ABSTRACT
2023年のプロ野球は、セントラル・リーグは阪神タイガース、パシフィック・リーグはオリックス・バファローズと、ともに関西に本拠地を置く球団が優勝した。本稿では、高林ほか(2023)に引き続き、阪神タイガースおよびオリックス・バファローズの優勝による経済波及効果について、APIR関西地域間産業連関表を用いて計測した。分析結果の概要は以下の通りである。
1. 両球団の優勝により全国で発生する経済波及効果は1,283億7,300万円となった。うち阪神による効果は1,011億5,800万円、オリックスは272億1,400万円と、阪神優勝の経済波及効果はオリックス優勝の4倍程度となっている。
2. 関西各府県での効果をみると、阪神の場合、大阪府268億7,000万円(効果全体の6%)、兵庫県172億1,800万円(同17.0%)。オリックスの場合、大阪府94億1,100万円(同34.6%)、兵庫県31億7,100万円(同13.0%)と、いずれも圧倒的に2府県に集中している。ただ阪神に比して、オリックスの経済波及効果は大阪府により大きく発生することがわかる。
3. 関西二球団の優勝による経済波及効果は、関西以外の地域でも479億円発生する。これは、関西以外の地域のファンによる消費に加え、関西での直接需要を満たすために関西以外の地域で一定程度の需要が発生していることを意味している。
4. 阪神のファン人数はオリックスの6倍であることを考慮すると、上記の数値から計算されるオリックスファンの1人当たり経済波及効果は阪神を上回っていることになる。この背景にはSNS等を通じたPR活動による着実なファン人口の増加に加え、より付加価値の高い消費単価の反映がある。
DETAIL
はじめに:分析の特徴
2023年のプロ野球は、セントラル・リーグでは阪神タイガース、パシフィック・リーグではオリックス・バファローズが優勝した(以下ではそれぞれ「阪神」「オリックス」と記す)。阪神は2005年以来18年ぶりの優勝、一方オリックスは2021年以来3年連続のリーグ制覇である。なお両リーグともに関西に本拠地を置く球団が優勝したのは1964年の阪神タイガース・南海ホークス以来、59年ぶりのことである。
当研究所では高林ほか(2023)において、APIR関西地域間産業連関表により2023年の阪神タイガースの優勝の経済波及効果を計測した。本稿は、高林ほか(2023)で行われた阪神優勝の経済波及効果の計測に加え、オリックス優勝にも拡張展開して経済波及効果を計測するものである。
本稿の分析においても、高林ほか(2023)と同様に、APIR関西地域間産業連関表を用いて、地域別に経済波及効果を計測する。経済波及効果の計測の手順は、以下の通りである。まず優勝により発生する新規需要を推計する。新規需要は、(1)球場観戦者による消費と(2)球場外での消費(優勝セール含む)に分けて、それぞれ推計を行う。ここでの新規需要は地域別・産業別に想定し、できるだけ実態を反映するべく精緻に行う。推計された新規需要に対してAPIR関西地域間産業連関表を用い、全国ならびに関西2府8県に及ぼす経済波及効果を計算する。
我々の分析の最大の特徴は、経済波及効果の計測において独自に開発したAPIR関西地域間産業連関表を用いていることである。本表を用いることにより、新規需要の発生を地域別に設定することができる。後述するように、阪神とオリックスではファンの地域分布、すなわち需要が発生する地域が異なることから、実態に近い分析が可能となっている。また経済波及効果の結果も地域別に捉えることができる。地域での経済波及効果を計測した先行事例においては、全国の経済波及効果の一定割合とするような、かなり大胆な仮定を置いた分析がしばしば散見される。しかしこの方法でおおよその規模は捉えられるとしても、例えば関西内に限っても府県ごとに産業構造や自給率は大きく異なるため、新規需要の発生状況が異なっておれば、関西の割合が一定ということはありえない。そもそも一定割合とする数字の根拠が明示されていない限り、信憑性に欠くといえよう。このため本稿では単に経済波及効果の計測結果を示すだけでなく、可能な限り前提条件やその算出方法を明示することを心がけた。
1.球場観戦者の消費
ここでは、球場観戦者による消費を考える。球場観戦者による消費は、球場観戦者数に一人当たり消費単価を乗じて求められる。これらを優勝しなかった場合(以下「平時」と呼ぶ)と優勝した場合について想定し、その差分を優勝によって発生する新規需要と捉える。以下、1-1で球場観戦者数、1-2で一人当たり消費単価を推計し、1-3でこれらを乗じた結果を示す。
1-1. 球場観戦者数の想定
まず平時と今年の球場観戦者数を確認する。図 1は、2005年以降の阪神・オリックス両球団主催ゲームの観客動員数の推移を示したものである3。特に目に付くのはコロナ禍にあった20年・21年で、無観客試合や入場制限などの影響で観客動員は大きく落ち込んだ。オリックスは21年に25年ぶりとなる優勝を果たしたが、年間観客動員は43万1,601人(1試合あたり7,315人)にとどまった。また22年は開幕から入場制限が撤廃されたものの、コロナ禍前の水準を回復するには至らなかった。23年の優勝による観客動員数の増加分を検討する際には、20年から22年までの動向は除外する必要がある。
阪神の平時の観客動員数は、前回優勝の翌年2006年からコロナ禍前の19年まで15年間の1試合平均観客数4万861人に、23年の主催ゲーム数である71試合を乗じて、290万1,110人とする。また2023年の観客動員数は291万5,528人であった。
オリックスの平時の観客動員数も、同様に計算する。1試合平均観客数は、阪神のケースに合わせて2006年からコロナ禍前の2019年までの平均値2万939人とする。23年の主催ゲーム数72試合を乗じて、オリックスの平時の観客動員数は150万7,583人と推計される。また23年の観客動員数は194万7,453人であった。
図 1 2005 年以降の阪神・オリックス主催試合観客動員数の推移
(出所)日本野球機構ホームページ、プロ野球Freakホームページより筆者作成
以上をまとめると表1のようになる。平時と2023年の観客動員数の差を優勝によって増加した観客数と考えると、阪神は1万4,418人、オリックスは43万9,870人となる。阪神は平時から1試合当たり4万人程度の観客動員があり、1試合あたりでは今年は平時に比べて203人しか増加していない。20年に座席改修が行われたため座席数が減少した影響もあるが、06年から19年の間の阪神は優勝には至らないものの上位に食い込むシーズンが多く(平均順位3.1位)、23年の優勝で観客動員数が大きく増加したということはなかったといえる。
一方オリックスは、平時に比べて年間で約44万人、1試合あたりでは6,109人増加しており2023年は観客動員が大きく増加した。06年から19年の間のオリックスは低迷期にあり(平均順位4.8位)、観客動員数が伸び悩んでいたと考えられる。
表1 平時と2023年の比較:観客動員数:単位:人
(注)阪神とオリックスの試合数が異なるのは、交流戦での本拠地球場の主催試合数が隔年で異なるため。
(出所)日本野球機構ホームページ、プロ野球Freakホームページより筆者作成
1-2. 球場での消費単価の想定
次に、球場観戦時の消費項目として、チケット代、交通費、飲食費、グッズ等購入費の4項目について、平時・2023年の消費単価を球団別に想定する。
チケット代は、平時・2023年ともに阪神は1試合1人あたり3,653円、オリックスは3,441円とする。チケット料金は、球場・席種・曜日等によって異なるが、阪神甲子園球場および京セラドーム大阪のチケット料金表をもとに、座席数・日数等を考慮してそれぞれ算出した。チケット代は、阪神の場合は兵庫県、オリックスの場合は大阪府の需要となる。
交通費・飲食費は、MURC(2022)のアンケート調査結果より「スタジアム観戦にかかる出費」(1回あたりの金額)を参照し、この結果を利用する。平時の消費単価については、MURC(2022)の結果である交通費2,825円、飲食費2,064円とする。一方2023年については、足下の物価上昇を考慮して消費者物価指数の伸び(近畿地区、2023年9月、対前年同月比)を乗じて、交通費2,927円、飲食費2,171円とする。
グッズ等購入費についても、MURC(2022)のアンケート調査結果をベースとする。MURC(2022)によると、平時のグッズ等購入費は1回当たり1,862円となっている。ただし表2に示すように球団によって応援グッズの単価が異なるため、これを反映する。表2は、球場観戦時の標準的な応援グッズ(レプリカユニフォーム、選手名入りタオル、応援用バット)を買い揃えた場合にかかる費用を球団別に示したものである。12球団の平均値は1万2,766円であるが、阪神は12球団のうち最も安上がりで9,800円(対平均値比77%)、オリックスは1万3,150円(同103%)と平均よりやや高額となっている。ここでの12球団平均値に対する比率を前出のMURC(2022)の調査結果(1 回あたり1,862円)に乗じて、平時のグッズ等購入費を阪神1,429円、オリックス1,918円とする。一方2023年は好成績による売上の伸びを織り込み平時に比べて1.5倍になると想定し、さらに足下の物価上昇を考慮する。結果、2023年のグッズ等購入費は阪神2,245円、オリックス3,012円となる。
表 2 12球団別の応援グッズ価格
(注)ここでの価格は、レプリカユニフォーム、選手名入りタオル、応援用バットの合計額
(出所)東洋経済ONLINE記事より筆者作成
なお交通費については、手段(鉄道旅客輸送か道路旅客輸送か)と需要発生地の内訳を考慮する。
阪神については、高林ほか(2023)と同様であるので、本稿では割愛する。オリックスについては、手段はすべて鉄道旅客輸送であるとし、需要発生地はファン人口比により按分した。
またグッズ等購入費の内訳について、阪神・オリックスともに選手名が入ったレプリカユニフォームやタオル等の繊維製品が83%、選手アクリルスタンドや缶バッジ、試合終了後の演出時に用いられるペンライトなどの雑貨類が17%を占めると想定する。この割合は、商品単価および店舗の売上ランキングをもとに算出した。なおこの購入費は商業マージン・運賃を含んだ購入者価格表示であるため、これを生産者価格に変換する作業を施している。作業手順については、後掲の2-4優勝セールの項で記している。
1-3. 結果
1-1の球場観戦者数と1-2の消費単価の想定を乗じると、平時と今年それぞれの球場観戦者による消費支出額が算出できる。算出結果をまとめると表3のようになる。球場観戦者による消費は、平時に比べて阪神では31.3億円、オリクスでは70.5億円押し上げられたことになる。平時に比べて球場観戦者数が大きく増加したオリックスの方が、消費額の増加幅も大きくなっている。
表3 球場観戦時における消費の1試合単価と年間消費支出額(平時と2023年の比較)
2.球場外での消費・優勝セール
次に、球場外での消費を考える。ここでの推計は前節と同様に、優勝を契機として追加的に消費を行うファンの人数と、その追加的消費の単価の積として算出する。消費品目は、飲食費とその他の消費に分けて検討する。飲食費は、阪神ファン・オリックスファンが勝利を祝して、平時に比べて追加的に飲食する際の支出額がこれにあたる。またグッズ等購入費は、球団関連グッズ、優勝記念グッズ、スポーツ新聞、雑誌等を購入する際の支出額である。
また2-4で、ファンによる消費とは別に、阪神百貨店および近鉄百貨店で実施された優勝セールについても新規需要として想定する。
2-1. ファン人口の想定
ここでは、阪神およびオリックスの優勝を契機として球場外での消費を行う人数、すなわち阪神ファンとオリックスファンが全国および各府県に何人いるのかについて、推計を行う。
阪神ファン人口は、高林ほか(2023)において、中央調査社が毎年実施している「人気スポーツ調査」およびMURC(2022)での調査結果を用いて、全国および関西2府8県の阪神ファン人口を推計した。推計手順の詳細はここでは割愛するが、全国の阪神ファン人口は404万人で、府県別では大阪府が最多で119.0万人となっている。
今回新たにオリックスファン人口を推計した(後掲参考表2参照)。阪神に比べると情報量が限られているが、中央調査社の結果によると、20歳以上人口に占める割合が全国では1.6%、関西2府4県では5.2%となっている。そこでまず阪神ファン人口404万人に、阪神とオリックスのファン割合の比率(16.6%)を乗じて、全国のオリックスファン総数を67万3,333人と推計した。また関西2府4県についてはファン割合が5.2%と判明しているため、関西2府4県の20歳以上人口に
これを乗じて算出した。その他地域は、全国のオリックスファン人口とこれまで推計された関西のオリックスファン人口の残差として推計した。
以上の結果をまとめると表4のようになる。ファン人口総数では阪神がオリックスを凌駕している。特に関西ではその傾向が強く、オリックスは阪神に相当数のファンを奪われているといえる。
逆に関西以外の地域(表4ではその他地域と記載)においては、阪神ファン全体に占める割合が30.2%にとどまるが、オリックスでは同47.0%となる。具体的な数字を見ると、大阪府では阪神ファン119.0万人に対してオリックスファンは15.4万人となっており、倍率にして8倍近い開きがある。これに対して、その他地域では阪神ファン121.9万人に対してオリックスファンは31.6万人であり、倍率は3.9倍にまで縮小する。すなわち、阪神のファン層は関西に偏在し、オリックスのファン数は阪神に比して少ないものの、全国的に点在していると言える。こうした阪神とオリックスのファン地域分布の違いは、球場外における追加的消費の規模の差異に影響する。
表4 地域別ファン人口の推計
(出所)中央調査社、MURCのアンケート調査結果および総務省
「住民基本台帳に基づく人口、人口動態及び世帯数調査」より筆者作成
2-2. 消費単価の想定
次に球場外での消費として、飲食費とその他の消費の単価を想定する。ここでは、阪神ファンとオリックスファンでの違いはないとする。
飲食費については、関西社会経済研究所(2003)での想定を踏襲し、阪神ファン一人当たり年間 1万円を追加支出すると想定する。またグッズ等購入費については1,000円を追加的に支出すると想定する。1-2で示した球場観戦者によるグッズ等購入費の平時と今年の差(1,099円)に近い値としている。なおここでの追加的グッズ等購入費1,000円の内訳としては、食料品 10%、繊維製品40%、雑貨類40%、書籍・雑誌・映像商品等10%とする。この割合も1-2と同様に商品単価と店舗売上ランキングを参考に想定しているが、球場での応援グッズが多い球場内での購入品目とは構成が異なっている。
2-3. 結果
2-1の地域別ファン人口と2-2の消費単価の想定を乗じると、各地域のファンが優勝に伴い球場外での消費支出額を算出できる。算出結果をまとめると表 5 のようになる。優勝に伴う全国の阪神ファンによる追加的飲食費は404.0億円、その他消費は40.4億円、オリックスファンによる追加的飲食費は67.3億円、その他消費は6.7億円となる。
表5 各地域の阪神・オリックスファンによる追加的消費
【阪神】
【オリックス】
(出所)筆者作成
2-4. 優勝セール
本稿で取り上げる優勝セールについては、阪神については阪神百貨店梅田本店、近鉄については近鉄百貨店あべのハルカス近鉄本店に限定して、その効果を以下のように推計した。なお当該百貨店の売上高については、月次での前年同月比は公表されているが、金額は四半期ベースのみにとどまり、月次では発表されていない。
そこで売上高対前年同月比について、コロナの5類移行に伴い社会活動が正常化した2023年5月から8月までの平均(阪神梅田店:19.1%、近鉄あべのハルカス店:5.6%)と、優勝セールが実施された9月(阪神梅田店:58.3%、近鉄あべのハルカス店:22.4%)を比較し、伸び率の差を求める。
この差を阪神およびオリックス優勝セールの効果とみなすことにした。ベースとなる売上高の金額は22年度の月平均売上額を用いて、優勝セールによる上振れ金額を推計した。
結果、優勝セールの売上高は阪神梅田本店17億9,900万円、近鉄あべのハルカス店 5億600万円、合わせて23億500万円と推計した。
なお優勝セールでの対象品目は、阪神百貨店・近鉄百貨店ともに詳細は不明であるが、報道によると売場商品の大半が割引対象となったとされることから、優勝セールにおける品目の構成は、統計で把握されるそれと大きく異なることはないと想定する。これを踏まえ、産業連関表の産業部門への対応については、まず商業動態統計調査における大阪市内の百貨店売上高により大枠の構成比を設定する。次に、APIR関西地域間産業連関表の消費ベクトルの構成比により大枠を按分し、産業連関表の部門に対応した構成比を算出する。また売上高は購入者価格表示であるため、これを生産者価格に変換する。具体的には、商業マージンと運賃を全国表の対購入者価格比率に基づいて剥ぎ取り、それぞれ大阪府の商業部門と道路貨物輸送部門に計上した。なお前節で示したグッズ等購入費についても同様の作業を行っている。
3.優勝による経済波及効果
1節および2節の想定を前提とし、APIR関西地域間産業連関表を用いて、阪神・オリックス優勝の経済波及効果を算出する。
3-1. 新規需要の整理
ここまで阪神及びオリックス優勝による新規需要を、球場観戦者の消費と球場外の消費及び優勝セールに分けて推計した。優勝により発生する新規需要の総額は、阪神が493.7億円、オリックスが149.6億円、合計で643.3億円となる。これらを支出項目別および地域別に整理すると表6のようになる。
項目別に見ると、球場観戦者の消費は阪神が31.3億円、オリックスが70.5億円、合計101.8億円となる。球場外での消費は阪神が444.4億円、オリックスが74.1億円、合計518.5億円となる。
優勝セール等は阪神が18.0億円、オリックスが5.1億、合計23.1億円となる。
また地域別にみると、阪神・オリックスとも大阪府が最多でそれぞれ175.8億円、69.6億円となっている。金額は阪神の方が大きくなっているが、最終需要全体に占める大阪府の割合でみると、阪神36%に対してオリックスは46%となっている。またその他地域の割合は阪神19%、オリックス28%となっており、関西の球団の優勝により発生する最終需要は関西だけに留まらないこと、また阪神とオリックスでやや差異があることも確認できる。
表6 優勝により発生する新規需要の想定:単位:100万円
【支出項目別】
【地域別】
(出所)筆者作成
3-2. 阪神・オリックス優勝の経済波及効果:関西経済に与える影響
表6に示した新規需要を基に、経済波及効果を計測したのが図2である。ここでは新規需要発生による効果(直接需要)と、直接需要を満たすべく追加的に発生する間接的な効果、さらに所得増により発生する需要(1次・2次の波及効果)に分けて示している。両者の合計が経済波及効果の総額となる。
後掲参考表3が示すように、阪神優勝の全国で発生する経済波及効果の総計は1,011億5,800万円、うち直接効果は 443億7,500万円、間接効果は567億8,300万円となる。オリックスの経済波及効果の総計は 272億1,400万円、うち直接効果は128億円、間接効果は144億1,500万円となる。両球団の優勝による経済波及効果の合計額は1,283億7,300万円、うち直接効果は571億7,400万円、間接効果は711億9,800万円となる。阪神優勝の経済波及効果はオリックス優勝の4倍程度となっている。阪神のファン人数はオリックスの6倍であることを考慮すると、オリックスファンの1人当たり経済波及効果が阪神を上回っていることになる。
図2 地域別にみた経済波及効果
(出所)筆者作成
前述の効果は全国ベースの経済波及効果であるが、地域経済への影響という観点が重要である。我々の分析ではAPIR関西地域間産業連関表を用いているため、どの地域で経済波及効果が発生しているかについても把握することができる。
参考表3が示すように、両チーム優勝の地域別波及効果をみれば、関西2府8県での経済波及効果は803億9,600万円(62.6%)であるが、関西を除くその他地域では479億7,700万円(37.4%)となる。うち、阪神優勝の地域別波及効果は、関西で648億9,500万円(64.2%)であるが、関西を除くその他地域は362億6,300万円(35.8%)。オリックスの場合は、関西は155億100万円(57.0%)であるが、関西を除くその他地域は117億1,300万円(43.0%)となる。ファンの分布の違いにより、オリックスの場合は阪神に比して、関西以外の効果が高く出ている。関西各府県での効果をみると、阪神の場合、大阪府は268億7,000万円(26.6%)、兵庫県は172億1,800万円(17.0%)。オリックスの場合、大阪府は94億1,100万円(34.6%)、兵庫県は31億7,100万円(13.0%)と、いずれも圧倒的に2府県に集中している。ただ、阪神に比して、オリックスの経済波及効果は大阪府でより大きく発生することがわかる。
4.分析の整理と含意
以上の分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。
1. 阪神及びオリックス優勝により発生する新規需要を(1)球場観戦時の消費及び(2)球場外の消費(優勝セール含む)に分けて想定した上で、APIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計測した。計測結果は、全国で発生する経済波及効果総計は1,283億7,300万円、うち直接効果は571億7,400万円、間接効果は711億9,800万円となった。うち、阪神は1,011億5,800万円、オリックスは272億 1,400万円と、阪神優勝の経済波及効果はオリックス優勝の4倍程度となっている。
2. 我々の分析の特徴は、どの府県で経済波及効果が発生しているかを見ることができる点にある。関西(2府8県ベース)の経済波及効果は803億9,600万円(62.6%)であるが、関西を除くその他地域では479億7,700万円(37.4%)となる。全体の効果のうち、関西には62.6%、その他地域には37.4%が帰属している。関西を除く地域では479億円の経済波及効果を発生させているが、その大部分が間接効果(358億9,100万円)となっており、関西での直接需要を満たすため、関西以外の他府県で一定程度の需要が発生していることを意味している。
3. 関西各府県での効果をみると、阪神の場合、大阪府は268億7,000万円(26.6%)、兵庫県は172億1,800万円(17.0%)。オリックスの場合、大阪府は94億1,100万円(34.6%)、兵庫県は31億7,100万円(13.0%)と、いずれも圧倒的に2府県に集中している。阪神に比して、オリックスの経済波及効果は大阪府でより大きく発生することがわかる。
4. 阪神のファン人数はオリックスの6倍であることを考慮すると、オリックスファンの1人当たり経済波及効果が阪神を上回っていることになる。この背景にはSNS等を通じたPR活動による着実なファン人口の増加に加え、より付加価値の高い消費単価の反映がある。
5. APIRの最新予測によれば、2023年度 2府4県の名目GRPを93兆6,580億円と予測しており、今回の阪神・オリックスの優勝の経済波及効果は、375億3,400万円である(付加価値ベース)。上記の押し上げ効果は0.04%程度となる。