コロナ禍における大阪府の人口移動動態
-住民基本台帳人口移動報告月次データを用いた分析-

Trend Watch No.75

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1. 大阪府の人口は2015年に転入超過に転じ、6年連続で転入超過が続いている。ただし、20年はコロナ禍の影響で転入・転出者数が4年ぶりに減少したが、トレンドに変化はない。

2. 人口移動動態を地域別にみれば、近畿からの転入超過数が最も多い。一方、2018年から20年にかけて、南関東への転出超過の傾向は続いているものの、幾分縮小している。その他の地域では、中国、四国、九州地域からの転入超過数は18年から19年にかけて拡大したが、20年は幾分縮小している。

3. 転入超過数が最も多い年齢階級は20~24歳で、うち近畿からが最も多く、中国、四国、九州も多い。しかし、20年はコロナ禍により府県間移動が制限されたこともあり、中国、四国、九州からの転入超過数が減少した一方、南関東への20~24歳の転出超過数が縮小している。

4. 大阪府内では、大阪市への転入超過数は拡大しており、特に大阪府北部では転入超過数が拡大している地域が増加している。一方、南部では転出超過が続いている地域が多い。

5. 大阪府に対して4度にわたって発令された緊急事態宣言は、人口移動動態に影響を及ぼしている。その影響は男女別に異なる状況となっており、総じて女性の転入者への影響が大きい。

DETAIL

1. はじめに

総務省が2021年6月に発表した国勢調査(速報値)によれば、20年10月1日現在の日本の総人口は1億2,622万7千人と、15年と比べて0.7%減少したものの、前回調査より減少幅(2015/10年:-0.8%)は幾分縮小した。この要因としては、死亡数が出生数を上回る自然減は拡大したものの、日本で生活する外国人が増加したことに加え、新型コロナウイルス(以下、COVID-19)の感染拡大により、海外から帰国した日本人が増加したこと等が指摘されている。都道府県別にみれば、東京都の人口が前回より4.1%増加し、初めて1,400万人を超え、全国の人口の約 11%を占める状況となった。一方、関西では前回より-0.8%減少し、2,054万人となった。うち、滋賀県は人口の増加幅が縮小し、大阪府は減少から増加に転じたが、その他府県では減少幅が拡大した(図表1)。

 

 

人口減少が続く中、COVID-19の影響で日本では、4度にわたって緊急事態宣言が発令され、人々は大きな行動変容を迫られた。感染防止策により、人流は抑制され、人口移動に大きな影響が表れている。中でも、人口が集中している東京都の転入超過数は縮小している一方で、大阪府の転入超過数は拡大しており、異なった移動動態となっている。2021年に入ってからも、東京都は転出超過の傾向は続き、9月1日時点の人口は1,403万7,872人と4カ月連続で減少となるなど、コロナ禍で人口動態に変化がみられている。

そこで本稿では、主として大阪府を取り上げ、ここ数年の人口動態の傾向がコロナ禍の影響により、どのような変容を遂げたのかを概観・分析を行っていく。さらに4度の緊急事態宣言が人口動態に与えた影響を月次ベースで確認する。

 

2. 大阪府の人口移動動態の変化
2-1. 2020年の人口移動動態の変化:東京 vs.大阪

大阪府の人口移動動態を確認する前に、東京都の状況をみてみよう。総務省の『住民基本台帳人口移動報告』によれば、2020年の東京都への転入者数は43万2,930人、転出者数は40万1,805人であった。結果、転入超過数は3万1,125人となり、19年から5万1,857人減少した。外国人を含めて記録を始めた14年以降で過去最少となり、これまでの「東京一極集中」と言われていた社会構造に変化が見られる(図表2)。要因としては、緊急事態宣言発令等で進学や就職に伴う移動ができなかったことや、テレワークの普及等により東京都外へ転出した人が増加したことなどが考えられる。

 

次に2020年の大阪府の状況をみれば、転入者数は17万2,563人、転出者数は15万9,207人であった。結果、転入超過数は1万3,356人となり、19年から5,292人増加した。推移をみれば15年に転入超過に転じて以降、6年連続で転入超過が続いている(図表3)。関西では14年以降、大阪府を中心にインバウンド需要が高まっていたことから、飲食業や宿泊業等のサービス業へ就職する人たちが転入していたことが考えられる。ただし、20年はコロナ禍の影響で転入者数及び転出者数が4年ぶりにいずれも減少している。転出者数の減少幅が転入者数のそれを上回ったため、転入超過となった。

 

2-2. 大阪府の人口移動動態:地域別、年齢階級別の特徴:2018-20年

まず、大阪府の人口移動動態の特徴を地域別にみてみよう。図表4は、大阪府の転入超過数を地域別にみたものである。

 

図からわかるように近畿からの転入超過数が最も多く、2018年は6,293人、19年は8,385人へと拡大している。20年はコロナ禍の影響で人流が抑制されていたものの、転入超過数は10,665人となっており、19年から更に拡大した。

南関東への人口移動動態をみれば、転出超過の傾向が続いているものの、2018年の12,116人から19年は11,852人へと幾分縮小している。20年は更に8,567人へと縮小しており、この要因としては緊急事態宣言発令等で、進学や就職による転居を伴う移動が制限されたことが影響していると考えられる。

その他の地域をみれば、中国、四国、九州地域の転入超過数は 2018から19年にかけて拡大したが、20年は幾分縮小している。前述した緊急事態宣言発令等が遠方からの移動者にも影響していると考えられる。

次に、年齢階級別に転入超過数の経年変化をみてみよう(後掲の参考図表1参照)。

2018年の転入超過数が最も多い年齢階級は20~24歳で、うち近畿が4,472人、中国が1,710人、九州が1,364人、四国が1,299人となっている。

更に2019年をみれば、上記の4地域における20~24歳の転入超過数はいずれも18年と比べて増加していることがわかる。また、25~29歳の転入超過数も増加しており、特に九州は18年が転出超過であったのが転入超過に転じている。

しかしながら、2020年における20~24歳の転入超過数をみれば、近畿は増加しているものの、中国、四国、九州は減少している。

一方、南関東への状況を見ると、2018年から19年にかけて20~24歳の転出超過が拡大しており、若年層の人口が流出している状況であった。しかし、20年はコロナ禍で人流抑制の影響もあり、上記の年齢階級の南関東への転出超過数は縮小している。

以上から、大阪府への転入超過は西日本からが中心であり、主に就職を契機に移動する世代が多いことがわかる。この要因としては前述したように大阪府は堅調なインバウンド需要に支えられていたこともあり、サービス業へ就職する人が増加していたことが考えられる。しかし、COVID-19感染拡大防止策として、人流が抑制されたため、特に若年層の転入者が減少した状況となっている。

2-3. 大阪府内の人口移動動態

地域別、年齢階級別に人口移動動態の特徴をみてきたが、以下では大阪府の各市町村別にみていく。2018-20年の3年間で大阪府内の転入超過となった市町村は16市町村、転出超過となったのは27市町村となっている(後掲の参考図表2参照)。中でも、大阪市への転入超過数は、2018年が1万2,081人、19年が1万3,762人、20年が1万6,802人と拡大している。大阪府内のエリアによっても人口移動動態は異なっている。転入超過となった市町村(豊中市、吹田市、茨木市、箕面市、島本町など)の多くは大阪府北部となっており、また、転入超過数が拡大している地域が増加している。一方、転出超過となった市町村(岬町、貝塚市、泉南市、堺市、岸和田市など)の多くは大阪府南部の地域が多く、転出超過が続く状況となっている。このように大阪府全体でみれば転入超過となっているものの、市町村別にみれば、大阪市エリア、北部や南部エリアでは転入超過数に差がみられている(図表5)。

 

 

3. 緊急事態宣言が人口移動に与えた影響

前節では、年次ベースで地域別、年齢階級別にコロナ禍の人口移動動態を見てきた。本節では4度にわたって発令された緊急事態宣言が人口動態にどのような影響を与えたかを月次ベースでみていく。

最初の緊急事態宣言が大阪府に発令された期間(2020年4月7日~5月21日)となる20年4-5月期を見ると、転入者はそれぞれ男性が2万548人、女性が1万5,893人となっている。4月において進学や就職を契機に転入者は増加する傾向があるものの、前年同期(19年4-5月期)と比べれば、男性は-1,758人、女性は-2,738人減少している。同様に、転出者数をみれば、男性は1万9,462人(同-2,963人)、女性は1万4,285人(同-3,203人)といずれも減少している。転入者数、転出者ともに大きく減少しており、緊急事態宣言発令によって都道府県を跨ぐ往来が制限された影響が、特に女性の方に表れている。

2021年に入り、3度にわたる緊急事態宣言が発令された。2度目の時期(21年1月14日~2月28日)をみると、21 年 1-2 月期の転入者数はそれぞれ男性が1万1,541人(前年同期差+81人)、女性が9,715人(同-524人)となっており、前年に比べて男性より女性の方が減少している。一方、同期の転出者数をみれば、男性が 1万1,572人(同+528人)、女性が9,625人(同+207人)となっている。

3度目の緊急事態宣言時期(2021年4月25日~6月20日)にあたる21年4-6月期の転入者数をみれば、進学や就職時期の影響もあり男性が2万5,959人、女性が2万1,115人となっている。しかしながら、コロナ禍の影響がない前々年同期(19年4-6月期)と比すれば、男性は-2,522人、女性は-2,505人といずれも大きく減少している。また、同期の転出者数をみると、男性は2万6,172人(同-2,136人)、女性は2万34人(同-2,223人)となっている。結果、男女とも転入者数及び転出者数がいずれも大きく減少したが、女性が転入超過(1,081人)となったため、全体では転入超過(868人)を維持した。

4度目の時期(2021年8月2日~9月30日)では、8月の転入者数はそれぞれ男性が 5,995人(前々年同月差-405人)、女性が 5,026人(同-344人)と、男女とも減少している。また、転出者数も男性が5,972人(同-95人)、女性が5,086人(同-166人)となっており、転入者数の減少幅が転出者数のそれを上回ったため、6カ月ぶりの転出超過に転じている。

以上のように、4度の緊急事態宣言の発令は、人口動態に影響を及ぼしている。その影響は男女別に異なる状況となっており、総じて女性の転入者への影響が大きい。なお、2021年1-8月までの大阪府全体の転入者数は12万 7,397人、転出者数は12万1,750人となっており、5,647人の転入超過だが、19年同期(7,057人)を下回っている。2015年以降順調に転入超過数は拡大を続けていたが(前掲図表3参照)、21年は幾分縮小する傾向が見られ始めていることに注意が必要である。

 

 

4. まとめ

これまでにみたように、コロナ禍の影響で人口移動動態は変化しつつある。東京都ではテレワークの普及等により、都外へ人口が流出し、転入超過は縮小している。大阪府では、これまで堅調であったインバウンド関連産業へ就職する人が転入していたこともあり、転入超過が続いていた。しかしながら、コロナ禍によりインバウンド需要が消失している現在、飲食や宿泊業などサービス関連産業は大きな打撃を受けている。関連産業への就職を契機に大阪府に転入してくる、特に20歳代の西日本からの転入者にとって影響が表れている。また、大阪府内の市町村をみれば、大阪市への転入超過数の増加は続き、大阪府北部では転出超過であった地域が転入超過に転じている。一方で、大阪府南部では、多くの地域で転出超過が続いており、地域間で移動動態が異なっている状況である。更に、コロナ禍となり1年半以上が経過したが、大阪府に対して4度にわたって発令された緊急事態宣言は人口移動に大きな影響を与えている。

コロナ禍の影響を受けながらも、大阪府の転入超過の傾向は依然続いている。これは前述したように大阪市のみならず大阪北部への人口流入の影響が大きいと言えよう。北部地域への転入超過拡大の背景の一つには、大阪府中心部や隣接する京都府など、東西を向いた交通要衝の中間点に位置しており、交通アクセスの利便性の良さや、住宅地などの再開発で地域住民が住みやすい環境が整備されつつあることが考えられる。

また、「with コロナ」時代においては、テレワークなど多様な働き方が求められているため、都市部と周辺地域の関係も変容している。例えば、東京都ではテレワークの拡大により、特に高い技能を持つ人材の東京都外への転出が指摘されており、大都市と周辺地域における人々の住環境の関係性に動きがみられている。

今後、大阪府では日本国際万国博覧会(以下、大阪・関西万博)をはじめ、多くのイベントが予定されていることから、一層人口移動動態が注目されよう。大阪・関西万博開催に向け、交通インフラ網が整備されることで、これまで転出超過となっていた南部地域へのアクセス向上にもつながることが予想される。大阪・関西万博開催まで3年半となったが、ICT化などのイノベーションも喚起しつつ新産業や雇用を創出し、大阪府と他道府県間のみならず、大阪府内の南北間の移動を活性化することが可能となれば、今後の大阪府への人口移動動態のトレンドに少なからず影響が表れてくるだろう。

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