ABSTRACT
2019年ワールド・カップの開催に向けて、開催地のひとつである花園ラグビー場を見学しました。アジアで初めての開催であり、海外からの訪問客も引き付けるためには、どのような課題があるのか、会場設備について言及します。その後に、日本の会場と対比する形で、ラグビーを国民的スポーツとしているオーストラリアのスタジアム事例を紹介します。オーストラリアのスタジアムでは、Sports Hospitalityと呼ばれる、企業向けの施設やプレミアム・サービスがあります。国際レベルのスポーツ試合では、外国人観客が母国と同じような高級施設のニーズが想定され、日本のスタジアムが海外から来る観客の需要に応じて、新たに高級施設を建設するかどうかはインバウンド需要を増加させる一つの争点と考えます。
DETAIL
はじめに
2019 年ワールド・カップの開催に向けて、開催12都市がすでに決定されている。その中でも、高校ラグビーの聖地ともいえる「東大阪市花園ラグビー場」を見学してきた。海外からの訪問客も引き付けるためには、どのような点がこれからの取り組みとして重要と考えられるか、まずは現場報告をさせていただきたい。
東花園競技場は、近鉄線「東花園駅」から徒歩で10分程度のところにある。大阪難波駅からも奈良駅20~30分程度の各駅停車駅であるため、アクセスとして悪くはないといえる。3万人の集客数の会場をもつため、高校ラガーの憧れの場所としてだけではなく、大学ラグビーや社会人ラグビーのメイン会場として長年利用されてきた。以下では、まず実際に見学をさせて頂いたことを踏まえつつ、会場設備について言及していく。その後に、日本の会場と対比させる形で、ラグビーを国民的スポーツとしているオーストラリアの会場について触れていくこととする。
東大阪市花園ラグビー場には第1から第3までのグラウンドが存在する。その中でも社会人ラグビーのトップリーグなどで使用されるのがこの第1グラウンドである。取材で伺った所、設計上の収容人数はおよそ3万人と呼ばれているが、実際の収容人数はそれを少し下回る規模なのだという。
現在、座席は個別シートのエリアと長椅子が並べられているエリアの2種類となっている。またメインスタンドから右手にはスコアボードの設置された立ち見席がある。この立ち見席は第1グラウンドが以前ゴルフ練習場としての利用もあった名残なのだそう。
グラウンドの整備もしっかり行われており、年中青い芝を維持するために、芝には夏芝と冬芝の2種類が使用されている。ティフトンと呼ばれる品種の芝を夏に使用し、冬場には枯れてしまうこの芝と入れ替える形で冬芝の種を蒔き、一年中見栄えの良い青い芝になるよう調整が行われている。
2019 年へ向けての取り組みとしては、会場規模の増設が予定されており、現在およそ3万人規模である会場を3万5000人から4万人規模の会場へと改修を行う予定である。その際、座席の長椅子部分をやめ、すべて個別シート席に変更していきたいとのこと。また、現在花園ラグビー場には大型映像装置が設置されていないため、改修時に映像設備についても設置していく方針なのだそうだ。
後ほど、オーストラリアの例をご紹介するが、ここではまず東大阪市花園ラグビー場における現状をご紹介する。競技場内にはおよそ100人~150人が収容できるレストランが併設されている。ラグビー場でレストランが併設されている所は意外と少ないそうで、ひとたび試合になると、レストランには長蛇の列が出来る。そのため、軽食を提供できる屋台が数店舗併設されている。
現在、東大阪市花園ラグビー場の周辺は住宅地となっている。そのため大規模な人数が収容できる飲食施設がなく、試合観戦者は近鉄東花園駅付近にあるスーパーマーケットなどで、食料品を買ってから会場に来ることが多い。このあたりは会場の立地にもよるところではあるが、高級ディナーを食べながら試合観戦をするオーストラリアとは異なり、スポーツ観戦における文化の違いと言えるだろう。
メインスタンドの5階には放送席と貴賓室が設けられている。貴賓室は写真のような部屋が2部屋連なっており、ソファーとテーブルの席に加え、窓際から試合を観戦することも出来る。また外のデッキに出ることも可能であり、試合会場が一望できる作りとなっている。放送室についても上下2段に分かれた座席が設置されており、どちらからでも試合を一望できる作りとなっている。
取材の際には今後、改修に当たって、放送席の部分を作り変え、いわゆるVIP席として利用する案も考えられているということであった。甲子園球場では、企業が使用するVIP席があり、その場で注文すればオードブルでもなんでも食事が提供されるという部屋がある。その場で観戦している臨場感も味わえるとともに、冬場など寒ければ窓を閉めて、テレビ中継を見ておくこともできる。こうした高級志向のレストランやVIP席を一般人にむけても作っていけるかが、これからの新しい戦略として考えられるだろう。
競技場内には小規模であるが、ラグビー資料室と呼ばれる部屋が存在している。ここではラグビー・ワールド・カップの軌跡や、社会人だけでなく、高校ラグビーや大学ラグビーなどでも良く使用される競技場であるので、有名校のユニフォームなども展示されている。資料室には映像装置などを追加して、より観光に向けた配慮も行っていきたいとのこと。
以上が今回取材に伺った際に確認した施設の概要である。
2019 年に向けて東大阪市花園ラグビー場も改修が順次行われる予定であるが、世界初のアジア圏で開かれるラグビー・ワールド・カップは海外からの観客動員も多数ある事が予想される。現状、日本におけるインバウンド旅行者の8割ほどがアジア圏からの訪問者であるが、今回のラグビー・ワールド・カップにおいては特に世界でもラグビーを国民的スポーツとして愛好しているオーストラリアなどから新規の訪日観光客が増加するだろう。
ところで、オーストラリアの競技場はどのようになっているのであろうか。集められる情報を取集して、以下にまとめてみた。日本の競技場とはかなり異なるが、今後の参考として見ていただきたい。
オーストラリアのスタジアムにおけるSports Hospitality
オーストラリアのスタジアムでは、企業向けの施設やプレミアム・サービスの提供が一般的である。そのサービスはSports Hospitality と呼ばれる。スタジアムで、企業関係者はイベントを行ったり、豪華な部屋からスポーツを観覧したり、スポーツ選手や有名人と一緒に会食したりする。スタジアムで行わる企業イベントが盛んであり、イベントの予定を立てる専門会社が数多くある。Morgan & Johnson (2005, p. 46)によると、オーストラリアのスタジアムの収益の多くは入場料収入ではなく、企業イベントや企業向け施設使用料収入を始め、命名権や宣伝用看板の販売総額、飲食品とグッズの販売総額で形成されている。つまり、Sports Hospitality の経済効果が非常に高いといえる。
以下、オーストラリアの最も大きいスタジアムが提供している企業関係者向けのプレミアム施設やサービスをまとめたので参考にしていただきたい。
結論
以上の情報からわかるように、日本とオーストラリアにおいては「スポーツ観戦」の文化がまるで異なる。日本の文化としては、豪華な食事などをとるという文化はなく、「試合観戦が出来れば良い」という意識がある。
1試合あたりの観戦料金も大人で2千円、高校生なら1千円程度という相場である。そのため、高いチケット代金を払ってまで見に来る観客はあまり多くはない、と言うのが今回取材を行った際に伺った東大阪市花園ラグビー場の現状だ。
一方、オーストラリアのスタジアムでは高級施設を提供することが一般的であり、スタジアムでネットワーキングや他社からの常用客の接待を行う企業が多い。つまり、sports hospitalityがオーストラリアの文化の一部である。多くのスタジアムでは、以上の2015年度のプランがすでに売れ切れて、施設の予約が取れないほど人気である。日本ではスポーツ観戦の文化が異なり、このような施設やプランを提供するスタジアムは珍しいといえよう。
日本のスタジアムの現状において、高級施設を設置するとオーストラリアと同じような経済効果があるかどうかは今後分析すべき点である。しかし、ラグビー・ワールド・カップのような国際レベルのスポーツ試合では、外国人観客が母国と同じような高級施設を求めるはずである。日本のスタジアムが海外から来る観客の需要に応じて、新たに高級施設を建設するかどうかはインバウンド需要を増加させる一つの争点と言えるだろう。