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今般の台風21号は関西を中心に大きな被害をもたらした。関西国際空港(以下、関空)においては、A滑走路や駐機場の冠水、タンカーの衝突による連絡橋の損傷等、想定外の被害に見舞われた。関空の早期再開に向け、昼夜を問わず懸命に尽力されている関係者の皆様に心からの敬意を表したい。
関西経済は、関西・日本の経済を支える基幹インフラである国際拠点空港・関空を基盤として、ここ数年2つの輸出、すなわち、成長著しいインバウンドというサービスの輸出(インバウンド消費は、統計上サービスの輸出に分類される)と電子部品・デバイス等の財の輸出に支えられ、好調に推移している。
この好調を持続可能なものとするためにも、関空の1日も早い復旧・再開が望まれる。現段階ではまだ被害の全容、全面再開の見通しが明らかではないが、今般の被害が今後の関西経済に与える影響、関空の早期再開の重要性について、現在把握できる範囲の情報に基づいて整理してみた。
DETAIL
1.インバウンドの拠点としての関空
2017 年の訪⽇外国⼈数は2,869万⼈、関⻄は1,207万⼈と約4割を占めており、なお増加傾向にある(図表 1 参照)。関空は、外国⼈入国者数で成田空港に次ぐ⽇本第2位の位置を占め、アジアからの入国者数に限れば、⽇本の空港で最も多い。アジア各国の所得向上、訪⽇ビザ緩和、関空へのLCCの乗り入れ増加を追い風に(図表2参照)、関⻄へのインバウンド客が増えている。
2017 年の関⻄全体での訪⽇外国⼈消費額は 8,855 億円、前年⽐+16.4%と二桁の伸びを示しており、関⻄域内総⽣産(以下、GRP)約83兆円の約1%を創出している(図表3参照)。アジア諸国の旅⾏ニーズは今後も伸びていくと期待される。インバウンドは、関連する内需産業に広域的に経済効果が波及する産業である。こうした重要性に鑑みれば、関空の早期再開が極めて重要であるとともに、今般の被害による不安の払拭や風評被害の防⽌に官⺠の関係者が⼀丸となって取り組むことが望まれよう。
情報が世界に瞬時に広がる時代、⼈々に⾏き先への不安⼼理が芽⽣えれば、観光や旅⾏にすぐに影響が出ることが懸念される。被害の態様は異なるので⼀概に⽐較することは難しいが、熊本地震では、発⽣前⽉の水準を回復するまでに約1年を要している(図表 4 参照)。⼤阪北部地震はまだ限定的なものにとどまっているが、⼀部では影響も⾒られる。そのため、復旧状況、外国⼈観光客への⽀援状況を詳らかに発信することは、⽇本の災害復旧対応への信頼感を⾼めていくことになる。それとともに、関⻄の観光にかかる強固なソフトインフラの魅⼒と安全を海外に発信していく必要があろう。
2.財の輸出拠点としての関空
インバウンドとともに影響が懸念されるのが財の輸出である。 2017年の貿易統計を⾒れば、関⻄は⽇本の輸出の21.2%(16.6兆円)を、うち関空はその3分の1である7.2%(5.6兆円)を占める。さらに関空からの輸出の48.7%(2.7兆円)が電気機器となっており、特に半導体等電子部品(1.3兆円)は全国シェアの32.2%を占めている(図表5参照)。
特に重要なポイントは、関空から輸出される部品・部材の多くは、技術的に⽇本でしか⽣産されない⾼付加価値なものであり、中国、東南アジアなどの⽣産拠点に出荷され、そこで完成品が⽣産されるというグローバル・サプライチェーンが形成されていると考えられる。よって、関空からの輸出が困難になった場合、既存のサプライチェーンに⼤きな影響を与え、現地⼯場にとって懸念材料となる可能性が⾼い。
また、影響は⼯業製品輸出だけにとどまらない。⽇本の食品に対する⾼評価、和食ブーム等を背景に、関⻄から農林水産物の輸出は近年増加傾向にある。⽇本の農林水産物輸出の29%(2,337億円)を、関空はその5分の1の6%(486億円)を占めている。この5年間で関空からの輸出額は8割強増加している(図表6参照)。輸出が困難になれば、現地販売拠点や海外の消費者ニーズに応えられなくなる可能性が⾼い。
関空の物流機能の停⽌や低下は、関⻄・⽇本経済にとどまらず、グローバル・サプライチェーンを通じて海外にも影響が及ぶ。このため、連絡橋の貨物⾞両の通過も含めて関空の物流機能の1⽇も早い全⾯回復に向けて、国の⽀援も含めた関係者の⼀致協⼒した対応が強く期待される。
9⽉4⽇の台風21号に続き、9⽉6⽇未明には北海道が最⼤震度7の地震に⾒舞われた。こうしたインフラの被害が経済へ⼤きな影響を与えるという点では、同種の問題である。⼤きな災害時においても治安が悪化しない⽇本社会の安定性は世界に称賛されている。こうした危機を、⽇本のレジリエンスを世界に示す機会として捉えていくことも必要であろう。