シンガポールに見る新しい空港の形
~オリンピックブームと観光戦略~

Trend Watch No.25

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ABSTRACT

2020年に開催される東京オリンピックに当たって、海外からの外国人旅行者の呼び込みにも注目されるが、その際、重要となるのが空路、すなわち空港である。日本は島国であるため、海外からの需要を呼び込むためには航空ネットワークの整備が必要不可欠である。現在日本国内において、空港法によって定められている国際空港は成田国際空港、東京国際空港、中部国際空港、関西国際空港、大阪国際空港の5つである。この内、大阪国際空港は関西国際空港が開港されたことにより、国際航空路線が全廃されたため、実質的には残りの4つの空港が日本における国際空港として機能している。インバウンド需要を考える上でアジア圏からの旅行者の割合は非常に高く切り離せない存在になっているため、アジア圏のハブ空港としてのポジションを獲得できるかどうかは重要な問題である。本稿ではアクセス面に於いてアジア圏と近く、また国際線の便数も1000万人規模となっている関西国際空港と東アジアの空港の代表としてシンガポール・チャンギ国際空港との異なる点について言及する。

DETAIL

世界で一番評価されている空港

チャンギ国際空港を代表として選んだのには訳がある。それは毎年4月にSkytrax社によって表彰されるWorld Airport Awards において、2013年度に引き続き、2014年度もチャンギ国際空港は2年連続で1位を獲得しているためである。因みにこのランキングにおいて関西国際空港は14位にランクインしている。項目別にみると以下の図-1のようになるが、チャンギ国際空港はどの項目に置いても高水準をマークしている。また、1位を受賞した要因としてチャンギ国際空港はレジャー施設やアメニティ施設に力を注いでおり、空港としての機能はもちろんのこと、今までにない形の空港として施設の拡充を行い続け、1つのテーマパークのようにその姿を変えてきたことが伺える。

一方、関西国際空港の強みはアジア部門において接客面で高評価を得ており、続けて安全性や清潔さの部分で表彰をされている。この部分は実に日本人の気質が表れているのではないかと考えられる。

 

 

また年間の旅客者数の推移をみると、チャンギ国際空港も年々利用者を伸ばしており、2013年には5000 万人を超える旅行者の利用がある(図-2.チャンギ国際空港 旅行者推移)。東アジア圏では他にも仁川国際空港や香港国際空港など競合相手が多数存在しているが、その中でも日本国内の空港の特徴として挙げられるのが、着陸料の高さである。次項では他国との着陸料の差について言及する。

 

 

ハブ空港としての課題-着陸料の高さ-

ハブ空港として空港が機能する場合、中継地点として多くの便が密集して訪れることになるため、人であれ貨物であれ移動の費用は安くできるに越したことはない。その点に置いて他国の着陸料は旅行者にとっても、また航空会社にとっても非常にリーズナブルな価格帯になっているが、日本の空港は全体的に割高となっている。(図-3.世界の主要空港の国際線着陸料比較)

 

 

他国と比べるとその差は歴然である。このように関空の着陸料が高くなっている要因は、主に建設費に1兆円を大きく超える費用をかけたためであり、その費用回収のために着陸料は割高に設定されている。関空では2013年度末から2015年3月末まではそうした着陸料に関するインセンティブを与えるために、前年同期比による着陸重量の増加分に対して初年度8割を割り引く増量割引や、深夜早朝に着陸する定期便の増量部分に対して5割の割引をするなどの施策を採っている。しかし、それでもチャンギ国際空港の着陸料は圧倒的に安く、関空の半分以下の価格帯となっている。このような価格帯を維持できているその一つの理由として先に上げたレジャー施設・アメニティ施設の拡充が挙げられる。

 

ジュエル・チャンギ・エアポート計画

チャンギ国際空港が東アジア圏におけるハブ空港として成功を収めているのは先に述べた着陸料の安さも大きな要因である。チャンギ国際空港の事業収入の内訳を見てみると1981年の開港当時は着陸・駐機料などが事業収入の6割以上を占めていたのに対し、2009年度においてそれらは4割を下回る水準となっている。(図-4.チャンギ国際空港 事業収入)

 

 

この事業収入の割合を見ても営業許可料や施設貸借・サービス料が全体の5割を占めており、経営の柱となっているのはむしろ航空関係外収益となっている。このように航空関係収入の削減によって他国を誘致し、レジャー施設でお金を落としてもらうという方法がチャンギ国際空港では採用されているのが分かる。実際、チャンギ国際空港では、100を超える店、レストランに24時間無料で利用できる映画館、プール、フィットネスセンター、庭園などの施設に加え、トランジットでチャンギ国際空港を利用する旅行者に対し、無料の市内観光が出来るサービスを提供している(なお1回につき2時間程度で、5時間以上の待ち時間がある事が条件)。休日には旅行者だけでなく、通常のショッピングセンターとして利用する客も多く存在する。

そしてさらにそうした施設の拡充を図るために、チャンギ国際空港では「プロジェクト・ジュエル」と言うプロジェクトの下、ドーム型施設の建造を進めている。この施設は既存の3つのターミナルを結ぶ複合施設として作られ、もともとチャンギ国際空港の屋外駐車場であった場所を使い、地上と地下各5フロア、延床面積13万4000平方メートルにも及ぶ空間の中に商業施設やレジャー施設を入居させた巨大複合施設となっている。その中には「レイン・ボーテックス(Rain Vortex)」と呼ばれる高さ40mの世界で最も高い屋内滝や人工熱帯雨林、全130客室を備えたヨーテル(Yotel)のホテルなども設置されている。完工予定は2018 年を目途としており、土地の購入費と含め、おおよそ14億7千万シンガポールドル(日本円にして約1290億円ほど)の事業費がかかる見込みである。多額の事業費が投入されていることからも新たなる観光客の需要を創出するための意気込みが伺える。

 

チャンギ国際空港から学べること

空港の新しい形として、空港を単に「飛行機を待つ場所」としてではなく、空港を「楽しむことが出来る場所」に作り変えているという点に置いて、上手く他の空港との競合を避け、独自性を作り出している点は関空を始めとした日本の空港でも取り入れられるべきポイントの一つであろう。2020年の東京オリンピックに向けて、日本でも様々な準備が執り行われているが、関東圏だけでなく、関西圏やその他の地方にも波及効果を及ぼしていくためには、それぞれの地域においても上手く競合を避ける形でアピールポイントを用意しておく必要があると考えられる。

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