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「中国経済」の検索結果 [ 5/5 ]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年4月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか?>

    関西経済予測のアウトライン:2009-2010年度
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。今回われわれは、日本経済予測と整合的な形で、関西経済についても予測を行った。ベースラインを要約すれば、以下の様である。
    関西の実質GRP成長率は2009年度▲3.2%、2010年度+0.7%と予測する。第77回景気予測では、日本経済の実質GDP成長率について 2009年度▲3.7%、2010年度+1.5%と予測されていることから、関西経済は、日本経済と比較して落ち込み幅は緩やかに留まるが、回復局面では スピード感に欠く、といった予測のストーリーである。
    需要項目の中で、特徴的な予測結果となっているのは企業設備投資である。2009年度▲13.6%、2010年度▲0.8%と予測している。ただし、大阪湾ベイエリア地域での環境関連投資が進めば、上ぶれする可能性があることに注意しておこう。
    関西経済にとっての中国の役割
    また、輸移出については、2009年度▲2.6%、2010年度+1.6%と予測している。関西の輸出においては、アジア、特に中国が大きな役割を担っ ている。ここで、関西における輸出構造を中国を中心に確認しておこう。下図は2008年における関西の輸出相手地域のシェアを示したものである。関西の輸 出16.5兆円のうち、アジアは約10兆円で6割を占めており、特に中国はその3分の1(3.3兆円)を占めている。中国に対する輸出を品目別にみると、 電気機器や原料別製品といった品目の割合が高い(それぞれ32.1%、19.4%)。一方、輸送用機器はあまり輸出されておらず、ウェイトが低い (1.0%)。

    中国の財政刺激策の大きさ
    最近、中国の財政刺激策にスポットライトが当っている。ただし、財政規模4兆元が一人歩きをしている感がある。この規模の財政刺激策が実現した場合、ど の程度の経済拡張効果があるか見てみよう。2008年の名目GDPが30.067兆元であるから、4兆元は13.3%に相当する規模である。仮に乗数(国 民所得の拡大額÷有効需要の増加額)を1.5とした場合、6兆元の追加的な需要となり、名目GDPを約20%引き上げるという計算になる。
    ここで注意が必要である。意外と看過されているのは、この財政支出期間が2年を目処にしており、一部は昨年末から前倒しされていることである。なかには 単年度で4兆元が支出されてその効果を計算していると読める分析もある。それにしても、4兆元が仮にすべて真水として支出された場合、1年間で名目GDP を最大約10%押し上げる効果をもつと考えてよい。
    中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか
    われわれは関西経済の予測とともに、中国経済の実質成長率がベースラインから加速した場合、関西経済に与える効果(中国経済高成長ケース:シミュレー ション1)を計算している。ベースラインでは中国の実質GDP成長率を2009年+6.2%、2010年+8.3%と想定しているが、これが両年にわたっ て8.5%にシフトアップするケースをシミュレーションしている。
    シミュレーション結果によれば、中国経済が政府の目標に近い成長率(ここでは8.5%)を実現できた場合、関西経済の輸出を2009年度0.3%、 2010年度0.42%拡大するにとどまる。金額(2000年実質価格ベース)にして、それぞれ、336億円、479億円である。実質GRPは、2009 年度0.03%、2010年度0.05%の増加にとどまる。金額にしてそれぞれ283億円、411億円である。意外と効果は小さいのである。
    KISERの関西経済モデルでは実質輸出関数が推計されている。所得弾力性は0.864、価格弾力性は-0.651となっている。所得変数としては、中 国、米国、EUの実質GDPを2005年の3ヵ国の輸出シェアで加重平均したものを用いている。中国経済の成長率2.3%ポイントの上昇(6.2%から 8.5%へ)は、関西の実質輸出を0.3%押し上げることになる。
    中国経済に加えて、米国とEUの成長率がベースラインより2%ポイント上昇した場合、関西の実質輸出はベースラインから1.8%拡大することになる(シ ミュレーション2)。これらのシミュレーションが示唆するものは、関西経済にとって確かに中国経済の回復はそれなりの効果を持つが、決して大きくない。大 事なのは世界経済が一致して拡張的な財政・金融政策をとらない限り、大不況から脱出できないのである。16日に中国の1-3月期経済成長率が発表された が、前年同期比+6.1%に減速した。4半期ベースでは統計がさかのぼれる1992年以来の低い伸びにとどまった。この現実からも、中国経済の財政刺激策 の効果に過度の期待をかけないほうが無難である。(稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <先行指標に一部明るさがみられるが1-3月期は前期を上回る2桁のマイナス>

    4月20日の予測では、3月の一部と2月のほぼすべての月次データが更新された。3月のデータで特徴的なのは、一部の先行指標に改善が見られたことであ る。3月の消費者態度指数は3ヵ月連続の前月比プラスを記録し、同月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIも3ヵ月連続で改善した。このように企業や消費 者の心理は2008年12月に底を打ち改善傾向を示しているが、水準は昨年秋口の値に等しく依然として低い。すなわち、前年同月では引き続き低下している が、悪化幅が縮小し始めたのであり、秋口以降の急速な落ち込みが減速しているのである。このように先行きに明るさが見られるものの、現状は非常に厳しいと いえる。
    支出サイドモデル予測によれば、1-3月期の実質GDP成長率は、内需が大幅縮小し純輸出も引き続き縮小するため、前期比-4.7%、同年率 -17.5%と予測される。10-12月期を上回るマイナス成長が予想され、この結果、2008年度の実質GDP成長率は-3.2%となろう。ちなみに4 月14日に発表された4月のESPフォーキャスト調査によれば、1-3月期実質GDP成長率予測のコンセンサスは前期比年率-12.76%となっている。 われわれの超短期予測はコンセンサスから5%ポイント程度低いといえよう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.8%となり、2期連続のマイナス。実質民間住宅は同-8.6%と3期ぶりのマイナス となる。実質民間企業設備は同-12.2%と5期連続のマイナスとなる。実質民間企業在庫品増加は2兆8,400億円となる。実質政府最終消費支出は同 0.4%増加し、実質公的固定資本形成は同0.6%増加する。国内需要の実質GDP成長率(前期比-4.7%)に対する寄与度は-2.8%ポイントとな る。
    財貨・サービスの実質輸出は同22.1%減少し、実質輸入は同11.4%減少にとどまる。このため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-1.9%ポイントとなる。
    4-6月期の実質GDP成長率については、内需は停滞し、純輸出も引き続き縮小するため、前期比-1.5%、同年率-5.7%と予測している。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-16.0%と予測している。また4-6月期を同-9.5%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が-16.7%、4-6月期が-7.6%となる。両モデルの平均で見れば、2009年後半は引き続きマイナス成長となり、当面景気回復の糸口が見つからないようである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    4月29日に2009年1-3月期のGDP速報値が発表される。その2週間前における同期の実質GDP伸び率(前期比年率)に対する市場のコンセンサス は-4%?-5%である。一方、超短期モデルは実質GDP伸び率を、支出サイドから-0.2%、所得サイドから-1.7%、そしてその平均値(最もありえ る値として)を-0.9%と予測している。
    この超短期予測が正しいとすれば、2008年10-12月期(実質GDP成長率:-6.3%)を米国経済の景気の底と見ることができる。実際に、バーナ ンキFRB議長のように、景気をそのようにみるエコノミストもいる。しかし、世界的なリセッションによる大幅な輸出入の減少が2009年1-3月期の数字 上の景気判断を難しくしている。
    名目輸出入に関しては2009年の1月、2月の実績値が既に発表されている。従って、この2ヵ月の平均値を10-12月期の月平均値と比べることができ る。名目財輸出、同サービス輸出、同財輸入、同サービス輸入の減少率は、前期比年率でそれぞれ-45%、-16%、-57%、-17%となる。超短期予測 は時系列モデル(ARIMA)で3月以降を予測している。財とサービスを合わせた名目輸出、同輸入の下落率はそれぞれ-37%、-51%となる。すなわ ち、輸出入が共に3月に減少すると予測している。一方、輸出入価格は季節調整前だが、3月までの実績値がそろっており、前期比年率でそれぞれ-9%、 -24%である。
    その結果、超短期予測は1-3月期の実質輸出、同輸入の下落率を前期比年率でそれぞれ-32%、-51%と予測している。すなわち、世界的なリセッショ ンの結果このような実質輸出入の大幅な減少が生じており、米国では更に実質輸入の落ち込みが実質輸出の落ち込みを大きく超えることから、数値上実質GDP の伸び率が高くなる。実質輸出入がこのようにそれぞれ大幅に減少するとき、純輸出の予測には多くの不確実性が伴う。
    そのため、正しい景気判断をするにはGDPから純輸出を除いた実質国内需要で景気を判断するのが良い。超短期予測は1-3月期の実質国内需要の伸び率を -5.7%と予測しており、これは2008年10-12月期-5.9%とほとんど変化はない。すなわち、1-3月期の実質GDPの伸び率が市場のコンセン サスよりも高くなっても、同期の経済状況は前期と同じように悪かったと判断すべきであり、米国経済の底は2008年10-12月期から更に深くなっている と見るべきである。超短期予測が1-3月期の実質GDPが市場のコンセンサスに近くなるのは、季節調整後の輸入価格と3月の輸入を超短期予測が共に過小評 価している場合である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    中国ビジネスの課題(2009年3月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2008年度

    ABSTRACT

    講演会『中国ビジネスの課題』の記録

    1.日時
    平成21年3月12日(木曜)15時?17時

    2.会場
    リーガロイヤルNCB「雪の間」(中之島センタービル3階)

    3.講師
    竹内 常善 大阪産業大学経済学部教授
    同   アジア研究センター研究員
    中国江蘇省社会科学院客座研究員
    広島大学名誉教授
    北浦 義朗 関西社会経済研究所副主任研究員

    4.講演会
    ◇中国経済の現状とリスク
    北浦氏から最近の中国経済に関する状況が示された。
    殆どの指標が下降を示しているが、株式市場など一部の指標が
    年明け以降に上昇している点がリマインドされた。
    ◇中国進出企業の課題
    最初に、中国と日本の社会経済システムの違いが説明された。
    日本では融資の際の担保は不動産であることが多いが、中国では
    「経営者の人物」が評価されるケースも多いなど。
    中国に進出している日系企業の経営課題が示された。
    代金回収の困難さは日系企業の殆どが直面する課題であるが、
    これは中国文化そのものへの対応と考えるべき。
    「Cash on Delivery」は中国では当然と考えるべき。
    中国の発展パターンは日本と異なる可能性が高いと考える。
    日本では、経済発展により中間層が拡大し市場も拡大、そして社会が安定するというのが大方の見方。中国はそうではないパターンと考える。

    **講演会で使用した資料は下記をご参照ください

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  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年10月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <金融危機は世界恐慌につながるか?>

    今月の米国経済や日本経済の見通しが示すように、世界経済は米国発の金融危機により同時不況局面に突入したかのようである。2008年初に 14,691.41円からスタートした日経平均株価は9月25日にはまだ12,000円台を維持していたが、10月1日以降、8営業日連続で下落し10日 には8,276.43円まで急落した。震源地の米国では、10月の第2週だけでダウ平均株価は1,874ポイント下げ、18%の下落と1週間での下落率は 過去最悪となった。まさに金融市場はパニックである。

    しかし、われわれは、世界経済が長期の同時恐慌に突入するとは考えていない。世界経済は、太平洋をまたいで不均衡となっている貯蓄投資構造のリバランス過 程にあり、この調整過程はしばしば荒いものとなろうが、決して底割れすることはないと見ている。すなわち、中国やインド経済は減速が予想されているものの 世界経済のアンカーとなり、不況の深化を緩和させてくれると見ているからである。
    バブル崩壊後の日本経済の例が示すように、確かに米国経済の低迷がしばらく続くのは不可避である。住宅価格が更に下落し、ストック調整が進み、民間貯蓄率が上昇する形で、新たな均衡経路に向けての調整が進むであろう。
    米国発の金融危機がグローバルになり世界経済にとって深刻になった今、日本を除く世界の主要な中央銀行は10月8日にそれぞれ政策金利を50ベーシスポイ ント(0.5%)引き下げ、金融危機への協調姿勢を示した。これには市場は冷たい反応を浴びせたが、10日、11日にワシントンで開かれたG7ミーティン グにおいて、各国蔵相・中央銀行総裁は、グローバルな経済成長を維持するために、信用の流れを回復し、金融市場を安定させるために協調政策をとることに同 意、5項目からなる行動計画を発表した。市場がどの程度これを評価し、またどの程度金融危機の解決に役立つかは不透明であるが、株価のfree fall(暴落)は一旦下げ止まるであろう。
    このように世界各国が危機にすばやく対応し、また世界経済の懐が大きくなっている点は、過去の大恐慌時と決定的に異なる。BRIC’sを中心に発展途上国 の内需を中心とした発展が世界経済を支えるであろう。今月の中国経済見通しで述べられているように、中国政府は、他国経済が減速するなか中国経済が安定を 維持することが決定的に重要であることを十分理解している。中国は必要であるなら経済活動を刺激する財政金融政策を実施するであろう。実際、十分な外貨準 備の蓄積を国際的な金融危機に対して柔軟に利用できるであろう。
    もう1つのプラス材料は原油価格の下落である。2007年に2倍となり2008年前半には高止まりしていた原油価格は、景気減速とファンドの手仕舞いにより現在70-80ドルで推移している。今後も下落基調で推移すれば、企業や消費者のマインドが回復してくるであろう。

    日本
    <7-9月期経済、2期連続のマイナス成長の可能性高まる。戦略的な景気刺激策が必要>

    今回の超短期予測では、8月のデータと9月の一部のデータが更新された。比較的好調であった7月に比して、8月は前月から大幅に悪化した。特に、生産が大 幅に低下し、雇用や民間消費にも悪影響が出てきたといえよう。8月の鉱工業生産指数は前月比3.5%低下し、下落幅は2001年1月以来の大きさとなっ た。輸送機械等の輸出関連業種の減産が影響しているようである。完全失業率は4.2%となり、前月から0.2%ポイント悪化。消費総合指数は前月比 0.2%低下し、2ヵ月ぶりのマイナスである。この結果、7-9月期日本経済は横ばいないしマイナス成長になる可能性が高まってきた。加えて、米国発の金 融危機は株価の暴落、円の対ドルレートの急騰により、年度後半も低成長を余儀なくされそうである。
    日銀9月短観によると、大企業製造業の業況判断DIが2003年6月調査以来のマイナスとなった。原材料価格の高止まり、内外需の減速、加えて金融市場の 混乱の影響で業況判断は大きく悪化している。今回調査は、株価暴落や円レート急騰の影響を反映しておらず、先行き企業のセンチメントはさらに悪化しそうで ある。
    今週の超短期(支出サイド)モデル予測によれば、7-9月期の実質GDP成長率は、純輸出の小幅拡大が内需の小幅縮小で相殺されるため、前期比+0.0%、同年率+0.1%と予測される。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%となる。一方、実質民間住宅は同-3.5%と2期連続のマイナス、実質民間企業設 備は同-1.1%と3期連続のマイナスとなる。実質政府最終消費支出は同横ばい、実質公的固定資本形成は同-1.3%と減少する。このため、国内需要の実 質GDP成長率(前期比+0.0%)に対する寄与度は-0.1%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同0.5%増加し、実質輸入は同-0.4%と減少するため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.1%ポイントにとどまる。
    10-12月期の実質GDP成長率については、内需は小幅増加、純輸出は停滞するため、前期比+0.4%、同年率+1.5%と予測している。この結果、2008暦年の実質GDP成長率は+0.7%となろう。
    主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率-0.3%と予測している。また10-12月期を同+2.4%とみている。われわれは、こ の2週間、成長率予測をゼロないしマイナスと大幅に下方修正している。両モデル平均で見ると、7-9月期の実質GDP成長率は4-6月期の-3.0%に続 いてマイナス成長になる可能性が高くなってきた。すなわち、日本経済はリセッションに突入する可能性が高くなってきたといえよう。ただ、唯一のプラス材料 は原油価格の下落であり、これは企業収益の減少を下支えしよう。一方、実質所得の増加が期待されないなか、民間最終消費支出を落ち込ませないためにも、個 人所得減税はそれなりの意味を持つであろう。減税が実施される年度末には原油価格の下落から消費者のセンチメントが底打ちしている可能性が高いからであ る。減税以外では、予算制約のもと、バラマキではなく将来を展望した戦略的な支出が必要とされよう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <グローバル金融危機にG7は対処できるか>

    米国の金融危機が実体経済にも影響を及ぼしてきた。グラフに見るように、10月10日の超短期モデルは7-9月期の米国経済成長率を前期比年率-1%程度 と予測している。しかも、インフレ率はGDP価格デフレーター、個人消費価格デフレーターでみると同+4%?+6%になるだろう。米国経済は7月半ば以 来、明瞭な下方トレンドを示している。
    米国発の金融危機が世界経済にとって深刻になった今、世界の主要な中央銀行は10月8日にそれぞれ政策金利を50ベーシスポイント(0.5%)引き下げ、 金融危機への協調姿勢を示した。しかし、株式市場はこの協調政策に“ノー”をつきつけた。8日、9日とダウ平均株価は前日比それぞれ189ポイント、 679ポイント下げた。結局その週だけでダウ平均株価は1,874ポイント下げ、1週間での下落率は18%の下落と過去最悪になった。これに対して、その 2日後の10日、11日に開かれたG7ミーティングでは、各国蔵相・中央銀行総裁は、グローバルな成長を維持するために、信用の流れを回復し、金融市場を 安定させるために協調政策をとることに合意、5項目からなる行動計画を発表した。しかし、市場がこれをどの程度評価し、またどの程度金融危機の解決に役立 つかは不透明である。特に、EU諸国の協調行動が実際に行われるかについて疑問がもたれている。過去の例を見れば分かるように、統合に合意するのに30年 かかったように、EU諸国は簡単なことさえ合意するにも時間がかかるからである。
    週明けの13日午前中の米株式市場を見る限り、市場は少なくともG7の行動計画にはポジティブに反応しているように思われる。しかし、この行動計画には具 体的な対策が含まれていないことから全く安心はできない。10月14日(現地時間)には、ブッシュ大統領が発表した金融機関への資本注入を柱とする金融安 定化策を発表したが、投資家の”Greedy(貪欲)”によるバブル化による資産価格の上値と、バブル崩壊後の彼らの”Fear(恐怖)”による資産価格 の底値を予測することは不可能である。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年6月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    四川大地震の経済的含意

    【甚大な被害】
    今月の中国経済の見通しでは、四川大地震(2008年5月12日)の経済的影響について詳しい説明がされている。最新の推計によれば、地震の直接 被害額は5,000億元(約7兆5,000億円)を上回ると見込まれており、年初の雪害の被害額1,517億元を大きく超える。影響は甘粛省・陝西省・四 川省の重慶市など19都市・県に及んだ。公式の死亡者数は6万9,127人(6月5日現在)となっている。

    四川省

    32年ぶりの大地震(1976年唐山大地震以来)は中国の穀倉である四川省の 農業生産に甚大な被害をもたらした。四川省は、中国最大の養豚地域 (全国合計の10%)であり、菜種や米の生産(穀類の生産量の全国シェア6%)でも有数の地域である。地震は50万ムー(畝)(約3万3,000ヘクター ル)の作物に被害をもたらした。また、地震で死んだ豚は約80万頭に上るようである。
    四川省の工業部門の損失も甚大である。四川省の工業企業の経済的直接損失は5月19日の時点で670億元(約1兆円)に達したようである。実際の損失は これよりはるかに大きくなる。注目すべきことは、非鉄金属生産の被害が大きいことである。業界の推計によれば、中国の亜鉛の生産能力の11%が被害を受け たようである。また当局は安全上の理由で四川省での石炭生産を停止している。この結果、工業・情報化省によれば、鉱工業企業の損失は2,047億元(約3 兆700億円)>に膨らんだ(6月5日発表)。
    地震により地方政府は省都・成都と重慶市での建設工事の停止を命令したため、不動産業に与える影響も大きい。多くの不動産会社がまだ工事中で耐震基準を 満たしていないビルを再設計することが必要になり、今後、追加的なコストが発生する可能性が高い。高層建築に厳しい基準が適用されるにつれ、昨年、記録的 な高価格で土地を手に入れた開発業者の資金繰りはさらに悪化すると考えられる。また、西部地域の都市開発に関してリスクの認識が変わり、これが地価下落の 引き金となると思われる。実際、1月以降、成都の住宅市場は下降局面に入っており、1-3月期の取引は前年同期比23%減少している。不動産価格の低迷が 長期的なリスクとして成都と重慶市の不動産市場に影を落としている。

    【経済的含意】
    以上、農業、工業、不動産業に絞って地震の影響を見たが、現在のところ、中国経済に与える影響の正確な把握には困難が伴う。年初の雪害の影響を受 けた地域は中国のGDPのおよそ14.3%を占めるが、四川省のGDPは全国比4%程度で、これから判断する限りでは、経済への震災の影響は限定的とみら れている。
    ただ復興は困難を極め、同地域の生産停滞は長引くであろう。いくつかの経路を通じて地震のマイナスの影響が中国経済に発生してくる。重要な経路としては、(1)食糧需給、(2)労働供給、(3)大手不動産会社のバランスシートである。
    農業と養豚の全国に占める四川省の寄与の大きさを考えると、その甚大な損害は、中国の食糧面の制約をさらに強め、10年来のインフレを加速させる可能性 がある。4月の消費者物価(総合)指数は前年同月比+8.5%で3月の同+8.3%から加速している。中央銀行の金融引き締め政策にもかかわらず、この 10年間で最も高いインフレ率となっている。消費者物価指数の構成品目全体の約1/3のウエイトを占める食料価格は同22.1%上昇している。1月以降、 穀類の価格上昇圧力が高まり、4月は同+7.4%と3月から加速している。また食肉価格の上昇率は同+47.9%ときわめて高い。特に、豚肉は同 68.3%と上昇している。今後数ヵ月、インフレの加速が懸念されよう。中国のインフレ加速が世界の商品価格インフレ期待を高めるリスクには十分注意が必 要である。
    短期的には、労働市場への影響が懸念材料である。四川省は中国の出稼ぎ労働者の最大の供給源の1つであるが、復興支援のために多くの出稼ぎ労働者が四川 省に急いで戻ることが予想されるため、中国の労働供給に重要な影響を与えそうである。ただ、長期的には震災の復興が進むにつれて、この問題の影響は薄れる であろう。
    問題は、四川省と重慶市の不動産市場のハードランディングシナリオが現実のものになった場合、地価下落のリスクは中国の他の地域に伝播し、投資家や不動 産開発業者のバランスシートの悪化をもたらすであろう。中国金融当局は直接の金利を引上げではなく預金準備率の引上げによって金融引き締めを図っている が、不動産バブル崩壊が全国的に拡がった場合、インフレ抑制と経済復興の両極面で厳しい金融政策が要求されることになろう。ハードランディングシナリオも 低くない確率で想定しておく必要がある。
    日本

    今週の予測では、4月の多くのデータが更新された。支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長率は、内需と純輸出がともに横ばい となるため、前期比-0.2%、同年率-0.9%と予測される。4-6月期の経済はここにきてマイナスの領域に入ってきたといえよう。
    4-6月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.1%と前期(同+0.8%)の反動でマイナス成長となる。1-3月期の民間消費は閏 年効果でかさ上げされていたようである。実質民間住宅は同+4.7%と2期連続のプラスとなるが、実質民間企業設備は同1.5%減少する。民間最終消費支 出と民間企業設備が減少し、民間需要は縮小しよう。一方、公的需要は、実質政府最終消費支出、実質公的固定資本形成ともに同+0.4%と増加する。このた め、国内需要の実質GDP成長率(前期比-0.2%)に対する寄与度は-0.2%ポイントとなる。
    一方、財貨・サービスの実質純輸出の成長率に対する貢献度は0.0%ポイントとなる。実質輸出が同-1.8%、実質輸入が同-2.8%減少するためである。
    このように、4-6月期はマイナス成長になるが、7-9月期の実質GDP成長率は、内需・純輸出ともに拡大するため、前期比+0.7%、同年率+2.7%と予測している。
    GDPデフレータは、4-6月期に前期比-0.3%、7-9月期に同-0.2%となる。民間最終消費支出デフレータは、4-6月期に同-0.2%、 7-9月期に同0.0%となる。4月に暫定的にガソリン価格が低下したことが影響している。雇用者所得は4-6月期に同-0.2%、7-9月期は 同+0.3%となる。
    主成分分析モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率-1.3%と予測している。また7-9月期を同+0.5%とみている。GDPデフレータは4-6月期に前期比0.0%、7-9月期に同+0.4%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP成長率(前期比年率)の平均は、4-6月期が-1.1%、7-9月期が+1.6%となる。GDPデ フレータは4-6月期が前期比-0.2%、7-9月期が同+0.1%である。両モデルの平均で見れば、4-6月期のマイナス成長がはっきりしてきたが、一 時的なものと予測している。

    [稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]

    米国

    6月5日、ウォルマートやコストコなどのチェーンストアーの5月の販売高が前年同月比+3%となったことが発表され、還付税が個人消費支出にまわ る期待からダウ株価はその日に214ポイント上昇し、景気回復のきっかけになるかとも思われた。しかし、翌6日の5月の雇用統計の発表により前日の米景気 に対する期待は崩れた。雇用は5ヵ月連続で減少し、失業率は前月の5.0%から5.5%へと大幅に上昇した。これは2004年10月以来の高さである。ま た、同日に原油価格が139ドル/バレルの高値を更新したことから、ダウ株価は395ポイントも下落し、再びリセッションへの懸念が広まった。
    6月6日の超短期予測では、4-6月期の実質個人消費の伸び率を前期比年率+0.7%、実質民間資本形成の伸び率を同+1.7%、実質在庫を同207億 ドルの減少と予測しており、急速な景気回復を期待することはできない。しかし、グラフにみるように、景気は5月の始めに底を打ち非常に緩慢ながらも回復に 向かっていると思われる。失業率が景気に対する遅行指数であり、5月の失業率上昇の主な理由が若者のサマージョブへの応募による求職者の増加であることを 考えれば、5月の雇用統計から米景気に対して過剰に悲観的になることはないだろう。
    6月24日、25日に連邦準備理事会(FRB)のFOMCミーティングが開かれるが、FRBは金利を据え置くだろう。その理由としては、すでに十分な金利 引下げをしてきたこと、インフレを懸念せざるをえなくなったこと、そして還付税を中心とする1,680億ドルの家計、企業を通した景気刺激策が今年後半に は景気に好影響を与えてくると考えているからである。

    [熊坂有三 ITエコノミー]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年4月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2008-2009年の太平洋地域経済成長見通し?PEO/SOTR会議から?>

    去る3月18-19日、日経平均が12,000円を一時的に下回り、為替レートが100円を割り込む厳しい状況の下で、PECCの PEO/SOTR(太平洋経済展望(PEO)短期予測部門国際専門家会合)大阪会合が開かれた。今月のトピックスでは、同会合で議論された太平洋地域経済 の見通し(暦年ベース)を日米中心に紹介しよう。
    前提条件:標準的な想定として、米国サブプライムローン問題に端を発する世界の金融混乱が2008年央にかけて安定化し日銀も年内は政策金利を引き上げ ないとしている。今後も米国の大胆な金利引下げがしばらく続き、米国や日本が金利引き上げに向かうのは、世界経済が安定から回復に向かう2009年に入っ てからと見込んでいる。この世界経済の前提については、大きな議論となったが、ベースラインとして合意の得られたものである。
    米国経済:(S.ハイマンズ・ミシガン大学教授の予測)2008年前半のゼロないしマイナス成長は年後半には2.5%成長に加速するが、年平均では1.0%の低成長となり、2007年の2.2%から半減する。一方、2009年は2.5%と回復感を強くする。
    最近の月次データから、米国経済が少なくとも軽微なリセッションに入ったという印象を強くする。住宅市場が引き続き縮小し、雇用市場の収縮が明確になる 中、1-3月期のマイナス成長は避けられない。1-3月期は前期比年率-1.5%、4-6月期同0.0%と予測している。減税の効果は5-6月に出始め、 年後半には本格的に効き出す。2009年1-3月期には減税効果がなくなり経済は一時的に減速するが、金融政策の効果が徐々に出始め景気を支える。 2009年後半には自動車販売が回復する。雇用の回復については、2008年はゼロであるが、2009年は50万人程度の緩やかな雇用増が見込まれてい る。
    インフレについては、コア消費者物価上昇率(食料とエネルギー除く)は2008年、2009年ともに2.5%以下にコントロールできよう。他方、(総 合)消費者物価指数は2008年に急上昇し3.9%の上昇を予測。2009年には、原油価格が8-10%程度下落するため、インフレ率は2.6%に低下す るであろう。
    (注: 上記PEO予測では、米国経済が1-3月期に、軽微なリセッションに入ったとするが、後述の超短期予測では、
    所得サイドから見て1-3月期にリセッションは底を打ったとみており、米国経済に対する2人の予測専門家の見方はやや異なっている。)
    日本経済:(稲田義久・甲南大学教授の予測)われわれの予測で最も重要なポイントは、日本経済にとってこれまで景気回復のギア(輸出)が2008年 には逆回転することである。このため、2008年の日本経済の成長率(実質GDP) は前年の+2.1%から+1.6%へと減速し、2009年は+1.7%と小幅な回復にとどまると予測している。2008年の民間部門の寄与度は2007年 とほぼ同じと見ているが、純輸出の寄与度が2008年で+0.7%ポイント、2009年は+0.4%ポイントといずれも2007年の+1.1%ポイントか ら大きく低下する。米国経済の急減速やEU経済の停滞の影響は極めて大きいのである。
    四半期パターンを見れば、2008年の最初の2四半期に減速するが、テクニカル・リセッション(2四半期連続のマイナス成長)は避けられるであろう。これ は、米国経済のマイルドリセッションによる輸出停滞等の不確実性の高まりから企業設備投資が減速局面に入るからである。ただ、2008年後半以降は住宅投 資や建設投資のマイナスの影響が剥落するため民間需要は全体として落ち込むことはない。日本経済は2008年後半以降1-2%で安定すると見ている。もっ とも、内外需バランスの取れた回復は2009年後半となろう。
    エネルギーと食料価格の引き上げで、2008年前半には物価押し上げ圧力が強まる。ただ、最終需要が弱いためインフレは高進しない。このため、消費者物価指数は2008年に0.9%の上昇となるが、2009年は0.2%に落ち着くと見ている。
    中国経済:( ・中国国家発展改革委員会投資研究所ディレクターの予測)は輸出が減速するため2008年の成長率は前年の11.4%から9.6%と2ポイント程度低下する。2009年は小幅回復して10.0%と予測している。
    PECC経済:以上の3ヵ国に加え、その他PECC参加各国・地域予測専門家の成長率予測を貿易シェアで加重したPECC全体の経済成長率は、2007年 の4.9%から2008年は3.7%に減速するが、2009年は4.7%に回復すると見ている。インフレ(消費者物価上昇率)については、2008年には 前年の2.6%から3.2%に加速するが、2009年は2.8%に減速する。このように、2008年の太平洋地域経済はミニ・スタグフレーションの様相を 示すことになると見ている。
    リスク:これらベースラインに対して、3つのリスクが想定できる。第一は、安定化を想定している金融混乱が世界的な信用収縮に悪化する場合である。第二 は、100ドルを突破した原油価格の超高値が持続する場合である。第三は、米国経済が、当初予測していた軽微なリセッションではなく深刻化する場合であ る。

    日本

    今回の予測では、若干の3月データと2月の多くのデータが更新された。支出サイドモデル予測によれば、1-3月期の実質GDP成長率は、内需と純輸出が小 幅ながらバランスよく拡大するため、前期比+0.5%、同年率+2.0%となり、前回予測(同年率+1.8%)から上方修正である。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.6%となる。2月の消費総合指数は、閏年効果の影響で前月比+1.1%と大幅に上昇 し、2ヵ月連続のプラス。この結果、1-2月の消費総合指数(平均値)は10-12月期平均を0.8%上回った。GDP速報値では、閏年調整を行っていな いため、1-3月期の民間最終消費支出は当初の予想に比して上振れする可能性が高い。実質民間住宅は前期比+14.8%と5期ぶりのプラスとなるが、実質 民間企業設備は同-1.7%と減少する。実質政府最終消費支出と実質公的固定資本形成は同横ばいとなる。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期 比+0.5%)に対する寄与度は+0.3%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+1.0%と増加し、実質輸入が同-0.5%と減少する。このため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.2%ポイントとなる。
    このように、内外需の伸びは小幅であるが、バランスの取れた回復となろう。この結果、2007年度の実質GDP成長率は+1.7%と予測する。
    4-6月期の実質GDP成長率については、内需は引き続き拡大するが純輸出が横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+1.9%と予測 。前回より小幅の上方修正である。
    物価について見れば、GDPデフレータは、1-3月期に前期比-0.4%、4-6月期に同0.0%と予測している。民間最終消費支出デフレータは、 1-3月期に同0.0%、4-6月期は同-0.1%と見込んでいる。このように、現在のところインフレの高進は見られないが、4月に入り、暫定税率廃止に よりガソリン価格が下落する一方で食料価格の一連の引き上げが行われ、プラス・マイナス両要因がある。このため、今後のインフレ動向については不確実な要 素が多く、目が離せない。
    支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が+3.1%、4-6月期が+1.1%となる。両モデルの平均で見れば、日本経済は年央に向けて減速するもののリセッションには陥らないであろう。

    [稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]

    米国

    3月の非農業雇用者数は市場コンセンサス(前月比5万人減)を大きく上回る同8万人の減少となった。さらに2月の雇用減が6.3万人から7.6万 人へ、1月の雇用減が2.2万人から7.6人へと、それぞれ下方に修正された。また失業率も2月の4.8%から3月には5.1%へと上昇し、2005年9 月以来の高さとなった。3月の雇用統計の発表によって、ほとんどのエコノミスト・投資家達は、米国経済がリセッションに陥っていると確信するようになっ た。実際、今回の超短期予測も所得サイドからの成長率(2008年1-3月期)をマイナスと予測している。しかし、グラフに示すように、市場予測とは異な り、所得サイドからの実質GDP成長率(前期比年率)予測を前週の-0.8%から-0.4%へと上方修正した。
    この予測結果は奇異に思えるかもしれないが、それは次のような理由によるものである。すなわち、雇用者所得の変化は労働時間、雇用数、一人当たりの雇用 所得の変化で説明されるが、実際、1-3月期は、労働時間増と一人当たりの所得増が雇用の大幅減を上回ったため、所得サイドの賃金・俸給が前週の超短期予 測よりも増加したのである。
    多くのエコノミスト、投資家たちは深刻なリセッション懸念を示しているが、超短期予測のグラフは、1-3月期の所得サイドからみた景気後退が-1.0% で底を打った様子を示している。一方、支出サイドから見た実質GDPの伸び率は今もって低下傾向にあるが、1-3月期の経済成長率(前期比年率)は1%の 前半でリセッションとはみていない。この結果、両モデルの平均成長率は+0.5%程度となっている。
    インフレに関しては、GDPデフレータ、一般・コア消費者支出価格デフレータの伸び率を前期比年率+2.5%?+3.5%と予測している。まさに、 1-3月期はミニ・スタグフレーションの様相を示している。しかし、4-6月期の経済成長率(支出・所得両サイドからの平均)は同+1.2%、インフレ率 は同+1.5%程度と予測しており、大幅なマイナス成長や、2期連続のマイナス成長になるような深刻なリセッションの状況は予想していない。
    今後、第2の“ベアー・スターンズ”が出ない限り、これまでの政策金利引下げの効果が出始め、ドル安による純輸出の改善と5月からの税還付による個人消費支出の刺激により米国経済は徐々に安定に向かうと思われる。

    [熊坂有三 ITエコノミー]

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    中期的な原油価格の目安

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2008年度

    ABSTRACT

    原油価格(ここでは油種WTI)の値動きは非常に荒く(volatile)、予測しづらい。この1年の値動きを 振り返ってみよう。米国でサブプライムローン問題が注目された2007年7月には、1バーレル70ドルをつけ、9月半ばに80ドルを突破、10月後半には 90ドルを抜け、2008年2月半ばにはついに100ドルという記録的な水準に達する。KISERの前回の四半期景気予測時点(5月20日)では120ド ル半ばであった。原油価格はさらに加速を続け、7月3日に145.28ドルのピークをつける。以降マーケットは弱気に転じ、直近の8月15日では 113.77ドルとピークから30ドル以上も下落している。このように非常に荒い値動きを示してきたが、7月で見るとこの1年で2倍になったという事実の 持つ意義は大きい。

    われわれの景気予測では原油価格(モデルではWTI、ドバイ、ブレントの平 均)は外生変数であるが、この1年間のトレンドを持った荒い値動きから、その想定は常に上方修正となった。中期的な原油の均衡価格についてはほぼ推測がつ くが、短期的にはそれから乖離する部分の予測が非常に難しい。
    短期の原油価格については、基本的にはタイトな需給バランスと地政学的な問題により高値は避けられないが、需給条件から決まる部分以外の投機を含むプレ ミアム部分が相当あると考えられている。最近の経済産業省の分析(通商白書2008年第1章)では、2008年4月の原油価格(125.5ドル)のうち、 在庫の変化で説明できる部分が74.7ドルで、プレミアムが50.8ドルと推計されている。
    中期的な均衡価格の目安として参考になるのが、代替エネルギーのコストであり、現在では70ドル程度と考えられている。もう1つの参考価格が、原油生産 者がその実質価値を維持した場合の価格である。1980年以降、世界の消費者物価指数は2.5倍になっているから、当時の原油価格40ドルを考慮すると、 現在原油価格が100ドル程度と見込まれるのである。このことから、直近の原油価格はピークから30ドル程度下落しているが、さらに100ドルを目指して 値を下げる可能性がある。ただ、基本的には需給条件がタイトなことから、一方的な下落は想定しづらく、やがて底打ちして高値の水準がしばらく続くと思われ る。
    今回の四半期予測(8月20日発表)では、最近の価格動向を反映させて2008年7-9月期を前回予測の想定より11ドル程度上方修正した(106.6 ドル→117.8ドル)。需要期の2008年末には120ドル前半間まで上昇し、2009年は120ドル程度の高値圏で推移するが、年末には110ドル台 に緩やかに低下すると想定する。

    原油価格には、需給条件で説明できる部分以外に投機を含むプレミアム部分が相当 あるようである。最近の経済産業省の分析(通商白書2008年第1 章)では、2008年4月の原油価格(125.5ドル)のうち、在庫の変化で説明できる部分が74.7ドルで、プレミアム部分が50.8ドルと推計されて いる。

    各国予測要約

    【日本】
    <年後半の経済、不況に陥らないためのポイントは「民間最終消費」と「輸出」>
    4-6月期の日本経済は4四半期ぶりのマイナス成長となった。8月13日に発表されたGDP1次速報値によれば、同期の実質GDPは前期比 -0.6%、同年率換算-2.4%のマイナス成長となり、1-3月期の同年率換算+3.2%から大幅な低下であった。図からわかるように、実績はほぼ市場 コンセンサス予測(-2.0%)と同じであった。超短期予測は、支出サイドモデル予測が前期比-0.9%、主成分分析モデル予測が同-1.6%といずれも 若干過大推計となった。今回の予測動態を振り返れば、6月初旬以来、超短期モデル、市場コンセンサスともにマイナス成長を予測しており、早くから低調な経 済が一致した見方となっていた。
    4-6月期の実質GDP成長率への寄与度を見れば、国内需要は経済成長率を0.6%ポイント引き下げ、また純輸出の寄与はゼロとなった。
    今回の特徴は、民間需要、公的需要、輸出のすべての需要項目で減少したことである。民間需要では、実質民間最終消費支出、実質民間住宅の低迷が実質 GDP成長率を0.3%ポイント、0.1%ポイントそれぞれ引き下げた。公的需要も経済全体の成長率を0.2%ポイント引き下げた。
    加えて、4四半期ぶりのマイナス成長には、米国経済低迷による輸出の減少が影響している。これまで経済成長を牽引してきた実質輸出は同2.3%低下し、 経済成長率を0.4%ポイント引き下げた。実質輸入は同2.8%大幅下落し、3期ぶりのマイナスとなった。輸入の減少は経済全体の成長率を0.5%ポイン ト引き上げたが、輸出がほぼ同程度減少したので、実質純輸出の実質GDP成長率への貢献はゼロとなった。
    4-6月期のGDPを反映した最新の超短期モデル予測によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比+0.5%、同年率換算+2.2%と高めの見通しと なっている。2期連続のマイナス成長は今のところ避けられそうである。また10-12月期は前期比+0.4%、同年率換算+1.8%の予測となっている。 この結果、現時点では2008暦年の経済成長率は1.2%と見込んでいる。
    マーケットの見方からすれば、若干強気の予測となっているようである。たしかに年末にかけての景気減速は否めないが、不況に陥らないためのポイントは民間最終消費支出と輸出の動向にあるといえよう。その意味で、7月の通関統計が最初の重要なデータとなろう。

    【米国】
    <7月半ばから景気は下降状態にある?メンタルリセッションからリセッションへ?>
    2008年4-6月期の経済成長率が1.9%(速報値)と発表され、多くのエコノミストが懸念していたリセッション懸念とは程遠いものとなった。 この速報値が発表される直前の市場のコンセンサスは2.2%であり、超短期予測も2.8%を支出サイドから予測していた。速報値が市場のコンセンサスや超 短期予測よりもかなり低い経済成長率となったのは、製造業の実質在庫増が-324億ドルと大幅なマイナスになったことにある。センサス局の毎月の製造業在 庫統計からこのような大幅な在庫減は想定されないことから、この大幅減は在庫評価調整によるものである。ちなみに、在庫をGDPから除いた実質最終需要の 4-6月期の伸び率は+3.9%と非常に高い。
    このように最終需要の伸びが高い成長率は今後の経済成長に希望をもたらすものであるが、超短期予測では、グラフにみるように8月15日の予測で7-9月 期の支出・所得サイドからの平均実質GDP伸び率を-0.5%と予測している。さらに悪いことは、7月半ばから景気が下降状態にあることである。原油価格 の下落傾向、株式市場の持ち直し傾向など明るい材料があるものの、次のような懸念材料がある。
    * 個人消費のうち、サービス支出がスローダウンしており、耐久財支出がマイナス成長を続けている。
    * 還付税の経済への影響が10-12月期にはかなり小さくなるだろう。
    * 設備・ソフトウエア投資の回復が遅い。
    * 住宅市場の停滞が続く。
    * 在庫調整も長引くと思われる。
    * ドル高から純輸出の改善がみられなくなる。
    * 賃金・俸給の伸び率が前期比年率3%?4%と非常に小さい。
    * インフレ率(3%?5%)がFRBの許容範囲を大きく超えることから、景気のスローダウンに対して政策金利引き下げが難しくなる。

    【中国】
    <7月の経済指標は勢いを強めている>
    国家統計局発表の7月の経済指標によれば、中国経済は4-6月期に減速したものの、7-9月期の始めに勢いを強めている。注目すべきは、インフレ圧力は消費者物価では幾分緩和したが生産者物価では引き続き強いことである。
    小売販売額は、2008年上半期の前年同期比+21.4%に続いて、7月も前年比+23.3%と好調である。 北京オリンピックが旅行や小売販売を後押ししたことは確実である。商品部門の好調により、投資も勢いを強めている。
    4-6月期の貿易黒字は減速したが、7月は反発した。同月の貿易黒字は253億ドルとなり、前年同月比+4%となり、年初以来もっとも高い伸びを記録し た。中国の対米貿易黒字は前年同月比+13.8%の164億ドルと拡大し、米国にとって中国は、日本を抜いて最大の貿易相手国になった。対EU貿易黒字は 同+22.9%増加して150億ドルとなった。
    工業生産は依然強い勢いを維持しているが、最近やや減速している。7月の工業生産は前年同月比+14.7%を記録したが、昨年7月の同+18.0%から は低い伸びとなっている。同月の鉄鋼生産の伸びは40%を上回り、繊維生産は同10%増加したが、自動車生産量は同8%にとどまっている。またセメント生 産は同6.8%増加した。
    われわれは、中国経済が2008年7-9月期、10-12月期に幾分ながら減速するものの強い成長モメンタムを維持するものと予測する。7-9月期の実質GDP成長率を+10.5%、10-12月期は+10.4%と予測する(いずれも累積ベース)。
    インフレについてみると、7-9月期の消費者物価指数は前年同期比+6.2%、10-12月期は同+5.6%と、いずれも4-6月期の同+7.8%から 減速する。一方、生産者物価指数は、今後6ヵ月をみると減速傾向は見られず高い伸びを維持するものと予測する。すなわち、7-9月期は前年同期 比+9.9%、10-12月期は同+9.7%と見ている。

    [ウエンディ・マック ペンシルベニア大学客員研究員]

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    第67回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    11月14日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2006-2007年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2006年7-9月期実績の評価・・・・当期の実質GDP成長率(一次速報)は、前期比+0.5%(年率換算+2.0%)、名目GDPは同+0.5%(年 率換算+1.9%)となり、再び「名実逆転」に戻った。実質GDP成長率への寄与度を見ると、国内需要は+0.1%、外需は+0.4%と、内外需のバラン スの取れた回復から、今回は再び外需依存型の回復となっている。

    * 2006年度の見通し‥‥ 下期に向けて民間設備投資や輸出は引き続き高い水準で推移しよう。民間最終消費も緩やかな伸びへと転ずることから、2006年度を通した実質GDP成長率は+2.2%を見込む。

    * 2007年度の見通し・・・・中国経済は10%近くの高成長のモメンタムを維持し、EUも堅調を推移するが、米国経済は住宅市場の停滞等から、消費が勢い を失い減速トレンドに移行するため、日本経済にとって、2007年度の輸出環境は厳しくなる。内需についても、民間最終消費は堅調を維持するが、民間設備 投資に今以上の加速が見込めないことから、2007年度の実質GDP成長率は+1.6%へと減速する。

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    第66回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    8月11日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2006-2007年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2006年4-6月期実績の評価・・・・当期の実質GDP成長率(一次速報)は、前期比+0.2%(年率換算+0.8%)、名目GDPは同+0.3%(年 率換算+1.1%)となり、12四半期振りに「名実逆転」が解消した。実質GDP成長率への寄与度を見ると、民間需要は+0.5%と貢献したが、公的需要 の不振(-0.2%)に加え、純輸出が5期振りにマイナスとなったため、全体として低成長にとどまっている。

    * 2006年度の見通し・・・・民間最終消費、公的需要の伸びは鈍化するものの、民間設備投資は2005年度を上回る増加が期待でき、2006年度の実質 GDP成長率は+2.3%を見込む。中国経済は10%近くの高成長のモメンタムを維持し、dUも拡大の勢いを増すが、米国経済は住宅市場の停滞等から、消 費が勢いを失い減速トレンドに移行するため、日本経済にとって、2006年度後半の輸出環境は徐々に厳しくなる。

    * 2007年度の見通し・・・・民間最終消費は堅調を維持するも、輸出と民間設備投資の伸びが鈍化するため、実質GDP成長率は+2.1%に減速する。

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    第65回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変 数の想定について共同で作業を行っている。「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。四半期予測作業 において、2005年度より日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。第65回景気分析と予測は、5 月19日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2006?2007年度の経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2006年1?3月期実績の評価‥‥ 当期の実質GDP成長率(一次速報)は、民間最終消費(寄与度+0.2%ポイント)と民間企業設備(同+0.2)が牽引役となり、前期比+0.5%(年 率+1.9%)。前年同期比は+3.1%で2年連続3%超と、潜在成長率を上回る堅調な成長となった。この背景として、①10?12月期原系列GDPデー タの下方修正(▲5,440億円、0.4%引き下げ)、②2004年度確報値による季節調整の変更により、10?12月GDP成長率が+5.4%か ら+4.3%に下方修正されたことが挙げられる。

    * 2006年度の見通し‥‥ 民間需要の寄与は前年度に比べ若干弱まるものの、純輸出の貢献度が高まり、2006年度の実質GDP成長率は+2.4%を見込む。消費は安定的な拡大が期 待でき、企業収益も高水準を維持する。米国経済は緩やかな減速トレンドに移行するものの、中国経済は10%近くの高成長を維持、EUも回復に転じることか ら、輸出環境は堅調に推移し、景気拡大期間は11月に「いざなぎ景気」を超えるであろう。

    * 2007年度の見通し‥‥ 家計の負担増や世界経済の減速に伴う企業収益の圧迫など民間需要を支えてきた好条件が徐々に失われ、実質GDP成長率は+2.0%に減速する。

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    第64回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変 数の想定について共同で作業を行っている。「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。大阪大学伴金美 教授から稲田教授への主査交替に伴い、2005年度より四半期予測作業においても、甲南大学日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のよ り正確な予測値を取り入れている。 2月17日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2006-2007年度の経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2005年度10-12月期実績の評価‥‥当期の実質GDP成長率(一次速報)は前期比+1.4%、年率換算で+5.5%となり、2005暦年の成長率 は+2.8%と2004暦年+2.3%を上回る高成長となった。国内需要の寄与度はプラス0.8%ポイント(4四半期連続プラス)、純輸出はプラス 0.6%ポイント(2四半期ぶりのプラス)とバランスの取れた景気回復パターンであった。

    * 2005年度の見通し‥‥ 引き続き民間需要が主導し2005年度の実質GDP成長率は+3.5%を見込む。

    * 2006年度の見通し‥‥ 家計の負担増や石油価格高止まりによる企業収益の圧迫など民間需要を支えてきた好条件が徐々に失われる。中国経済は高成長を維持するものの、米国経済を牽 引してきた消費と住宅が勢いを失うとみられることから、実質GDP成長率は+2.1%に減速する。しかし緩やかな景気回復は持続し「いざなぎ景気」を超え るであろう。この動きは2007年度に引き継がれるとみる。

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    第63回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変 数の想定について共同で作業を行っている。 「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。大阪大学伴金美教授から稲田教授への主査交替に伴い、 2005年度より四半期予測作業においても、甲南大学日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。 11月11日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2005-2006年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2005年度7-9月期実績の評価‥‥ 当期の実質GDP成長率(一次速報)は前期比+0.4%、年率換算で+1.7%となり、1-3月期の+6.3%、4-6月期の+3.3%に比して緩やかで あったが、民間調査機関の予測平均の+1.07%を上回る結果となった。国内需要の寄与度はプラス0.5%ポイント、純輸出はマイナス0.1%ポイント (2四半期ぶりのマイナス)であった。

    * 2005年度、2006年度の見通し‥‥ 2005年度は引き続き民間最終消費支出と民間企業設備投資がエンジンとなろう。加えて、中国経済は高成長を維持、米国経済もハリケーンの影響は軽微にと どまり、輸出は前年度より伸びが低下するも堅調に推移することから、2005年度の実質GDP成長率は2.8%を見込む。2006年度は世界経済の減速傾 向が予測されるが、日本経済は堅調な内需に支えられ、実質GDP成長率は+1.6%と減速するものの、引き続き安定軌道を維持しよう。

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    第62回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    大阪大学伴金美教授から稲田教授への主査交替に伴い、2005年度より四半期予測作業においても、甲南大学日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    8月12日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2005-2006年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2005年度4-6月期実績の評価‥‥2005年度4-6月期実績の評価‥‥当期の実質GDP成長率(一次速報)は前期比+0.3%、年率換算 で+1.1%となり、3期連続のプラスを記録した。これは、民間調査機関の予測平均の+1.9%を大きく下回るものの、民間最終消費、民間企業設備投資が 堅調を維持していることから、すでに日本経済は踊り場を脱したといえる。

    * 2005年度後半、2006年度の見通し‥‥2005度後半以降も引き続き民間最終消費支出と民間企業設備投資がエンジンとなろう。加えて、中国経済は年 後半も高成長を維持、米国経済も健闘するため、輸出は前年度より伸びが低下するも堅調に推移することから、7-9月期以降の実質GDPは年率換算1%強程 度の成長と見る。年度としては+1.9%の成長となる。2006年度は世界経済の減速が予測されるが、日本経済は堅調な内需に支えられ、実質GDP成長率 は+1.7%と前年度並みの成長となろう。

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    第61回 景気分析と予測

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授 )

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    大阪大学伴金美教授から稲田教授への主査交替に伴い、2005年度より四半期予測作業においても、甲南大学日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    5月17日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受けた2005-2006年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2004年度の日本経済実績‥‥2005年1-3月期のGDP成長率は前期比+1.3%、年率換算で+5.3%となり、市場エコノミストの予測平均の2% 台半ばを大きく上回った。この結果、2004年度の成長率は+1.9%となり、3年連続のプラス成長を記録した。もっとも、この高成長は前期の反動的増加 という側面が強く、モメンタムは持続しない。超短期モデル(CQM)の予測によれば、2005年4-6月期の成長率は年率1%台の低調にとどまる。

    * 2005年度、2006年度の予測‥‥雇用環境は緩やかながら引き続き改善し、消費者心理の悪化は見られない。交易条件の悪化により企業収益の伸びは低下 するも、企業設備の増加基調は続く。中国経済の高成長は持続するものの、日本の対中輸出は減速する。これらの状況から、2005年度の成長率は1.4%の 伸びとなろう。より停滞色を強める2006年度の実質GDP成長率は0.9%に低下する。

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