ABSTRACT
世界で最も多くの外国人訪問客を獲得している国の1つであるフランスでは、「観光客国別対応マニュアル」というものが作られています。このマニュアルは国別に観光客の特徴を浮き彫りにしたもので、パリ中のホテル経営者やレストランのオーナー、さらにはタクシーの運転手に配布されています。すべてフランス語で書かれているため、日本ではあまり知られていませんが、14か国の国別対応マニュアルとして、各国からの観光客の特徴を見事にとらえており、我が国にとっても重要な観光戦略上の資料であると考え、日本語に翻訳しました。ここでは、その概要を紹介した後、数か国分の日本語翻訳を掲載します。
DETAIL
1. はじめに
世界で最も多くの外国人訪問客を獲得している国の1つであるフランスでは、「観光客国別対応マニュアル」というものが作られている。このマニュアルは国別に観光客の特徴を浮き彫りにしたもので、パリ中のホテル経営者やレストランのオーナー、さらにはタクシーの運転手に配布されている。すべてフランス語で書かれているため、日本ではあまり知られていないが、14か国の国別対応マニュアルとして、各国からの観光客の特徴を見事にとらえており、我が国にとっても重要な観光戦略上の資料であると考え、日本語に翻訳した。ここでは、その概要を紹介する。なお翻訳は、中村大樹氏(2011年経済学部卒、2014年大学院・仏文(言語学)修了)にお世話になった。
2. 多様な特徴をもつ欧州各国からの訪問客
パリと言えば、世界中の観光客が訪れたい場所の1つであろう。しかしながら、訪問地は、どの国からの訪問客もおおよそ似た場所をめざすようである。パリへの訪問客が訪れるベスト5には、必ずと言っていいほど、エッフェル塔、ノートルダム寺院、凱旋門、ディズニー・ランド、ルーブル美術館などが名を連ねる。ただし、パリを訪れる各国からの訪問客の特徴は多様である。
「実利的な考え方の観光客」として紹介されている「オランダ人」は、観光ガイドに関しては、紙ベースの他に、デジタルのアプリ(app)を求める。「本物志向だが、リラックスするのを好む」として紹介される「イギリス人」は、「出された料理に何が入っているのかを知りたがっていて、料理についての説明を高く評価する」らしい。フランスに行くと、料理の説明をシェフが来て、くどくど説明するのは、こうしたお隣から来た観光客をもてなすことからも派生してでてきたサービスかもしれない。「1~2年以内にパリを再訪したいと思う」割合は、フランス周辺のヨーロッパ諸国の多くが、5割から6割もあるのに対して、「スペイン人」は34.2%、「イタリア人」は46.5%と半数以下である。また、彼らスペイン人やイタリア人は夕食の時間が遅いのも特徴的であり、特に「スペイン人」の夕食は通常21時~23時である。
3. 欧州以外の遠方の国からの訪問客
フランス周辺の欧州の国々からではなく、遠方の国からパリに訪れる訪問客の特徴も見ておこう。「アメリカ人」は、英語での対応を望み、実際に支払う額についての説明を求めており、家族や友人の勧めに従うことが多いという。「何よりもまず、豪華ショッピング」を行うと紹介されている「中国人」は、「にこやかに応対し、中国語で挨拶をすると、中国人は非常に満足する」と説明されている。「ほとんど握手はしないが、頻繁におじぎをする」と紹介されている「日本人」は、「控えめだが、要求は多い」ハードルの高い訪問客と描写されている。この3か国の中では、「1~2年以内にパリを再訪したいと思う」割合は、中国人が最も高く、46.9%である(アメリカ人:39.1%、日本人:28.0%)。お金を持った中国人であれば、およそ半数の人は再びパリを訪問したいと考えているようである。
4. フランス語版「観光客国別対応マニュアル」から学べること
このフランスの「観光客国別対応マニュアル」は、各国の旅行客が、どのような旅を好むのか、一目でみて詳細な情報を教えてくれる。つまり、滞在日数は何日くらいか、どんな挨拶をし、何時ごろに食事をとり、どのようなことを期待して旅行してくるかなどである。相手のことを一目でわかる「日本版 観光客国別対応マニュアル」の作成が今後期待されるであろう。