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「関西経済」の検索結果 [ 15/17 ]

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    研究報告書「関西地域における設備投資の特徴と課題」をまとめました。

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2011年度

    ABSTRACT

    投資戦略研究会(主査 小川一夫 大阪大学社会経済研究所教授)では、
    昨年度の住宅投資に引き続き、企業設備投資について、分析・検討を行いました。

    報告書では、統計データを用いてリーマンショック後の関西における企業設備投資の動向および特徴を明らかにするとともに、公益社団法人関西経済連合会と共同で実施したアンケートを基にして、設備投資における企業の意思決定要因や関西地域の強みや課題について分析することで、関西の地域活性化戦略を提言しています。

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    関西エコノミックインサイト 第11号(2011年8月31日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授
    研究協力:近畿大学世界経済研究所入江啓彰助教)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第11号(2011年8月)の概要は以下の通りです。

    1.関西経済は、一時的な足踏み状態からの回復モメンタムは非常に強い。
    景況感、生産などの月次データは5月を底に、回復を示すシグナルが多く出てきている。
    ただし、電力問題や、急速な回復に対する反動で先行きが懸念される。

    2.日本経済の最新予測と電力需給見通しの経済への影響を織り込み、関西の実質GRP成長率見通しを2011年度+0.8%、2012年度+1.4%と改訂した。
    2011年度は足下の景気回復を反映し0.3%ポイント上方修正、2012年度は電力供給制約などを反映し0.6%ポイント下方修正である。
    成長率寄与度をみると、民需と外需がバランスよく関西経済の成長の牽引役となる。

    3.関西電力管区では今夏の節電率は3.8%に止まる。原発の停止により今冬、来夏の電力需給はさらに逼迫することが想定される。
    節電率が今夏程度の水準で停滞し、火力発電への代替による追加的燃料輸入が増加すると、実質GRPは2011年度0.18%、2012年度0.46%押し下げられる。

    4.関西での節電率が関東並みの水準を実現した場合、火力発電用燃料輸入をさらに抑制することができるため、節電率が今夏の水準で推移した場合(標準予測)よりも、実質GRPは2011年度には0.05%、2012年度に0.19%引き上げられる。

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  • 熊坂 侑三

    今月のエコノミスト・ビュー(2011年7月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    地域のことは地域が責任と権限を持つ「地域主権」を確実なものとするため、国においては地域主権戦略会議が設置(平成21年11月)され、明治以来 の中央集権体質から脱却し、新たな役割分担に向けて、検討が進められてきている。こうした中、関西の自治体が全国に先駆けて立ち上がり、平成22年12月 に府県レベルでは全国初の組織「関西広域連合」が誕生した。関西広域連合は、関西全体の広域行政を担う責任主体を確立し、地域の自己決定、自己責任を貫け る分権型社会を実現することを目指しており、当然、産業振興面においても、新たな広域産業行政の主体となるものである。
    関西広域連合では、23年度末に向けて関西産業ビジョンの策定が進められている。これまでの産業施策では、広域施策は経済産業局等が担当し、各自治 体はそれぞれの施策を独自に推進するという形をとってきた。その結果、各自治体の政策はほぼ均質的であり、いわば、金太郎飴のような状況となっている。各 自治体のポテンシャルを最大限生かすという明瞭な政策体系にはなっていないのである。
    そのような状況下、今なぜ広域連合を推進しなければならないのか。この背景には、この20年日本の所得(名目GDP、すなわち各産業の付加価値の合 計)が減少してきているという厳然たる事実がある。結論を言えば、日本はこの間付加価値を高めるビジネスモデルの創出に失敗してきたのである。ITグロー バル下の「要素価格均等化」に抗するビジネスモデルの導入とそれを促す政策が着実に実現されてこなかったことが原因といえよう。もう一つの原因として、 マーケットの縮小に対して適切な対応ができていなかったことも挙げられる。以上は日本全体の競争力低下の原因として指摘したが、この問題は関西にもそのま ま当てはまる。
    経済活動は自治体の枠を超えて、関西地域、全国、アジア、世界へと広がっている。今後確実に進展する人口の大幅減少や激化する国際的な地域間競争下 において、関西産業の国際競争力を強化していくためには、関西広域連合は構成府県間のみならず、国や他の自治体、産学との協力と創造による “シナジー(相乗)効果”を発揮し、関西が国内外から認知される広域経済圏(メガ・リージョン)を形成していくことが不可欠と考えられる。自治体間でパイ を奪い合うのではなく、地域全体でパイを大きくしてこそ関西発展につながるのである。産学をはじめとした関係機関とも適切な役割分担と密接な連携を行い、 文字通り「オール関西」により、目指す将来像の実現に向けて取り組んでいかなければならない。
    なおグローバルな地域間競争下での関西経済発展に向けた政策を論じる際のキーワードは、(1)ブランド化、(2)海外所得の取り込み、(3)人材の 育成・活用、(4)広域連携の推進である。この点については、2011年度版『関西経済白書』第6章において展開している(9月発刊予定)。
    注:関西広域連合は、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、和歌山県、鳥取県、徳島県の7府県により構成されるが、「産業振興」事務については、鳥取県を除く6府県が参加する(平成23年7月現在)。

    日本
    <4-6月期経済はマイナス成長だが4月には底を脱する>

    今回(7月18日)の予測では、一部の6月データとほとんどの5月データが更新されている。予測結果は、サプライチェーンの混乱が想定を上回るス ピードで改善していることを示唆している。今月の支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、内需はほぼ横ばい、純輸出は大幅に縮小するため前 期比-1.1%、同年率-4.1%と予測する。先月(6月20日)の予測(-7.8%)から3.7%ポイントの上方修正となっている。先月の予測は、4月の実績と5-6月の時系列モデルの予測からなるものであったが、今回の予測は、4-5月の実績と6月の予測から推計されている。したがって、上方修正は5月の実績と予測の差から来ており、足元の回復のスピードは予想を大幅に上回るペースで推移していることがわかる。ま たグラフ(予測動態)からわかるように、ほぼすべての4月のデータが更新された6月の半ばの予測は景気がすでに底を打っていることを示している。すなわ ち、4月に景気は底を脱し上昇のモメンタムがついてきたことを示唆している。今後の注目点は、6月データの回復スピードである。特に、依然成長にマイナス の寄与度となっている純輸出の動向が気になる。21日に発表される6月の貿易統計の結果は要注意である。
    先行き7-9月期の実質GDP成長率は、内需は拡大し純輸出のマイナス寄与度幅が縮小するため、前期比+0.5%、同年率+1.8%と予測する。先月の予測から小幅の上方修正にとどまっている。
    4-6月期の民間需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.6%となる。実質民間住宅は同-4.1%減少し、実質民間企業設備は同+0.6%増加 する。一方公的需要では、実質政府最終消費支出は同+0.6%、実質公的固定資本形成は同-4.3%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期 比-1.1%)に対する寄与度は+0.1%ポイントとほぼ横ばいである。
    財貨・サービスの実質輸出は同-5.6%減少し、実質輸入は同+2.5%増加する。この結果、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-1.2%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率-4.4%と予測している。また7-9月期を同+1.4%とみている。この結果、支出サイ ド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、4-6月期が-4.3%、7-9月期が+1.6%となる。

    [[稲田義久 KISER所長 マクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <4-6月期の成長率は1.0%?1.5%?景気回復のペースは更に弱まっている>

    前月のこのコラムで述べたように、支出・所得サイドから予測された実質GDP成長率の乖離は5月の輸出入を更新することで収束し始めた。超短期予測 と大きく異なり、5月の輸出が前月比-0.6%と下落した一方、輸入は同+2.6%と大きく伸びた。その結果、純輸出が大幅に下方修正され、支出(需要) サイドからの4-6月期の実質GDP成長率(前期比年率)は7月12日の予測では前週の2.65%から1.0%にまで大きく下方修正された(グラフ参 照)。一方、所得サイドからの実質GDP伸び率はGDP価格デフレーターが下方に修正されたことから前週の0.99%から1.15%へと上方修正された。 グラフは7月13日(6月の輸出入価格、連邦政府支出)、14日(5月の企業在庫、6月の小売販売、生産者物価指数)、15日(6月の消費者物価指数、鉱 工業生産指数)の日々の超短期予測の結果を示している(超短期予測は通常は週次ベースで予測を行っているが、今回は日次ベースで行った)。このグラフか ら、4-6月期の実質GDP伸び率は1.0%?1.5%と予測予想できる。この予測値は、市場のコンセンサスより幾分低い。超短期予測からみると、米経済 の回復力は1-3月期よりも4-6月期において、より弱まったといえる。
    これに対してバーナンキFRB議長は景気の見方を7月13日の議会証言で次のように述べている。

    - 経済は今もってソフトリカバリーを続けている。
    - ここ数ヵ月経済はモメンタムを失っている。
    - 経済成長に関して注意深くなるのは理解できる。
    - 景気回復のペースは7-9月期以降速まるだろう。
    - 我々は経済がどこに行こうとしているのか分からない。
    FRBとしては、景気回復のペースが4-6月期に入り前期より更に弱くなっているが、かといってバランスシートは拡大しレバレッジ比率がリーマン ショック時のベアースターンズより悪い50を超えていれば、簡単にQE3の導入を明言することもできない。FRBは経済成長率が3%を超えた時に出口戦略 を始め、政策金利をこれまでに0.5%?1.0%程度上げておけば、今の時点で0.5%の政策金利の引き下げができた。高い失業率に余りにもこだわり、出 口戦略を遅らせてきたことの付けが今に回っている。そのため、経済がどこに行こうとしているか分からないといいながら、7-9月期以降に景気回復のペース が速まるだろうと言わざるをえない。個人消費支出の伸び率(4-6月期)が前期比1.0%程度にまで落ちてきた今、7-9月期になって景気回復のペースが 速まるというのもおかしな話である。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第10号(2011年6月3日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第10号(2011年6月)の概要は以下の通りです。
    1.関西は東日本大震災の直接的な被害を受けなかったが、全国的な自粛・買い控えムードと風評被害によって消費が停滞し、さらに生産も、電力問題とサプライチェーンの寸断による供給制約の影響を少なからず受けた。

    2.震災後、全国の輸出が減少する中、関西は小幅ながら増加を維持し、代替輸出の拠点としての機能を発揮した(4月シェア25.3%と26年ぶりの高水準)。
    また、3月の鉱工業生産の減少幅も全国と比べて軽微に止まり、代替生産の機能も担った。
    加えて関西では百貨店の増床等の影響もあり消費の落ち込みは避けられた。

    3.東日本大震災の影響と日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率見通しを2011年度+0.5%、2012年度+2.0%と改訂した。震 災の影響で11年度は前回よりも-1.6%ポイントの下方修正であるが、プラス成長を維持する。成長率寄与度をみると、全国とは異なり民需と特に外需が引 き続き関西経済の成長の牽引役となる。
    公的需要は、被災地への重点配分により関西ではマイナス要因になる。

    4.今後の関西経済へのリスク要因の一つとして電力不足にともなう生産への懸念がある。
    7-9月に5%の電力供給減が生じたならば、関西のGRPは0.5%程度減少すると予想される。

    5.東日本大震災からの復興における関西の役割としては、①学術研究・イノベーション、②観光産業、③新エネ・省エネビジネスの3つの強みを活かした取り組みを進めることが必要である。

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  • 稲田 義久

    第6号「東日本大震災による被害のマクロ経済に対する影響」(2011.4.12)

    インサイト

    インサイト » 分析レポート

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 島 章弘 / 戸泉 巧

    ABSTRACT

    東日本大震災の直接的な被害額を推計し、3月18日発表の「日米超短期予測」にて推計した間接的な生産に対する被害額、関西経済への影響の結果とともに、政策レポート第6号としてとりまとめましたので報告いたします。

    PDF
  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2011年3月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    このたびの東北地方太平洋沖地震による被災者の皆様には、心よりお見舞申し上げます。一刻も早い復興と皆様のご健康を心よりお祈り申し上げます。
    3月11日に起きた東北地方太平洋沖地震、津波、原発事故の日本経済に与える影響について本格的に答えるのは時期尚早である。しかし、過去の自然 災害や破壊的な事件(先進国の事例では、1995年の阪神淡路大震災、2001年の米国同時多発テロ、2005年ハリケーンカタリナ等)についての歴史的 知識の蓄積は、今回の大地震の起こりうる影響について示唆を与えてくれる。これらの典型的なパターンとしては、発生後1ないし2四半期に大きな影響が発生 し、しかも被害は被災地域に集中することである。ただ国民経済全体のレベルで見ると、経済成長率への影響は目立つものの通常はそう大きくはない場合が多 い。
    しかし、今回、日本経済は短期的にも長期的にも大きなショックを受けることとなった。というのも、地震だけでなく、津波、原発事故も伴っており、影響は複雑であり損失は甚大である。日本経済・関西経済における影響を考える際に、以下のような論点が挙げられる。

    (1) インフラ、家屋、工場等の直接的被害
    (2) 労働力の喪失、工場等の操業停止、電力供給不足による生産の停滞とその影響の波及、パニック行動(風評被害・不要な買い溜め等)による物流の混乱等の間接的影響
    (3) 急激な円高と株安の進行
    (4) 関西経済への影響(関西に求められることを短期的・中長期的に考える)
    (5) 復興時における財政出動の規模と手法

    今回は、レポートの第一弾として、(2)と(4)を中心に検討する。今回の地震で、直接的な経済損失が特に見られるのは岩手県、宮城県、福島県、茨城県 の4県である。4県の県内総生産額(名目)は32.3兆円であり、全国の6.2%を占める。下表では東北4県の各産業のシェアと特化係数を示している。特 化係数は、各県の産業シェアを全国の同産業シェアで除して求められ、産業構造の特徴を他地域と比較することができる。特化係数が1を越えていると全国より シェアが高いことになる(表では1.5以上の産業を網掛けしている)。4県とも農林水産業の係数が高く、宮城県を除く3県では食料品製造業の特化係数も高 い。
    また下表は、特に被害の大きい市町村(以下では被災地域と呼ぶ)での生産規模を推計した結果である。ここでは、被災地域における従業者数の県全体に対す るシェアを算出し、これに各県各産業の生産額を乗じて、これを被害規模として推計した。被災地域の生産規模は総額8兆9,039億円となる。この金額は、 4県GRPの27.6%、全国GDPの1.7%に相当する規模である。これはすべての産業活動が1年間停止した場合に起こりうる被害規模である。先に見た ように、通常は発生後1ないし2四半期に大きな影響が発生するから、実際、その影響は全国GDPを0.5%?0.8%程度削減することになろう。

    震災の地域間への影響としては、地域間産業連関表による分析が有力である。実 際、地域間産業連関表(2005年ベース)によると、関西・東北間の経済取引額は約1.6?1.9兆円である(地域間産業連関表での東北は青森、岩手、宮 城、秋田、山形、福島が含まれる。茨城県は関東に含まれる)。関西経済における東北経済のウェイトおよび東北経済における関西経済のウェイトは1?3%程 度と、依存関係はさほど大きくない。東北における直接的な経済損失が各地域にどのような影響をもたらすか、地域間産業連関表の簡易分析ツールを用いた推計 結果を示す。ここでは簡単のために、茨城県の被害も東北地域に組み入れ、上述した被災地域の生産規模が全て東北地域で失われると考える。具体的には、東北 地域での消費・投資・輸出、および東北以外の地域での消費・投資における東北からの移入分について、それぞれ20%が喪失されると仮定する。なお20% は、東北6県と茨城県の生産額に対する被災地域の生産規模の比率である。
    このとき生産額ベースでは全国で11兆7,200億円(全国生産額の1.2%)、関西で5,854億円(関西生産額の0.4%)の損失、付加価値ベースでは全国で6兆0,198億円(GDPの1.2%)、関西で2,698億円(関西GRPの0.3%)の損失となる。

    以上われわれは、今回の東北地方太平洋沖地震の経済の与える影響を、インフラなどへの直接の被害を推計するというよりも、生産活動が停滞することからの生ずる滅失所得を2つの方法で推計した。直接の被害推計については不確実性が高く、今後の課題とする。
    得られた結論を再掲すると、(1)被災地域の滅失所得の直接推計規模は8.9兆円となる。この金額は、4県GRPの27.6%、全国GDPの1.7%に 相当する規模である。(2)地域間産業連関表を用いた分析では、全国GDPでは6兆円(GDPの1.2%)、関西GRPでは2,698億円(関西GRPの 0.3%)の損失となる。所得が失われる期間が半年としても日本経済(GDP)に与える影響は、0.6%?0.8%程度と推計できよう。
    [稲田義久、入江啓彰]

    日本
    <1-3月期の日本経済は震災の影響もあるが高成長を維持>

    今週の予測では、10-12月期のGDP(2次速報値)とほぼすべての1月のデータが更新されている。日本経済超短期モデルは、1-3月期の実質GDP成 長率を前期比+1.2%、同年率+5.1%と前回に引き続き高い成長率を予測している。また4-6月期については前期比+0.8%、同年率+3.4%と予 測している。
    これら予測についての最大のリスクは、3月11日に起こった東北地方太平洋沖地震の影響である(暫定的な日本経済や関西経済に与える影響試算については、 今月のトピックスを参照)。3月の月次データには影響が出てくるが、本格的な影響は4-6月期に表れる。現時点では4-6月期はプラス成長を予測している が、データが更新されるにつれて、マイナス成長の可能性は高まってくるであろう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.4%と好調である。1月の消費総合指数は前月比+0.6%、10-12月期平均 比+1.2%と大幅に伸びており、この影響を反映している。実質民間住宅は同+0.3%増加し、実質民間企業設備は同+2.9%増加する。実質民間企業在 庫品は1.481兆円と成長を押し上げている。在庫は情報通信機械、輸送機械、一般機械工業で上昇している。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公 的固定資本形成は同-0.2%となる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比+1.2%)に対する寄与度は+1.0%ポイントとなる。
    一方、純輸出をみれば、財貨・サービスの実質輸出は同+3.8%増加し、実質輸入も同+3.3%増加する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.2%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率+4.5%と予測している。また4-6月期を同+2.9%とみている。この結果、支出サイ ド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が+4.5%、4-6月期が+2.9%と堅調な回復を予測する。
    超短期モデルは予測に関して個人的な恣意性を完全に排除している。東北地方太平洋沖地震のような突発的な影響を予測では捉えることはできない。月次データ にその影響が反映されて初めて予測の変化として実現する。ただ、先行指標であるサーベイデータなどにおける変化を用いて家計消費などのへの影響を推計する こともできる。今後は、超短期予測と併用して予測を行いたい。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフにみるように、支出サイドと所得サイドの平均実質GDP伸び率は上昇トレンドを形成しており、米景気が堅調に拡大していることを示している。支出サ イドにおける実質GDPの伸び率が低いのは米景気拡大に伴い輸入が大きく伸びているためである。GDP以外の実質総需要、国内需要、最終需要でみても同じ ような上昇トレンドが形成されており、3月11日時点でこれらのアグリゲート指標からみた1-3月期の経済成長率は3%?5%と堅調である。
    このような景気拡大にもかかわらず、バーナンキ連銀議長は現在の非常に高い失業率からOutput Gap(需給ギャップ)が大きいと考え、これまでの異常なゼロ金利政策、QE2を継続していくように思われる。実際にそのように考えているいわゆる”ハト 派”の連銀エコノミストが多い。原油価格の高騰に対しても、大きな需給ギャップから、バーナンキ連銀議長はインフレ懸念を示していない。しかし、原油価格 による物価上昇はコストプッシュ型のインフレであり、デマンドプル型ではなく、需給ギャップとはあまり関係ない。バーナンキ連銀議長の言うとおり、連銀の 金融政策が原油価格に直接に影響を与えることはできないが、異常な低金利政策、ドル安がコモディティー価格の上昇に一部寄与していることは確かである。消 費者にとって、コストプッシュ型、デマンドプル型のどちらにせよ、インフレはインフレであり、彼らは物価上昇がおこればインフレ期待を生じさせる。このこ とは3月のミシガン大学の消費者センチメント調査で1年後のインフレ期待が2月の3.4%から4.6%へと大きく上昇したことからも理解できる。連銀のす べきことの一つはいかにインフレ期待の上昇を抑制するかである。3月15日のFOMCミーティングにおいて何らかの出口戦略がとられるべきであろう。
    確かに、需給ギャップの考え方は受け入れやすい。しかし、需給ギャップを計算するための潜在成長率の求め方がいろいろあることを考えれば、需給ギャップの 考え方が現実的かどうかの問題が残る。連銀が需給ギャップ理論に執着して金融政策を決定していけばインフレ抑制に手遅れになるだろう。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第9号(2011年3月2日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第9号(2011年3月)の概要は以下の通りです。
    1.関西2府5県の2008年度県民経済計算確報値によれば、関西の同年の実質GRP成長率は-3.2%であった。また大阪府民経済計算の早期推計 値によれば、大阪府の2009年度の実質GRP成長率は-4.2%と下落幅は大きかった。大阪経済は関西経済の約5割を占めており、2009年度の関西経 済の落ち込み幅は前年からの拡大が予想される。

    2.関西経済は、一時的な足踏み状態から緩やかな回復に帰する見込みである。景況感、生産などの月次データはこれまで一進一退で推移してきたが、足下・先行きに関しては回復を示すシグナルが多く出てきている。

    3.県民経済計算の最新データおよび日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率見通しを2010年度+2.7%、2011年度+2.1%、2012年度+2.0%と改訂した。

    4.成長率寄与度をみると、民需と外需が関西経済の成長の牽引役となる。2010年度は民需+1.7%pt、外需+1.0%pt、2011年度は民 需+1.3%pt、外需+0.8%pt、2012年度は民需+1.0%pt、外需+1.0%ptとなろう。公的需要は、経済成長にほとんど影響を与えな い。また2009年度の成長見通しは-3.6%に大幅下方修正されている。

    5.予測のベースラインに対して、海外経済の変動リスク、財政運営リスクが想定される。とりわけ関西経済は中国の動向に左右される。

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    『ズームイン奈良』(2011年6月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2010年度

    ABSTRACT

    (主査:稲田義久・甲南大学経済学部教授、高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)
    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加による研究会を組織し、稲田主査指導のもとマクロ計 量モデルによる景気予測を行なうとともに、高林主査指導のもと時宜に適ったテーマを取り上げ、特別研究を実施している。2010年度の特別研究は、遷都 1300年記念事業で当初計画の約1.7倍の集客があり全国的に注目が集まった奈良県に着目した。その強みと弱みについて分析した結果を、『ズームイン奈 良』と題した報告書にとりまとめ2011年6月に公表した。

    <要旨>
    (1)本研究では、関西経済に占めるシェアは5%程度と小さいものの、
    わが国最古の文化・歴史遺産を誇る奈良県の経済を分析対象として取り上げ、
    アンケート調査、ヒアリング調査、公的データ等の活用により、奈良経済の強みと弱みを分析した。

    (2)アンケート調査は2010年11月下旬、奈良県に居住する18歳?69歳の男女500名に対しウエブ方式で実施。
    消費や交通利用の実態、奈良県の強みと弱みに関する意識等の結果をとりまとめた。

    (3)これらアンケートやヒアリング等から導き出された奈良の強みと弱みは
    以下の通り。
    (奈良の強み)
    ・歴史と自然が調和した独自の観光資源を有する。
    ・優れた住環境(昼間人口比率は88.5%と関西で最も低い)で
    ゆとりある生活を享受している(1人当たり県民雇用者報酬は全国4位)。

    (奈良の弱み)
    ・需要を満たすだけの宿泊施設や飲食施設が不足し、集客の経済効果を
    享受できていない。
    ・交通の便が悪い。交通渋滞を引き起こしているほか、県南北間のアクセスを遮断し
    中部・南部の経済発展にマイナスの影響を及ぼしている。
    ・奈良県民の所得が大阪府など近隣へ流出。
    ・産業が脆弱(大規模立地可能な工場用地が不足、など)

    (4)アンケート結果を中心とする分析から、奈良県経済の抱える課題を克服し、強みを活かして関西全体の発展に役立てていくためには、(1)ブランド化と発信力の強化、
    (2)関西広域連携の視点、の2点が重要と指摘している。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2011年1月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    先月の本コラム『2011年の関西経済:「アジアの中の関西」を実感する元年』では、アジア経済、特に中国経済の関西経済にとっての重要性を強調した。そ れを裏付けるデータが1月20日に発表された。中国国家統計局によれば、2010年10-12月期の中国の実質GDPは前年同期比+9.8%となり、この 結果、2010暦年の実質成長率は+10.3%となった。3年ぶりの2桁成長であり、固定資産投資(特に公共投資)や輸出が高成長をけん引した。リーマン ショックの後遺症からなかなか抜け出せない日米欧経済とは対照的である。この高成長の結果、中国の名目GDP(39兆7983億元)のドル換算値は日本の それを追い越し世界第2位となるのは確実である。というのも、今月の日本経済超短期予測で示したように、10-12月期の実質成長率(実績は2月14日公 表予定)はマイナス成長が確実だからである。
    さて歴史を振り返ると、名目GDPでみて日本経済が旧西ドイツを抜いて世界第2位になったのは1968年であった。その2年後に大阪万博が開催され、さら に4年前の1964年には東京オリンピックが開催された。加えて、1972年に田中首相の『日本列島改造論』を引けがねとして地価が急激に上昇したことも 高度成長期に特徴的な現象であった。状況はよく似ている。2008年には北京でオリンピックが、2010年には上海で万博が開催され、そして名目GDPが 世界2位となる。またこの間、中国では不動産バブル現象も同時におこっている。
    中国の成長過程の状況は日本のそれと極めて似ているが、ただ異なるのは成長のスピードが日本の経験に比してはるかに急速であることだ。急速に所得が伸びる ため消費の伸びは追いつかない。貯蓄が増加し、それが投資に回り、成長の好循環を形成する。実際、中国のGDPに占める民間消費のシェアは極めて低い。米 国の7割、日本の5割強に比して3割強にとどまっていることから、今年からスタートする中国政府の第12次5ヵ年計画の最重要点は消費シェアの拡大におか れている。輸出主導から内需主導の持続可能な成長への移行を意図している。これは国内消費が伸び、海外からはマーケットとして重要性がますます高まる。
    世界の「工場」(輸出)から今や世界の「市場」(消費)に成長のドライバーは徐々に移行する。中国の1人当たりのGDPは日本の1/10の水準である。所 得水準の拡大は消費市場の高度化を推し進める。消費構造が高度化し、これからは耐久消費財やサービス支出の拡大が期待される。実際、中国の消費者物価指数 のウェイトにおいて、食品のウェイトは非常に高く、サービス支出のウェイトは低いのはこのことを反映している。GDPが世界第2位となった中国経済とどう 付き合うのか。答えの一つは中国の旺盛な消費需要を日本がどのように取り込んでいくかであり、これが日本の新成長戦略の重要なポイントとなる。

    日本
    <米国とは対照的な10-12月期日本経済の不振は一時的>

    予測動態のグラフの比較から明らかなように、10-12月期の米国と日本の成長パフォーマンスは対照的な結果となろう。今週の米国経済超短期予測によれ ば、実質GDP成長率は約4%(前期比年率)の高成長が見込まれている。一方、日本経済超短期予測(支出サイドモデル)は、同期の実質GDP成長率を、内 外需がともに縮小するため前期比-0.9%、同年率-3.4%と見込んでいる。もっとも、1-3月期の実質GDP成長率は、内需及び純輸出が反転拡大する ため、前期比+1.1%、同年率+4.3%と予測している。
    10-12月期の日本経済の景気のモメンタム(支出サイド、主成分分析モデル予測値平均)は11月の半ばから減速傾向を示し始めた。実質GDP成長率は 11月の終わりからマイナスの領域に入った。12月には-2%に低下し、10-12月GDPの基礎データの2/3が利用可能な1月半ばにはさらに-3%に まで低下した。これから発表される12月の月次データはせいぜい底打ちを示唆するものが増えると予想されることから、10-12月期のマイナス成長は -3%を超える可能性は低くない。
    10-12月期の低迷は、家電エコポイントの縮小やエコカー補助金の終了に伴う家計消費の反動減が主因である。同期の国内需要を見れば、実質民間最終消費 支出は前期比-0.6%のマイナス成長を予測している。実質民間住宅は同+2.3%と好調であるが、実質民間企業設備は同-0.3%と低調である。実質政 府最終消費支出は同+0.7%、実質公的固定資本形成は同-4.8%となる。この結果、国内需要の実質GDP成長率(前期比-0.9%)に対する寄与度は -0.8%ポイントとなろう。純輸出も景気押し下げ要因に転じる。財貨・サービスの実質輸出は同-2.8%、実質輸入は同-3.3%それぞれ減少する。こ のため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-0.1%ポイントとなる。
    主成分分析モデルは、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率-2.8%と支出サイドとほぼ同じ予測となっている。1-3月期は支出サイドモデルよ りは低いが同+1.7%とみている。この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率は、10-12月期が-3.1%、1-3月期 が+3.0%となる。今後海外経済が順調に回復すれば、10-12月期のマイナス成長は一時的な反動減にとどまり、2011年前半には日本経済は回復軌道 に戻るとみてよい。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフに見るように、超短期予測は景気(実質GDP前期比年率:2010年10-12月期)が11月に入り上向き初め、11月後半には3%を超え景気回復 にモメンタムがついていることを示している。しかも、12月後半においてからは支出・所得両サイドからの平均実質GDP伸び率は5%を超えるようになっ た。しかし、企業の在庫積み増しがここにきて急速にスローダウンしてきたことから、10-12月期の実質GDP成長率は4%程度であろう。連銀は 11月2日、12月14日のFOMCコメントにおいても景気回復のモメンタムを認めようとはしていない、いや気づいていないのかも。やっと、1月7日の上 院の予算委員会の証言においてバーナンキ連銀議長が景気回復の強さを認めるような発言をした。しかし、いつものごとく高い失業率に言及し、失業率を十分に 下げるだけの景気回復ではないと主張し、未だ続けている異常な低金利政策を暗示的に正当化し、その出口政策へのヒントを与えてはいない。彼は失業率が8% 程度にまで下がるにはあと2年はかかると言い、正常な水準に戻るには5年以上かかると言っている。連銀は最大雇用と物価安定の2つの目的を常に課せられて いる。しかし、金融政策一つで2つの目標を同時に達成することは理論的にも不可能であり、課せられた目的のバランスをとりながら金融政策を適宜変更してい くことが重要である。失業率が9%を超えていようが、景気回復にモメンタムがつき、経済成長率が潜在成長率程度になったにもかかわらず、遅行指標の失業率 に執着し、将来のインフレ抑制への対策をないがしろにすれば、米国経済はインフレ加速という将来大きな損失をこうむる。
    このことを従来から懸念していたカンザスシティー連銀のトーマス・ホーニング総裁に加え、今ではフィラデルフィア連銀のチャールズ・プロッシー総裁、 リッチモンド連銀のジェフリー・ラッカー総裁もこれまでの金融政策の見直しに言及し始めた。連銀エコノミストたちは一体経済成長率がどのくらいの高さにな り、失業率がどの程度にまで下がれば今の異常な低金利政策を変更し始めるのだろうか?バーナンキ議長をはじめ連銀エコノミストたちは、日本経済の長期停滞 をデフレが原因としてあまりにデフレ恐怖症に陥り、不必要なペシミズムに陥っている。不必要あるいは間違ったペシミズムは根拠なきオプティミズムより悪 い。後者は時間があまりたたずにその間違いが分かるが、前者はその間違いに気づくのに長い時間がかかる。たとえば、潜在成長率を高めに想定し、金融緩和策 をとればインフレの加速化がすぐに始まる。しかし、潜在成長率を実態より低めに捉え、金融引き締めを続ければその間違いは簡単にはみつからない。むしろ、 そのようなペシミズムに基づいた経済・金融政策は悲観的な心理を人々の間に生じさせ、景気回復を遅らすばかりか、その芽を摘み取ってしまう可能性もある。
    米国経済が本格的景気回復に戻っている今、連銀は景気回復の良い面を強調し、いまや景気回復の腰を折ることなく正常な金利水準に戻る時期に来たことを市 場に告げるべきである。連銀は失業率に執着し過ぎたことから正常な金利水準に戻るための出口を見失っている。1月25日、26日のFOMCで金融政策の変 更が示唆されなければ、将来のインフレ懸念が市場に生じるだろう。

    [[熊坂有三 ITエコノミー]]

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    「関西における観光、環境、医療の産業分析調査 3分野の“新”近畿産業連関表」(関経連委託調査)(2011年10月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2011年度

    ABSTRACT

    2011年8月に関西経済連合会の委託調査として「観光」「環境」「医療」の3分野を含む新しい近畿産業連関表を当研究所オリジナルモデルとして作成・公表しました。
    今般、生産額を一部更新したことに伴い、産業連関表のリバイズ版を作成しました。

    併せて、“新”産業連関表を用いた経済効果の試算例として取り上げた京阪神の
    3つのマラソン大会の経済効果についてもリバイズしています。
    今後も、“新”産業連関表の分析については引き続き内容の向上に取組んでいく予定です。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年12月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済のGDP(域内総生産)の規模はオランダ一国並みのおよそ80兆円、日本の中では約17%経済である。2010年度の関西経済の実質成長率は+2.6%と前年度見込み-1.3%から3年ぶりのプラス成長と予測(最新予測についてはhttp://www.kiser.or.jp/ja/trend/forecast.htmlを 参照のこと)している。関西経済は、全国と同様、政策動向に大きく影響を受けた1年であったといえよう。住宅版エコポイントの効果は来年も期待できるが、 エコカー補助金は9月初旬に終わり、家電エコポイントも徐々に限定的となり2011年3月末には終了する。一方、家計消費を抑制するたばこ税増税が10月 から実施された。
    先行きについては、このような政策変更に伴う複数の駆け込み需要とその反動減などで家計消費が乱高下し、景気の基調が読みづらい状況である。足下減速しつ つある海外経済は、2011年央にかけて拡大経路に復する。そのため、関西経済はその恩恵を受け景気後退を回避することができ、二番底には陥らないであろ う。
    さて2011年の関西経済を一言でいえば、「アジアの中の関西」を実感する元年となるであろう。中小企業、学生・・・どんな関西人でもアジアを意識せざる をえない年となろう。本コラムで、何度も指摘しているように、IT化によるグローバライゼーションで“要素価格の均等化”が進行しつつある。例えば、簡単 なパンフレットやレストランのメニューを作る町の小さな印刷屋さえ、中国の印刷屋と競争をせざるを得なくなった。日本の印刷屋が中国の印刷屋と同じものを 作る限り、品物の価格は下がり、賃金も下がらざるをえない。これはデフレではなく、グローバライゼーションによるものである。その変化に適応した、ビジネ スモデルの導入とそれを促す経済政策が必要なのである。就活する学生もアジアの学生との競争を意識し、語学の重要性を感じ始めている。
    特に関西はアジア向けの輸出の比重が全国の平均よりも抜きん出て高い。しかし、アジア向けの製品は、韓国や中国に競争されやすいものを輸出しており、これ からは、付加価値を強く意識したものを作っていかないと関西経済の未来はない。逆に成長著しいアジアマネーを取りこむことが重要である。関西の成長戦略の 一つとしてツーリズムが有望な候補の一つであることは周知の事柄であり、そのためには関西は魅力的でなくてはならない。
    ミクロ的な例で言うと、大阪ではオフィスビルの大量供給が2010年にピークを迎える(図参照)。一方で、リーマンショックと重なったため空室率は大幅に 上昇している。2013年にはさらなる大量供給が控えているが、これを関西活性化につなげるためには、関西を魅せる戦略が決定的に重要となる。来年5月に JR大阪駅に高層のノースゲートビルが完成し、また北ヤードでは先行開発区が2013年春完成を目指して動き出す。この北ヤードの2期開発区域について は、橋下大阪府知事が森を、平松大阪市長はサッカー場を提言されているが、関西最大のターミナルに他地域から、海外ではアジア人がリピーターとしてきてく れるためには何が必要かという視点が決定的に重要と思われる。その意味で、2011年は関西人がアジアを強烈に意識する元年といえるのではないか。

    日本
    <マイナス成長に突入した10-12月期日本経済>

    12月9日発表の7-9月期GDP2次速報値によれば、実質GDP成長率は前期比+1.1%、同年率+4.5%となった。1次速報値の同+3.9%からの 上方修正である。上方修正の主要因は民間企業設備と民間企業在庫品増加である。今回は、通常の1次速報値から2次速報値にかけての修正に加え、包括的な データ改訂が行われた。すなわち、2008年度のデータが確報値から確々報値に、2009年度のデータが速報値から確報値に改訂された。その結果、足下6 四半期が上方修正に、一方、リーマンショック後の2四半期(2008年10-12月期及び2009年1-3月期)が大幅に下方修正された。2008年度と 2009年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.8%と-1.8%から-4.1%と-2.4%にいずれも下方修正された。包括的なデータ改訂からわ かったことは、リーマンショックはいかに日本経済に大きな影響を与えたかである。
    さて景気の足下はどうであろうか?今週の予測では、一部の11月のデータとほとんどの10月のデータが、また7-9月期の2次速報値が更新されている。支 出サイドモデルによれば、10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率-1.1%、一方、2011年1-3月期の実質GDP成長率を同+4.0%と予測 している。10-12月期は11月の見通しから下方修正され、成長率はマイナスが避けられないようである。結果、2010年度の成長率は+3.6%となろ う。
    10-12月期実質GDP成長率への寄与をみると、内需は成長を引き下げるが外需は小幅成長に寄与する。内需のうち、実質民間最終消費支出は政策の反動減 の影響で前期比-0.2%となる。実質民間住宅は同+2.7%増加するが、民間企業設備は-0.6%減少する。実質政府最終消費支出は同+0.7%増加す るが、実質公的資本形成は同-1.9%減少する。外需を見れば、実質財貨・サービスの輸出は同-4.2%低下し、実質輸入は同-6.6%減少する。いずれ も減少するが純輸出は小幅の成長貢献となる。
    主成分分析モデルも、10-12月期の実質GDP成長率は同-3.0%、1-3月期は同+1.2%と予測している。この結果、両モデルの平均成長率予測は10-12月期が同-2.0%、1-3月期が同+2.6%となる。10-12月期の落ち込みは一時的となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    11月後半から12月後半にかけて発表された経済指標から市場は景気回復に対してかなり楽観的になった。しかし、11月の雇用増(純)が市場の予想を大き く下回ったことから、せっかく高まってきた景気回復への楽観的な見方に水をさす形となった。特に、失業率が職を求める人々が増えたにせよ、10月の 9.6%から9.8%へと上昇したのがいけない。連銀は追加的数量緩和政策により積極的になり、バーナンキ連銀議長は米国債買い入れ額が6,000億ドル を超える可能性も示唆している。
    連銀が異常な金融緩和を続けるロジックは次の通りである。(1)失望的に低い物価上昇率、デフレ懸念、(2)今の失業増加は構造的なものではなく、循環的 なもの(11月2?3日FOMCの議事録参照)。それゆえ、一層の金融緩和で景気を良くして、連銀に課せられた2つの目標(物価の安定と完全雇用)を達成 しようとするものである。残念ながら、連銀のロジックには(日銀と同じような)誤りがあるように思われる。PCE価格デフレーター、コアPCEデフレー ターでみた現在の物価上昇率は0%?1.5%と失望的に低い水準ではない。むしろ、IT革新による生産性の向上、サーチコストの劇的な低下、グローバル化 による低価格製品の供給を考慮すれば、当然の低物価上昇率であり、デフレ・インフレ懸念のないパーフェクトな物価状況である。一方、失業の増加には構造的 な面が強い。すなわち、企業は一旦解雇した労働者を景気が回復してきても再び雇用せずに、IT化をすすめることでかなり対処することができるからである。 すなわち、連銀はプラス効果の少なく、将来のマイナス効果の大きい異常な低金利政策を維持している。おそらく、カンザス・シティー連銀のトーマス・ホーニ ング総裁の考え方が正しいと思われる。
    グラフに見るように、今期の経済成長率は11月に入りかなり急速に改善をし始め、今では3%?4%にまで達しており、米経済は堅調な景気回復状況にある。このような状況で異常な低金利政策を続けても、急速に失業率が低下するわけではない。
    すなわち、今金融政策のできることは限られている。後は、財政政策などに任せ、今の安定した物価に重点をおいた金融政策を行うことが重要である。短期的に は、富裕層も含めたブッシュ減税政策の延長をできるだけ早く民主党が受け入れることである。長期的には、経済のITによるグローバル化に対処できるイノ ベーションを促進する経済政策が求められる。経済はITにより大きく変わっている。それに対応するスペシフィックなミクロ経済政策が求められているのであ り、異常な低金利政策をいつまでも続けても、将来への悪影響をもたらすだけである。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第8号(2010年12月3日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第7号(2010年12月)の概要は以下の通りです。

    1.足下の関西経済は、回復を支えてきた2つの外生要因が後退したため、足踏みの状態が続いている。すなわち、政策効果の縮小と海外経済の減速が景気押し下げ要因に転じている。

    2.先行きについては、政策変更による複数の駆け込み需要と反動減などで家計消費が乱高下しており、基調が読みづらくなっている。足下減速しつつある海外 経済は、2011年央には拡大経路に復する。そのため、関西経済はその恩恵を受けて景気後退を回避することができ、二番底には陥らないであろう。。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.6%、2011年度+1.6%、2012年度+1.4%と予測した。補正予算の効果を反映したため、前回予測より上方修正である。

    4.2010年度の成長率寄与度をみると、民需が+1.3%ポイント、外需が+1.1%ポイントと、バランスよく関西経済の成長を支える。2011年度の 民需の寄与度は+0.8%ポイント、2012年度+0.9%ポイントと緩やかな伸びとなる。外需の寄与度は2011年度+0.5%ポイントと前年より減速 するが、2012年度+0.9%ポイントまで回復する。

    5.補正予算が実施されることで、関西経済の実質GRPは2010年度0.45%、2011年度0.51%押し上げられる。しかし、補正予算の下支えが消滅する2012年度は0.03%押し上げにとどまる。

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    関西エコノミックインサイト 第7号(2010年9月1日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第7号(2010年9月)の概要は以下の通りです。

    1.足下の関西経済は、政策効果による民需の持ち直しと、海外経済の持続的成長による外需のけん引で、緩やかな回復基調が続いていた。しかし先行きについては、不透明感が増している。というのも、これまで回復を支えてきた二つの要因に足踏みが見られるためである。

    2.すなわち、①政策の変更による駆け込み需要と反動減などで家計消費の見通しが不安定であること、②順調に回復すると見られていた世界経済の先行きが米国経済や中国経済の減速で不安定になってきたことである。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.0%、2011年度+1.4%と予測を改訂した。2010年度の成長率寄 与度は、民需が+0.9%ポイント、外需が+1.1%ポイントで、これらがバランスよく関西経済の成長を支えるが、2011年度はやや外需の寄与が減速す る。

    4.外需の動向は関西経済にとって重要であり、円高の進行は景気の先行きに対して大きなリスクとなる。また株安は金融資産を目減りさせ、家計消費を縮小す るおそれがある。今後さらに両者が進行した場合には、関西経済の実質GDP成長率は2010年度、2011年度ともに0.4%ポイント押し下げられる。

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    マクロモデル研究合宿を開催(2010年3月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2009年度

    ABSTRACT

    テーマ:日本経済財政中期モデルの開発ならびに関西経済予測モデル(2010年版)の検討
    開催日:平成22年(2010年)3月11日(木)?13日(土)
    会 場:兵庫県豊岡市城崎町 まつや会議室

    今回の研究合宿は、関西社会経済研究所に設置された計量モデル研究会の活動の一環であり、日本経済財政中期モデルを新規構築するためのキックオフミー ティングとして実施された。当研究所は、1976年から短期モデルによる日本経済の四半期予測(短期予測)を公表しているが、近年は、税財政改革等の中期 的な経済問題への対応の必要性が高まっていた。そこでこの度、マクロ経済部門と財政部門の中期見通しおよび政策シミュレーションを目的とする、日本経済財 政中期モデルの構築を開始することとした。

    2010年3月11日(木)
    当研究所が管轄する複数の経済モデルについて、分析対象や分析期間、モデルの目的等の比較・検討が行われた。そのうえで高林主査からは、「財政の持続可 能性を明示化するのであれば、日本が高齢化のピークを迎える2025年ごろが重要なターゲットになる。そのためにはモデルのシミュレーション期間は 2030年ごろまでがよいのではないか」という意見が出された。
    また、稲田主査からは参考文献として、環境政策分析用に開発された3Eモデルの概要が説明された。3Eモデルはオーソドックスなマクロ計量モデルにエネ ルギーバランス表とエネルギー需要ブロック、国内エネルギー価格ブロックが接続されており、原料価格やエネルギー税率、炭素税、エネルギー技術改善のシ ミュレーションが可能なモデルである。中期予測を前提としたモデルであるため、サブブロックとの直接手法を含め、本研究会が目指す中期モデル構築の参考と なると思われる。

    2010年3月12日(金)
    午前中は、当研究所が四半期ごとに公表する「関西エコノミックインサイト」の基盤となる、関西予測モデルについて議論が行われた。特に、モデルを構成す る方程式のうち、輸出関数の改訂が主な議題となった。アジア経済との結びつきを深める関西経済の特色を考慮し、輸出関数の説明変数をどのように設定するか について活発な意見交換がなされた。高林主査からは、「アジアで部材を組み立て、最終財を米国に輸出するという経路を考慮すると、対アジア輸出関数(除く 中国)の所得変数としては米国のGDPを追加するのはどうか」という提案がなされた。
    なお、今回は中国、中国除くアジア、アジア除く世界をそれぞれ被説明変数とした場合の輸出関数の修正が行われた。これらの輸出の所得弾力性については、 後日、当研究所が公表する「日米中超短期予測(3月見通し)」および「エコノミックインサイト6号」で解説が行われる予定である。
    午後からは下田委員が合流し、再び日本経済財政中期モデルについて議論がなされた。稲田主査からは、2003年に公表された電力中央研究所による財政モ デルの概要が説明された。内生変数が89本と中規模であり、制度の正確性も担保されていることから、本研究会が目指す日本経済財政中期モデルの財政ブロッ ク部分の参考となると思われる。特に、一般政府の部門別所得勘定表の説明は、SNAによる財政部門の理解には欠かせないものであった。
    最後には、研究会として中期モデルのワーキングペーパーを1本完成させること、8-9月ごろをめどに一旦中期モデルを確定させることなどが確認された。
    (文責 武者)

     

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    関西エコノミックインサイト 第6号(2010年6月3日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第6号(2010年6月)の概要は以下の通りです。
    1.関西経済は、緩やかではあるが堅調な回復の動きを見せている。これには、アジア経済の堅固な成長に支えられた外需の貢献が大きい。また、民間部 門も引き続き政策効果に下支えされ、堅調に推移している。これまで低調であった住宅市場や雇用情勢についても、ようやく底打ちの気配が見られる。

    2.このように回復の途を辿りつつある関西経済であるが、府県別にみると回復の様相は一様ではない。鉱工業生産指数をみると、産業構造の違いから、落ち込み幅や生産の谷の時期が各府県で異なる。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2010年度+2.4%、2011年度+1.3%と予測する。政策効果による民間需要と、順調に回復している域外経済(外需)が関西経済を牽引する。しかし2011年度には、その勢いはやや減速するであろう。

    4.標準予測に加え、ギリシャの債務問題が世界経済に“伝染”するというリスクシナリオのシミュレーションを行った。このケースによれば、関西の輸出は 0.39%、関西のGRPは0.05%引き下げられる。この結果から、EU問題の関西経済への影響は極めて限定的であると判断できる。

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2010年3月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西経済にとって益々アジア経済、特に中国経済の重要性が高まりつつある。リーマンショック以降、2四半期連続の2桁マイナス成長の後、日本経済は外需 (海外市場)の回復に支えられて緩やかな回復局面にある。輸出市場として、新興国市場、特に中国を中心とするアジア経済の役割は非常に大きい。当研究所が 四半期ごとに発表する「関西エコノミックインサイト」において、関西予測モデルに基づいて関西地域の総生産(GRP)やその構成項目の短期予測を公表して いる。同時期に公表される日本経済の予測と比較して、民間企業設備や輸出が全国に比して強く出るというのが最近の特徴であった。今月のトピックスでは、関 西予測モデルの輸出関数に注目して、関西の輸出構造の特徴を見てみよう。
    まず地域別の輸出のシェアを全国と関西とで比較しよう。2008年度の通関輸出をみると、全国ベースで、アジア、中国、米国、その他地域のシェアは、そ れぞれ50.0%、16.5%、17.0%、33.0%となっている。関西ベースでは、それぞれ60.6%、20.5%、12.6%、26.8%となって いる。関西では輸出市場としてアジアのウェイトが全国に比して10%ポイント程度大きいのである。2009年度ではさらに拡大していることが予想される。 また中国市場のウェイトは全国に比して4%ポイント大きくなっている。
    関西予測モデルの輸出関数(GRPベース)では、所得変数としては中国、米国、EUの実質GDPの加重値を採用してきたが、輸出関数は地域別に分割して いなかった。今回、アジア、中国の重要性を考慮して、輸出関数を地域別に推計した。推計期間は1980-2006年度である。輸出関数は、通常、所得弾性 値と価格弾性値によって特徴づけられる。所得変数は輸出相手国の実質GDP、価格変数は世界輸出価格と日本の輸出価格の相対比である。なお、対アジア輸出 関数(中国以外)の所得変数として米国の実質GDPを採用しているのは、アジアで部品を組み立て、最終財を米国に輸出するという経路を考慮しているためで ある。また、その他地域では、所得変数として米国とEUの実質GDP加重値を採用している。
    下表が推計結果の要約である。これまで使用してきた関西の輸出関数(対世界)では、所得弾力性が1.196、価格弾力性が-0.298となっている。輸 出関数を中国、中国以外のアジア、その他地域(アジア以外)に分割すると、所得弾性値は、1.964、1.101、0.380とそれぞれの国や地域の成長 率の高さに対応した値となっている。また、価格弾性値も中国(-0.783)と中国以外のアジア(-0.869)ではよく似た値をとるが、その他地域では 低い弾性値(-0.190)となる。このように、輸出関数を関西にとって重要な地域に分割することにより、中国財政政策の関西経済に与える影響といった、 より現実に即したシミュレーションが可能となる。(稲田義久)

    日本
    <1-3月期の予測は対照的:超短期vs.コンセンサス予測>

    3月15日の予測では、3月の第2週までの月次データと2009年10-12月期GDP統計(2次速報値)を更新している。この結果、2010年1-3 月期の実質GDP成長率を支出サイドモデルは前期比+1.2%、同年率+5.0%と予測している。内需と純輸出がともに拡大するバランスのとれた成長と なっている。また4-6月期を同年率+2.9%と見ている。
    3月11日に発表されたGDP2次速報値によれば、10-12月期の実質GDP成長率は同年率+3.8%となり、1次速報値の+4.6%から0.8%ポ イント下方修正された。下方修正の主要因は民間在庫品増加の下方修正である。1次速報値では民間在庫品増加の実質GDP成長率に対する寄与度(年率) は+0.3%ポイントであったが、2次速報値では-0.6%ポイントへと下方に修正された。すなわち、民間在庫品増加の変化(-0.9%ポイント)が実質 GDP成長率の下方修正を説明していることになる。たしかに成長率は下方修正されたものの、一段と在庫調整が進んだという意味では、先行き見通しにとって は明るい材料である。
    さて、問題の先行きの見通しである。2次速報値発表前の3月9日に発表されたマーケットコンセンサス(3月ESPフォーキャスト調査)によれば、1-3 月期の実質GDP成長率は前期比年率+1.17%となっており、超短期予測に比べ非常に悲観的な見方となっている。グラフからわかるように3月8日以降、 超短期予測は+2%から+4%?+5%にシフトしてきている。
    上方シフトの主要因は、実質民間最終消費支出の予測が上方修正されたことによる。実質民間最終消費支出をよく説明する消費総合指数は、1月に前月比 1.0%増加している。一方、消費総合指数よりカバレッジの狭い全世帯実質消費支出は同-1.3%減少している。反対の結果となっている。マーケットコン センサスは全世帯実質消費支出の結果に影響されているようである。カバレッジの広いデータでみる限り、依然として実質民間消費は政策効果に支えられて堅調 なようである。2-3月の動向次第であるが、現時点では、日本経済に対して悲

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    3月12日の予測では、3月の第2週に発表された2月の小売業、1月の貿易収支、企業在庫などを更新している。超短期予測モデルは2010年1-3月期の米国実質GDP成長率を前期比年率+1.7%、4-6月期を同+1.6%と予測している。
    米景気は緩やかに回復しているが、その成長率はせいぜい2%程度である。1-3月期の景気回復をもたらす主な要素は個人消費支出である。賃金・俸給が伸 び始めたものの2%程度(同)であり、一方、実質個人消費支出の伸び率は3%程度(同)が予想されている。このように、給与の伸びを上回って、個人消費支 出が伸びる背景には家計の純資産の回復がある。
    家計の純資産は今回のリセッション前のピークには65.9兆ドルにまで拡大したが、2009年1-3月期には株価・住宅価格の下落から48.5兆ドルに まで減少した。しかし、昨年の3月以来の株式市場が上げ相場(bull market)に転じることにより、純資産は2009年4-6月期、7-9月期、10-12月期とそれぞれ前期比4.5%、5.5%、1.3%増加し、 10-12月期末には54.2兆ドルにまで回復した。ピーク時の純資産の水準に戻るまでまだ21%上昇しなければならないが、このような純資産の回復が個 人消費支出の3%程度の伸び率に寄与しているといえよう。
    個人消費支出が今後も堅調に伸びるかの一つの鍵は、株式市場の上げ相場がどのくらい長く続くかである。上げ相場の始まった2009年3月9日より1年間 で、ナスダック、SP500、ダウの株価指標はそれぞれ85%、69%、61%上昇した。過去15回の上げ相場の平均継続年数は約4年と長く、2年以下で 終わった時は3回しかない。幸いにも、株価の上昇にとって最もネックとなる”インフレの加速化”、”金利の上昇”は当分みられそうもない。このことから、 上げ相場の継続には幾分楽観的になれる。しかし、なんといっても、景気回復が本格的な軌道に乗るためには、”雇用増?所得増”の好循環が始まることであ る。すなわち、米国経済は未だ自律的な景気回復には至っていない。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第5号(2010年2月25日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第5号(2010年2月)の概要は以下の通りです。

    1.2009年10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.6%で3四半期連続のプラスとなった。関西経済もまた、緩やかではあるが回復の兆しを見せつつある。ただし政策効果と海外経済の復調による回復であり、持続性には疑問符がつく。

    2.アジア経済の堅固な回復によって外需は好調である。その結果、生産の回復のペースは緩やかながら全国を上回っている。家計部門は、所得環境の悪化や消 費者心理の停滞にもかかわらず、政策効果で下支えされている。企業部門は、外需という追い風はあるものの、依然設備と雇用の過剰感に直面しているため、雇 用情勢の急速な改善は期待できない。

    3.日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2009年度 -2.8%、2010年度同+1.8%、2011年度同+2.0%と予測した。前回予測から2009年度は0.6%ポイントの上方修正となった (2010,2011年度は大きな修正はない)。修正の主要因は、より具体性を増した政策効果の反映である。2010年度以降の関西経済の成長を支えるの は民間需要と外需である。

    4.民主党政権の経済政策の効果は、関西の実質GRPを2009年度0.02%、2010年度0.21%、2011年度0.10%引き上げる。2010年 度以降は、子ども手当の支給など本格的に新政策の効果が表れるが、政府支出の削減と相殺され、関西経済に対する影響は相対的に小さい。

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    「第81回 景気分析と予測」および「関西エコノミックインサイト 第4号」(2010年1月20日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    「関西エコノミックインサイト」については、関西経済現況の解説と、計量モデルによる将来予測を実施し、原則四半期ごとに発表している。関西経済の予測に あたっては稲田教授および高林教授の監修を得て、当研究所が独自に作成した地域マクロ計量モデル「関西経済予測モデル」を用いており、「景気分析と予測」 の日本経済予測と連動している。

    今回は昨年12月に閣議決定された2010年度予算を織り込み、日本経済(2009/11/26公表)及び関西経済(2009/12/7公表)の予測をそれぞれ改訂している。

    ポイントは以下の通り。

    * 前回予測からの修正点‥‥実質GDP成長率(二次速報値)は、前期比年率+1.3%となり、一次速報値(+4.8%)から大幅下方修正された。また 2009年度二次補正予算および2010年度予算案が閣議決定したことに伴い、政策効果の規模および内容の見直しを行った。

    * 日本経済の改訂見通し‥‥最新予測では、日本経済の09年度実質GDP成長率を▲2.6%、10年度+1.6%、11年度+1.9%と予測する。09年度 はGDP速報値改訂の影響、2010年度は予算の影響を受けている。予測の方向は、実績データが大幅下方修正されたにもかかわらず、大きな変化はない。

    * 関西経済の改訂見通し‥‥関西経済については、09年度実質GDP成長率を▲3.4%、10年度+1.8%、11年度+2.1%と予測する。2009年度 は、公共投資の規模の見直しを行った影響と外需の下押しの影響で日本経済よりも低い成長となる。2010年度・2011年度は、民需の寄与は日本経済より も小さいが、外需が成長を押し上げ、日本経済よりもやや高い成長率となる。

    * 前回予測から予算規模の見直しを行った結果、民主党政策によって、日本経済の実質GDPは2010年度0.09%、2011年度0.12%引き上げられ る。「コンクリートからヒトへ」の政策効果は色濃く出るが、景気拡大の効果は小さい。関西経済の実質GRPに対しては、個々の効果が相殺され、ほとんど影 響をもたらさない。関西経済は家計に対する所得支援中心の民主党の政策の影響が、他地域よりも出にくいという特徴がある。

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    関西エコノミックインサイト 第3号(2009年12月7日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第3号(2009年12月)の概要は以下の通りです。

    1. 2009年7-9月期の実質GDP成長率は前期比年率+4.8%(1次速報値)となり、民間予測を大幅に上回るプラス成長となった。これを受けて当研究所では日本経済の成長率を2009年度-2.3%、2010年度+1.4%、2011年度+2.0%と予測した。

    2. 関西経済の月次指標をみると、生産や輸出を中心に回復は著しいものの、その持続性については不透明である。生産指数などの水準は、未だリーマン・ショック 前の8割程度であり、これまでの景気回復のモメンタムは減速しつつある。次年度前半には二番底の懸念さえあり、今後の動向に留意が必要であろう。

    3. 日本経済の最新予測を織り込み、関西の実質GRP成長率を2009年度 -2.3%、2010年度同+1.6%、2011年度同+2.3%と予測した。前回から2009年度は0.2%ポイント、2010年度は0.8%ポイント 上方修正した。今回の予測には、民主党政権の政策の影響と外需の回復が新たに織り込まれている。

    4. 民主党政権の経済政策の効果をみれば、2009年度の関西経済(実質GRP)を0.16%引き下げる。これは2009年度補正予算の事業執行が一部停止さ れる影響である。2010年度以降は、子ども手当の支給など本格的に新政策の効果が表れるが、政府支出の縮減と相殺され、2010年度以降の関西経済に対 する影響はほとんどない。

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    リ・アクティブ 関西ビジョンDISTRICT(地区)中心による都市創生の提案(2009年12月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2009年度

    ABSTRACT

    財団法人関西社会経済研究所(会長:下妻博関西経済連合会会長)では、アメリカ都市における有力な都市再生政策である、District(地区)に主眼を おいた都市の賦活策に着目し、ニューヨーク、クリーブランドといった都市におけるBID(Business Improvement District)やCDFI(Community Development Financial Institutions)などの制度・組織・資金等、エリア・マネジメントに関する一連の取り組みを調査しました。

    そこで、これらの調査を踏まえて関西の都市創生を展望するうえで、大阪の都心をモデルに現状の課題を捉えつつ、大阪の都市創生のポテンシャルを読み解き、 その賦活策として、大阪版BIDシステムの導入により大阪・ミナミを再び劇場地区(Theater District)として再構築するなど、大阪に様々 な個性ある地区(DISTRICT)を核として、重層的な大阪の都市イメージの強化をはかり、自律的なエリア・マネジメントが実行しうるサイクルを生み出 す政策へと転換していくことを提案すべく、「リ・アクティブ 関西ビジョン?DISTRICT(地区)中心による都市創生の提案?」を発表しました。
    fig.ミナミ劇場地区のイメージ

    fig.大阪都心で展開される地区(District)中心の都市創生のシナリオイメージ

    関西社会経済研究所「都市創生」研究会メンバー
    主 査:嘉名 光市 大阪市立大学大学院工学研究科都市系専攻准教授
    委 員:矢作  弘 大阪市立大学大学院創造都市研究科教授
    委 員:金  淳植 大阪市立大学都市研究プラザ特別研究員