためである(図表 1-1)。なお、ロイヤリティは、ここでは行動を伴うロイヤリティ「再来訪意向」と意識や姿勢としてのロイヤリティ「紹介意向」に区分される。
以上を整理すると、顧客満足度とロイヤリティの検討には、「認知されたサービス品質と価値」を中核としつつも、関連する他の要素(経験・感想、つながり意識、ブランド意識:非サービス品質と価値)評価することが必要である。本アンケート調査ではそれらの情報を考慮し、APIR 独自の観点を踏まえて調査票を作成した。
2.観光地における旅行目的:日本人及び在留外国人
2.では各観光地への旅行目的について、日本人(関西在住者と関西以外在住者)と在留外国人(アジアと欧米豪)に分けて整理し、その違いをみる。
旅行目的の選択肢については、図表 2-1 の通りである。13 項目からなり、複数回答可能となっている。
【日本人:関西在住者】
まず、関西在住者の旅行目的に注目し、その特徴をみよう(図表 2-2)。
<大阪府・京都府>
「大阪-キタ」、「大阪-ミナミ」では、天神橋筋商店街や道頓堀など、飲食施設が集積していることもあり、「おいしいものを食べること」が最も回答が多い。全目的のうち、それぞれ、21.4%、19.7%を占める。「大阪-ベイ」をみれば、海遊館やユニバーサルスタジオジャパン等が立地していることから、「観光・文化施設(水族館や美術館など)を訪れること」の回答が多くなっている(25.0%)。なお、「大阪-泉州」では「買い物をすること」が高くなっている(20.8%)。
「京都-京都市内」、「京都-宇治」をみれば、清水寺や平等院鳳凰堂など数多くの歴史遺産が集積していることもあり、「文化的な名所旧跡をみること」の回答が多い(28.1%)。次に「京都-丹後」では、「おいしいものを食べること」(22.8%)が、「京都-南丹」では「温泉に入ること」(19.0%)が、それぞれ回答が最も多い。
<兵庫県・奈良県>
兵庫県では、「兵庫-阪神」(21.5%)、「兵庫-姫路・播但」(17.7%)、「兵庫-淡路島」(23.3%)の全てのエリアで「おいしいものを食べること」が最も多い回答であった。
次に奈良県をみると、「奈良-奈良市内」では、「自然景観をみること」(18.6%)が、「奈良-斑鳩」、「吉野・明日香」では、「文化的な名所旧跡をみること」(23.1%)が、多い回答となった。
<滋賀県・和歌山県>
滋賀県をみると、「滋賀-湖北」(17.9%)、「滋賀-大津」(22.2%)では「おいしいものを食べる」が、「滋賀-湖東」では「自然景観をみること」(20.3%)が、最も多い回答であった。
「和歌山-白浜・串本」では、「自然景観をみること」と「おいしいものを食べること」がともに最も多くなっている(20.5%)。「和歌山-高野山」では「自然景観をみること」(24.0%)が、「和歌山-熊野」では「文化的な名所旧跡をみること」及び「自然景観をみること」がそれぞれ高い結果(19.4%)となっている。
このように関西在住者は主として食や歴史文化を体験するために、関西の観光地を訪れる傾向がみられる。
【日本人:関西以外在住者】
次に、関西以外在住者の旅行目的をエリア別にみよう(図表 2-3)。
<大阪府・京都府>
「大阪-キタ」(18.3%)、「大阪-ベイ」(23.1%)、「大阪-ミナミ」(27.7%)、いずれにおいても「おいしいものを食べること」の回答が多い。「大阪-泉州」では「自然景観をみること」が高い(16.0%)。
「京都-京都市内」(19.4%)、「京都-丹後」(16.9%)、「京都-南丹」(24.1%)、「京都-宇治」(19.6%)をみれば、いずれも「文化的な名所旧跡を見ること」が最も高くなっている。
<兵庫県・奈良県>
「兵庫-阪神」では、「おいしいものを食べること」(18.6%)が、「兵庫-姫路・播但」では、「文化的な名所旧跡をみること」(25.0%)が、「兵庫-淡路島」では「自然景観をみること」(16.7%)が、それぞれ最も回答が多い。
「奈良-奈良市内」(23.6%)、「奈良-斑鳩」(21.6%)および「奈良-吉野・明日香」(23.0%)では、すべてのエリアで「文化的な名所旧跡をみること」が最も多く、「奈良-吉野・明日香」では加えて「自然景観をみること」(23.0%)の回答も多い。
<滋賀県・和歌山県>
「滋賀-湖北」では、「文化的な名所旧跡をみること」(18.3%)、「自然景観をみること」(18.3%)がともに最も多くなっている。また、「滋賀-大津」では「自然景観をみること」(17.7%)、「滋賀-湖東」では「文化的な名所旧跡をみること」(24.6%)がそれぞれ多い。
「和歌山-白浜・串本」(20.9%)、「和歌山-熊野」(22.6%)ではいずれも「自然景観をみること」が、「和歌山-高野山」では「文化的な名所旧跡をみること」が最も多くなっている(24.6%)。
以上のように、関西以外在住者は主として、歴史文化、自然景観を楽しむために関西へ来訪していると考えられる。なお、大阪府においては「大阪-泉州」を除いたエリアにおいて、食事を楽しむことの回答が多くみられている。
【在留外国人:アジア】
ここでは、在留外国人の旅行目的について、アジアと欧米豪に分けて、その特徴を見よう。
はじめにアジアの在留外国人における各エリアへの旅行目的をみてみよう(図表 2-4)。
<大阪府・京都府>
「大阪-キタ」では「文化的な名所旧跡をみること」(17.8%)が、「大阪-ベイ」では「観光・文化施設を訪れること」(17.3%)の回答がそれぞれ最も多い。また、「大阪-ミナミ」では、「おいしいものを食べること」(22.0%)の回答が多く、日本人とも同様である。
「京都-京都市」では、「文化的な名所旧跡をみること」(18.5%)が最も高く、「自然景観を見ること」(14.1%)、「街や都市を訪れること」(12.0%)と続く。
<兵庫県・奈良県>
「兵庫-阪神」では、「自然景観を見ること」(21.8%)が最も高く、次いで「文化的な名所旧跡をみること」(19.2%)、「街や都市を訪れること」(11.5%)となっている。
「奈良-奈良市」では、「文化的な名所旧跡をみること」(19.8%)が最も高く、次いで「自然景観を見ること」(16.7%)、「自然の豊かさを体験すること」(15.6%)となっている。
<滋賀県・和歌山県>
「滋賀-湖北」では、「文化的な名所旧跡をみること」(27.7%)が最も高く、次いで「自然景観を見ること」(12.8%)、「自然の豊かさを体験すること」(12.8%)が続く。
「和歌山-白浜・串本」では、「文化的な名所旧跡をみること」(27.7%)が最も高く、次いで「温泉に入ること」(12.8%)、「自然の豊かさを体験すること」(12.8%)が続く。
【在留外国人:欧米豪】
次に欧米豪の在留外国人における各エリアへの旅行目的を整理したのが図表 2-5 である。
<大阪府・京都府>
「大阪-キタ」では「文化的な名所旧跡をみること」(25.0%)が最も高く、次いで「観光・文化施設を訪れること」(15.5%)、「おいしいものを食べること」(11.9%)と続いている。
「京都-京都市」では、「文化的な名所旧跡をみること」(18.8%)が最も高く、次いで「おいしいものを食べること」(15.3%)、「自然景観を見ること」(14.6%)と続いている。
<兵庫県・奈良県>
「兵庫-阪神」では、「文化的な名所旧跡をみること」(26.2%)が最も高く、次いで「自然景観を見ること」(21.3%)、「観光・文化施設を訪れること」(14.8%)となっている。
「奈良-奈良市内」では、「文化的な名所旧跡をみること」(19.8%)が最も高い。次いで「自然景観を見ること」(17.0%)、「地域の文化を体験すること」(16.0%)となっており、アジア地域では上位に入っていなかった地域の文化体験を旅行目的としているのが特徴的である。
<滋賀県・和歌山県>
「滋賀-湖北」では、「自然景観を見ること」(19.4%)が最も高く、次いで「文化的な名所旧跡をみること」(19.4%)、「自然の豊かさを体験すること」(12.9%)が続く。
「和歌山-白浜・串本」では、「文化的な名所旧跡をみること」(18.3%)が最も高く、次いで「自然景観を見ること」(18.3%)、「温泉に入ること」(15.0%)が続く。
3.観光地に対する訪問前の期待度と訪問後の満足度
3.では、各観光地への訪問前の期待と訪問後の満足度を比較、分析する。その際、上記の旅行目的のうち、「自然の景色・景観や雰囲気」と「食事のおいしさ・楽しさ」に絞って特徴を明らかにする。以下で示されているレーダチャート図においては、赤色の実線が訪問前の期待度を、破線は訪問後の満足度を示している。なお、満足度については関係する項目が複数ある。
【日本人】
関西在住者では、各観光地における一定以上の情報を有していることもあり、京都府と大阪府を除いて概ね期待度と満足度は同程度となっている。他方、関西以外在住者をみると、大阪府、京都府や兵庫県では期待度と満足度に大きな差はみられないが、滋賀県、奈良県や和歌山県では期待度を大きく上回る満足度となっている。この要因としては、大阪府や京都府に比して、自然景観に関する情報が十分知られていなかったこともあり、満足度に良い影響を与えている可能性が考えられる(図表 3-1)。
前述の「景観の雰囲気の良さ・心地よさ」とは異なり、「食事のおいしさ・楽しさ」については、関西在住者は、関西以外在住者ほどではないが、満足度は期待度を下回っている。また、関西以外在住者をみても、概ね満足度が期待度を下回っている(図表 3-2)。
【在留外国人】
図表 3-3(アジア及び欧米豪)は、「景観の雰囲気の良さ・心地よさ」についての期待度と満足度の関係を示している。
アジアでは、概ね期待度を上回る満足度となっており、欧米豪では、大阪府や兵庫県以外の府県では期待度を上回る満足度となっている。
図表 3-4(アジア及び欧米豪)は「食事のおいしさ・楽しさ」について訪問前の期待度と訪問後の満足度を、「宿泊施設の食事の質」、「飲食施設の食事の種類や数」、「飲食施設の食事の内容」と「飲食施設の店員のおもてなし」についてみている。
前述した「景観の雰囲気の良さ・心地よさ」と同様に、「食事のおいしさ・楽しさ」についても、アジア及び欧米豪ともに、大阪府や京都府については、知名度があることもあり、期待度と満足度に大きな差はみられない。一方、和歌山県、奈良県、滋賀県では、特に欧米豪が期待度を大きく上回る満足度となっている。
この背景には、大阪府や京都府については旅行前にある程度の情報を得ているが、その他県では予備知識の少ない状態で訪問するため、良い影響を与えていると考えられる。日本人と在留外国人については食事についての見方が異なる。日本食に対する期待と満足の高さが注目される。
4.観光地に対する総合満足度分析
3.では、観光地への訪問前の期待度と満足度を比較、分析した。4.では、観光地に対する(1)総合満足度、(2)紹介意向及び(3)再来訪意向の 3 指標について日本人及び在留外国人に分けて、分析を行う。
【日本人:関西在住】
関西在住の日本人の総合満足度、紹介意向及び再来訪意向の値を比較すると、関西平均では紹介意向は総合満足度を-0.36 ポイント、再来訪意向は-0.46 ポイントとそれぞれ下回っているが、両意向とも高水準となっている(図表 4-1)。
【日本人:関西以外在住】
関西以外在住の日本人についてみると、結果は関西在住者に比し厳しい評価となっている。総合満足度との差では、紹介意向は-0.28 ポイントと関西在住者を上回る。一方、再来訪意向と総合満足度との差については-0.53 ポイントと、関西在住者より低い。また、各府県間の評価にばらつきが目立つ。特に再来訪意向についてはばらつきが大きい(図表 4-2)。
【在留外国人:アジア】
アジアの在留外国人についてみると、総合満足度と紹介意向がともに高い水準となっている。再来訪意向については関西以外在住者と同様にばらつきが目立つ(図表 4-3)。
【在留外国人:欧米豪】
欧米豪の在留外国人についてみると、総合満足度と紹介意向が同程度と高く、関西在住、関西以外在住とアジアに比して再来訪意向が 5.78 と最も高いのが特徴である(図表 4-4)。
紹介意向についてみると、欧米豪(6.17)であり、次にアジア(6.07)、関西以外在住者(5.64)と続き、関西在住者(5.57)が最も低い。紹介意向については、日本人より在留外国人の方が高い傾向にある。紹介意向と総合満足度との関係でみても、日本人よりも在留外国人の方が、紹介意向の評価が総合満足度のそれを上回る結果となっている。在留外国人は満足度に関わらず、紹介意向が高いといえよう。
最後に、再来訪意向について注目すると、平均評価が高いのは欧米豪(5.78)であり、次に関西在住者(5.47)、関西以外在住者(5.39)と続き、アジア(5.31)が最も低い。この意味は、欧米豪の人は、観光地に満足し、何度でも行きたいと思う場所があるといえる。これは、特に日本の文化、自然に関心が強いことが影響していると考えられる。また、日本人やアジアの人は観光地に満足するが訪問は 1 回で十分と考える人が多い。アジアや関西の人は相対的に観光地の情報量が多いこともあり、評価が厳しいといえよう。
Box:旅行者がもう 1 泊出来たらどこを訪れたいか
今回のアンケート調査では、旅行者に対して、「本地域へ訪問した旅行が、予定より1泊多く宿泊できた場合、あなたはどこを訪れたいですか」という質問を設けている。回答を集計した結果が、図表 4-5 及び図表 4-6 である。
日本人についてみると、大阪府と奈良県を除けば、当該府県に 1 泊すると回答する割合が高い。特に、和歌山県が 64.8%と最も高いのが特徴的である。この背景には、当該県の観光地が広範囲にわたっていることもあり、もう 1 泊して他の観光地へ訪問することが考えられる。
一方、在留外国人をみると、訪問した地域へ留まると回答した割合は低く、むしろ他地域で 1 泊する傾向がみられる。特に訪問地先として和歌山県の回答が多い。
このように、今回実施したアンケート調査より、日本人旅行者は訪問した地域内で延泊する傾向がみられる一方で、在留外国人は訪問した地域以外へ延泊する傾向がみられた。
5.旅行目的に基づく属性別の周遊プラン
これまでの周遊プランは、どちらかと言えば、地理的な近接性を基準にそれを繋ぐものであった。そのため周遊プランは府県内にとどまるものであった。5.では、2.で得られた結果から、旅行目的に基づく新たな関西広域観光周遊プランを属性別に検討する12。具体的には、13 の旅行目的から、各地域における 3 つの関心事の高いものを抽出し、グループ化した(図表 2-16 参照)。それらを繋いだ属性別の周遊プランを提案する。
前項で明らかになったように、関西在住者、関西以外在住者及び在留外国人とでは観光地に対する評価(総合満足度、紹介意向及び再来訪意向)が大きく異なっていることが分かった。本項ではそれらを意識して、3 つのグループに分けて周遊プランを作成した。
【関西在住者】
関西在住者については、(1)「歴史文化、自然と食」、(2)「都市観光と買物」、(3)「温泉」の 3つの目的が共通するものであり、その各地域を繋いだものが参考図表 1-1A に示されている。
「歴史文化、自然と食」のグループ(参考図表 1-2A の紫色のルート)をみれば、京都市エリアを旅行した人は宇治エリアにおいても同様の旅行目的で訪れる傾向がみられる。また、奈良県では、奈良市エリア、斑鳩エリアと吉野・明日香エリアが、滋賀県では湖北エリアと湖東エリア及び和歌山県の高野山エリアがこれに該当しており、これらを繋ぐことにより、「歴史文化、自然と食」をテーマとした周遊ルートが考えられよう。例えば、奈良や京都を結ぶ 2 古都物語ルート及び滋賀と京都を結ぶ逢坂ルートや山と水と光の回廊ルート(比叡山・びわ湖 DMO 参照)となろう。
「温泉」グループをみると(参考図表 1-2A の青色のルート)、京都府の丹後エリア、南丹エリア、兵庫県の各エリアなどが該当している。このため、関西に所在する各温泉地を繋ぐことにより、新たな周遊ルートが提案できる。例えば、兵庫県が提案する「テクテクひょうご温泉めぐり」などが該当する。また、京都府の海の京都 DMO が推奨している温泉地と森の京都 DMO が推奨する温泉キャンプを楽しむルートも考えられる。本分析は、これらのエリアを広域に繋ぐルートも提案している。
「都市観光と買物」グループ(参考図表 1-2A の橙色のルート)は、大阪府の各エリアと滋賀県の大津エリアが該当している。都市観光と買物を主目的とするグループにとって「遊んで、見て、買って、食べて、大満足」の周遊ルートとなろう。
【関西以外在住者】
関西以外在住者については、(1)「歴史文化、自然と食」、(2)「都市観光と買物」、(3)「自然の豊かさ(温泉含む)」を体験するという、幾分関西在住者と異なる 3 つのグループにまとめた(参考図表 1-1B)。
「歴史文化、自然と食」(参考図表 1-2B の紫色のルート)では、京都市内及び丹後エリア、奈良県の各エリア、滋賀県の湖北及び大津エリアや和歌山県の高野山エリアが該当し、より広範なルートとなっている。これらのエリアは寺社仏閣が多く、これらを繋ぐルートとしては、神仏霊場会・編(2008)が参考になる。
「都市観光と買物」のグループでは、大阪府の各エリア、京都府の宇治エリアと兵庫県の阪神及び姫路・播但エリアが該当する。これは京阪神に跨り、娯楽施設に加え、城や寺社仏閣をも楽しむことができる(参考図表 1-2B の黄色のルート)。
「自然の豊かさ(温泉含む)」を体験するグループをみると、兵庫県の淡路島エリア、京都府の南丹エリアや和歌山県の白浜・串本及び熊野エリアが該当する。温泉を主な旅行目的として訪れているのは、白浜・串本エリアのみだが、これを「自然の豊かさ」の体験に含めると、上記のようなルートとなる(参考図表 1-2B の赤色のルート)。各地域が推奨している「温泉とグランピングを楽しむ」ルートと考えられる。
【在留外国人】
在留外国人の旅行目的をまとめると、(1)「名所旧跡と地域文化」、(2)「名所旧跡、観光文化施設と食」、(3)「自然の豊かさ(温泉含む)」を体験する 3 つのグループにまとめた(参考図表 1-3)。
「名所旧跡と地域文化」の体験するグループには、京都府の丹後及び宇治エリア、奈良県の奈良市エリアと兵庫県の阪神エリアが含まれる。名所旧跡を訪れ、地域文化を楽しむことができるルートである(参考図表 1-3 の緑色のルート)。
「名所旧跡、観光文化施設と食」を体験するグループは、大阪府のキタ、ベイ、ミナミのエリアと京都府の京都市内エリアとなっている。食を楽しむことに加え、名所旧跡をも楽しむことができるゴールデンルートといえよう(参考図表 1-3 の黄色のルート)。
「自然の豊かさ(温泉含む)」を体験するグループには、滋賀県の湖北エリアと和歌山県の白浜・串本エリアが該当する。両エリアは近接していないが、自然景観や自然のアクティビティを体験するという点では、共通するエリアを結んだルートとなっている(参考図表 1-3 の青色のルート)。日本人にとっては考えにくいが、外国人にとっては共感できるルートとなっている。
本稿では、3 つの指標を用いて観光地の特徴づけを行った。その結果を用い、試論として旅行目的に基づいた関西広域観光周遊プランを検討した。日本人に共通する要素としては、「食」、「都市観光」や「買物」である。一方、関西在住者と関西以外在住者とでは、幾分異なったルートも考えられる。すなわち、前者は「温泉」が、後者はそれに加え「自然の豊かさ」を体験がキーワードとなっている。
在留外国人には、「地域文化」や「自然の豊かさ」を体験するルートが推奨できる。ただし、これらのルートは、地理的には遠方のエリアを繋いだものとなっているが、外国人の目的からすれば、許容できるものと考えられる。このように在留外国人のアンケートから得られた知見をもとに造成したルートは、出身地が同じインバウンドに対しても十分訴求できると思われる。これらのルートを磨き上げることにより、関西のオーバーツーリズム解消の一助ともなろう。