MICE的観点から見るユニーク・べニューとは?

Trend Watch No.32

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ABSTRACT

訪日観光戦略構築の有効な手段のひとつとしての「ユニーク・ベニュー」。「オリンピックブームと関西の訪日観光戦略の構築」の研究リサーチャーが、所属する大阪観光局 MICE推進部で試みた『山本能楽堂』における大阪でのユニーク・ベニューの事例を紹介。今ある観光資源を単なる「観光地」「観光施設」としてだけでなく、ポテンンシャルの高い文化施設をレセプション等の開催地として活用することにより、特別感や地域特性を演出し、更なる魅力を発信する切り口を提言する。

DETAIL

はじめに

「MICE(マイス)」が Meeting(企業のミーティング等)、Incentive(企業が研修や表彰の⽬的で⾏う旅⾏のこと。報奨旅⾏とも⾔う)、Convention(国際団体、学会などが主催する総会や学術会議等)、Exhibition or Event (⽂化・スポーツ・芸術イベント、展⽰会・⾒本市)、この4つの単語の頭⽂字をとったものであることはかなり知られてきたが、かつてはどのコンベンション・ビューローも「C」いわゆる学会、会議の誘致を推進することが主たる業務であった。現在はその範囲が MICE の4カテゴリーに拡がり、今や世界各国間競争のみならず、少ないパイを奪いあいながら、⽇本国内でも各⾃治体が誘致に鎬を削る、静かに熱い分野となっている。

 

さて、タイトルにある「べニュー」とは英語で「会場・施設」という意味だが、MICE業界では会議・イベント開催会場のことを「べニュー」と呼ぶ。

 

今回のトレンドウォッチではその「べニュー」がいかに「ユニーク」か、また「普通のべニューにそんな使い⽅があるのか」という事例を紹介してみたい。

 

ユニーク・べニュー(Unique Venue)

先述のとおり、観光・MICE 業界ではこのところユニーク・ベニューという⾔葉がよく使われる。以下観光庁のホームページから引⽤する。

 

ユニーク・ベニューとは歴史的建造物や公的空間等で、会議・レセプションを開催することで特別感や地域特性を演出できる会場
海外都市においてはMICEが開催されるのに合わせた⽂化施設や公的空間等を利⽤したレセプション等の開催は、MICE 誘致の観点から⼀般的となっている。しかしながら、我が国ではユニーク・ベニューとしてのポテンシャルの⾼い施設は多く存在するものの、利⽤開放は進んでいない状況。これふまえ、⽂化施設や公的空間等のユニーク・ベニューとしての利⽤の活性化等を促すことを⽬的に、「ユニーク・ベニュー利⽤促進協議会」を⽴ち 上げ、我が国のユニーク・ベニューの開発・利⽤促進を図っている。

 

観光・MICE 分野にはこれまで注⼒してこなかった国はようやく重い腰を上げ、協議会を⽴ち上げるなど MICE を推進する動きに転じた。これを受け、各⾃治体、観光協会、コンベンション・ビューローなどもユニーク・ベニュー開発に本腰を⼊れ始めた。

 

今までは会議はいわゆる会議場や公的施設、レセプションはホテルや宴会施設で⾏うのが当たり前であり、今でもそれが⼤半である。しかし、それでは激化するMICE誘致競争の中で、⾃分達のテリトリーに誘致する魅⼒的なコンテンツに⽋けてしまう。世界各国の様々なべニューでのユニークな演出・もてなしを受け、⽬が肥えた主催者(MICE を主催する学会や企業、オーガナイザー)を満⾜させるにはどうすればいいのだろうか?そこで MICE ⽤とはされていない施設に⽬を向け、それをユニーク・べニューとして活⽤させてもらう⽅法が考えられる。⽬的外活⽤できるべニューの拡⼤が MICE 開催地選択の⼤きな要因となるのである。(競争に勝ち抜く最も重要なキーの⼀つが「価格」あることはもちろん⾔うまでもない。)

 

⼤阪のユニーク・ベニュー紹介 『⼭本能楽堂』

能楽堂、本来はもちろん能、狂⾔などを⾏う舞台である。⼤阪の⾕町四丁⽬下⾞すぐにある⼭本能楽堂は、昭和2年に創設された⼤阪で最も古い能楽堂だ。⼤阪⼤空襲で⼀度舞台が焼失してしまうも昭和25年に再建され、以後改築、改装をかさね現在に⾄っている。現在は能の普及はもちろんのこと、上⽅芸能の発信地として様々なイベントを催すなど、歴史と新しさを融合したすばらしい施設となっている。

 

この能舞台を中⼼とした施設を客席まで含めて会議、レセプション会場として公に利⽤することになったのは 2014 年からのこと。能楽堂全体をリニューアルしたことを契機にクローズドのパーティーや学会のレセプションなどに使うという斬新な試みである。

 

能舞台上でのスピーチや講演では、綿製⽩⾜袋の着⽤が必須であり、厳かな気分に包まれる。プロジェクターからの資料は舞台横の壁に投影される。会議終了後は床が畳張り(改装を機に床暖房完備になった)の 1 階席はテーブルと椅⼦をセッティングしパーティー会場へと様変わりする。ケータリングは⼀般的なパーティーメニューから、能楽堂と馴染み深い⼤阪の⽼舗料理屋まで⼿配が可能。外国⼈参加者はその雰囲気に⼤変喜び、楽しみ、⼤興奮する。外国⼈でなくとも多くの⼈がその⾮⽇常感と特別感に酔いしれる。参加者はみな普段体験できないパーティーに⼤満⾜し会場を後にする。まさに、これがユニーク・べニューのユニークたるところだと⾔えよう。「⾃分達だけが体験できる特別感」「ʻありきたりでないʼもてなし」それが⼝コミで拡がり、リピーターを増やすのである。

 

これはひとえに⼭本能楽堂の運営者である⼭本代表理事ほか事務局サイドの柔軟な発想、アイデアによるたまものであると⾔える。伝統⽂化をつかさどる施設として、本来⽬的外の利⽤に踏み切ることはなかなか⾼いハードルであったことは想像に難くない。伝統を軽んじるのではなく、そのハードルを⾶び越えるポジティブさが、新しい施設のあり⽅を提案し、可能性を⽣み出すものだと考える。 写真は2015 年2⽉に⼤阪で⾏われた企業家イノベーション会議「HACK OSAKA 2015」のレセプションの模様である。

 

 

 

 

ちなみにこの今宮戎神社の福娘は、⼤阪商⼈の神様「えべっさん」として有名な今宮戎神社の神の遣い、とされている。毎年末にオーディションが開催され、数千⼈からの難関を勝ち抜いた 40 名と留学⽣ 10名、計50名の18歳から23歳までの若いお嬢さんたちである。今年で63代⽬とのことで⻑らく⼤阪の名物となっている。

 

⼤阪観光局では国際的な会議や、⼤阪の国際親善を図る⽬的で開催されるイベントについてはこの福娘を「MICE ⽀援メニュー」の⼀つとして提供している。レセプションでの華添え、⼤阪でしか⾏われない独特な⼿締め「おおさか締め」の披露など、⼤阪ならではの出迎えに、⽇々、各⽅⾯からの出演要請が絶えず、⼤阪のユニークコンテンツとして認知度が⾼まっている。

 

⼤阪に今ある観光資源を単なる「観光地」「観光施設」としてだけでなく、ユニーク・べニューの切り⼝から再活⽤していくことで、⼤阪の魅⼒をさらに発信することができるだろう。また⾏政区域でいう⼤阪に拘ることなく、近隣府県と連携し、世界の中の⽇本、⽇本の中の「関⻄」全体を MICE 開催地としての価値を⾼めていくことが、関⻄経済の底上げ、⽂化醸成を促進し、⼀過性ではない⼤阪-関⻄の⼈気を持続させるものとなるに違いない。

 

このような MICE 的観点からのべニュー開発=観光資源の掘り起こしが、今後の⼤阪の浮上に必要な⼀つの課題であると⾔える。

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