DMOの観光誘客への取組
-マネジメントエリア別の分析:滋賀県の事例から-

Trend Watch No.84

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本稿では滋賀県にかかわる観光基礎統計を用いて、県の観光戦略に光をあて、観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動に注目し抱える課題を分析した。得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較した。注目している観光課題に違いがあるものの、その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたり、周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化してきており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。また、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

DETAIL

1.滋賀県の観光動態と課題

筆者たちは、これまで関西各府県の観光産業の成果と課題を民間の観光業推進主体である観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動を軸に分析してきた。具体的には、京都府、和歌山県、奈良県を例にとり、各府県の観光政策の特徴や課題をDMOの誘客策に注目し分析してきた。本稿では、同じ分析フレームに沿って、第四の事例として滋賀県の観光業を取り上げる。
さて滋賀県は、京都府という観光ブランドの隣接県という特徴を持つ。奈良県も同じ特徴を持つが、奈良県の場合は京都に対抗できるブランドと独自性を主張し、それに基づいて観光政策が立てられてきている。それに比べ、滋賀県はどちらかと言えば、京都府との一体性を意識しながら観光政策が作成されてきた経緯がある。本稿では、こういった経緯も踏まえながら、様々なデータから滋賀県の特徴を明らかにしたい。
滋賀県では、2014年1月に「滋賀県『観光交流』振興指針~訪れてよし、迎えてよし、地域よしの『観光・三方よし』~」を策定した。
この間、民間と行政が一体となって観光資源の発信や魅力の磨き上げおよび地域の受入環境の整備等の観光振興に向けた様々な取組を展開してきた。具体的には、東京・日本橋の情報発信拠点「ここ滋賀」のオープンや(一社)近江ツーリズムボードと(公社)びわこビジターズビューローの日本版DMO登録、「日本遺産 滋賀・びわ湖水の文化ぐるっと博」や観光キャンペーン「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」の開催などが挙げられる。取組の結果、観光入込客数が増加するなど一定の成果があったものの、①消費額の多い宿泊客数が横ばい、②インバウンド需要の増加による観光を取り巻く環境の変化、③定住人口の減少と高齢化が深刻となる中、交流人口増加の重要性、といった課題として指摘された。
こうした状況を踏まえ、前述の観光指針が2018年度に計画満了となったことから、新たな観光振興指針である『~観光を架け橋に、つなぐ滋賀、つづく滋賀~「健康しが」ツーリズムビジョン2022』が策定された(19年度)。滋賀県は本中期計画に基づいて観光振興の取組を進めてきた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により、観光を取り巻く状況は著しく変化したことから、滋賀県は22年度までの計画期間を1年前倒しで改定し、22年度を始期とする新たなビジョン「シガリズム観光振興ビジョン」を策定した。
「シガリズム観光振興ビジョン」において、滋賀県観光の課題として第1に挙げられているのは「滋賀ならではの魅力による宿泊・滞在型観光の推進(魅力向上と創出)」である。これを確認するためにまず、滋賀県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別にみよう。
図1-1は観光庁の『旅行・観光消費動向調査』より、宿泊旅行者と日帰り旅行者の推移を比較したものである。これまで分析してきた京都府、和歌山県、奈良県の事例に加え、本稿で取り扱う滋賀県を加えている。図からわかるように、京都府は日帰り、宿泊旅行者がいずれも多い。和歌山県は宿泊旅行者が日帰り旅行者を概ね上回る特徴がある。一方、京都府に隣接する、奈良県、滋賀県では日帰り旅行者が宿泊旅行者を常に上回っており、滋賀県には宿泊を伴う滞在型観光が観光課題であることが理解できる。

 

 

前述した「シガリズム観光振興ビジョン」では上記の課題に加えて、更に下表のような課題が指摘されている。

 

 

2.滋賀県DMOの比較

前節では関西1府4県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別に比較してみた。滋賀県においては宿泊を伴う滞在型観光が課題であることを確認した。本節では滋賀県の各DMOの観光振興における特徴と誘客に向けた主な活動をみていく。

 

2-1. 滋賀県 DMO の登録状況及びマネジメントエリア

滋賀県は日本最大の湖である琵琶湖を中心にして各DMOが存在し、互いに県、市町村、観光関連団体などと連携して観光振興に取り組んでいる。
表2-1には滋賀県におけるDMOの登録状況が示されている。2022年12月時点では、地域連携DMOに2法人((公社)びわこビジターズビューロー、(一社)近江ツーリズムボード)が登録認定、1法人((一社)比叡山・びわ湖 DMO)が候補認定。また地域 DMOに1法人((一社)近江八幡物産観光協会)が登録認定、1法人((公社)長浜観光協会)が候補認定されており、登録、候補合わせ計5法人が認定されている。

 

 

次に各DMOがマネジメント対象とするエリアについて紹介する。びわこビジターズビューローは、滋賀県全域をマネジメントエリアとしている。近江ツーリズムボードは、近江八幡市、彦根市、米原市、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町をマネジメントエリアとし、民間企業を中心とした実施体制で当該エリアの観光地域づくりに取り組んでいる。近江八幡観光物産協会は、近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸とした中で観光物産振興を図ってきた。長浜観光協会は、長浜市をマネジメントエリアとしている。比叡山・びわ湖DMOは、滋賀県と京都府の府県境に位置する世界文化遺産・比叡山延暦寺を中心とした山内から山麓をマネジメントエリアとしている。

図2-1は、各DMOがマネジメントの対象とするエリアを示している。

 

2-2. DMOの設立経緯と観光資源

ここでは各DMOの設立経緯と観光資源をみていこう(表2-2)。

 

<びわこビジターズビューロー>
1952年に滋賀県観光連盟として設立。2016年に地域連携DMO候補法人に認定され、18年に改めて地域連携DMOとして登録された。
主な観光資源として、日本最大の湖である琵琶湖を中心とする自然、多賀大社などの寺社仏閣や大津祭りなどの歴史・文化的資源、ラ コリーナ近江八幡など観光施設、自然、歴史、文化と魅力的な観光資源を豊富に有している。

 

<近江ツーリズムボード>
2015年に近江インバウンド協議会として設立。16年に地域連携DMO候補法人に認定され、17年に改めて地域連携DMOとして登録された。

主な観光資源として、古くは中山道等の街道が多く集積する交通の要衝であり、日本酒製造に欠かせない清流や米など地域特有の食材を栽培する田園風景、名だたる武将たちが建立した寺社仏閣、彦根城など食文化や文化遺産を多く有している。

 

<近江八幡観光物産協会>
1956年に近江八幡観光協会として設立。2014年に安土町観光協会との統合を経て、20年に地域DMOとして登録された。
主な観光資源として、八幡堀、水郷めぐりなどの自然、近江商人やヴォーリズゆかりの建築物と町並み、安土城址などの歴史資源を有している。

 

<長浜観光協会>
1950年に長浜観光協会として発足。2018年に奥びわ湖観光協会と合併、20年に北びわこふるさと観光公社を統合し、22年に地域DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、豊かな自然環境、戦国の聖地、観音の里(仏教文化財の宝庫)、国友鉄砲ミュージアムなど多くの歴史的文化遺産を有している。

表 2-4 各 DMO の誘客ターゲット層と取り組み

 

 

 

<比叡山・びわ湖 DMO>
1989年に比叡山振興会議として発足。2022年に比叡山・びわ湖DMOとして設立し、地域連携DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、ユネスコ世界文化遺産に認定されている比叡山延暦寺だけでなく、日吉大社、穴太衆石積、西教寺、おごと温泉など比叡山山麓にも魅力ある観光資源を有している。

 

 

2-3. 各DMOの特徴と活動状況

DMOの活動には県全域で共通して取り組んでいるものと、独自の活動がある。前者については、2018年に滋賀の魅力を7色のカテゴリー(歴、食、遊、癒、観、買、美)に分け、それぞれの魅力に出会える旅(「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」)や、琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」(19年に国土交通省が定める「ナショナルサイクルルート」にビワイチが指定)などがある。これらに加え、それぞれのDMOがマネジメントするエリアの特徴を活かした活動を行っており、表1-1で示した滋賀県観光の課題にも取り組んでいる。表2-3は2018年からの各DMOの主な活動を示している。

 

<びわこビジターズビューロー(地域連携DMO)>
琵琶湖を中心とした県全域をマネジメントエリアとし、観光地域づくりの舵取り役として、各DMOや、県、各市町村などと観光戦略を着実に実施するための調整・仕組みづくり・プロモーション活動などを行っている。また、地域連携DMOとして、国や他府県および観光関連団体と連携した観光物産振興など、広域的な周遊滞在型観光活動に取り組んでいる(主に関連する課題①②⑥)。

 

<近江ツーリズムボード(地域連携DMO)>
琵琶湖の東側である湖東地域をマネジメントエリアとし、観光資源である国宝や重要文化遺産、地域特有の食文化などの情報を国内外へ発信、誘客プロモーションを行うとともに、インバウンド客向け飲食店マップの製作、彦根城の多言語解説文、アプリの作成などインバウンド客の受入れ環境の整備にも取り組んでいる。また、地域住民(市民・事業者・学生など)の観光地域づくりに関する意識啓発や参画促進のための活動にも取り組んでいる(主に関連する課題②⑤⑥)。

 

<近江八幡観光物産協会(地域DMO)>
近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸にした情報発信、プロモーション活動を中心に行っている。また、地域行事や学校教育との連携を図り、郷土愛の醸成やおもてなしの心を育み、市民や観光客の垣根を越えて訪れたくなる身近で馴染みやすいまちづくりにも取り組んでいる。さらにイベント催事での参画呼び掛け、演出や作業スタッフなど活動の幅を広げている(主に関連する課題⑤)。

 

<長浜観光協会(地域DMO)>
滋賀県の東北部に位置する長浜市をマネジメントエリアとし、長浜らしさを感じる体験型、交流型観光の推進に取り組んでいる。戦国、観音文化など長浜らしいテーマを持った体験型観光や、長浜固有の暮らし、食、文化を味わえる交流型観光、自然を体験できるアクティビティなどをプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出し、長浜の認知度を上げるプロモーション活動などに取り組んでいる。観光まちづくりに関する講演会等の企画、市民団体や住民に対して観光イベントを実施するなど意識啓発に取り組んでいる(主に関連する課題③④⑤)。

 

<比叡山・びわ湖DMO(地域連携DMO)>
滋賀県(大津市)と京都府(京都市)に跨る比叡山延暦寺を中心としたマネジメントエリアのイベント、ツアー開発に加え、琵琶湖でのサイクルクルージングや琵琶湖汽船船上でのイベント、さらにびわ湖エリアの観光団体や周辺の市町村とも連携して、旅行商品の開発、周遊パスの企画などに取り組んでいる。また、Wi-Fi整備などといった受入れ環境の整備にも取り組んでいる(主に関連する課題③⑥)。

表2-3 各DMOの主な活動状況

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』、各 DMO ホームページ等より作成

 

2-4. 各DMOの誘客ターゲット層と取り組みについて

 

各DMOは、誘客ターゲット層を国内客とインバウンド客の年齢層や趣味趣向、地域別などに分けて設定している。それぞれのターゲット層に対して、各DMOのマネジメントエリアが持つ魅力ある観光資源を組み合わせ、誘客活動に取り組んでいる。それらをまとめたのが表2-4である。

<びわこビジターズビューロー>
びわこビジターズビューローは国内客について、30~50代の旅行好きの女性をターゲットとしている。また、インバウンド客については東アジア、東南アジアからの訪日リピーターを重点ターゲットとし、自然や歴史、文化への関心が高い欧米豪の個人旅行客を開拓ターゲットとしている。ターゲット層に対し、SNSを活用した情報発信やターゲット国、地域への観光展へ出展するなど現地プロモーション、旅行会社やマスコミなどを招いた商談会や現地視察を行い、滋賀県の認知度向上に取り組んでいる。

 

<近江ツーリズムボード>
近江ツーリズムボードはインバウンド客をターゲットに、米豪の富裕層の訪日リピーターや東洋文化への関心が高いイギリス、フランスの富裕層、近隣国という便利さから何度も訪日するポテンシャルを秘めているアジア新興国(主にシンガポール、タイ、マレーシア)の富裕層をターゲットとしている。
米豪の訪日リピーターに対しては、滋賀県最高峰の伊吹山でのトレッキングといった、大自然を味わえるネイチャーツアーを、イギリス、フランスの富裕層に対しては、文化遺産に登録されている寺社仏閣でのプレミアムな文化体験ツアーの造成に取り組んでいる。またアジア新興国の富裕層は欧米豪に比べ訪日滞在日数が短い傾向にあり、半日もしくは一日で完結する景色や食を堪能するツアーの造成に取り組んでいる。

 

<近江八幡観光物産協会>
近江八幡観光物産協会は国内客については、40~70代の旅行に関心の高い女性と学びに関心の高い中高年、学校や職場の小グループをターゲットにしている。また、インバウンド客については欧州の個人客および中華系のビジネスマンをターゲットとしている。
主に国内旅行客をターゲットとしており、五感を通じての魅力を体験いただき、旅行に関心の高い女性の支持を得ることで、SNS や口コミによる情報発信、誘客を図る。また、学びや生き方に関心の高い中高年に対しては、エコツアーや自転車ガイドツアー、近江商人の精神を学ぶ、ヴォーリズ建築を巡るツアーなど本物の良さや魅力を感じてもらう上質な観光サービス提供に取り組んでいる。

 

<長浜観光協会>
長浜観光協会は国内客について、30~50代の旅行好きの女性と団体の教育旅行、修学旅行客をターゲットとしている。また、インバウンド客については欧州の個人旅行者およびアジア(台湾、香港、タイ等)からのリピーターをターゲットとしている。
国内旅行客に対しては、長浜らしいテーマを持った付加価値の高いプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出す。また、教育旅行や修学旅行などの誘致に注力するとともに、長浜の伝統文化を活かした体験型の教育プログラム作成、市内宿泊施設等と連携した営業活動を実施する。
インバウンド客については、観光施設の展示やパンフレットの多言語表示、専門的通訳ガイドの育成など、受け入れ体制の整備に取り組んでいる。

 

<比叡山・びわ湖DMO>
比叡山・びわ湖DMOは国内客について、関西圏および東海圏の非日常体験・デトックスを求める30~50代のリピーターとその家族、ならびに首都圏在住で京都駅周辺の宿泊客の取り込みターゲットとしている。また、インバウンド客については欧米豪、アジアからの文化体験や知的欲求ニーズが高く、新たな旅先にも足を延ばす長期滞在の個人旅行客をターゲットとしている。
国内客については、比叡山地区を中心に、季節に合った歴史イベントや公共交通機関を利用した商品の造成など、地域限定のプロモーション活動に取り組んでいる。
インバウンド客については、芸術や文化からのアプローチ、SNS映えするスポットの増設などによる誘客活動に取り組んでいる。

表2-4 各DMOの誘客ターゲット層と取り組み

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』より作成

 

3.DMOマネジメントエリアにおける宿泊施設と稼働率

前節では滋賀県に所在しているDMOの設立経緯及び活動状況をみた。本節では前述したDMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数(供給面)と稼働率(需要面)を取り上げ、その特徴を明らかにする。
なお、DMOは湖東地域を中心に活動しているが、県内の宿泊施設は琵琶湖を中心に点在しているため、ここでは湖西地域の高島市も加えて分析している。また、宿泊施設数と稼働率については観光庁の『宿泊旅行統計調査』個票データ8より計算している。
まず滋賀県における宿泊施設数の推移をタイプ別に見たのが図3-1である。図が示すように、滋賀県の宿泊施設数は2011年から16年にかけて減少傾向で推移したのち、17年以降はインバウンドの影響もあり増加傾向となる。うち、簡易宿所・その他が着実に増加している一方で、旅館は減少傾向で推移している。また、ビジネスホテルも減少傾向で推移している。

 

 

<大津市>
大津市をみれば(図3-2)、宿泊施設は全体として微増の傾向にある(2015年4月:144施設→19年12月:152施設)。内訳をみれば、旅館の施設数がこの間微減し(15年4月:38施設→19年12月:34施設)、簡易宿所が増加傾向にある(15年月:24施設→19年12月:35施設)。
稼働率をみれば、後掲の記述統計(表3-1)が示すように期間の平均稼働率は46.0%で、稼働率の最大値は59.3%、最小値は31.6%となっている。季節性をみれば、4月、8月に稼働率が上昇する傾向がみられる。稼働率の傾向としては2015年から18年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて低下傾向を示している。この理由については後述する。

 

<近江八幡市>
近江八幡市をみれば(図3-3)、この間宿泊施設数の水準は高くはないが、着実に増加傾向にある(2015年4月:17施設→19年12月:26施設)。うち、旅館、リゾートホテルやシティホテルの施設数は横ばい(15年4月:1施設→19年12月:1施設)である。一方、簡易宿所が増加(15年4月:4施設→19年12月:12施設)している。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.8%となっている。稼働率の最大値は61.4%、最小値は16.5%と、最大値と最小値の幅が44.9%ポイントと大きいことが特徴である。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2016年から17年にかけて上昇傾向を示している。18年に低下傾向を示したが、19年には再び上昇している。

 

<彦根市>
彦根市をみれば(図3-4)、この間の宿泊施設数は全体では微減の傾向にある(2015年4月:36施設→19年12月:32施設)。うち、ビジネスホテルは微増(15年4月:13施設→19年12月:16施設)している一方で、シティホテルは減少している(15年4月:1施設→19年12月:0施設)。また旅館(15年4月:7施設→19年12月:7施設)と簡易宿所(15年4月:3施設→19年12月:3施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は39.2%となっている。稼働率の最大値は60.3%、最小値は23.4%であり、最大値と最小値の幅は36.9%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から16年にかけて上昇傾向を示したものの、17年から18年にかけて低下した。19年以降は再び上昇傾向を示している。

 

<米原市>
米原市をみれば(図3-5)、宿泊施設は全体として減少傾向にある(2015年4月:39施設→19年12月:27施設)。うち、簡易宿所が半減(15年4月:14施設→19年12月:7施設)している。一方、旅館(15年4月:9施設→19年12月:9施設)、ビジネスホテル(15年4月:2施設→19年12月:2施設)やリゾートホテル(15年4月:1施設→19年12月:1施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は24.4%、最大値は63.5%、最小値は1.0%であり、両者の差は62.5%ポイントとなっている12。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から 18 年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて上昇傾向を示している。

 

<長浜市>
長浜市をみれば(図3-6)、宿泊施設は全体としてほぼ横ばい傾向にある(2015年4月:69施設→19年12月:70施設)。うち、旅館(15年4月:17施設→19年12月:19施設)や簡易宿所(15年4月:16 施設→19年12月:17施設)はいずれも微増している。なお、ビジネスホテル(15年4月:7施設→19年12月:7施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.0%となっている。稼働率の最大値は55.9%、最小値は24.3%であり、両者の差は31.6%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2015年から17年にかけて横ばいで推移しているが、18年以降は幾分低下傾向を示している。

 

<高島市>

高島市をみれば(図3-7)、宿泊施設は全体として増加傾向にある(2015年4月:106施設→19年12月:116施設)。うち、旅館(15年4月:24施設→19年12月:26施設)やリゾートホテル(15年4月:2施設→19年12月:5施設)はいずれも微増している。また、不詳(15年4月:33施設→19年12月:42施設)も増加している。
稼働率をみれば、期間平均は12.6%と、その他のエリアに比して低いのが特徴である。稼働率の最大値は22.8%、最小値は7.2%で、両者の差が15.6%ポイントとなっている。また、8月に稼働率が大幅上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から19年にかけてほぼ横ばいで推移している。

 

以上、DMOのマネジメントエリア別にみれば、宿泊施設数では大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。また、客室稼働率では、大津市の平均稼働率が他のエリアより高い一方で、高島市は低い特徴がみられた。季節性をみれば、近江八幡市、彦根市、米原市、長浜市では4月、8月、11月に稼働率が上昇するが、大津市では4月、8月に上昇する。一方、高島市については8月のみ上昇する傾向がみられる。

 

補論 昼夜間比率からみた大津市と京都市との近接性

前述した大津市の客室稼働率をみれば、2015年から18年にかけて高水準で推移し、18年後半以降低下がみられる。客室稼働率が高水準で推移していた背景として、大津市は京都市と近接していることもあり、京都市で宿泊できなかった訪日外客が大津市で宿泊していことが推察される。一方、18年後半以降低下した一因としては、インバウンド急増に一定程度対応した京都府内の宿泊施設の供給不足緩和が考えられる。このことを別の統計データから確認しよう。図3-8は大津市及び京都市における訪日外国人の滞在昼夜間比率(夜/昼)の推移を示している。
大津市と京都市の状況をみれば、2015 年における大津市の平均昼夜間比率は1.18に対して、京都市は0.54となっており、大津市が京都市を圧倒的に上回っている。しかし、16年以降、大津市の平均比率は低下傾向を示し、足下19年では0.86となっている。一方、京都市は16年以降、幾分上昇傾向を示しており、足下19年は0.61となっている。これは京都市における宿泊施設の供給制約が緩和されるにつれ、大津市における外国人宿泊者が減少したことを示唆している。

 

 

4.分析結果の整理と含意

2節では各DMOの活動状況と誘客ターゲット層を確認し、その取組を実現するための課題をみた。
表4-1は各DMOが注目している課題を整理したものである。加えて、われわれが推計した宿泊施設の客室稼働率の観点から季節性の特徴についても注目してみた。これらの分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

 

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較し、注目している観光課題の違いを確認した。その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたる周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化しており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。その際、滋賀県が強みとしている自然を活かしたグランピングやキャンプなどの魅力的なコンテンツを国内外の旅行者に訴求することも重要となろう。

6. 上記のような観光資源の磨き上げについて、DMOが行う観光地域づくりが一層重要となる。
その際、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

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