日中韓三国協力国際フォーラム2015 参加報告

Trend Watch No.26

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ABSTRACT

2015年は第2次世界大戦の終戦後70年、日韓国交正常化が行われて50年、日中国交正常化が行われて43年となる日中韓3か国にとって節目の年である。こうした中で、日中韓をめぐる北東アジアの国際関係は北朝鮮及び米国、ロシアを含め、これまで以上に複雑な様相を見せている。このような状況の中、4月3日に東京で日中韓三国協力国際フォーラムが開催された。昨年は韓国のソウルで行われたこのフォーラムが今回日本で初めて開催されるということで、これを記念するため日中韓の三国やそれ以外にも様々な国の要人が参加した。本稿では、フォーラムで行われた議論の概要について紹介し、若干の課題について述べる。

DETAIL

はじめに

2015 年は第2次世界大戦の終戦後70年、日韓国交正常化が行われて50年、日中国交正常化が行われて43年となる日中韓3か国にとって節目の年である。こうした中で、日中韓をめぐる北東アジアの国際関係は北朝鮮及び米国、ロシアを含め、これまで以上に複雑な様相を見せている。このような状況の中、4月3日に東京で日中韓三国協力国際フォーラムが開催された。昨年は韓国のソウルで行われたこのフォーラムが今回日本で初めて開催されるということで、これを記念するため日中韓の三国やそれ以外にも様々な国の要人が参加した。本稿では、フォーラムで行われた議論の概要について紹介し、若干の課題について述べる。

 

1.フォーラムの開催概要

■開催日時:2015年4月3日(金)10:00~17:15

■開催場所:京王プラザホテル(東京都新宿区)

2.フォーラム開催の背景と会議の全体概要

2015 年は第2次世界大戦の終戦後70年、日韓国交正常化が行われて50年、日中国交正常化が行われて43年となる日中韓3か国にとって節目の年である。こうした中で、日中韓をめぐる北東アジアの国際関係は北朝鮮及び米国、ロシアを含め、これまで以上に複雑な様相を見せている。 このような状況の中、4月3日に東京で日中韓三国協力国際フォーラムが開催された。昨年は韓国のソウルで行われたこのフォーラムが今回日本で初めて開催されるということで、これを記念するため三国やそれ以外にも様々な国の要人が参加した。

 

本フォーラムは4つのセッション(セッション1は基調講演、セッション2~4は個別テーマを議論する分科会)に分けて進められた。まず、日中韓三国を代表する3人の講演者が本フォーラム開催の意義について自国の状況を踏まえ基調講演を行った。次に、「共通安全保障に関する三国対話メカニズムの構築」、「日中韓教育交流及び共同体意識の構築」、「日中韓FTAに向けた三国経済界の提言」という3つのセッションに分け、それぞれ政治と外交、社会と文化、経済について、自国の取組と目指す目標について議論した。以下では各セッションにおける主要な意見をまとめている。

 

(1)セッション1:基調講演の概要

セッション1:基調講演における各人の発言について、簡単な要約を以下に示した。基調講演の段階から既に各国の立場は異なっており、自然と三国が望む協力内容にも違いがみられることがわかるだろう。

〇福田康夫:元日本国内閣総理大臣

・日中韓の間の対話と協力のために制度的な枠組みを作るべきであり、人的交流のための協力プログラムを推進し、それを基に、三国が相互信頼を広めていくことが必要。三国の協力を通じて、それ以外の地域、特に全てのASEANの国々との協力を増進する必要性について述べた。

 

〇李肇星(リ・チョウセイ):元中国外交部長

・政治的相互信頼、互恵協力関係、人的・文化的交流の増進、地域の相互交流、協力の拡大のための事務局の拡充、三国の首都地域間の協力など三国の和解と協力において、必要な点について述べた。

 

〇韓昇洙(ハン・スンス):元国務総理

・全世界の気候変動問題の解決、北東アジア地域の災害がもたらす危険を軽減するための能力の拡充、北東アジア原子力共同体の設置、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に日本も参加する必要性などを強調した。

 

(2)セッション2~4:個別分科会の概要

次に、各セッションについて各国代表の報告や議論した内容について、簡潔にまとめる。

 

<セッション2:共通安全保障に関する三国対話メカニズムの構築>

セッション2では、平和と協力を志向する北東アジアという議題で、日中韓以外にもタイのスジット・ブンボンカーン名誉教授(チュラロンコン大学)、ラルフ・コッサCSISパシフィックフォーラム理事長が出席して活発な議論が行われた。

 

まず、日本の伊藤健一日本国際フォーラム理事長は、三国協力が民間の領域では活発に行われていることと比較して、政府間ではそうではないことを指摘した上で、日中韓三国協力事務局が提案した政策提案が実際に政府政策に反映されることを希望していると述べた。

 

次に、中国の金燦栄(キン・サンエイ)中国人民大学国際関係学院副院長は、中国の立場から北東アジアの複雑な安保構造(三国以外に北朝鮮、米国、ロシアなどがある)という地政学的状況を説明し、このような複雑な構造を解決するため、日中韓の安保協力が必要であり、強化されなければならないと力説した。 また、韓国の申鳳吉(シン・ボンギル)韓国国立外交院外交安保研究所長は、相互信頼構築のための構想が必要であり、そのためには歴史問題を解決する必要性があり、従って三国の首脳が会って、和合と共存のための共同声明を発表すべきと発言した。

 

中でも、特に興味深かったのは、タイのスジット・ブンボンカーン教授の発言である。教授は、三国代表の話は、三国がそれぞれ自国だけ向いて意見を述べているとし、現在の安全保障と相互信頼に対する議論を東南アジアまで拡張しなければならないと主張した。

 

最後に、米国のラルフ・コッサ理事長は、これまで行われてきた議論が実現するためには、制度と組織を作るべきであり、また、そうしなければならないことを強調した。最初は小規模なものから始め、将来的にはこれを大きく育て、拡大していく必要がある。そのためにビジョンと目標を持って始めることが重要であると主張した。また、20世紀前後の日本の役割を正確に区分して見る必要性について訴えた。つまり、20世紀前半、確かに日本は国際社会に悪い影響を与えた「悪い歴史」もあるが、20世紀後半に日本が国際社会に対して与えた「良い歴史」についてもバランスよく評価しなければならないと述べた。

 

<セッション3:日中韓教育交流及び共同体意識の構築>

セッション3では、日中韓間の教育及び文化交流について議論が行われた。

 

まず、韓国の張済国(チャン・ジェクック)東西大学総長は、三国の協力の中で教育協力の重要性を強調した。教育を通じて三国間の認識を変化させる必要性があり、また、これまで実施された事業の効果は大きかったと述べた。また、現在三国間で行われている「キャンパスアジア・プログラム(注:立命館大学、東西大学(韓国釜山)、広東外語外貿大学(中国広州)の三大学が共同運営するプログラム。東アジア多国間における高等教育連携のモデルを提供)」をもっと拡大することで、欧州で行われている交流プログラム「エラスムス計画」のように、アジアを代表するプログラムを作る必要性について提起した。

 

次に、中国の陳崗(チン・コウ)吉林大学副学長は、東アジアの伝統文化の交流を通じて三国が連携して人材を養成するのが重要だと強調しつつ、これを通じて相互信頼を構築でき、また人材の変化や成熟の過程を通じて三国の市民性も成熟させることができると述べた。

 

また、日本の今村正治副学長(立命館アジア太平洋大学:APU)は現在APUで施行している「キャンパスアジア・プログラム」の成果を中心に、日本に留学中の学生の比率や日本から外国に留学に行く学生の比率を見れば、韓中両国が圧倒的であることを示した上で、共生、共創、共和に向けた人材育成を三国が協力して作っていくべきと主張した。 最後にヴィオレル・イスティチョアイア=ブドゥラ大使(在日欧州連合大使)は、欧州の「エラスムス計画」と日本の交流を通じて、教育面での協力の重要性を強調した。また、欧州の「エラスムス計画」と同様、三国で行われている「キャンパスアジア・プログラム」が東アジア協力に貢献できるだろうと述べた。

 

<セッション4:日中韓FTAに向けた三国経済界の提言>

最後となったセッション4では、日中韓FTAに向けた経済界の提言が行われた。登壇した三国の代表は、経済協力のために必要なのは環境の整備であると主張した。

 

まず、日本の椋田哲史専務理事(日本経済団体連合会)は韓中FTAが現在行われていることに触れながら、三国間のFTAも必要だと強調した。現在、三国の経済は世界のGDPの約20%、東アジアにおけるGDPの約90%、ASEAN+6におけるGDPの70%を占めるほど、大きな経済ブロックを形成していると述べた。したがって、今必要なのは三国間のFTAのための環境の整備であり、このためには、三国の献身と政界の努力が必要であることを強調し、これを向けた三国首脳会談の必要性を力説した。

 

次に、中国の王俐(オウ・リ)中国国際貿易促進委員会国際連絡部巡視員は、北東アジアの経済がデフレや低成長のため現在成長が難しい状態に直面していること、それを反転させる経済成長と復興を実現するため、環境整備の必要性を力説した。そして、東アジア三国の成長潜在力は世界1位であり、成長のために構造改革、FTAの推進、企業支援などが必要であると主張した。

 

最後に韓国の朴賛浩(パク・チャンホ)韓国全国経済人連合会専務は、まず、韓国の現状について説明した上で、FTAを推進する前に国内世論形成の必要性を強調した。そして、三国経済協力に向け、制度形成、共同市場、国際環境に対する共同対応、これらのためのシステム構築の必要性など主張した。

 

3.フォーラムに参加した所感

朝から夕方まで長丁場ではあったものの、三国が協力を目指して進むために何を準備しなければならないか、何が必要であるか知ることができた良いフォーラムであった。また、三国以外にも東南アジアや米国、欧州といった地域の取組も聞くことができたことも収穫だった。

フォーラムに参加して感じたことは、三国が目指すものとお互いが必要だと考えるものに明確な隔たりがあるということである。各国のスタンスは明確に異なっていた。例えば、日本が前面に立って日中韓の関係を導こうとする立場から議論する一方で、中国は三国関係で主導権を握ろうという意図を巧みに隠しながら議論を進めていること、韓国では現在の議論の中に北朝鮮も含ませることで三国間で優位に立とうとしていることなどである。しかしながら、たとえ各国の立場が違っても、三国の関係や平和、協力に向けて進むべきであるという点について真剣な議論が交わされたということに本フォーラムの意義があったと考えられる。

 

最後にフォーラムに対する課題について2点指摘したい。まず、同時通訳に関する問題である。今回のフォーラムでは日中韓の三国以外にも英語圏からの参加者もあり、同時通訳はフォーラムにとって最も重要な部分であったと思う。多くの発表は英語で行われたが、中国語や韓国語への通訳が不十分な点が多々見受けられ、報告者の意図がしっかりと伝わらなかった可能性がある。次回のフォーラムでは解決されることを望みたい。二点目は、上記で示したように、原則論としてはとても重要だったが、具体的に三国の協力のためにどのような政策が求められるかという議論がなかったことは残念であった。これも次回フォーラムにおける課題であろう。

 

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