DMOのインバウンド誘客の取組とその効果
-マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:京都府の事例から-

Trend Watch No.76

洞察・意見 » トレンドウォッチ

ABSTRACT

京都府は訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱える典型的な自治体である。本稿では観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いて、その問題の解決を目指す京都府の3つの地域連携DMOと京都市を例にとり、マーケティング・マネジメントエリア別にその取組と成果を分析する。分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1.   府域及び京都市の宿泊施設の推移をみれば、府域においては宿泊施設数や宿泊者の収容人数が増加している地域がみられるものの、京都市の宿泊施設の急増が他エリアを圧倒している。

2.   京都市やお茶の京都エリアに注目すれば、外国人宿泊者の急増や住宅宿泊事業法が施行されたこともあり、簡易宿所及びタイプ不詳の宿泊施設が急増している。今後は京都市と府域の宿泊施設の需給バランスを意識し、施設の質の向上を担保する政策が課題となろう。

3.   外国人宿泊者を国籍別にみると、全エリア共通して、中国、香港、台湾等東アジア地域のシェアが高まっている。京都市では他エリアに比して観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアが高く、一定程度占めている。今後は、欧米豪の府域への誘客と宿泊増が課題となろう。

4.   各DMOが実施した観光プロモーション事業展開は重要である。例えば、海の京都DMOは台湾に向けてのプロモーションに力をいれた結果、同国のシェアが大幅に拡大した。しかし、実効的なプロモーション活動のためにも、KPI等に基づく指標管理が重要となろう。

5.   これまでのプロモーション活動に加え、京都市から、各府域へも足を伸ばし、利用客が府域を観光したくなる魅力的な仕組みづくりが課題である。その際に留意すべきは、各府域DMOで宿泊を増加させるような仕組みづくりまたはプログラムを開発する必要があろう。

DETAIL

はじめに

図1は2010~20年の国内旅行者数と訪日外客数の推移をみたものである。コロナ禍の影響を受けた20年を除いてみると、人口減少下における国内旅行者数の停滞、一方、急増する訪日外客数の姿が明瞭に見て取れる(後掲参考図表1参照)。この訪日外客数の急増はアベノミクスの成長戦略が成し遂げた成果の一つといえる。国民所得統計の概念では、国内旅行者数はGDPの一項目である(国内)家計最終消費支出(サービス)の、訪日外客数はサービス輸出の、説明要因である。その意味で、図1はインバウンドが停滞する日本経済を下支えしてきたことを象徴的に示唆している。

 

 

インバウンドが日本経済を持続的に牽引することが可能となるためには、インバウンド戦略として「ブランド力」、「広域・周遊化」、「イノベーション」に加えて「安心・安全・安堵」の視角が重要であることをこれまで指摘してきた(参照、アジア太平洋研究所(2021))。

われわれは、インバウンド戦略の重要なポイントの一つである広域・周遊化を促進する上で、観光地域づくり法人(DMO:Destination Management / Marketing Organization、以下DMO)の役割が非常に重要であると考えている。本稿では、このDMOの役割とその成果に注目する。まず 1.では、DMOの設立の経緯や役割を整理する。2.では、『宿泊旅行統計調査』の個票データを用いて、訪日外客増加にDMOがどのように寄与してきたかを、「広域・周遊化」の観点から分析し議論する。

その際、京都府の事例を中心に取り上げる。その理由は、京都府が訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱えるという典型的なケースとなっているからである。3.では、2.における分析を整理し、そこから得られた含意を示す。

1. DMO設立の経緯

アジア太平洋研究所(2021)の第5章2節において、観光施策に取り組む関西の各自治体に聞き取り調査を行った結果、抱えている課題が各自治体で大きく異なっていることを明らかにした。また、今後インバウンド戦略を実現していく上で、観光をマネジメントする自治体のみならずDMOの役割が重要となることを指摘した。

まず本稿の分析に入る前に、日本におけるDMOの設立経緯とその概要について述べておく。日本においてDMOが初めて取り上げられたのは、アベノミクスの成長戦略の一環として2014年12月27日に閣議決定された「まち・ひと・しごと創生総合戦略」である。閣議決定を受け、観光庁は15年12月から「日本版DMOの候補法人」の募集を開始し、17年11月に候補法人であった41法人が日本版DMO(登録DMO)として登録された。表1には日本のDMOの基礎的な役割や機能を、また登録DMOが満たされなければならない5つの要件が示されている。

 

 

その後、登録されたDMOは増加し、2021年11月現在、広域連携、地域連携、地域、それぞれを合計すると、213件登録されている。また、候補法人としてのDMOは地域連携、地域合わせて90件である(表2)。

 

 

このように日本におけるDMOは種類や連携の仕方によって様々に分類される。それは関西各府県をマーケティング・マネジメントエリア(以下、マネジメントエリア)としているDMOについても同様であり、表3は関西2府4県を主たるマネジメントの対象としたDMOを整理したものである。

各府県とも所在しているDMOの数や種類が異なっており、京都府では府全体をマネジメントするDMOが存在しないところが特徴的である。また、図2は各府県のDMOの地理的分布状況を示したものであるが、歴史文化遺産や食などのテーマに合わせて、県内のみならず他府県に跨って連携しているDMOもあることに注意を要する。

 

 

 

2.『宿泊旅行統計調査』を用いた京都府DMOの分析

2-1. インバウンドの広域・周遊化を目指す京都府DMOの設立と活動状況

これまでの京都府観光の状況をみると、京都市については、米国の旅行雑誌「トラベル・アンド・レジャー」の人気観光都市ランキングで8年連続ベスト10にランクインするなど(京都市2020参照)、世界的な地位を確立しており、国内外から多くの観光客を集めている。しかし、国内外の観光客は京都市に集中しており、京都市を除く地域(以下、府域と呼ぶ)への誘客は十分ではない。
日帰りだけではなく宿泊を拡大し持続的な観光業を目指す上では、府域への誘客を一層増やすことが課題となっている。

 

図3はこの間の状況を示している。京都府における延べ宿泊者数の前年比伸び率への寄与度を国内客と訪日外客とに分けてみたものである7。この間(2012~20年)、全体の伸びが減少したのは、14年(-15.4%)、16年(-3.3%)、そして20年(-59.6%)の3年である。14年については、消費増税に伴う国内不況の要因もあり日本人の延べ宿泊者数が大きく減少し、全体を押し下げたことがわかる。16年については、訪日外客は前年(爆買い)の反動で伸びが減速する(15年:+39.1%→16年:+0.5%)に加え、国内客が減少したためである(-4.6%)。20年については、コロナ禍の影響が大きく出ている。図が示すように、この間、国内客の全体への寄与度は景気の動向(所得の変動)の影響を大きく受けている一方で、訪日外客は一貫して全体の押し上げに寄与していることがわかる(後掲参考図表2参照)。19年は、京都府の観光客の伸び(+50.4%)の半分以上を訪日外客が寄与し(28.2%pt)、また京都市における混雑化現象も注目された年でもある。京都府にとっては府域に訪日外客をいかに持続可能な形で伸ばすかが、大きな政策課題となっている。

 

 

以上が京都府全域の宿泊者の動向の整理であるが、これを地域別に見ると、違う姿がみえてくる。
府域では、着実に観光客数等を伸ばしているものの、訪日外客の宿泊者数の点で、京都市との間で大きな差が生じている。本節では、訪日外客をいかに府域に周遊させるかについて、京都府が取り組んできた政策とその効果を分析する。

京都府では、府域25市町村を「海の京都」「森の京都」「お茶の京都」「竹の里・乙訓」とエリアで分け、京都市と連携する「もうひとつの京都」として広域観光プロジェクトを進めるなどの観光振興に取り組んできた。表4は、海の京都、森の京都、お茶の京都それぞれのエリア構想からDMO設立、観光地域づくり戦略策定までの系譜を整理したものである。また、参考に京都府及び京都府観光連盟の動きも略述している。

海の京都は、他に先駆けてエリア構想が策定されており、海の京都DMO設立も、森及びお茶の京都DMO設立より約1年早い。また、インバウンド戦略については、森の京都及びお茶の京都DMOでは、「観光地域づくり戦略」の中に一項目として記載がある一方、海の京都DMOでは別途「インバウンド戦略計画」を策定し、海外プロモーション、受入環境整備に取り組んできた。新型コロナウイルス感染症がパンデミック化したため、水際対策のため訪日外客の入国が規制され始めた2020年以降、終息後を見据え、観光パンフレットや案内板の多言語化・表記統一化などの受入環境整備、バーチャルツアーの造成や、オンライン商談会への参加などの情報発信・プロモーション事業に取組んだ。

 

 

なお、それぞれのDMOにおいてインバウンドのターゲット地域を設定しており、それを整理したのが表5である。今後も安定的な訪問が期待される東アジア地域や東南アジア地域に加えて、欧米豪地域にもターゲット層を絞っている。前者についてはLCC就航・増便により訪日客数が増加しており、今後もさらなる来訪客の増加が見込めること、後者についてはロングステイによる観光消費額の増大が期待されることから、いずれも精力的にプロモーション活動を行っている。

海の京都では、欧米豪地域へのプロモーションに関して、2021年9月に欧州の海外旅行会社2社とパートナーシップ協定を締結し、訪日観光情報の収集やマーケティングのほか、観光情報の発信やオンラインファムツアー・商談会の開催等、インバウンド誘客事業に戦略的に取り組んでいる。

森の京都DMOでは、2021年12月にUNWTO(国連世界観光機関)から世界の「ベスト・ツ-リズム・ビレッジ」の一つとして選定された南丹市美山町を有している。今後、認定のロゴを使用した広報活動が認められるほか、UNWTOからの支援と情報発信により世界的な認知度の向上が期待される。

一方、お茶の京都DMOでは、京都市に訪れている国内外の観光客をターゲットとしており、京都市からもう一足伸ばして同地域への訪問を促進するように、交通事業者と連携した取組みを進めている。ただ、エリアが広範囲であるため、二次交通の問題や宿泊施設数が少ないことが課題となる。

交通インフラに関しては2024年度に城陽~大津間の開通が予定されている新名神高速道路や、それを契機とした「(仮称)京都・城陽プレミアム・アウトレット」の開業により、エリアへの来訪者の一層の増加が見込まれている。

 

 

2-2. 各 DMO の取組を評価するための基礎統計

前項では京都府における3つの地域連携DMOの設立経緯と活動状況を説明した。本項では、各DMO のマネジメントエリアに所在している宿泊施設のタイプや訪日外客の宿泊動態の特徴をみていく。各エリアの宿泊動態を分析する際、DMOのマネジメント対象となっている市町村ごとの宿泊状況が把握できる基礎統計が必要となる。本分析では、国土交通省観光庁が実施している『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計とすることで、各DMOマネジメントエリアにおいて取り組まれている政策の効果と課題を明らかにしていく。

本調査統計の概要は次の通りである。国土交通省観光庁で補正を加えた名簿から、標本理論に基づき抽出されたホテル、旅館、簡易宿所、会社・団体の宿泊所などを調査対象にして、宿泊旅行の全国規模の実態等を把握し、観光行政の基礎資料としている。主な調査事項は、①延べ・実宿泊者数及び外国人延べ・実宿泊者数、②延べ宿泊者数の居住地別内訳(県内、県外の別)、③外国人延べ宿泊者数の国籍別内訳等である。上記調査事項に加えて、個票データ内には、各自治体に所在している宿泊施設の種類や収容人数などの情報も含まれているため、より詳細な訪日外客の宿泊動態が分析可能である。次項では、京都府の3つのDMOのマネジメントエリア内における宿泊施設のタイプ及び各施設の収容人数の推移や国籍別訪日外客の宿泊者数について整理し、特徴を分析する。

2-3. 基礎統計からみた京都府DMOのエリア別特徴

【宿泊施設数】
基礎統計から得られる宿泊施設の情報から、まず京都府全体の宿泊施設数の推移を確認する。図4が示すように、訪日外客の急増を受けて、京都府内全体では2015年以降、着実に宿泊施設数は増加しており(15年4月:1,486件→20年1月:4,343件)、うち、京都市の宿泊施設が16年以降、急増していることが分かる(15年4月:816件→20年1月:3,627件)。京都市の宿泊施設が府内に占めるシェアをみれば、15年4月には54.9%であったが、20年1月には83.5%まで上昇しており、京都市への一層の宿泊施設の集中が確認できる(後掲参考図表3参照)。

 

 

次に府域DMO及び京都市のマネジメントエリア内の宿泊施設数の推移を宿泊施設タイプに分けてみてみよう(図5)。

 

 

注:図中の数値は各年1月時点の施設数を示している(ただし、2015年は4月時点)。また、破線の数値は各年の収容人数を示している。

出所:観光庁『宿泊旅行統計調査』個票データより筆者作成。

 

<海の京都>
海の京都の宿泊施設数は、2015年は528件であったが、17年には481件に減少した。しかし、18年以降は再び増加し、20年には517件で15年とほぼ同水準にまで戻っている。

宿泊施設のタイプでは、旅館や簡易宿所が多い。旅館は2015年以降ほぼ横ばいだが、簡易宿所は18年から幾分増加傾向で推移していることがわかる。

エリア内にある各宿泊施設の宿泊者の収容人数では、2015年は17,073人であったが、16年から18年にかけて幾分減少した。19年以降は再び増加に転じ、20年は16,851人となっているが、15年時よりも収容可能な人数は減少している。

 

<森の京都>
宿泊施設数は、2015年の160件から16年に151件に微減したが、17年以降再び増加傾向を示し、20年には200件となった。

宿泊施設タイプ別では、簡易宿所や旅館が多い。海の京都と同様、簡易宿所は2015年以降着実に増加していることが分かる。

エリア内の宿泊者の収容人数では、2015年の5,700人から16年は 5,525人に減少したが、17年以降増加に転じている。20年には 6,012人となり、15年と比較すれば収容人数が増加した。

<お茶の京都>
宿泊施設数は2015年が49件であったが、16年以降増加傾向で推移し、20年では73件となっている。

宿泊施設タイプ別では、2015年は旅館が多かったが、17年から簡易宿所が、18年以降タイプ不詳が増加しており、それに呼応して旅館は減少している。

エリア内の宿泊者の収容人数をみれば、2015年の2,588人から増加傾向となり19年には3,167人まで増加した。20年には2,977人と前年から幾分減少したものの、15年よりも高い水準を維持している。

<京都市>
京都市内の宿泊施設数は2015年が816件であったが、16年以降急増し、20年では約4.4 倍の3,627件となっている。

宿泊施設タイプ別では、2018年以降、簡易宿所及びタイプ不詳の件数が急増している。ちなみに、タイプ不詳の宿泊施設の従業員規模をみれば、従業者数が0~4人の施設が 80%超を占めており、民泊関係の施設と考えられる。

エリア内の宿泊者の収容人数をみれば、2015年の62,007人から19年には121,853人と4年間で倍増しており、他のDMOを圧倒している。

以上から、2015年以降、府域において宿泊施設数及び宿泊者の収容人数は増加傾向を示しているものの、京都市における宿泊施設数の急増には比肩できないといえよう。

【宿泊者数、外国人宿泊者比率】
ここでは京都府内における宿泊者数の推移(2012~19年)を、地域別及び宿泊者属性別でみていく(図6-1及び参考図表4)。

全宿泊者数は2014年に一旦減少するものの、以降18年を除いて着実に増加している。うち、日本人宿泊者数は 14年に大幅減少し、以降一進一退で推移し、19年には急増する。外国人宿泊者数は年々増加傾向で、12年と19年を比較すると約4倍に拡大している(後掲参考図表4参照)。このことから、外国人宿泊者が全体を押し上げていることがわかる。地域別に宿泊者数をみると、全宿泊者、日本人宿泊者及び外国人宿泊者の全ての属性において京都市が最も多く、次いで海の京都地域、森の京都地域、お茶の京都地域の順となる。

 

 

地域別に宿泊者のシェアをみると(図6-2及び参考図表4)、全宿泊者については京都市のシェアが高まっており(12年:87.0%→19年:90.2%)、他地域と比較してシェアの上昇幅が大きいことが分かる。日本人宿泊者については、京都市は高水準で推移しており、シェアの変化はほとんどない(12年:85.4%→19 年:85.8%)。一方、森の京都ではシェアが拡大傾向にあるが(12年:2.7%→19年:3.8%)、海の京都は減少傾向となり(12 年:10.1%→19年8.5%)、お茶の京都ではほぼ横ばいであるため(12年:1.8%→19年:1.9%)、府域全体としてのシェアの大きな変動はみられない。

外国人宿泊者についてみると、京都市のシェアは日本人宿泊者のシェアよりも13%ポイント程度高く(2012年:98.3%→19年:98.5%)、他地域を圧倒している。府域では海の京都が1%程度のシェアを占めるが、他の地域ではより小さいシェアとなっている(参考図表4参照)。

以上から、全宿泊者数の増加傾向に寄与しているのは、主に京都市の外国人宿泊者であり、府域では訪日外客の広域・周遊化は依然として課題と言えよう。

 

 

次に、各エリアにおける全宿泊者数と日本人宿泊者数、及び全宿泊者数に占める外国人宿泊者数比率をみる(図7)。

 

<海の京都>
全宿泊者数は微減傾向となっており、日本人宿泊者数も同様の推移がみられる。一方、外国人宿泊者比率は上昇傾向(2012年:1.8%→19年:6.2%)となっており、日本宿泊者数の減少傾向を外国人宿泊者の増加が補っていると考えられる。

<森の京都>
日本人宿泊者数は増加傾向を示している。一方、外国人宿泊者比率も上昇傾向(2012年:0.8%→19年:3.6%)となっている。結果、全宿泊者数が増加傾向を示している。

<お茶の京都>
全宿泊者数は微増傾向となっており、前述の森の京都と同じ特徴となる。すなわち、日本人宿泊者数が増加傾向を示し、外国人宿泊者比率も上昇傾向(2012年:0.9%→19年:4.9%)となっている。

<京都市>
全宿泊者数は増加傾向となっているが、日本人宿泊者数は横ばいで推移している。一方、外国人宿泊者比率は上昇傾向(2012年:13.4%→19年:38.2%)となっていることから、外国人宿泊者数の増加が顕著であることが分かる。

【国籍別外国人宿泊者】
図6-1及び図7では、府域DMO及び京都市の外国人の全体の宿泊者数をみたが、ここでは京都府DMOの各エリアにおける外国人宿泊者を国籍別、地域別に分け、その特徴をみる(図8~11)。

<海の京都>
図8が示すように、2014年以降、台湾のシェアが高くなっており(14年:12.0%、15年:18.5%、16年:22.9%)、17年以降は外国人宿泊者数の約半数を占めている(17年:44.2%、18年:44.1%、19年 50.3%)。これは、海の京都DMOが17年、18年に実施した台湾最大級の旅行博への出展や、現地でのプロモーション等の効果があらわれているものと思われる。東アジア地域のシェアでみれば、14年以降上昇傾向を示しており(14年:27.7%→19年:79.9%)、台湾を中心に増加していることがわかる。また、18年以降、タイのシェアも徐々に拡大していることもあり(18年:3.6%→19年:4.7%)、東南アジア地域のシェアも上昇している。一方、欧米豪地域のシェアをみれば、12 年から 14 年にかけて上昇したものの(12年:10.0%、13年:24.3%、14年:42.5%)、19年には 7.9%まで低下している。

新型コロナウイルスの影響がない19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、台湾(50.3%)、香港(15.7%)、中国(11.5%)となっている。

 

 

<森の京都>
図9が示すように、2013年以降、台湾のシェアが高まっている(12年:12.4%→13年:28.5%→19年:29.3%)。また15年に中国のシェアが急上昇(14年6.3%→15年40.6%)したが、同年急増した訪日中国人が京都市のみならず、隣接する森の京都での宿泊を増やした一時的な影響と思われる。実際、その影響は剥落しており、19年は17.9%までシェアが低下している。結果、東アジア地域のシェアでみれば、12年に比して19年は18%ポイント程度上昇しており、着実にシェアは拡大している(12年49.1%→19年:67.6%)。また、東南アジア地域も上昇傾向で推移しており、12年の1.1%から19年に 9.0%まで上昇している。欧米豪地域に注目すれば、12年8.2%から19年15.7%までに上昇しており、この背景には京都市からのアクセスの良さと、彼らが好む古来自然風土があると考えられる。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、台湾(29.3%)、中国(17.9%)、香港(14.0%)となっている。

 

 

<お茶の京都>
図10が示すように、2015年に中国のシェアが高まり以降、約3~4割を占めている(16年:42.7%→19年:39.3%)。また、17年に香港のシェアが拡大し、以降はほぼ同水準で推移している(17年:13.8%→19年:11.4%)。東アジア地域のシェアでみても、14年以降着実に上昇していることがわかる(14 年:53.1%→19年:68.8%)。また、東南アジア地域のシェアも15年以降上昇していることが特徴的である(15年:7.8%→19年10.2%)。一方、欧米豪地域のシェアは、12年から19年にかけて低下傾向で推移している(12年:34.0%→19年:15.7%)。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、中国(39.3%)、香港(11.4%)、台湾(11.1%)となっている。

 

<京都市>
図11が示すように、年々、中国のシェアが高まっていることもあり(2012年:9.9%→19年:28.4%)、東アジア地域のシェアも上昇している(12年:34.2%→19年:44.4%)。また、府域3エリアでは小さかった欧米豪地域のシェアは高く一定程度占めていることがわかる(12年:35.2%→19年:34.0%)。

19年の国籍別シェアの上位3カ国・地域は、中国(28.4%)、米国(11.6%)、台湾(8.9%)となっている。

 

3.分析の整理と含意

これまでの分析対象である京都府は、訪日外客の偏在する京都市とそうでない地域を抱える典型的な自治体である。前節までに府域DMO及び京都市の観光政策を踏まえつつ、基礎統計を用いて各エリアの宿泊施設や宿泊者の動態について分析を行った。以上の分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 府域DMO及び京都市の宿泊施設の推移を宿泊施設タイプごとにみれば、府域DMOにおいて宿泊施設数や宿泊者の収容人数が増加している地域が多くみられるものの、京都市の宿泊施設の急増が他エリアを圧倒している状況である。

2. 京都市に注目すれば、外国人宿泊者が急増したことや住宅宿泊事業法が施行されていたこともあり、2018年以降、簡易宿所及びタイプ不詳の宿泊施設が急増している。また、お茶の京都でも簡易宿所が増加している。同地域は京都市から地理的に近いこともあり、京都市に訪れる訪日外客を誘客する取組が影響していると思われる。

3. 民泊の供給が京都市及びお茶の京都における宿泊施設数の増加に寄与していることがわかったが、今後は京都市と府域の宿泊施設の需給バランスを意識し、施設の質の向上を担保する政策が課題となろう。

4. 外国人宿泊者を国籍別にみたところ、全エリア共通して、中国、香港、台湾等東アジア地域
のシェアが高まっていることが分かった。また、京都市では中国のシェアが高まっているも
のの、観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアが他エリアに比して高く、一定程
度占めている。今後は、欧米豪の府域への誘客と宿泊増が課題となろう。

5. 各DMOが実施した観光プロモーション事業の展開は重要である。特に、海の京都DMOは台湾最大級の旅行博への出展や現地プロモーションに力をいれた結果、同国のシェアが大幅に拡大していることがみてとれる。さらに、実効的なプロモーション活動を実施するためにも、KPI 等に基づく指標管理が重要となろう。

6. これまでのプロモーション活動に加え、京都市から、海の京都、森の京都、お茶の京都へも足を伸ばし、利用客が府域を観光したくなるような一層魅力的な仕組みづくりが必要となる。その際に留意すべきは、各府域DMOで宿泊を増加させるような仕組みづくりまたはプログラムを開発する必要があろう。例えば、昼だけではなく夜観光を促進するプログラム作りが重要となろう。

おわりに

本稿では観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いることで、京都府のDMOを例にとり、マネジメントエリア別にその取り組みと成果を分析した。

それぞれの府域DMOが持つ独自のテーマを活かしたプロモーションの実施により、京都市にはない自然文化や地域の魅力を感じ、年々、東アジアを中心に多くのインバウンド観光客が宿泊しており、エリアによってその国籍にも違いがあることがわかった。一方、ロングステイによる観光消費額の拡大が期待される欧米豪地域のシェアは京都市で高く、彼らの府域への誘客はまだまだ課題多しということも数量的に明らかになった。

『宿泊旅行統計調査』の個票データはDMOのマネジメントエリア単位で集計・分析することが可能となるため、DMOの取組みの成果を確認することができる。他府県のDMOについても同様の分析が可能となる。今後の課題として、関西各府県のDMOの分析に応用するとともに、DMO設立のインバウンド誘客への影響を統計的に検証したい。本稿はそのための準備であるといえる。

pagetop
loading