新型コロナウイルス対策で見えた地方の財政力格差
-税源交換による地方税の偏在是正・税収安定化を-

Trend Watch No.64

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新型コロナウイルスの感染拡大は、地域経済にも大きなマイナス影響を及ぼしている。地域経済の悪化は税収減により地方財政へ影響が及び、その影響は長期化する可能性がある。感染拡大は地方財政への影響の長期化だけにとどまらない。そこで、本稿では、新型コロナウイルス感染拡大で見えた地方の財政力格差の背景と問題点を整理し、財政力格差の要因になっている税収の偏在是正のための制度改革の提案を行った。地方税の偏在性において、最も大きいのが地方法人二税であり、最も小さいのが地方消費税である。そこで、地方の法人課税分と国の消費税分について、同額で税源交換し、地方消費税を拡充することが有効と考え、シミュレーションも行った。

 

  1. 税収の東京⼀極集中に代表されるように、税収格差を背景にした地⽅の財政⼒格差は、かねて問題とされていたが、新型コロナウイルス感染拡⼤対応では、地⽅の財政⼒格差をクローズアップさせた。典型的な問題が休業要請等への「協⼒⾦」で地域差が⽣じたことである。⾃治体の経済対策が財政⼒格差により差が出れば、地域経済の⽴ち直り度合いにも差がつき、ひいては税収格差、それを背景とする財政⼒格差をさらに拡⼤させる懸念がある。
  2. 新型コロナウイルス感染拡⼤対応の財源について、各⾃治体は財政調整基⾦を取り崩し、財源に充当するケースが多くみられた。財政調整基⾦は、税収の多い東京都が突出して残⾼が⼤きく、東京都以外の道府県は危機時に使える「貯⾦」の残⾼が⾮常に少ない。危機時に各⾃治体が財政⼒格差から⼤きく制約されずに必要な対策をスピーディに講じられるようにすることが必要である。このためには、税収の偏在性が⼩さい地⽅税体系の構築が必要である。
  3. 地⽅税の偏在性において、最も⼤きいのが地⽅法⼈⼆税であり、最も⼩さいのが地⽅消費税である。そこで、地⽅における税収の偏在性を⼩さくし、景気動向に対し安定的な税収が得られるような踏み込んだ改⾰が必要になってくる。このため、地⽅の法⼈課税分と国の消費税分について、同額で税源交換し、地⽅消費税を拡充することが有効と考える。
  4. 税源交換での税収の偏在是正により、危機時対応での財政⼒格差は⼀定改善するが、これだけでは⼗分でない。コロナ禍からの地域経済回復、さらには他の災害対策も講じつつ、教育、福祉、医療・介護、⼦育て⽀援、社会資本の⽼朽化対策、⾏政のデジタル化など、地域の様々な歳出需要に責任を持って適切に応えていくためには、根本的には、地⽅分権の推進と⼀体となった地⽅税の充実確保が必要である。各⾃治体の主体的な政策を賄う⼀般財源の確保が重要となる。このため、地⽅交付税の法定率引上げ、地⽅税標準税率の引上げと連動した地⽅財政計画の歳出規模拡⼤、地⽅への権限・財源移譲などの検討を期待したい。

DETAIL

1.新型コロナウイルスの感染拡⼤による地⽅財政への影響:影響の⻑期化

新型コロナウイルスの感染拡⼤は、需要の継続的な後退や失業率の⾼⽌まりなど、地域経済にも⼤きなマイナス影響を及ぼしている。離職などによる就業者数の減少の⼤きい産業は、建設業、製造業、運輸業、卸売業、⼩売業、宿泊業、飲⾷サービス業、⽣活関連サービス業、娯楽業であり、いずれも地域経済を⽀える産業である。地域経済の悪化は地⽅財政へ影響が及び、その影響は⻑期化する可能性がある。地域の企業収益の悪化は、企業が納める法⼈住⺠税や法⼈事業税の減少となる。従業員の収⼊減や離職ともなれば、従業員が納める個⼈住⺠税が減少する。地⽅法⼈⼆税、個⼈住⺠税は、地⽅の基幹税⽬であり、税収減の影響は⼤きい。

 

地域経済の回復には⻑い時間がかかり、感染の第2波、第3波があれば、回復はさらに遠のく。税収減による地⽅財政への影響も⻑期にわたる。図表1は、地⽅税収と財源不⾜額の推移を⽰したものであるが、2008年のリーマン危機による税収減が底を打ってからも危機前の税収⽔準に戻るまで約6年かかっている。新型コロナウイルス感染拡⼤の影響も⻑期化は避けられないだろう。

 

 

新型コロナウイルスの感染拡⼤の影響は、地⽅財政へのマイナス影響が⻑期に及ぶだけにとどまらない。税収の東京⼀極集中に代表されるように、税収格差を背景にした地⽅の財政⼒格差は、かねて問題とされており、是正に向けた税制改⾰が⾏われてきたが、新型コロナウイルスの感染拡⼤対応では、地⽅の財政⼒格差をクローズアップさせた。

 

典型的な問題は、休業要請等への「協⼒⾦」で地域差が⽣じたことである。累計感染者数の多い⾸都圏と関⻄圏の地域差をみてみる。図表2は、各都府県の休業等への「協⼒⾦」の概要である。

 

中⼩企業に対し、東京都、⼤阪府、兵庫県は最⼤100万円の⽀給が可能になっているが、近隣の他府県と⽀給⾦額に⼤きな差がある。持続化給付⾦などの国による給付⾦⽀給額は全国⼀律であり、⾃治体による給付⾦についても⾃治体間で差が開いているのは好ましくない。

 

 

新型コロナウイルス感染拡⼤対応として、全国の各⾃治体においては、休業等への「協⼒⾦」の以外にも、家賃⽀援⾦など、様々な経済対策を講じ、⼤きな打撃を受けた地域経済の下⽀えに取り組んでいるところは少なくない。しかし、そうした⾃治体の経済対策が、財政⼒格差により差が出れば、地域経済の⽴ち直り度合いにも差がつき、ひいては税収格差、それを背景とする財政⼒格差をさらに拡⼤させる懸念がある。

 

2.新型コロナウイルス感染拡⼤対応の財源︓財政⼒格差を反映

 

新型コロナウイルス感染拡⼤対応の財源について、各⾃治体は財政調整基⾦を取り崩し、財源に充当するケースが多くみられた。⾃治体は、⼤規模な災害や経済不況、社会保障等に要する経費の増加に備えた財政運営の年度間調整の取り組みとして、基⾦の積み⽴て、取り崩しを⾏っている。危機時に使える「貯⾦」とも⾔える財政調整基⾦は災害などの予測し難い事態での財源不⾜に備えるものであり、新型コロナウイルスの感染拡⼤対応に急きょ活⽤された。例えば、東京都では、2019 年度最終補正後時点で9,345 億円あった残⾼のうち、累次の補正予算により8,540億円がすでに取り崩されている。⼤阪府では、2019 年度末時点で 1,043 億円あった残⾼が相次ぐ補正予算(第7号まで)対応で522億円がすでに取り崩されている。

 

2018 年度決算額により、都道府県別の基⾦の残⾼、1 ⼈当たり税収額(指数)をグラフにしたのが図表3である。基⾦残⾼は圧倒的に東京都が⼤きい。財政調整基⾦でみても、東京都が 8,428 億円と最⼤であり、⼤阪府1,489億円、愛知県1,102億円と続く。基⾦残⾼にこれほどの差が出るのは、税収格差による。1⼈当たり税収額が著しく⼤きい東京都は、基⾦への⼤幅な積み増しが可能である。税収の多い東京都は、都道府県で唯⼀、地⽅交付税の不交付団体であり、基準財政収⼊額が基準財政需要額を上回る財源超過となっており、独⾃や臨時の対策に財源を充てやすい。基⾦への積み増しを⾏う余地も⼤きい。

 

 

標準的な⽔準の⾏政経費は地⽅交付税で財源保障があるが、新型コロナウイルスの感染拡⼤対応のような危機対応については財源保障がない。危機時に各⾃治体が財政⼒格差から⼤きく制約されずに必要な対策をスピーディに講じられるようにすることが必要である。このため、税収の偏在性が⼩さい地⽅税体系の構築が必要と考える。

 

3.税収の偏在性が⼩さい地⽅税体系の構築︓税源交換

 

2018 年度決算額で都道府県別1⼈当たり税収をみると、全国平均を 100 とした場合、地⽅税全体では東京都が165.9 と最⼤であり、最⼩の⻑崎県70.3 と最⼤/最⼩倍率は 2.4 倍となっている。税⽬別でも東京都が突出して多く、地⽅法⼈⼆税(法⼈住⺠税、法⼈事業税)では最⼤/最⼩倍率は 6.3 倍と際⽴って差がある。個⼈住⺠税、固定資産税、地⽅消費税(清算後)の最⼤/最⼩倍率は、それぞれ2.5倍、2.3倍、1.3倍となっている。地⽅消費税の倍率は最も⼩さい。

 

同じ 2018 年度決算額で、税収全体の格差を評価するジニ係数をみると、地⽅税全体は 0.08、個⼈住⺠税は0.10、固定資産税は 0.08、地⽅消費税は 0.02、地⽅法⼈⼆税は 0.17 である。偏在性が最も⼤きいのが地⽅法⼈⼆税であり、最も⼩さいのが地⽅消費税である。

 

偏在性が⼩さい地⽅税体系の構築の必要性は、1997 年 7 ⽉の地⽅分権推進委員会第 2 次勧告において指摘され、国は地⽅消費税の創設、財政⼒格差拡⼤に対応する税制改⾰を推進してきた。近年の税制改⾰は、偏在性の⾼い地⽅法⼈⼆税に着⽬し、地⽅の税収を国がいったん取り込んでから、それを地⽅へ配分する⽅式がとられている。現⾏制度は、①法⼈住⺠税法⼈税割の⼀部を国税の地⽅法⼈税として吸い上げ、交付税原資に繰り⼊れて配分する、②法⼈事業税の⼀部を国税の特別法⼈事業税として吸い上げ、特別法⼈事業譲与税として配分する、という⽅式になっている。

 

都道府県別の1⼈当たり税収額指数(全国平均 100)について、各年度の最⼤/最⼩倍率、変動係数、ジニ係数を算出し、地⽅税全体での税収格差の推移をみたのが図表4である。法⼈事業税の⼀部を地⽅へ配分する税制改⾰が⾏われた2008年度以降、格差は徐々に縮⼩してきている。

 

 

最⼤/最⼩倍率は⼤きく下がっているが、最⼤の東京都の突出度を強調するもので、都道府県全体の税収格差を評価できるものでない。全体の格差を表す指標、特にジニ係数をみると、格差是正が⼤きく進んでいるとは⾔えない。税収格差の依然として⼤きな要因は地⽅法⼈⼆税である。地⽅法⼈⼆税の税収は産業の集積に左右され、企業・事業所が集中する東京都をはじめ⼤都市圏を抱える都府県の税収が当然⼤きくなり、偏在性が⼤きくなることは不可避である。また、⾃治体の⾏政サービス(社会保障、教育、社会資本整備等)は決められた⽔準で継続的な提供が求められ、法⼈からの税収は景気変動の影響を受けやすいので、地⽅⾏政運営上、安定的な税⽬でない。

 

そこで、税収の偏在性が⼩さい地⽅税体系の構築に向けた改⾰として、地⽅の法⼈課税分と国の消費税分について、同額で税源交換し、地⽅の法⼈課税を減らすとともに、偏在性が⼩さく景気変動に安定的な税収が期待できる地⽅消費税を拡充することが有効と考えられる。現⾏の交付税原資化や譲与税⽅式に⽐べて、地⽅の固有財源の充実という意義が明確となり、東京都を中⼼とした⼤都市を抱える都府県は税収が⼀定減るものの、地⽅消費税という税収が安定的な税⽬に変わることで現⾏⽅式よりメリットがある。税源交換では、国全体としては税収中⽴である。

 

問題は、地⽅の法⼈課税分についてどの税⽬を税源交換の対象にするかである。法⼈も地域社会の⼀員であり、事業を⾏う上で⾃治体の⾏政サービスを受けており、地域社会の会費(均等割)や応益課税(外形標準課税)ということは残すのが妥当である。そこで考えられる⽅策は、第1に法⼈住⺠税の法⼈税割を税源交換の対象にする、第2に法⼈事業税の所得割・収⼊割もあわせて税源交換の対象にする、という2案である。2020年度の税収額の数字であてはめてみた場合の税源交換の2 案のイメージを⽰したのが図表5である。

 

法⼈住⺠税の法⼈税割(都道府県と市町村の両⽅で課税)は、国の法⼈税額が課税標準となっており、⽋損法⼈には課税されないことから、応益性というより応能性の意義が強い。また、偏在性は法⼈事業税よりも⾼い(2018年度決算での最⼤/最⼩倍率は、法⼈住⺠税が7.2倍、法⼈事業税が5.7倍)。その意味で税源交換の対象に最も相応しい。

法⼈事業税の所得割・収⼊割も、偏在性が⼤きく税収の安定性に⽋くというデメリットから、税源交換の対象になりうると考える。ただし、⾃治体の企業誘致意欲を失わせてしまわないか、⼤都市の⾃治体(8都府県)の超過課税分をどう扱うか、税源交換額が⼤きくなり国の消費税収を減らすことで国の社会保障財源確保に影響が出ないか、といったことを慎重に検討する必要がある。

 

筆者の考えは、まずは、法⼈住⺠税法⼈税割を税源交換の対象にすることの早期実現を求めたい。法⼈事業税所得割・収⼊割も含めて税源交換を⾏うかは慎重に議論を⾏う⽅が良いだろう。参考までに、1⼈当たり地⽅税収額(指数)について、税源交換のシミュレーション結果を図表6に⽰す。税源交換①は、法⼈住⺠税法⼈税割を税源交換の対象にしたものである。税源交換②は、法⼈住⺠税法⼈税割、法⼈事業税所得割・収⼊割をあわせて税源交換の対象にしたものである。東京都、愛知県、⼤阪府では税源交換後に税収減となる(地⽅消費税拡充という税収安定化のメリットはある)。この3都府県以外の道府県すべてでは、平均で157億円(税源交換①)、247億円(税源交換②)の税収増となり、新型コロナウイルス対策のような危機時対応での財政⼒は向上する。

 

 

税源交換での税収の偏在是正により、財政調整基⾦を積み増す余地が増え、危機時対応での財政⼒格差は⼀定改善するが、これだけでは⼗分でない。コロナ禍からの地域経済回復、さらには他の災害対策も講じつつ、教育、福祉、医療、介護、⼦育て⽀援、社会資本の⽼朽化対策、⾏政のデジタル化など、地域の様々な歳出需要に責任を持って適切に応えていくためには、根本的には、地⽅分権の推進と⼀体となった地⽅税の充実確保が必要である。地域で⽣じる事象、事態に対応するためには、まずは、地域のことをよく知る⾃治体が⾃らの責任で主体的に取り組むことが望ましいが、各⾃治体が⾃由に使える⼀般財源は⼗分でない。法令に基づく義務的経費の割合である経常収⽀⽐率が平均して90%台にあり、財政が⾮常に硬直化しているからである。地域のニーズや事情を踏まえた各⾃治体の主体的な政策を賄う⼀般財源の確保が重要となる。

 

そこで、地⽅の⼀般財源拡⼤ということで、地⽅交付税の法定率引上げ、地⽅税標準税率の引上げと連動した地⽅財政計画の歳出規模の拡充が検討課題と考える。特に、後者については国⺠負担の増加となるが、受益(歳出)と負担(税収)が連動してこそ必要な⼀般財源が確保できるということから、検討すべきことと考える。また、国と地⽅の役割分担の⾒直しとそれに必要な権限・財源移譲も、個々の課題を洗い出しながら地道に進めていくべきである。主な税源が国税・地⽅税により法律で定められている現状では多くの税収を期待できないが、法定外税といった課税⾃主権の拡⼤に向けた関係法令の⾒直しも必要であろう。

 

コロナ禍にある今年 4 ⽉で、機関委任事務が廃⽌され、国と地⽅が対等の関係に⽴つとされた「地⽅分権⼀括法」施⾏から20年になるが、地⽅分権及び地⽅財政について、「国と地⽅の協議の場」などにおいて改⾰議論を深める節⽬の年になることを期待したい。

 

  1. 主要先進国の中で、⽇本のみが公的債務の対 GDP ⽐を右肩上がりで上昇させており、潜在的に財政破綻のリスクを抱えている。新型コロナウイルス対策での財政出動は、こうした危機的状況の中での対応であることにまず留意することが必要である。
  2. 2020 年度補正予算後の財政収⽀について、新規国債増発やマイナス成⻑による税収の減額補正の影響を⼊れた試算(暫定)を⾏ってみた。基礎的財政収⽀について、2020 年度は、内閣府の1⽉試算の▲9.2 兆円の⾚字から▲66.2 兆円という⼤幅な⾚字となる。2021 年度以降に経済回復があっても、⾚字額は継続的に下押しされ、財政再建は⼀段と遠のく。現状の潜在成⻑率程度で推移するベースラインケースでは、公債残⾼の対GDP⽐が発散してしまう可能性もある。財政破綻リスクはコロナ禍前よりも⼤きくなる。なお、パンデミック収束と経済の先⾏きには不確実性があり、今後、試算結果は変わりうる。
  3. もとより、感染防⽌と経済活動回復のための財政出動は必要なことである。コロナ禍後の財政健全化をどう進めるかが、今後、考えるべき重要な課題となる。ナローパスとなるが、財政規律と経済成⻑のバランスをとりながら着実な財政健全化を進めることが必要だろう。
  4. ⽇本経済の潜在成⻑率を⾼める政策を進め、⼀定の経済成⻑が実現できなければ、歳出のスリム化や国⺠負担増は難しい。医療情報のネットワーク化など、公的⽀出の効率化に必要な歳出改⾰も、発想を転換し、経済成⻑を促す戦略としても位置づけ、規制緩和や先進技術を取り⼊れていく必要がある。そして、独⽴財政機関が財政・社会保障⼀体の⻑期推計を⽰し、財政再建と社会保障制度の維持に何がどこまで必要かの国⺠的議論が⾏われ、そのうえで、党派を超えた政治判断と改⾰の実⾏を期待したい。

 

 

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