ABSTRACT
2019年6月28・29日、大阪で開催されるG20サミットは、日本で初の開催となり、世界的な課題解決に向けてその存在感を世界に示す重要な機会であるのみならず、開催地大阪・関西にとっては25年の万博開催を見据えたうえでの大きな意義がある。本稿は、経済的効果に限定してその評価を行ったものであり、分析ツールとしては産業連関表を用いている。産業連関表はイベント実施が経済全体にどのように波及して所得や雇用に影響を与えるかを分析できる。分析結果を要約すれば、以下のようになる。
- G20大阪サミット関連最終需要として支出される金額は428億4,200万円と推計される。
- 2016年伊勢志摩サミットと支出内訳を比較すれば、今回はインフラ関係の整備事業額が少ないのが特徴で、既存インフラを活用して経費を抑えたコンパクトな開催となっている。
- APIR関西地域間産業連関表(2011年版)を用いた試算によれば、G20大阪サミットの総合効果として生産誘発額は621億4,800万円、粗付加価値誘発額は390億3,600万円、雇用者所得誘発額は234億6,300万円と推計される。いずれも直接効果と間接2次効果を含んでいる。
- G20大阪サミットは関西経済に365億6,360万円の付加価値を誘発する。0.04%程度の押し上げ効果となり、減速が予測される関西経済に一定程度の下支え効果を発揮する(ここでの関西経済は、APIR関西経済予測モデルと比較可能となるように2府4県ベースでみている)。なお日本全体の下支え効果は0.01%である。
- 単年度の効果としては大きくはないが、関西経済にとっては、2025年大阪・関西万博開催を控え、G20サミット開催の意義は深い。今後一連の経済イベントによる需要拡大が投資を誘発し関西経済の供給力を引き上げるという好循環が期待できる。結果、関西経済の潜在成長率引き上げにつながる意義を持つキックオフイベントとなろう。
DETAIL
はじめに
G20 サミットは、リーマン・ショックを契機とした経済・⾦融危機に対処するために設⽴された首脳級の国際会議であり、正式には「⾦融・世界経済に関する首脳会合」と称される。2008 年 11月のワシントンDCにおける第1回サミット以降、10年までは半年毎に、11年以降は年1回開催されている。経済規模の大きい国々が集結(G20全体で世界のGDPの8割以上)する「国際経済協調の第1のフォーラム」(Premier Forum for International Economic Cooperation:09 年 9 月のピッツバーグ・サミットで合意・定例化)として、経済分野において大きな影響⼒を有している。かかる設⽴経緯もあり、主要議題は基本的に経済分野であるが、近年は、世界経済、貿易・投資、開発、気候・エネルギー、雇用、デジタル、テロ対策、移⺠・難⺠問題等、多岐にわたる議題が取り上げられている。今回の大阪サミットでの主要テーマは、以下のように設定されている。(テーマ①〜⑧の詳細内容は、後掲の参考資料を参照)
テーマ① 世界経済
テーマ② 貿易・投資
テーマ③ イノベーション
テーマ④ 環境・エネルギー
テーマ⑤ 雇用
テーマ⑥ ⼥性のエンパワーメント
テーマ⑦ 開発
テーマ⑧ 保険
G20サミットの日本開催は初めてとなる。2019年G20大阪サミット関⻄推進協⼒協議会は、開催意義として「世界に貢献する大阪・関⻄」、「安全・安⼼なまち大阪・関⻄」を世界に発信することを掲げており、ライフサイエンス分野やものづくりなど、大阪・関⻄の強みを発信していくとともに、万全の警備のもと、安全・安⼼な会議環境を確保することを目指すとしている。G20大阪サミットの開催を契機に、戦略的にMICEを誘致し、大阪経済のさらなる活性化や都市魅⼒の向上を図ることも大きなテーマの1つである。大阪・関⻄の知名度・都市格の向上、国際都市大阪として成⻑を世界にアピールし、25年日本万国博覧会の開催にもつなげていくとしている。
G20大阪サミットの経済効果
1. 最終需要規模
G20 大阪サミットには、各国首脳や国際機関のトップをはじめ、政府関係者や国際機関関係者、その⽀援スタッフ、さらには国内外報道関係者など、約3万人が大阪・関⻄を訪れる。サミットでは、直接的な外交団接遇費用や会議運営費用だけでなく、さまざまな準備費用(消防・救急、都市インフラ整備など)、警備・交通規制対策、関係者やプレス関係の⽀出が発生し、経済効果は地元大阪だけでなく、関⻄、全国にも波及する。
まず、最終需要額を推計する。これは国および大阪府市のサミット関連予算、約3万人にのぼる関係者やプレスの消費⽀出となる。大阪府市の予算はすべて大阪府での最終需要となるが、国予算は、すべてが大阪府下に⽀出されるわけでない。準備のための海外への出張旅費やその会議費は当然除外される。警備関係者で、他都府県からの応援者に⽀払われる人件費、交通費も控除する必要がある。国予算については、詳細が公開されていないので不確実性は残るが、予算内容から判断して大阪府下に⽀出されると考えられる額を挙げている。
(1)大阪府市のG20サミット関連予算
(2)国のG20サミット関連予算
(3)スタッフ、海外プレスの消費額
外交団以外にも、スタッフが約2万人、海外プレス約2,500人が来訪すると想定されており、これら人々によるサミット前後を含む滞在期間中の消費⽀出(ホテル宿泊費、交通費、飲食費、買物代)が地元で生じる。消費単価は、プレス向け宿泊施設⼀覧の宿泊費(1名利用で1泊1万円〜3万円
程度)、ホテルでの平均的な飲食費、市内移動のタクシー代などを勘案して設定した。すなわち、宿泊・飲食代1日1人当たり2.5万円、タクシー等交通費1日1人当たり1万円、買物代1人当たり2万円とする。なお、平均滞在日数を5日と想定する。
(1)〜(3)合計、サミット関連最終需要は、計428億4,200万円と推計される。 なお、当該サミットの経済規模の比較の参考として、日本で開かれた他のサミットを比較する。2008年7月北海道洞爺湖サミットでは道内需要197億円(北海道経済連合会推計)、16年5月伊勢志摩サミットでは県内需要 395 億円(三重県推計)、336 億円(中部圏社会経済研究所)と推計されている。需要額の差で大きい要因はインフラ関係のハード整備事業の額の多寡である。伊勢志摩サミットでは、開催に向けた社会資本整備に多額の事業費(61.7億円)が⽀出されている⼀方、大都市での開催となるG20 大阪サミットでは、既存の社会資本ストックが活用でき、新たな整備事業費(8.6億円)が少額ですんでいるという違いがある。G20大阪サミットは、過去日本で開催されたサミットに比べ、参加国・機関や参加者の数が大きいが、経費を抑えたコンパクト開催になっている。
2. 経済波及効果
前項で示されたG20大阪サミット関連最終需要(428億4,200万円)の推計をもとに、APIR関⻄地域間産業連関表を用いて、その経済効果を分析する。上記の予算や関係者等の消費は、大阪府下のみならず、その⼀部は他地域から発生することがある。それらを考慮した直接需要額を産業別に求めたのが図1である。
サミット関連の最終需要428億4,200万円により410億3,730万円の直接効果が国内にもたらされる。産業別にみると、サービス業・その他が283億3,670万円と最も多く、公務103億7,100万円、運輸・通信業11億2,150万円、建設業8億6,300万円と続いている。 以上のような直接効果をもとに、サミット関連⽀出が、大阪府をはじめとする2府8県の関⻄経済や日本全体にもたらす影響を、生産波及効果、粗付加価値誘発効果、雇用者所得誘発効果について、APIR 関⻄地域間産業連関表により推計を⾏った。次に、粗付加価値誘発効果に注目し、産業別にその効果を考察する。最後に、地域経済への下⽀え効果がどの程度か算出する。なお、参考として関⻄2府4県への影響も示した。
(1) 生産波及効果
サミット関連⽀出によって、大阪府では548億3,930万円、大阪以外の関⻄では、21億1,650万円、その他地域では51億9,170万円、全国合計で621億4,750万円の生産波及効果がもたらされる(図2)。
なお、関⻄2府4県では563億9,800万円、関⻄2府8県では569億5,590万円となっている。大阪府(および全国合計)では、直接効果が最も大きく、409億6,030万円(410億3,730万円)であり、第⼀次生産波及効果、第二次生産波及効果になるにつれて減少している。⼀方、大阪以外の関⻄やその他地域では、サミット関連により大阪で増加した生産を賄うための中間投入等が波及効果として強く表れていることが分かる。
(2) 粗付加価値誘発効果
次に、サミット関連需要がもたらす粗付加価値誘発効果についてみたものが図 3 である。大阪府では358億5,820万円、大阪以外の関⻄では、9億1,800万円、その他地域では22億6,040万円、全国合計で390億3,650 万円の粗付加価値誘発効果がもたらされる。なお関⻄2府4県では365 億6,360万円、関⻄2府8県では367億7,761万円となっている。
(3) 雇用者所得誘発効果
同様に雇用者所得誘発効果についてみていくと、大阪府では218億1,830万円、大阪以外の関⻄では、4億6,420万円、その他地域では11億8,050万円、全国合計で234億6,300万円の雇用者所得誘発効果がもたらされる。なお関⻄2府4県では221億9,390万円、関⻄2府8県では222億8,250万円となっている(図4)。
(4) 産業への影響(粗付加価値誘発効果)
各産業部門にどのような粗付加価値誘発効果があったのかについて大阪府とそれ以外の地域に分けてみたものが図5である。
G20サミット開催で最も大きな効果があった産業は、サービス業・その他(252億3,720万円)、ついで、公務(60億3,440万円)、運輸・通信業(25億6,840万円)となっている。大阪府以外の関⻄への影響をみると(表5、その他の項目参照)、製造業(10億200万円)、運輸・通信業(6億5,640万円)、サービス業・その他(6億3,110万円)などが大きい結果となっている。
さらに、各地域における粗付加価値誘発効果が大きい10産業を示したのが表6である。大阪府においては、その他の対事業所サービスや公務(中央)等の直接効果の影響が大きい業種が上位に来ている。大阪以外の関⻄では、⼩売や道路貨物輸送といったサービス関連業種が⾼くなり、その他地域では、関東圏が含まれることから卸売やその他の対事業所サービス、情報サービスが上位に来ていることが分かる。
(5) 地域経済への下⽀え効果
最後に、地域経済への下⽀え効果を、当該地域のサミット関連粗付加価値誘発効果額と域内総生産(GRP)や国内総生産(GDP)との比率から求めたものが図6である。サミット関連⽀出による2019年度の関⻄2府4県ならびに全国経済の下⽀え効果は、それぞれ0.042%、0.007%となっている。なお、比較にあたっては、APIR の日本経済及び関⻄経済の名目 GDP(GRP)の予測値を用いている。このことから、G20サミットの経済効果(付加価値誘発額)は、減速が予測される19年度の関⻄経済に⼀定程度の下⽀えとなると考えられる。
3. 総合評価
米中貿易摩擦の⻑期化で中国経済の減速が鮮明となってきた。最新の関⻄経済予測では、関⻄経済の実質GRP成⻑率を2019年度+0.7%、20年度+0.4%と減速を予測している。このベースライン予測には G20 サミット開催の経済効果が反映されていないため、サミット開催がどの程度関⻄経済を浮揚できるかを試算できる。ベースラインでは、19年度関⻄名目GRPは86兆7,970億円と予測されている。このためG20サミットは19年度の関⻄名目GRPを0.042%(365億6,360万円)引き上げる効果があり、⼀定程度の下⽀え効果となろう。
なお、マイナス効果としては、企業や家計への影響が考えられる。企業の生産活動にとって大規模な交通規制によるマイナス効果が考えられる。例えば、出荷、配送、資材調達に影響をうけるものの、取引の繰り上げや延期・先延ばしを通じて企業は均してみればマイナス効果をうまく処理管理できるものと想定している。このことは昨年 9 月に発生した自然災害による関⻄国際空港の全⾯閉鎖による影響とは、インフラに損傷が生じない点、あらかじめ計画的な調整が可能な点において、質的に異なる。また、観光への影響については、サミット開催場所は主要観光地の近接地ではあるものの、マイナスの影響は少ないと考えられる。よって、本稿ではマイナス効果を明示的に考慮はしていない。
おわりに
これまでG20大阪サミットの経済効果についてAPIR関⻄地域間産業連関表を用いて分析してきた。2019 年 9 月からのラグビーワールドカップ、21年ワールドマスターズゲームズ関⻄、そして、25 年大阪・関⻄万博、今後議論が進んでいくIR開業を前に、G20大阪サミットは大阪・関⻄への注目度が上がる最初の国際的なイベントとなる。こうした関⻄の知名度向上や魅⼒を世界に発信できる⼀連のイベント開催は、需要拡大を通じて投資を誘引し、それが関⻄経済の供給⼒を引き上げるという好循環が期待できるものであり、その効果をインバウンド拡大や MICE 誘致、産業振興に最大限活かしていかなければならない。
とりわけ、G20 大阪サミット開催により、大阪・関⻄は大規模な国際会議の開催地にふさわしい場所という信用や認知度が大きく向上する。国際会議をはじめ MICE の誘致で優位となり、国際会議開催件数の増加も期待できる。さらに、かかるハイレベルの国際会議をやり遂げることは、より質の⾼いサービスの提供、よりロバストなロジスティクスの確⽴にも寄与しよう。
G20 大阪サミット開催を⼀過性のものに終わらせず、ポストサミット効果の発現と持続に取り組むことで、関⻄経済の潜在成⻑率の引き上げにつながる歴史的意義を持つキックオフイベントとなることを祈念したい。