鉄道インフラ整備への気運が高まる関西の課題

Trend Watch No.44

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ABSTRACT

関西における鉄道新線敷設計画検討が活発化している。近年のインバウンド観光隆盛等に支えられた旅客増加が背景にあると考えられる。交通インフラ整備は経済発展の有力な手段であり、効果的な計画が求められる。沿線の街づくり計画などと整合性のとれたものが望ましい。そして、交通インフラは整備やメンテナンスに加え、情報発信が重要である。これにより、内外から人や物を呼び集めることが可能になると考える。関係者の叡智を集めた鉄道インフラ整備計画に期待している。

DETAIL

1.最近の動き

近年、関西の交通インフラに関する議論や取組が高まっている。最初に各分野における最近の動きを概観してみる。

 

都市交通の分野では、長年にわたり懸案となっていた大阪の「なにわ筋線」鉄道がJR西と南海の合意により前進すると伝えられる。これにより、大阪のキタとミナミ、そして関西空港がより短時間でつながるとされる。また、阪急は伊丹空港への直結アクセスを検討中と伝えられている。現在、伊丹空港に乗り入れている鉄道は大阪モノレールだけであり、しかも大阪市内には乗り入れておらず、伊丹空港と大阪キタを結ぶ阪急の計画への関心は高い。京阪は中之島線延伸検討活発化を経営トップが発言している。 高速鉄道分野においては、JR東海が計画しているリニア新幹線の名古屋~大阪の延伸工事は、政府の支援により最大8年の前倒しが決定した。さらに、北陸新幹線の敦賀~大阪の延伸部ルートも決定し、早期着工が期待されている。

 

航空においては、関西空港においてLCCを主体に就航便が増加し、それに伴い外国人利用客が増加している。そして、2016年に同空港と伊丹空港の運営が民間企業に委ねられた。神戸空港においても同種の契約手続きが進行中である。民間企業の智恵による空港の殷賑に対する期待は大きい。

 

2.訪日外国人客を支える鉄道

大阪を中心に、鉄道インフラ整備への投資意欲の高まりが見て取れる状況といえる。この背景には、好調なインバウンド観光による乗降客の増大がある。阪急阪神、京阪、近鉄、南海の関西私鉄大手4社の2017年度上半期決算は好調である。純利益は全社増益であり、1社は過去最高となった。営業利益でみると2社が過去最高であった。各社は訪日外国人客と共に定期券利用客の増加を要因として挙げている。この様な堅調な需要と決算が前向きな設備投資計画の背後にあるだろう。

 

関西空港駅の乗車人員はJR西、南海ともに近年急増している。定期券利用客も増加しているが、定期券以外の乗客の増加は更に際立っている。

 

 

関西空港アクセスを交通機関別に見ると、鉄道が大宗を占めており、しかも近年の需要増大に対しても鉄道がそれを担っていることがわかる。

この背景には鉄道事業者の様々な努力がある。そして、旅客輸送における定時性、能力の大きさがあげられよう。

 

このように旺盛な鉄道需要と好調な企業業績が、先に述べた数多くの鉄道新線敷設計画につながっていると考える。

 

3.交通インフラ整備は発展の手段

世界に目を転じると、交通インフラ整備で知られるのは古代のローマ帝国、そして中世のモンゴル帝国ではないかと考える。ローマ帝国はアッピア街道など、今に名を残す街道の存在もあり、その交通インフラ整備は有名である。一方、モンゴル帝国は武断的側面が強調されがちであるが、「パックスロマーナ」に比肩しうる「パックス・モンゴリカ」を確立し、広域の通商ルートを海陸に開拓し繁栄を築いたとされる(ジャック・ウェザーフォード著「パックス・モンゴリカ」より、2006年NHK出版)。

 

モンゴル帝国の場合、14世紀のペスト大流行がなければ、交通網とその繁栄はより長く持続した可能性がある。ローマ、モンゴル共に、見事な交通網整備を軍事面だけではなく、広域の通商にも活用した点において画期的と評価できるだろう。利便性の追求ではなく、軍事や通商という国家の存立に関わる目的のために交通インフラ整備が行われた点に留意しなければならない。

 

また、海外の大都市鉄道ネットワーク整備状況は、今後の関西鉄道ネットワーク整備に示唆を与えてくれると考える。ロンドン、パリの両都市は鉄道ターミナルが環状に位置していることで有名である。例えば、ロンドンでは、ヒースロー空港とつながるパディントン駅と欧州大陸からのユーロスターが発着するセント・パンクラス駅(21世紀に整備改修)は数キロ離れている。

 

ニューヨークには、グランドセントラル駅とペンシルベニア駅の二大ターミナルがある。グランドセントラルは世界最大といわれるターミナルであるが、乗り入れ鉄道は中短距離路線が主体であり、アムトラックの長距離列車は乗り入れていない。これらの長距離列車は全てペンシルベニア駅発着である。この役割整理は20世紀末近くに行われたものである。

 

こうした機能分離により、利用者の一部は不便を被っているかもしれない。しかし、ターミナルを核として市街地の賑わいは広がりを持っている。

 

ロンドンやニューヨークではこの様な選択が行われたのである。

 

4.地域全体でインフラ整備と情報発信

鉄道網整備により利便性が向上するのは当然であり、それにより何を実現するかが問われるべきである。多くの場合、鉄道網整備には公的資金も投入される。交通インフラという公共性に加え、財源の観点からも公共性が生じるといえる。したがって、沿線の自治体のまちづくり将来計画等との整合性も必要であろう。 昭和の頃、大阪を中心とする関西エリアは鉄道網が周密といわれた。例えば、阪神間の比較的狭い地域を走るJR西、阪急、阪神の3路線はその象徴のひとつである。しかし、その後、首都圏においては鉄道新線敷設が相次ぎ、並行路線は珍しいものではなくなっている。この観点から、関西における新規の鉄道プロジェクトは歓迎すべきものである。

 

現在、大阪で検討されている鉄道の新規プロジェクトが時間短縮等の利便性をもたらすことは明白であり、鉄道新線が敷設されれば、鉄道事業会社では旅客数増加により売上増加が見込まれる。しかし、交通全体において新規需要の創出につなげるには更なる検討が必要である。

 

例えば、伊丹空港と大阪市街地のアクセスが改善されたとしても、空港アクセスルートの変更により、道路渋滞緩和等の副次的効果は見込めるが、伊丹空港は既にフル稼働状態であり、空港利用客増加は見込み難い。

 

新大阪駅や大阪駅と関西空港のアクセスが改善される時、難波地域や天王寺地域の関空アクセス上の優位点が低下する懸念がある。現在、大阪ミナミ地域はインバウンド観光客で賑わっている。心斎橋筋商店街には外国語が飛び交い、飲食店の多くに外国語メニューが準備され、スマホのナビで訪れる外国人客が目立つ。これには、高層ビルや地下街の比率が低く、路面店が多いという外国人の散策に適した街の魅力に加え、交通アクセスが寄与していると考える。

 

関空アクセスルートの改善により人の流れが変わり、新大阪駅からの新幹線ルート等により、大阪そして関西そのものが素通りされてしまうリスクすら感じる。鉄道事業者にとっても旅客確保、そして沿線価値の向上が企業価値の最大化につながると考える。旅客が素通りするのではなく、沿線を回遊できる交通インフラと街づくりが求められる。

 

交通ネットワーク形成は整備やメンテナンスに加え情報発信が重要と筆者は考える。世界の各地域が競争する環境においては、交通を含むインフラの情報発信は人、モノを集める上で有効な材料である。これがなされなければ、地域住民と企業のみがメリットを享受するにとどまるだろう。この情報発信は鉄道事業会社のみならず、地域全体で取り組む性質のものと考える。

 

ニューヨークやロンドンの判断は単なる歴史の違いによるものではないと考える。多くの鉄道プロジェクトが存在する中、鉄道事業者と沿線自治体、関係者の協議を通じて、広く関西の街が発展するネットワーク形成を期待したい。

 

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