北陸新幹線開業後、北陸と関西の結びつきはどう変わったか

Trend Watch No.46

洞察・意見 » トレンドウォッチ

ABSTRACT

2018年3月14日の北陸新幹線開業以来3年間の大学進学先や就職先などの「人」の流れに着目して分析した結果、北陸と関東間の関係性は強化される一方、関西間との関係性は相対的に弱くなっていることがわかった。
現在関西では、北陸新幹線だけでなく、様々な交通インフラの整備計画が進行中である。財源の確保や、関係者間の利害調整など、いくつもの壁を乗り越える必要があるが、これらの事業は、国内に点在する地域資源を結び付け、新たなイノベーションを生むだけでなく、海外と国内地域を結ぶ交通ネットワークにも大きな経済的インパクトをもたらす可能性を秘めている。グローバルに開かれた日本経済を支える屋台骨として交通インフラ整備を位置づけ、より俯瞰的な視点から、検討を行うべきであろう。

DETAIL

1.はじめに

2018 年3月 14 日に北陸新幹線(長野・金沢間)は開業3周年を迎えた。これまで、東京・金沢間の移動には3時間 47 分を要していたが、これが2時間 28 分へと短縮されたことで、開業からこの3年間で多くの観光客やビジネス客が北陸を訪れ、交流人口が大幅に増加している。

 

北陸新幹線開業当初、後藤(2015)は関西への影響について、この長野・金沢間開通によって北陸3県(福井県・富山県・石川県)と関東間の関係性は強化される一方、関西間との関係性は相対的に弱くなる可能性があると指摘していた。開業から3年が経った今、果たして、北陸新幹線開業により、北陸と関西の結びつきはどう変わったのだろうか。本稿では、北陸新幹線(長野・金沢間)開業後3年間における北陸から関西・関東への「人」の流れが果たしてどのように変化したのか、統計データを用いて検討した。

 

2.北陸新幹線開業後の輸送実績

はじめに、国内の新幹線全線における旅客数の動向を概観する。図表 1 をみると、旅客数は年々緩やかに増加しており、とりわけ2015 年度は前年比9.9%と大幅に増加している。内訳を見ると、北陸線が 5.3%ポイントと半分以上を占めており、全体の旅客数増加に大きく寄与したことがわかる。また、JR 西日本金沢支社が発表した北陸新幹線(上越妙高~糸魚川間)の利用者数も、2014 年度は 3,140 千人であったのが、2015年度には9,258 千人と開業を境に約3倍と大幅に増加している。以降、微減はするものの8,000 千人超を維持している(図表2)。

 

 

 

3.開業後の関西とのつながりの変化

(1)大学進学先の変化

本節では、地域間のつながりについて、「人」の流れの変化に着目する。図表 3 は北陸3県(福井県・石川県・富山県)出身者について、北陸から関西(2府1県)、関東(1都5県)への大学進学率の推移を示したものである。これを見ると、2014 年度以降、関東への進学率が上昇し、関西への進学率は年々低下しているように見える。図中には、それぞれ2003~13年までの実績値から予想されるトレンドを破線で示しており、関東はトレンド(破線②)から上方に乖離がみられる一方で、関西はトレンド(破線①)から下方への乖離がみられる。ここから、北陸新幹線の開業以降、北陸3県の高校生の関東志向が年々高まっている一方で、関西志向が薄れているといえよう。

 

 

また、新幹線の新駅ができた富山県・石川県についてみると(図表3右)、地理的に、もともと関東志向が強かった富山県では、その傾向がより高まっていることがわかる。新聞報道によると、これまで富山県東部の高校は関東、西部では関西の大学への進学志向が強かったが、県西部でも関東志向が高まっており、新幹線開業後は毎年5%程度関東を志望する学生が増加する一方で、関西は減少しているという。加えて、石川県でも、2014 年度以前は関西の大学への進学率が関東と同程度か上回っていたものの、2015 年度以降、逆転し、足下まで継続していることが注目される。大学選択は、その後の就職や結婚、子育て、家の購入といったライフイベントの意思決定に大きな影響を与える。今後も若者が関東へと吸収され続けるのであれば、将来的に関西にとって大きな損失であるといえよう。

 

(2)就職先の変化

次に、大学生の就職先の変化を確認する。図表 4 は金沢大学、富山大学の学部卒業生の就職先を地域別に示したものである。これをみると、就職先として関東の企業を選択する学生が 2014 年度卒より大幅に増加していることがわかる。これは、2015 年の新幹線開業をあらかじめ見越して企業が前倒しで採用活動を行ったことも一因であろう。関西企業への就職は目立った変化はなく、6%程度でほぼ横ばいから微増している。一方、北陸地域では総雇用者数が240万人(2014年)から242万人(2015年)へ微増しているにも関わらず、地元企業への就職率は2014年以降低下しており、関東への就職率と対照的な動きとなっている。

 

まとめると、金沢・富山の学部卒業生の就職先は、地元企業から関東の企業へとシフトしているといえよう。こうした状況の中、関西は比較的健闘しているといえるかもしれない。しかし、高齢化と人手不足が進む中、今後は府県をまたいだ人材獲得競争が、より激しさを増していく。関東に本社を置く企業の人気が高まれば、関西企業への就職者数は将来的に減少する可能性もある。

 

 

(3)旅客流動の変化

最後に、交流人口について確認する。国土交通省が調べた 2014 年度から 2015 年度の旅客流動数をみると、北陸3県から関東への旅客数(交流人口)は、183.4 万人から 389.0 万人と2倍以上増加(112.1%)する一方、関西への旅客数は 4.9%の増加にとどまっている(図表 5)。先述したとおり、新幹線開業により金沢・東京間の所要時間が3割以上短縮されたこと、在来線からの乗り換えの解消などから、関東を訪問する大きな動機になっていることは間違いない。また、図表5では、富山発関西着の旅客が▲6.9万人と減少しているが、これは特急「サンダーバード」の金沢・富山間の運行がなくなったことによるものであろう。これも関西と北陸の結びつきが希薄化した一例といえるのではないだろうか。

 

他方で、こうした旅客流動は企業活動にも影響を与えると考えられる。例えば、東京に本社を置く多くの大手企業では、これまで関西支社が金沢や富山の管轄であったが、今後東京本社がその役割を担う可能性も考えられる。そうなれば、北陸からの出張先が東京本社へと移り、ビジネスの拠点としての関西の地位が今後低下する可能性も現実味を帯びてこよう。この点については、物流(鉄道・長距離トラック等)のデータも検討する必要があろう。

 

 

 

4.今後の課題と対策

本稿では、北陸新幹線開業からの3年間で、北陸地域の学生の大学進学率や就職先、交流人口といった「人」の流れの変化を確認した。その結果、北陸と関東との結びつきが強くなっている一方で、関西との結びつきは相対的に希薄化している状況が伺えた。これは、交通網の整備によって、それまで地域の拠点となっていた都市が、路線上のより大きな大都市の経済圏(ここでは首都圏)に取り込まれ、ヒト・モノ・カネが吸い上げられる「ストロー効果」が生じたとみることができよう。この傾向が今後も続くのであれば、不可逆的な事態すら懸念され、関西経済にとって大きなマイナスになると考えられる。

 

北陸新幹線は2022年度末に金沢・敦賀間開業が予定され、更に2017年3月に敦賀・大阪間のルートが決定された(図表 6、7)。関西、北陸、関東が新幹線で一本につながることにより、広く回遊できるようになれば、交流が更に盛んになることが期待できる。しかしながら、敦賀・大阪間の開通は、現在のところ、財源確保に目処が立っていないことから、2030年度北海道新幹線の札幌開業後の2031年着工、2046年開業が想定されている。まだ 30 年近く先のことである。その間も、北陸と関西とのつながりは希薄化が進み、北陸と関東とのつながりは強化され続けるのだろうか。

 

関西の自治体・経済界は、2030年度頃までの大阪開業を目標とした要望や機運醸成活動の強化に取り組んでいる。昨年 12 月 5 日、関西広域連合・京都府・大阪府・関経連の共催による大阪早期開業に向けた決起大会・要望活動が行われた。今年 5 月9日には、大阪や金沢など7つの商工会議所が開催した「北陸・関西連携会議」の第6回会合において、北陸新幹線全線開業のスケジュールの前倒しを求める共同アピールが決議された。他方、現在関西では、北陸新幹線だけでなく、新大阪から梅田、中之島、難波を通して関西国際空港まで直結させる「なにわ筋線」の建設計画が進められており、2031 年春の開業が予定されている。その6年後の2037年には、リニア中央新幹線の大阪延伸も見込まれている。さらに、2025年万博の大阪・関西誘致、統合型リゾート(IR)誘致を背景とした複数の鉄道延伸計画も検討されている。

 

いうまでもなく、これらの計画の実現のためには、必要となる財源の確保や、関係者間の利害調整など、いくつもの壁を乗り越えなければならない。個々の事業としての採算性も厳しく問われることになろう。しかし、これらは、国内に点在する地域資源を結び付け、face-to-faceのコミュニケーションを通じて新たなイノベーションを生むだけでなく、海外と国内地域を結ぶ交通ネットワークにも大きな経済的インパクトをもたらす可能性を秘めている。以上述べたように、関西経済の活性化という視点にとどまるものではなく、グローバルに開かれた日本経済を支える屋台骨として交通インフラ整備を位置づけ、より俯瞰的な視点から、今一度検討すべきではないだろうか。

 

 

 

pagetop
loading