衆議院選挙における一票の価値・一票の格差の貨幣換算化

Trend Watch No.12

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12/16に投開票が行われる衆議院議員総選挙を見越し、有権者一人当たりの投票の価値の貨幣換算化、および小選挙区ごとのその価値および格差を試算し、投票行動に係る意思決定の判断材料として示した。

DETAIL

1. 試算の前提:国会議員一人当たりの予算責任額は947億円/年

端的に言えば、一票の価値=国家予算額(の一部)/有権者数で試算する。試算の前提となるデータは図表1のとおりである。一票の価値の貨幣換算化に際しては様々な方法が考えられ、分母を有権者数や投票者数とするもの、分子に国家予算額、政党交付金額、議員の報酬額や諸経費、選挙実施関連費用などを用いる案が挙げられる。また、合理的選択論におけるダウンズ・モデルなどを用いた検討も考えられる。

 

 

本試算では、過去の選挙ではなくこれから実施される選挙であり、有権者一人当たりの’潜在的な価値’を算出するため、分母に有権者数を用いる。また、分子には、有権者が選出する国会議員の審議により成立する、豊かな国民生活のための経費として、国家予算までをまずは考慮範囲とする。国家予算の捉え方として、一般会計と特別会計があるなか、簡略化のため一般会計を対象とする。そして、直近の平成24年度一般会計歳出総額から、国債費(歳出全体の24.3%)を除いた基礎的財政収支対象経費(歳出全体の75.7%)を分子とする。国債費は国会議員が容易にコントロールできる費目ではないためこれを除くものである。

 

なお、基礎的財政収支対象経費には、社会保障費(歳出全体の29.2%)、地方交付税交付金等(同18.4%)が大きな割合を占めるが、投票行動の結果によっては、ある程度可変的な費目といえるため、基礎的財政収支対象経費全体の68兆3,897億円を分子とする。有権者が、自らと、選挙権のないこどもたちの将来のために、その使い道を間接的に意志決定できうる金額を対象とすることとなる。

 

図表2に、国会議員一人当たり年間の予算責任額を示した。947億円/年となる。これは前述の基礎的財政収支対象経費を衆参の全議員数で除した値であり、豊かな国民生活に資する予算の成立・執行等に際して、国会議員が責任を持つべき金額といえる。現実の予算プロセスでは官民の力が大きく、議員一人で決められないのは周知の事実であるが、政治主導かそうでないかに関わらず、国会議員にはこれだけの金額を背負うという自覚が求められる。逆に、我々有権者はこの金額を託すことができる候補者を選出する責任があるといえる。

 

 

2. 試算結果:一票の価値は43.6万円。衆院任期4年を想定すると4倍の174.3万円

図表3に示したように、今回の衆議院選挙で選出される480人分の予算責任総額(45兆4,668億円)を、選挙人名簿登録者数で除すことで、有権者一人当たりの投票の価値、つまり一票の価値は43.6 万円と算出される。また衆院任期 4 年を想定すると、この 4倍の 174.3 万円と捉えることも可能である。この金額は、前項で示したように、有権者にとって一票の価値であるとともに、一票の責任金額となる。

 

 

3. 小選挙区ごとの試算結果

一票の格差の議論にも関連して、小選挙区ごとの一票の価値を示す。小選挙区ごとに得票数の最も多い候補者一人が議員として選出されるため、図表 2 に示した国会議員一人当たり予算責任額(947 億円)を、小選挙区ごとの選挙人名簿登録者数で除すことで、小選挙区ごとの一票の価値が算出される。なお、図表 2の小選挙区選出議員 300 人分の予算責任総額(28 兆 4,168 億円)を、全選挙人名簿登録者数(1 億 436万人)で除すことにより、日本全体の平均を算出すると 27.2 万円となる。この金額をベンチマークに、小選挙区ごとに平均からの位置関係を示すことができる。なお、簡略化のため、ここでは比例区は考慮していない。 結果、金額の最も大きい選挙区と小さい選挙区を10区ずつ抜粋すると図表4のようになる。図中の「平均との差」は前述の日本全体の平均(27.2 万円)との差である。また、衆院任期 4 年を想定した場合の一票の価値および平均差も右二列で示した。

ここで、本順位は選挙人名簿登録者数で定まるものとなる。したがって、これまで衆院の一票の格差議論で指摘されてきたように、千葉県第4区と高知県第3区の格差が最も大きく、現時点(H23.9.2)では 2.39 倍(45.6/19.1)となる。なお、金額差は 26.5 万円(45.6-19.1)で、4年間で106.1万円となる。

 

なお、本図表の順位や金額差から、小選挙区ごとの投票に行く価値や責任の大きさの違いを示そうとする意図はない。すでに一票の格差の問題自体がそれを議論してきている。そして、先の国会でいわゆる 0増5減の法律が成立し、次々回の衆議院選挙から適応される予定である。

 

本稿は、自らが属する小選挙区での一票の価値および責任の大きさを貨幣換算して可視化することで、選挙や投票への関心を高めることを意図したものであり、他選挙区との比較に大きな意味はない。小選挙区ごとの全結果を図表 5 で示した。候補者を評価・吟味する、実際に投票に行くなどの一連の投票行動に係るコストを本稿記載の一票の価値から減じても、レジャーなどその他の行動よりもその価値が大きければ、投票に向かうのが合理的といえる。あなたはこれら金額をドブに捨てますか?

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