今夏の節電に係る要因分析と今後の対策

Trend Watch No.11

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政府の需給検証委員会では今夏の電力需給状況を検証し、今冬の需給対策を決定する。本稿では、東京と大阪の今夏の節電状況とその促進要因の違いを考察し、今後の対策で考慮すべき視点を提示する。

DETAIL

1. 今夏の節電状況:2010年夏季比の節電率は、関西は昨夏より大きく、東京は昨夏より小さい

2010 年、11 年、12 年夏季(休日等除く)の関西電力管内(以下、関西)の電力需要量と最高気温から推定した電力需要関数の比較により、気温の影響を除いた今夏の節電等による電力需要抑制率(2010 年比)を算出した(=同じ温度下での2012年夏と2010年夏季の電力需要量の比較を行った)。

 

図表 1[左]上部の 2 次曲線は関西の 2010 年夏季の最大電力需要(万 kW,縦軸)と大阪市の最高気温(℃,横軸)の関係を示しており、下部の曲線は2012年夏のそれらの関係を示している。曲線は下方にシフトしており、このシフト幅が節電等によるピーク時の電力需要抑制量に相当する。

 

結果、大阪市の平均気温(7/2~9/7)の最頻度帯(93.3%)である 29℃~36℃平均では、最大電力需要の抑制率は2010 年夏季と比較して▲10.9%となった。また、図表 1[右]は電力需要量(日量, kWh)の 2010 年比の抑制率であり、これは▲9.1%となった。また、図表 2 から、東京電力管内(以下、東京)の最大電力需要抑制率は▲14.2%、電力需要量の抑制率は▲12.8%となり、いずれも東京が関西よりも大きい。

 

もちろん、2010 年比での景気動向の違いや、産業構造の違いによる節電の容易性が同じでないこと、東京電力管内の自由化部門での料金値上げなども、東京と大阪の抑制率の違いの要因として考えられる。また、この行動変容が持続性を有すかについての経過観察も必要である。ただ、少なくとも今夏の東京では、数値目標がなくとも電力需要抑制がなされていると判断できる。これが 2011 年夏季の政策に一部起因するものならば、日常生活や企業活動への支障あり、というこれまでのマイナス評価だけでなく、中長期での省電力・コスト低下・CO2排出抑制として今後プラス評価される可能性がある。

 

ここで、2011 年夏と 2012 年夏の比較では、東京は 2011 年夏の抑制率が大きく、大阪は2012 年夏の抑制率が大きい。この要因について、東京都と大阪府の家庭での節電意図・行動・効果プロセスにおける違いをもとに次項以降で考察する。

 

 

 

 

2. 家庭(昼間在宅していた専業主婦世帯)の節電行動・効果プロセス

図表 3 に示した、政府等による節電目標設定による節電要請と、震災直後の停電および計画停電実施の2 事象の影響を想定した「家庭での節電意図・行動・効果プロセスモデル」の因果構造に係る分析結果では、2011 年夏季、2011 年冬季のいずれの場合でも、節電意識・行動に対して時間的に先行する[目標認知](節電目標の内容を知っていた)および[停電不安](停電への不安・恐怖があった)は、[節電意図](前年と比べ節電を意識した)あるいは[節電行動](前年と比べて節電に取組んだ)を喚起させる機能を有し、間接的に[節電率](前年比での節電効果;kWh/日ベース)に貢献することが示されている。

 

 

これを踏まえ、東京と大阪の 2012 年夏の[目標認知]と[停電不安]の状況を、2011 年夏、2011 年冬との比較で示すと、図表4、5のようになる。

 

 

これら期間での推移をみると、[目標認知]と[停電不安]の設問に対する肯定的な回答(非常にそう思う、そう思う、ややそう思う)の比率は、東京は低下傾向にあり、大阪は 2011 年夏から 2011 年冬において低下したのち、2012 年夏に上昇している。また、2012年夏の値は、大阪のほうが東京よりも大きくなった。

 

2012 年夏の大阪では、「セーフティネットとしての計画停電」として万一に備えた計画停電の準備がなされ、また数値目標設定に際しての政府(需給検証委員会など)や大阪府市エネルギー戦略会議での議論が注目されたこともあり、[停電不安]および[目標認知]が大きくなったものと考えられる。他方、2012 年夏の東京では計画停電の準備はなされなかったこと、数値目標なしの節電目標・要請であったことから、相対的に値が低くなったといえる。

 

また、[節電意図]、[節電行動]の比較結果は図表6、7のようになる。

 

 

なお、これらは「昨夏(昨冬)に比べてより一層~」という前年との比較値であり、2011年夏、2011年冬は東日本大震災前の2010年夏、2010年冬との比較、2012 年夏は 2011 年夏との比較値となる。したがって、2012 年夏の東京の値が大阪よりも小さいのは、2011 年夏の東京の「非常にそう思う」の値が大きい、つまり東京では 2011 年夏に[節電意図]、[節電行動]を大きく高めた人が多く、2012 年夏は一層の上昇余地がない人が多くなっていたことが要因の 1 つとして考えられる。一方、大阪では、2011 年夏に[節電意図]、[節電行動]を大きく高めた人は相対的に少なかったため、2012年夏では上昇余地がある人が相対的に多くなったと考えられる。

 

以上より、図表3の分析結果をベースに、図表4~7を踏まえて、2012年夏の節電状況を考察すると、大阪では、前述した要因(数値目標設定に係る議論への注目、計画停電の準備)により、危機意識や当事者意識などの喚起につながる[目標認知]と、停電の実際の経験や備えによる不便さや、経験はしていないが他地域の実施状況から想像される不便さとしての[停電不安]が、[節電意図]や[節電行動]を高め、2011 年夏よりも2012 年夏のほうが節電率は高まったと解釈できる。

 

一方、東京は、2011 年夏においては春先の計画停電から間もなかったこと、大口電力需要家への電力使用制限や▲15.0%の節電要請に伴う情報発信などにより[停電不安]と[目標認知]が高く、[節電意図]や[節電行動]を高めることで、高い節電率に結びついた。ただ、2012 年夏は、前述した要因(数値目標なし、計画停電準備なし)による[停電不安]と[目標認知]水準の低下により、[節電意図]や[節電行動]が低くなった。これより、がまんや無理な節電行動が回避され、2011 年夏に比べて節電率は低下したものと考えられる。ただ、省電力型の家電や照明機器への買換えや無理なくできる習慣化した節電行動などの効果は持続している可能性がある。

 

3. 「でんき予報」などの情報の把握・認知の状況:東京と大阪ともに[テレビ・ラジオ]が最も大きい

[目標認知]に関連するものとして、2012 年夏の「でんき予報」などの電気の需給状況を予測する情報の把握・認知の頻度を、メディアごとに示した(図表 8)。なお、[目標認知]は節電目標内容の認知状況であるが、図表8は日々の電力需給情報へのアクセス状況を示す。結果、1日に1回以上アクセスしたメディアとして、東京と大阪ともに[テレビ・ラジオ]が最も大きく、東京は[検索サイトや新聞社サイトなどのホームページ]、[新聞]、[電力会社のホームページ]、[政府のホームページ]、大阪は[新聞]、[検索サイトや新聞社サイトなどのホームページ]、[電力会社のホームページ]、[政府のホームページ]と続く。また、東京と大阪を比較すると、いずれのメディアにおいても大阪の値が大きい。

 

 

ただ、このアクセス状況と[節電意図]、[節電行動]、[節電率]との関係性は検証されていない。また、図表 9に示した節電要請時間帯での節電意識の結果からは、特に東京では昼間ピーク時の節電が特に意識されているわけでもないといえる。これらより、特に東京に多いと想定される節電が習慣化している人の中には、「でんき予報」を活用せずに、ピーク予想日やピーク時間帯に関係なく節電を行う人も多いと考えられる。

 

したがって、図表 8 の結果は、現時点では東京と大阪の節電状況の違いの要因の 1 つとして捉えるのではなく、メディア間の比較、つまり節電に関する情報発信ツールの利用度の違いとしてのみ捉えるのが妥当と考える。

 

4. 今後の対策の検討で考慮されるべき視点

以上の今夏の節電意図・行動・効果プロセスにおける考察から、今後の対策の検討で考慮すべき視点は、以下のように整理できる。

 

  • 2012 年夏時点の節電率に関しては、東京ではがまんや無理な節電行動は含まれていない可能性があるのに対し、大阪ではそれが含まれている可能性があるため、これを踏まえて今後の電力需要見込み(持続可能な節電水準、定着した節電水準)などを検討する必要がある。
  • なお、2011 年夏の東京と 2012 年夏の大阪を、節電に関して似たような状況(=大阪が 1 年遅れ)と仮にみなした場合、東京における 1 年という時間経過に伴う停電に関する恐怖・不安意識の薄れを盛り込んだ今時点での節電行動の継続性(定着した節電)の予測精度と、(停電に関する恐怖・不安感の高まりからの時間経過が短いが、実際の停電は経験しなかった)大阪の今時点での節電行動の継続性(定着した節電)の予測精度は異なり、大阪の定着した節電予測の不確実性は大きいといえる。
  • つまり、2012 年夏の大阪における計画停電の準備や、数値目標の設定およびその検討プロセスへの注目が、間接的に節電率に貢献した可能性が高いことも踏まえると、今後これら事象がない場合における、大阪での無理な節電行動の回避見込み分は、実際どの程度になるかは分からない。
  • テレビ・ラジオから日々の節電に関する情報を入手している人が多く、意識啓発などの情報伝達に際してこれを考慮する必要がある。

 

また、今冬の具体的な取組みの検討に際しては、以下の分析結果や問題意識を踏まえることも望まれる。なお、詳細な対策に関しては、2011 年冬の節電の実施状況に係るアンケート結果等をもとに、別稿(第 16号 関西エコノミックインサイト[11月末~12月初旬予定]など)にて考察する。また、短期的ではなく中長期的で費用効率的な方策のあり方についても今後検討する。

  • 2011 年冬季の電力需要抑制率は、数値目標のなかった東京のほうが大阪よりも大きく7、図表 6、7 の[節電意図]および[節電行動]のポジティブな回答(非常にそう思う、そう思う、ややそう思う)の内訳の差と整合的である。
  • ただ、そもそも夏季と冬季では、電力消費量の大きい空調に係る節電行動(夏季室温 28℃、冬季室温20℃の設定)や、家庭での節電が特に必要な時間帯(夏季:14 時頃、冬季:朝、夕)が異なる。したがって、政府資料8の節電行動の継続性「この夏と同程度の節電の取組み意向」の結果を、今冬にそのまま当てはめ節電見込みを立てるのは難しい面がある。
  • さらには、家庭部門でのピークカット・シフトには在宅世帯の意識・行動が鍵となるが、政府実施の非在宅世帯も含めたアンケート結果9では、特に朝に比べて相対的に在宅者の少ない夕方の節電見込み量を正確に捉えることは困難といえる。
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