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「日本経済」の検索結果 [ 23/26 ]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年9月)

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    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    8月30日に行われた衆議院総選挙で、民主党を中心とする野党勢力が議席の3分の2を確保した。この結果、今後の経済に対する政策アプローチが大きく変 わることになる。今後の民主党の政策運営については、同党のマニフェストを除いて具体的な金額などを盛り込んだ形での発表はまだ行われていない。ここで は、民主党マニフェストの「工程表」から政策運営が経済にもたらす影響を推計しよう。
    表1は、民主党のマニュフェストの工程表をベースに、景気対策支出額を見たものである。マニフェストでは2009年度に対して最終(2013)年度にな るほど支出金額は明確になるが、それ以外の年では一部支出金額の支出状況は不明確である。そのため、2010年度から12年度の金額については、工程表を ベースに実現可能性を考慮して推計した。
    主な項目は、①子ども手当・出産支援 (同1.3(2013年度時点の所要額5.5兆円)、②暫定税率の廃止(同2.5兆円)、③医療・介護の再生(同1.6兆円)、④高速道路の無料化兆 円)、⑤農業の戸別所得補償(同1.0兆円)などである。要するに家計に対する所得補償型政策が中心となっていることがわかる。

    一方、これらの財政支出の財源は、①予算の組み替えによる無駄な歳出の削減(2013年度時点で9.1兆円)、②「埋蔵金」や資産の活用(同5.0兆 円)、③税制見直し(同2.7兆円)によってファイナンスされることになっている(表2参照)。しかし、2010年度からの早急な実施が困難なものもあ る。特に、公共事業のスリム化や税制改革などである。支出財源が確保できない場合は国債発行によって賄われることになる。
    以上のような支出と財源の見通しから財政バランスの見通しをまとめると、2010年度、2011年度は支出が拡大する一方で、財源の手当てが間に合わないため、財政赤字が拡大することになる(表3上段)。
    GDPに与える影響では、純支出額に着目する必要がある。純支出額の計算には、支出である「埋蔵金」や資産の活用はコストがかからないから考慮しない。 したがって、純支出額は支出措置額から歳出削減額(予算の効率化)・増税額(税制改革)を減じた額となる(表3中段)。またGDP成長率には、この純支出 額の年度間増減幅が影響する(表3下段)。この増減幅が拡大する2010年度、2011年度にはGDP成長率が押し上げられることになる。2012年度、 2013年度には、増税や歳出削減が進み、増減幅が縮小するため、GDP成長率を押し下げることになる。

    最後に、この純支出増減幅を基に、関西経済に対する影響を試算しよう(表4)。試算では、GRP成長率に直接寄与する政策として、子ども手当・医療介護 の再生・農業の戸別所得補償・暫定税率の廃止の4つの政策を取り上げて計算した。また工程表の支出額は日本全国を対象とした額であるため、これに関西の世 帯数割合17.1%を乗じて、関西への影響額としている。さらに、関西経済予測モデルの消費関数の長期消費性向0.464を乗じて追加的消費支出金額を計 算している。これを関西のGRP(89.4兆円、2010年度の予測値)と比較する。この結果、2010年度には0.4%程度、2011年度には0.3% 程度のGRP押し上げ効果となる。しかし、2012年度、2013年度には-0.3%、-0.5%とGRPにマイナス効果をもたらすことになる。

    以上、経済効果を示した。より詳細な分析のためには、家計調査報告に基づいた所得階層別の分析が必要となろう。民主党政権が考える内需、特に、家計消費 の刺激を起点とする経済成長シナリオにより、どのような成長パスが実現されるのか、今後の政策運営動向に注視しなければならない。  (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <7-9月期、内需は久方ぶりにプラス成長に転じるも、持続性に疑問>

    9月11日発表のGDP2次速報値によれば、4-6月期の実質GDP成長率は前期年率+2.3%となり、1次速報値(同+3.7%)から下方修正となった。
    実質GDP成長率下方修正の主要因は、民間企業在庫品増加である。実質民間企業在庫品増加は1次速報値の前期比-2.0%ポイント(寄与度年率ベース) から同-3.1%ポイントへと下方修正された。在庫調整が想像以上に進展していることを確認した。今後は在庫投資の積み上げが期待され、先行きにとっては 悪くない結果である。
    9月14日の予測では、8月の一部のデータと7月のデータがほぼ更新され、また4-6月期のGDP統計2次速報値が追加されている。支出サイドモデル は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大し、内需も小幅拡大するため、前期比+0.9%、同年率+3.6%と予測する。
    10-12月期の実質GDP成長率を、純輸出は引き続き拡大するが、内需が横ばいとなるため、前期比+0.5%、同年率+1.9%と予測している。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.5%となろう。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.5%となる。実質民間住宅は同-0.8%、実質民間企業設備も同-2.1%といずれも マイナスながら小幅の減少にとどまる。7月の工事費予定額(居住用)と資本財出荷指数は前月比ともにプラスになっており、7-9月期の民間住宅や企業設備 が前期比で安定化する可能性が出てきた。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同-1.0%となる。このため、国内需要の実質 GDP成長率(前期比+0.9%)に対する寄与度は+0.3%ポイントとなり、久方ぶりに内需が景気を引き上げる。
    財貨・サービスの実質輸出は同+5.7%と増加するが、実質輸入は同+1.9%にとどまる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.5%ポイントとなる。
    一方、主成分分析モデルは、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+3.6%と予測しており、支出サイドからの予測と一致している。また10-12月期を同+3.4%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、7-9月期が+3.6%、10-12月期が+2.6%となる。
    日本経済は4-6月期以降、内需が小幅ながら緩やかなプラス成長に転じている。しかし、今後は、民主党による補正予算の見直しも含め補正予算の政策効果 が剥落してくるため、経済のプラス成長の持続性には疑問が出ている。2010年度の民主党の消費拡大効果が出る前に一時的にマイナス成長に陥る可能性があ ることを指摘しておく。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    グラフに見るように、8月の雇用統計を更新した時点で超短期モデルは2009年7-9月期の実質GDP成長率を+1.3%と予測している。これは2008年4-6月期以来1年振りのプラス成長である。
    支出サイドから実質GDP成長率が急速に上昇した主な理由の一つには”Cash-For-Clunkers Program” (エコカー購入促進システム)により、自動車購入が増え実質個人消費支出が増えたことが上げられる。超短期モデルは実質耐久財の個人消費支出が2009年 7-9月期に11.9%(前期比年率)伸びると予測し、個人消費支出全体の伸び率を同+2.0%と予測している。エコカー購入促進システムによる購入が自 動車の在庫減になればその分GDP成長率の増加は相殺されるが、新車の生産につながればGDP成長率は高まる。支出サイドからの経済成長率上昇のもう一つ の大きな理由は実質住宅投資が7-9月期に同9.1%伸びると予想されていることによる。これは7月の民間住宅建設支出が2.3%(前月比)と大幅に上昇 したことによる。実質住宅投資の伸び率がプラスに転じるのは2005年10-12月期以来14四半期振りのことである。
    一方、所得サイドからの実質GDP成長率プラス転換の主な理由は2009年4-6月期の統計上の誤差が2,250億ドルと大きくなり、その結果7-9月 期の統計上の誤差も2,280億ドルになると超短期モデルが予測していることである。この統計上の誤差はGDP比率でみると1.6%に相当する。もう一つ の理由は、1-3月期、4-6月期とそれぞれ前期比-14%、同-5%と大きく落ち込んだ賃金・俸給が7-9月期には0%にまで持ち直すと予想されている ことが挙げられる。
    しかし、7-9月期経済のプラス成長の持続性には問題が残る。エコカー購入促進システムが8月24日で終了し、今後の個人消費支出の落ち込みが予想され る。また、住宅市場に回復の兆しが見えたものの今度は商業用不動産市場が悪化していることがある。所得サイドにおいても失業率が8月には9.7%と 1983年以来の高い水準になり、遅行指数とはいいながら労働市場の回復にはまだかなりの時間がかかるとみられ、個人消費支出の鍵をにぎる賃金・俸給の堅 調な伸びが今もって期待できない。このように、米国経済は7-9月期に一旦プラス成長に戻るものの、その持続性には多くの懸念が残る。

    [ [熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第2号(2009年9月10日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

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    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第2号(2009年9月)の概要は以下の通りです。

    1. 2009年4-6月期の実質GDP成長率は前期比年率+3.7%(1次速報値)となり、5四半期ぶりのプラスに転じた。当研究所では日本経済の成長率を09年度-2.6%、10年度+0.6%と予測した。

    2. 関西経済の経済指標をみると、回復と悪化を示すシグナルが相半ばしている。生産は回復の兆しを見せているとはいえ、ピーク時と比較すると水準はまだ低い。また雇用環境は悪化傾向が続いている。

    3. 日本経済の最新予測を織り込み、関西実質GRP成長率は09年度-2.5%、10年度同+0.8%と予測した。前回から09年度を0.7%ポイント下方修正、10年度を1.1%ポイント上方修正した。足下経済の回復と政策効果の見直しを反映した結果である。

    4. 民主党新政権の経済対策案は、短期的には家計消費を底上げするが、公共事業の見直しや増税は経済成長の抑制要因となる。

    5. 民主党政権の政策実施が関西経済に及ぼす影響を試算すると、2010,11年度は実質GRPをそれぞれ+0.4%ポイント、+0.3%ポイント押し上げるが、12,13年度にはそれぞれ-0.3%ポイント、-0.5%ポイントの押し下げとなる。

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    第1号 第45回衆議院総選挙を終えて (2009.9.10)

    インサイト

    インサイト » 分析レポート

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    ABSTRACT

    財団法人 関西社会経済研究所
    1.「新しい国のかたち」の模索  文責(浜藤豊)
    今や、日本は外にあっても内にあっても大変な時期である。我々は安心と自信を回復するために政治を鍛え直さなければいけない。この国の統治の立て直しを 誰に託すかを判断し、「新しい国のかたち」の建設を始めるのがまさに8月30日であった。その建設を進めていくに当たって克服すべき課題は多いが、大きく 分けてみるならば次の3つに集約できる。
    (1)経済構造の脆弱さ
    (2)政治、行政に対する不信感
    (3)巨額の財政赤字
    これらが複雑に絡み合って内外の環境激変に対応しきれなくなり、持続的な成長イメージが描けない状況に陥っている。

    <3課題に対する対策>
    第一に、構造的に弱い日本経済の足腰を強くするには、民間の活力を最大限に引き出す経済社会の確立を目指さなければならない。
    そのためには、日本国内の成長力を強化するとともに、海外の成長力を取り込むことが肝要である。国内面では、
    ①雇用機会の拡大や女性・高齢者の労働参加の促進
    ②省エネ設備・製品の開発・普及に向けた対策
    ③成長戦略のための技術開発促進による産業強化策
    (例)新たなサービス産業(医療、介護分野等で)の創出 など

    一方、海外成長力取り込みでは
    ①グローバル化に対応した法人税減税などの税制改革
    ②WTO中心型とEPA,FTA締結促進型との併用による自由貿易体制の確立
    ③競争力強化対策の拡充
    (例)日本への直接投資の促進(秩序ある資本の流出入を実現する市場の形成) など

    第二に、政治や行政に対する不信感を取り除いて国民が安心できる制度を構築するにはどうすればいいのかの問題である。行政の失敗が政治への不信につながっていることから
    ①無駄が生み出す財政赤字の排除の仕組みを取り入れた予算制度・公務員制度の改革
    (例)民間経営手法(PDCAサイクルなど)の採用

    ②住民選択を尊重する地域重視型社会の実現及び国・地方の役割分担を明確にした上での権限委譲
    (例)地方税財源確保のための補助金、交付税、税源配分見直し。道州制導入 など

    ③グローバル化・高齢化にも対応可能な社会保障制度の再構築
    (例)高齢者が安心して受けられる医療制度の再確立、派遣労働者へのセイフティーネット強化 など

    第三に、財政の健全化の問題が重くのしかかっている。このまま赤字が膨らみ続けると、現下の景気悪化に伴う赤字財政の拡大も加わって、将来世代が受ける 公共サービスレベルの低下も心配される。しかも、2015年には団塊世代が65歳の年金受給年齢に達し、本格的な高齢社会に突入することになる。その時期 までに財政再建への道筋をつけておかなければならない。具体的には、
    ①歳出削減と成長による、基礎的財政収支の赤字幅の削減、及び黒字化の時期
    ②成長・増税・歳出削減による、国・地方の債務残高の対GDP比のピークアウトを図る目標時期
    を明確化しておく必要がある。
    今、日本に求められていることは、現実を正しく認識し、先に述べた3つの課題に対する構造改革を推し進め、国内外の変化に柔軟に対応できる「新し い国のかたち」を構築していくことである。そこで、以下では、現在示されている各党のマニフェストがこの国の将来を示し得るものになっているのかを検討し てみたい。

    2.マニフェストに求めること  文責(島章弘)
    8月30日に実施された総選挙の結果、民主党が衆議院の過半数以上の議席を占めた。総選挙では多くの事が議論されたが、当然、政策議論が主体であり、その中心に各党のマニフェストが存在したといえる。
    近年、国政選挙におけるマニフェストの存在意義が高まっている。各党は従来以上にマニフェスト作成に努力し、国民そして各界も高い関心を払うようになって きた。マニフェストは各党の国民へのコミットメントであり、その内容を豊かにすることは日本の将来にインパクトがあると考える。
    ここでは、各党の2009年衆議院選挙に向けたマニフェストを概観し、これまでの議論や各界からの期待を踏まえ、さらに求めたいことを列挙してみた。マニフェスト評価を出発点として、政策議論の一層の活発化を期待したい。

    ■各党ともに多くの行政サービスの具体策を示しているが、その源泉となる国富の創出に関する記述が少ない。
    厳しい国際競争下、各党のマクロ経済政策や産業振興施策には一層の充実が求められる。今、求められるものはいかに内需を喚起するか、いかに国際競争力を 有する産業を発展させるかである。この結果、過度に外需に依存しない持続可能な経済発展が可能となり、国の税収を増加させ、政策が豊かなものになる。
    1990年代、米国経済は長期にわたる好況を謳歌し、「もはや景気循環はなくなった」とする「ニューエコノミー」論が活発に語られるほどであった。これ によって、巨額の財政赤字は解消され、クリントン政権を引き継いだ直後のブッシュ政権が実施した10年間で1.3兆ドルを超える減税プログラムが実現され た。

    ■不況下のマニフェストであり、セイフティーネット充実の必要性から全体として政策が増加している感が否めない。
    各党ともに行政の無駄排除を掲げているが、新政策の増加から結果として政府が関与する領域が広くなり大きな政府となる可能性がある。政府が関与する領域が広い社会経済システムを選択するのか、政府関与が少ないシステムを関与するのかの問題提起が欲しいところである。

    ■金融危機そのものに対する政策が少ない。
    現在の経済不況の発端となったのが金融危機である。株価は世界的に回復基調にあるが、根本的な問題は継続しており、国や地方の財政問題などこれから影響 が本格化する領域もある。こういったマイナス影響への対応策及び危機の再発防止への対応といった政策の提示が求められる。

    ■環境問題目標の達成手段についての国の関与に関する記述が少ない。
    原子力利用の充実を唱えている政党もあるが、これまでの原子力利用の実績を見ると、安全問題など克服すべき課題が大きく具体策に欠ける。また、日本の1 人当たり一次エネルギー消費は世界的にみて高いものであるが、個別産業のエネルギー効率でみると多くの産業で世界のトップ級になっている。技術開発の芽も 少ない状況では、削減目標数値先にありきでは、製造業の海外移転を促すだけになりかねない。さらに、排出権取引市場の設置も真の意味での環境問題進展への 寄与は期待できない。
    エネルギー分野で信頼度が高いBP統計によれば、2008年の日本の人口1人当り一次エネルギー消費量は中国の2倍以上である。しかし、鉄鋼業でみると 中国の製鉄所のエネルギー原単位は日本に比べ10%から20%悪いなど、ほぼ全ての産業で日本は優れた効率を達成している。日本の産業界が今のレベルから 飛躍的にエネルギー効率を向上させるのは相当困難である。こうした情勢下で、より厳しい目標を設定するには、より具体的な政策が求められる。

    ■税制改正に関する体系立った提案がない。
    抜本的改革との表現を使っているところもあるが、メッセージはそれだけであり中身が不透明である。暫定税率など一部の税廃止と税控除措置見直しを提唱しているところもあるが、税体系全体に関するメッセージが欠けている。
    逆進性がある消費税と累進性がある所得税とを中核として税負担をしている国民にとっては、負担構造のあり方についてむしろ受益と負担の関係から議論が行われて然るべきである。
    また、多くの党は中小企業の法人税率引き下げを提唱しているが、これは緊急経済対策的な色彩が濃いものであり、法人税全体に関する議論こそが、グローバル経済下では重要である。

    ■地方分権推進の考えは鮮明であるが、内容が説明不足。
    道州制導入を明確にしている政党は三層型地方分権制度であるのに対し、現状より広域化させた基礎自治体をベースとする政党は二層型地方分権制度といえよう。 それぞれの違いが国民生活にいかなる違いをもたらすかのメッセージが伝えられていない。

    個別分野ごとにマニフェストを概観し、これまでの議論や各界からの期待を踏まえ、求めることを列挙してみた。
    更に、個別分野ごとの議論ではなく、マニフェスト全体にかかわるポイントを指摘してみたい。マニフェストは数値や時期が明示された政策目標と合理的に選 択された明確な手段が提示されるべきである。今回、多くの政党のマニフェストは政策目標は提示されているが、具体的で明確な政策手段が示されているとの評 価をするのは難しいといえる。
    「政策形成能力」には、まだまだ問題があることを強く指摘しておきたい。また、この政策を実現・実行するのが「実現力」・「実行能力」といわれている が、前者は議院内閣制であれば政権をとるかとらないかの問題であり、後者は行政組織に対する管理能力の問題である。したがって、実現・実行の問題はマニ フェスト上の問題ではない。各党には、むしろ「政策形成能力」の向上を強く求めたい。

    3.日本の未来を示し得る政策への期待を込めて          文責(浜藤豊)
    前節では、現在までに公表されたマニフェストを前提に不充分な点を指摘してきた。日本は今、2つの大きなうねりに翻弄されている。すなわち、外にあって はグローバル化が急速に進むなかでの昨年来の経済危機、内にあっては高齢化・少子化の2つである。経済のグローバル化のうねりの象徴と対策としては、
    ①背後から迫りくる中国(GDPで追い抜かれる) → 実効性のある産業育成戦略の立案
    ②外国資金による国内金融資本市場の撹乱 → 新しい市場監視ルールの確立(投機資金の規正)
    などがあり、高齢化・少子化のうねりの象徴と対策としては
    ①人口減少の始まり → 外国人労働力・移民の受入体制の整備
    ②出生率の長期的低迷 → 結婚・出産阻害要因の除去(高校編入制度の未整備、婚外子対応など)
    などが挙げられる。
    グローバル化、高齢化・少子化が進展するなかでも持続的成長を図るためには、政府による体系的な実効性のある成長戦略が必要であると同時に、『民間企業 も成長していかなければ!』という覚悟をもって民間でも自らの成長戦略を構築することも重要である。官民共同による成長があってこそ社会は安定するので あって、子育てや雇用への安心もその延長線上に見えてくる。
    直面している危機を一刻も早く脱出し、これからの「新しい国のかたち」を構築していかなければならない。各党のマニフェストは政策内容としてはまだまだ不 十分な部分もあり、我々国民も充分にその内容を理解できているとは言い難いが、民主党に政権がバトンタッチされることになった今、マニフェスト通り誠実に 政策実現されるかをよくウォッチしていくことが肝要である。

    4.有権者意識調査                      文責(長尾正博)
    (財)関西社会経済研究所では、8月8日、9日の両日にわたって、楽天リサーチの全国サンプル1000人を対象に、インターネットを通じて、各党政策に対する有権者の意識調査を実施した。その3週間後(8月30日)衆議院選挙の投開票が行われ、獲得議席数が、多い順に、民主党308、自民党119、公明党21、共産党9、社民党7、みんなの党5、国民新党3、その他8議席という結果になった。前述の調査によれば、比例区の投票先政党については、民主党32.4%、自民党9.8%、公明党2.0%、共産党4.3%、社民党1.1%、国民新党0.5%であった(その時点で、まだ決めていない又は投票しないという方の合計は49.4%であった。)ので、実際の獲得議席数と同様の傾向を示していたことになる。例外は共産党であったが、同党に投票した有権者は比例区で7.0%であり、獲得票という意味では、これも、調査結果が反映されたと言える。
    調査結果の詳細については、「No5 各党政策に対する有権者の意識」というタイトルで、(財)関西社会経済研究所ホームページのリサーチペーパー欄に掲載しているが、その一部は下記の通りである。

    (1)支持の理由
    自民党の場合、支持する政党だから(56.1%、複数回答、以下同様)と政権を委ねるのに信頼できるから(35.7%)が突出しており、具体的な政策を評価していることにはなっていない。一方、民主党の場合、国の無駄遣いを解消し(55.2%)、官僚主導体制を打破し(45.1%)、国の構造改革を積極的にすすめてくれそう(26.5%)だからというのが支持の理由である。

    (2)個別のマニフェスト評価
    個別政策(特に民主党)について、それぞれ賛成か反対かについて聞いた結果を、賛成比率の高いものから並べると下記のグラフの通りとなった。また、比例区投票先別(民主党と自民党)にもクロス分析したところ、「子ども手当て」と「高速道路無料化」では、意見が分かれた。とくに子ども手当てについて、中学生以下のこどもがいない家庭では、賛否が互角であった。

    (3)経済・財政運営方針に対する有権者の賛否
    経済並びに財政に関する運営方針についても、その支持度合を計測した。
    この質問は難易度が高くなる為、「どちらともいえない。わからない。」という方が、経済運営で53%、財政運営で38%と多くなる。残りの明確に賛否を示された方の中で、どちらを支持するかについて聞いたところ下記の通りとなった。

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    2009年版関西経済白書「関西新時代への可能性」(2009年9月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2009年度

    ABSTRACT

    財団法人 関西社会経済研究所

    財団法人関西社会経済研究所(会長 下妻博、所長 本間正明)はこの度、「2009年版 関西経済白書?関西新時代の可能性?」を発行しました。2009年版白書では、先ず、金融危機の構造的要因に迫るとともに、世界同時不況下での日本経済、 関西経済の動向、並びに至近の見通しを示すことに努めました。その上で関西が自らの手で新時代へと向かうために①新時代の成長戦略の要となる「グリーン・ グロース(緑の経済成長戦略)」、②独自の高度な技術を有する中小企業、③地域の生活と産業を支えるインフラ環境整備を担う公的部門の姿、の3つのポイン トに注目し、編集しました。

    概要

    第1章 金融危機・世界同時不況と日本 
    米国発金融危機が発生した構造とその影響を解説しています。金融危機の背景として、重層的に仕組み債が組成され、リスク分散により高リスク商品への投資が 膨らんだこと、BIS規制の対象外である投資ファンドや投資銀行が「シャドー・バンク」としてレバレッジ(他人資本で利益をあげる)を高め信用バブルを発 生させたことなどをあげています。結果バブル崩壊により、分散していたリスクの大量同時破産に見舞われ、それが世界同時不況につながりました。

    第2章 日本経済・関西経済の危機と回復のゆくえ
    日本経済がまさに「フリーフォール」となった要因として外需依存経済を明らかにし、関西経済への影響、さらに回復へ向けてのシミュレーションをしていま す。また関西の府県別の構造分析も試みており、関西の02年?06年度の経済成長のうち、大部分が京都、大阪、兵庫の寄与(関西全体5.66%成長のうち 3府県の寄与は4.97%(約9割弱))にあることを視覚的に明らかにし、中でも大阪府の寄与が約4割弱となり、大阪府経済の動向が関西経済全体の浮沈に 大きく影響することがわかりました。

    第3章 関西復権のチャンス
    関西が自らの手で新時代へと向かうために注目される動きとして、新たな産業集積としての「パネル・ベイ」から「グリーン・ベイ」、技術力ある関西の中小企業、そして産業を支えるインフラ投資について最近の動向を示しています。

    第4章 関西発のグリーン・グロース?緑の経済成長戦略?
    「脱化石エネルギー」にむけての産業革命を「負担」ではなく「新たなビジネスチャンス」と捉え、発想の転換と新技術で経済成長をねらう「グリーン・グロー ス(緑の経済成長)戦略」を取り上げています。中でも新エネルギー産業(太陽光発電、風力発電、水力発電)、電気自動車産業、サービサイジング事業、再利 用事業(再資源化事業)などの有望産業について、現状と関西におけるポテンシャルを示しています。特に関西では太陽電池で国内の8割を生産しているほか、 電気自動車に使用されるリチウムイオン電池についても大きなポテンシャルを有しています。また関西では小型風車やマイクロ水力発電などユニークな発想と既 存の技術力を応用した中小ベンチャー企業の動きも注目されています。

    第5章 関西中小企業の実像?その強みと弱み?
    関西の中小企業をできるかぎり定量的に分析し、強み弱みを整理しています。関東や中部と比較して製造業の付加価値における中小企業比率が61.2%と最も 高いこと、また下請け比率が60.1%と最も低いこと、さらに部品から産業用最終製品、食品・生活用品まで多様な製造業がバランスよく存在していることな どから、関西中小企業の「独自性」「独立性」「多様性」を強みとして整理しています。一方、企業間信用が発達していることで、関西の中小企業は運転資金が 大きく資金繰りが厳しい状況にあり、売上に対する借入金や金融費用の比率も高く、財務体質が脆弱であることなどを弱みとして整理しています。

    第6章 関西自治体の行政改革への取組
    国の財政からの自立が求められる今日では、自治体も効率的な財政運営が求められます。本章では、自治体の経常収支から財政運営の健全性を、また労働コストから、生産性を分析しています。

    [ ご参考 ]
    *「2009年版 関西経済白書 発表会・シンポジウム」を開催いたしました(9/9)。

    大手書店で発売中。定価1,500円(税込み)。

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    第79回 景気分析と予測(2009年8月25日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

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    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    8月17日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受け、2009-2010年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2009年度4-6月期実績の評価‥‥実質GDP成長率(一次速報)は、前期比+0.9%、同年率+3.7%と、5四半期ぶりのプラス成長となり、1-3月期が景気の谷となった。今回の景気回復の主な要因は、経済危機対策の効果と純輸出の悪化幅の縮小である。

    * 2009年度の改訂見通し‥‥民間需要の寄与度は大幅に悪化するが、大型補正予算の影響で公的需要が+1.2%の寄与となり、外需(純輸出)の寄与度もマ イナス幅が若干縮小されるため、実質GDP成長率は、2008年度の▲3.2%から2009年度は▲2.6%とマイナス幅が縮小する(前回予測▲2.2% からは下方修正)。

    * 2010年度の改訂見通し‥‥大型補正予算の効果が剥落するため公的需要の貢献は縮小するものの、民間需要の悪化幅は大きく縮小、世界経済の緩やかな回復 により純輸出の寄与がプラスに転じる。2010年度の実質GDP成長率は+0.6%(前回予測▲1.1%から上方修正)となり、3年連続のマイナス成長は 回避できるであろう。

    * 前回予測では、当研究所「経済危機対策」に関するアンケート調査結果(5月13日に記者発表実施)に基づきその効果を検討したが、今回予測では、政策効果 が一部表われた4-6月期の実績を踏まえ、再検討した。低炭素革命関連政策は、所得制約等により、民間消費を+0.60%、実質GDPを+0.38%引き 上げる効果にとどまる(前回予測の民間消費+1.3%、実質GDP+0.7%から下方修正)。

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年8月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    関西社会経済研究所は7月30日、岩田一政氏(内閣府経済社会総合研究所所長)と櫨浩一氏(ニッセイ基礎研究所経済調査部部長)をパネリストとして招 き、「世界同時不況からの回復?夜明けは見えたか?」というテーマで景気討論会を行った。政権交代の可能性が高まる中、短期的には政策や景気の見通しにつ いて不確実性が高まるという状況での討論会であった。
    各パネリストの議論は、それぞれが得意とする中期、短期、超短期をカバーした非常に内容の充実したものとなった。以下、景気討論会での重要と思われる議 論を紹介する。8月30日には総選挙結果の如何を問わず、今後の景気見通しや経済運営の議論にとって重要と考えられるからである。

    内閣府の中期経済見通し
    岩田氏は、内閣府試算の最新の中期経済の見通しから3つのシナリオを提示された。3つのシナリオとは、2011年度から毎年消費税率を1%ポイント、累 計で3%、5%、7%の引上げを行った場合の、それぞれの経済成長率と財政の基礎収支(プライマリーバランス)のパスを示したものである。プライマリーバ ランスは、成長戦略と景気回復で2007年度に-1%台まで改善したが、2008年度の大不況と大規模な財政出動で大幅に悪化し、2009年度には -8.1%まで低下すると見込まれるため、2011年度黒字化の目標はすでに放棄された。
    今後この3つのシナリオが実現された場合、プライマリーバランスが黒字化する時期は、消費税率引き上げが7%ポイントのケースは2018年度、5%ポイ ント引き上げのケースは2021年度となる。それ以外のケース(3%ないしはゼロ%)では2023年度までに黒字は実現できないようである。図からわかる ように、今回の大不況は、日本のプライマリーバランスの改善を10年程度先送りにしたことになる。

    内閣府の試算では、日本経済の成長率のパスは2008-09年度に2年連続の-3%台のマイナス成長の後、2010年度は+0.6%となり、2012年度までは大幅な需給ギャップを埋めるため3%程度の比較的高い成長を経たのち、以降潜在成長率に戻るというものである。
    最終目的としての政府債務/名目GDP比が2010年代半ばに安定化し、2020年代に低下するためにも、長期実質金利が低位安定的でなければならな い。岩田氏の指摘によれば、長期金利は生産年齢人口の変化と関係しており、日米とも生産年齢人口がピークアウトする時期にバブルが発生したことから、今後 の日本の生産年齢人口比率が低下することは長期金利安定化の一助となるが、逆に、中国は生産年齢人口が上昇することから、今後バブル発生の可能性は高くな るという。これは、重要なポイントと考えられる。

    中国は米国市場に替わる役割を完全に担うことはできない
    短期的な視点に戻せば、2009年4-6月期の日本経済の実質成長率は純輸出のリバウンドで前期比プラス成長に転じ、景気の底打ちは確認できそうだが、 年後半は加速ではなく緩やかな回復にとどまる可能性が高い。米国の超短期予測が示すように、マーケットが期待するような回復には所得サイドから疑問が投げ かけられている。日本経済にとって重要な貿易パートナーである米国経済の急回復が期待できないとすれば、年後半の日本経済の回復は緩やかなものにとどまろ う。一方、新興諸国の代表である中国は、足下政策効果があらわれ経済成長率を加速させており、日本の中国向け輸出も前期比で増加している。しかし、公共投 資を中心とする財政政策では民間消費をけん引役とする内需拡大型成長は実現できない。結局、輸出の回復が戻らなければ、中国の高成長は持続可能でないであ ろう。その意味で、日本にとって、中国は米国市場に替わる役割を完全に担うことはできない。
    日本経済が、内閣府試算が示す3つのシナリオないしはそれ以外のシナリオをとろうとも、中期成長パスの初期条件として、2010年度の経済パフォーマン スないし景気回復の中身は今後にとって非常に重要な鍵となろう。その意味で、2010年度に効果が剥落する政策の存否については、その効果についての十分 な精査が必要である。(稲田義久)

    日本
    <4-6月期は5期ぶりのプラス成長に転じるも、年後半は勢いに欠ける>

    4-6月期の実質GDP成長率(1次速報値)は前期比年率+3.7%となり、5期ぶりのプラスに転じた。成長率への寄与度(年率)を見ると、国内需要は-2.8%ポイントと成長率を引き下げ、純輸出は+6.5%ポイント引き上げた。
    今回の回復の特徴は、景気対策効果と純輸出の大きな寄与である。実質民間最終消費支出は前期比年率+3.1%と3期ぶりのプラスとなり、実質GDP成長 率を1.9%ポイント引き上げた。もっとも所得環境は悪く、実質雇用者報酬は同-6.7%と2期連続のマイナス。にもかかわらず民間最終消費支出が伸びた のは、政策効果(エコポイント制度、自動車取得促進税制や補助金)による消費性向の一時的な高まりが影響している。
    一方、投資は住宅、企業設備ともに不調である。実質民間住宅は同-33.0%と2期連続のマイナスである。実質民間企業設備も同-16.1%と5期連続 で減少した。この結果、民間住宅と民間企業設備で実質GDP成長率を3.7%ポイント引き下げたことになる。また、実質民間在庫品増加は-2.1%ポイン ト成長率を押し下げた。大幅に在庫調整が進んだといえよう。
    公的需要は同4.7%増加し、実質GDP成長率を1.1%ポイント引き上げた。うち、実質公的固定資本形成は同36.3%増加し、寄与度は+1.4%ポイントである。
    外需をみると、実質純輸出は大きく経済成長率に貢献した。財貨・サービスの実質輸出は同+27.9%増加する(寄与度+3.2%ポイント)一方で、同実質輸入は同-18.9%(寄与度+3.3%)減少したためである。
    デフレータをみると、GDPデフレータは前期比-1.1%と3期ぶりの下落となった。需給ギャップの急激な拡大を背景にデフレ圧力が強まっている。
    今週の支出サイドモデル予測は、7-9月期の実質GDP成長率を、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比 年率+1.6%と予測している。10-12月期の実質GDP成長率も、純輸出は引き続き拡大するが、内需が引き続き悪化するため、同+0.6%と予測して いる。このように2009年後半の経済は、4-6月期のプラス転換にもかかわらず、勢いに欠ける。この結果、2009暦年の実質GDP成長率は-5.4% となろう。
    7-9月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%となる。実質民間住宅は同-3.7%と3期連続のマイナスとなる。実質民間企業 設備も同-5.3%と6期連続のマイナスとなる。実質政府最終消費支出は同+0.5%、実質公的固定資本形成は同+0.2%となる。このため、国内需要の 実質GDP成長率(前期比+0.4%)に対する寄与度は-0.3%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同5.4%増加するが、実質輸入は同横ばいとなる。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は+0.7%ポイントとなる。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <所得サイドから懸念される米国経済への楽観的見方 >

    6月の始め頃から米国景気の減速が緩やかになってきたことがわかってきた。このため、超短期予測は、6月から7月の始めにかけて米国景気に対して楽観的 な見方をするようになった。しかし、その後、超短期予測の改善は進まず、支出・所得サイドから4-6月期の実質GDP経済成長率を最終的には前期比年率 -1.1%と予測した。7月31日に発表された4-6月期の実質GDP速報値によれば、成長率は同-1.0%となった。実績は、超短期予測に近かったもの の、市場コンセンサスの同-1.5%よりマイナス幅が小さかった。このため、市場・エコノミスト達の間ではリセッションが2009年1-3月期に底を打 ち、これから景気が回復に向かうであろうという楽観的な見方が広まった。実際、多くのエコノミスト達は2009年7-9月期の経済成長率を+2%近くに上 方修正をしている。
    発表された経済統計が良くなくとも、それが市場のコンセンサスより良かった場合、市場・エコノミストにある種の楽観的な見方が生まれることがある。今 回、このことが雇用統計においても生じた。市場は7月の失業率が前月より0.1%ポイント上昇し9.6%になると予想していたが、結果は前月より0.1% ポイント低い9.4%となった。7月の雇用減も市場のコンセンサスをかなり下回る数字となった。このため、株価の高騰にみるように、市場、エコノミストの 間に景気回復に対する楽観的な見方が急速に広まってきた。更に、消費者が政府の補助を得てエネルギー効率のよい自動車に買い換え る”Cash?for?Clunkers Program(エコカー購入促進システム)” が予想以上に好調なこともエコノミスト達の楽観論を支えることになっている。
    8月10日の超短期予測では7月の自動車の小売販売統計が更新されていない。すなわち、”Cash?for?Clunkers Program”の経済への影響を考慮できていないことから、7-9月期の成長率予測は過小推計の可能性があるが、問題はグラフに見るように、所得サイド からのGDP予測が下降トレンドを示していることにある。所得サイドから景気回復がみられなければ、持続的・堅調な米景気の回復・拡大は難しい。その結 果、今の景気回復への楽観的な見方は期待はずれに終わることになるであろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年7月)

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <続:本当に1-3月期が景気の底か?>

    【センチメントは回復したが・・・】
    7月1日発表の日銀6月短観によると、最も注目される業況判断指数(DI)は、大企業製造業で-48となり、前回調査から10ポイント改善した。前期比 での改善は2006年12月調査以来2年半ぶりである。6月短観の業況判断DIは景気の底打ちを示唆するものであるが、その水準が極めて低く、大幅な需給 ギャップが存在しており、自律的な回復に疑問を抱かせる結果といえよう。
    6月調査の年度計画を見ると、2009年度の売上高計画は全規模・全産業ベースで前年比-9.5%と3月調査(-5.7%)から下方修正された。一方、2009年度経常利益計画は前年比-16.4%の減益が見込まれており、前回調査(-9%)から大幅下方修正された。
    生産設備の過剰感の拡大と企業業績の悪化で、設備投資計画は大きく下方修正された。2009年度の投資計画(全規模・全産業、ソフトウェアを除き土地投 資額を含む)では、前年比-17.1%と3月調査から4.2%ポイント下方修正された。2009年度前期は前年比-15.7%、後期は同-18.4%と後 半に減少幅の改善は見られない。
    また、6月の景気ウォッチャー調査によると、街角の景況感を示す現状判断DIは42.2となり、前月より5.5ポイント上昇した。6ヵ月連続の改善。前年比では12.7ポイント上昇し、2ヵ月連続の改善となった。
    景気ウォッチャー調査では、景気は、「良くなっている」から「悪くなっている」の5段階で評価される。また判断DIは5つの評価点と評価区分のウェイトの加重平均で計算される。
    6月は、「やや良くなっている(15.5%)」と「変わらない(49.4%)」と答えた割合は、前月からそれぞれ3.3%ポイント、7.9%ポイント上 昇しており、一方、「やや悪くなっている(20.9%)」と「悪くなっている(13.5%)」と答えた割合は、それぞれ3.6%ポイント、7.7%ポイン ト低下している。「やや悪くなっている」と「悪くなっている」の合計が前月から11.3%ポイント低下しており、その大部分は「変わらない」に流れてお り、景気ウォッチャー達は景気が最悪期を脱したが大きく改善したわけではないとみている。

    【4-6月期成長率予測、支出サイドモデルと生産サイドモデルのギャップは鉱工業生産の好調が原因】
    今月の日本経済見通しで述べているように、支出サイドモデルによれば、4-6月期の実質GDP成長率は、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民 間企業設備)が不調となるため、前期比年率-4.2%と予測される。一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を 同+2.0%と予測している。なぜ両モデルの予測が乖離するのであろうか。
    支出サイドモデルでは、GDP支出各項目を予測し、それを積み上げて成長率を予測する。そこで、4-6月期のGDP項目の予測を詳細に見てみよう。
    まず民間需要。実質民間最終消費支出は前期比+0.9%と、1-3月期の-1.1%から大きく回復する。5月の消費総合指数は、前月比0.6%上昇し 3ヵ月連続のプラス。補正予算による民間消費の底上げ効果が徐々に出てきているようである。家計調査報告によれば、勤労者世帯のうち定額給付金を受け取っ た割合は、4-5月累計で32.5%となっており、実収入を一時的に押し上げていることがわかる。もっとも、先行きについては家計の所得制約が強まるた め、民間消費の持続的拡大は期待できないであろう。実質民間住宅は同-8.7%と2期連続のマイナスとなる。実質民間企業設備も同-8.5%と5期連続の マイナスとなる。このように、民需では民間家計消費支出は好調であるが、民間投資が極めて弱いため、実質GDP成長率(前期比-1.1%)に対する寄与度 は-1.4%ポイントとなる。
    一方、公的需要は成長に貢献している。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同+5.3%となるため、成長率への寄与度は+0.3%となる。
    純輸出は景気回復に貢献している。財貨・サービスの実質輸出は同1.3%減少するが、実質輸入も同2.1%減少する。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度は+0.1%ポイントとなる。
    生産サイドモデルでは、15の変数からなる主成分を用いて実質GDP成長率を予測する。すなわち、鉱工業生産指数、家計消費支出、小売業売上高、工事費 予定額(居住専用)、民間機械受注、公共工事請負金額、給与総額、交易条件、イールドカーブ、国内企業物価指数、消費者物価指数等である。このうち、5月 の鉱工業生産指数(前月比+5.9%)は3ヵ月連続のプラスと好調で、これが大きく成長率予測を引き上げている。支出サイドモデルで使用される資本財出荷 指数は5月に前月比7.5%下落し、8ヵ月連続のマイナスとなったのとは好対照である。
    以上が、両モデルの予測値が乖離する主たる理由である。今後支出サイドモデルがプラス成長に転じるきっかけは、6月の貿易統計と公共投資の結果となろう。(稲田義久)

    日本
    <回復力が弱い日本経済:鉱工業生産は3ヵ月連続プラスだが、見方は依然慎重>

    7月13日の予測では6月の一部と、5月のほぼすべてのデータが更新された。4-6月期のGDPを説明する3分の2の月次指標が出揃ったことになる。
    支出サイドモデルは、4-6月期の実質GDP成長率を、純輸出は拡大するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比 -1.1%、同年率-4.2%と予測している。7-9月期の実質GDP成長率は、内需の減少幅が縮小するが、純輸出が悪化するため、前期比-1.6%、同 年率-6.1%と予測している。
    一方、主成分分析(生産サイド)モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、7-9月期を同-2.6%と予測している。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP成長率(前期比年率)の平均は、4-6月期が-1.1%、7-9月期が-4.3%となる。1-3月 期の-14.2%の大幅マイナスから、4-6月期はマイナス幅が大きく縮小するが、7-9月期に再び拡大するというパターンである。この2四半期いずれも 回復力が弱いのが我々の予測の特徴である。
    前月の予測と異なる点は、支出サイド、生産サイドいずれも実質GDP成長率が上方に修正されたことである。特に、生産サイドからの成長率予測 は+2.0%と前月からプラスに転じた。主成分分析モデルでは15の変数が使用されているが、うち鉱工業生産指数の好調がその要因となっている。実際、5 月の鉱工業生産指数は前月比5.9%上昇し、3ヵ月連続のプラスとなった。輸送機械工業、電子部品・デバイス工業等が上昇し、経済対策の効果が表れてきた ようである。たしかに経済は大幅なマイナス成長からのリバウンドで最悪期を脱したといえよう。しかし、問題は回復の持続力である。
    7月9日に発表されたESPフォーキャスト調査によると、4-6月期のコンセンサス予測は前期比年率+1.98%となっている。これは主成分分析モデル と同じ予測結果である。いずれも、好調な鉱工業生産指数の影響を受けているようである。しかし、経済全体で見た場合、景気回復にはまだまだ時間がかかり、 その判断には慎重にならざるを得ない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    7月3日の超短期予測は、6月の雇用統計までを更新した結果、グラフに見るように6月に入り緩やかではあるが上昇トレンドを形成し始めた実質GDP経済 成長率を僅かに下方に修正した。成長率だけでなく、実質総需要、実質国内需要、実質最終需要のようなアグリゲート指標においても同じようにわずかながら下 方修正となった。しかし、グラフに見るように4-6月期の経済成長率は2008年10-12月期、2009年1-3月期の前期比年率-5%を下回る大きな マイナス成長から同-1%程度にまで回復していることが分かる。アグリゲート指標で2009年4-6月期の経済成長率をみても-2%?0%となっており、 前2四半期のような大きな落ち込みにはなっていない。
    成長率はいまだマイナスであるが、改善の様子は、製造業により明確に現れている。フィラデルフィア、リッチモンド、カンザス・シティー、ダラス、シカゴ の各連銀はそれぞれの地域の製造業のデフュージョンインデックスを毎月発表するが、それらの全てが2008年末までに底をうち、その後改善の傾向を示して いる。6月の時点で製造業の活動が拡大を示しているのはリッチモンド、カンザス・シティーの両連銀地域だけであるが、他の連銀地域では製造業活動のこれま での大きな縮小が急速に小さくなっている。シカゴ連銀の全米活動指数、ISM製造業指数をみても、2009年に入り製造業活動の縮小が急速に改善している ことがわかる。このように、米国経済においては製造業が最悪期から改善し始めた状況にあるといえる。
    しかし、6月の雇用統計で懸念されるのは景気先行指標としての平均週労働時間が0.3%減少したことである。この指数は3月に-0.6%と大きく下落し た後、4月、5月は横ばいとなったが、その後の景気回復により上昇することが予想されていた。7月3日の超短期予測では7-9月期のアグリゲート指標を含 む成長率を-2%?0%と4-6月期と同じ範囲に予想しており、米景気の回復(プラス成長)にはまだまだ時間がかかると思われる。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年6月)

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    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <本当に1-3月期が景気の底か?>

    【景気は1-3月期に底打ち?】
    この数週間、日本経済は1-3月期に底打ちしたのではないかという意見が民間エコノミストの間で主流となりつつある。政府や日銀からもそのようなコメン トがなされ、株価も1万円台をつけ先行きの明るさを示唆しているかのようである。今月の日本経済の見通しで示したように、現時点でわれわれの超短期予測は この見方に対して慎重になっている。以下、その理由を示そう。

    【月次データの結果はミックス】
    最近の経済指標を一瞥すれば、”景気底打ち”との見方を支持できそうである。鉱工業生産指数は3月、4月と2ヵ月月連続して前月比プラスを記録した。ま た好調な生産、出荷の影響で、4月の一致指数(CI)は前月比1.0ポイント上昇し、11ヵ月ぶりの改善となった。単月では判断しがたいが、これらは景気 の底打ちを示唆するデータといえよう。4月の輸出数量指数は前月比+10.3%と2ヵ月連続で上昇した。輸出は3月、4月に底打ちしたようである。
    またセンチメントが大きく改善している。5月の消費者態度指数は、5ヵ月連続で前月比プラスとなり、前年比でも30ヵ月ぶりの改善となった。5月の景気ウォッチャー調査でも、現状判断DIは5ヵ月連続の前月比改善となり、前年比でも2ヵ月連続のプラスとなった。
    このように、全体的にみると生産や出荷指数は2ヵ月連続で改善している。しかし、財別に見ると違う姿がうかがわれる。4月の資本財出荷指数は前月比 -10.1%低下し、7ヵ月連続のマイナスとなった。民間企業設備の基調は非常に弱い。また4月のコア機械受注は前月比-5.4%と減少し、2ヵ月連続の マイナスとなった。民間企業設備の先行きも明るくない。
    たしかに、消費者センチメントの悪化は止まり改善の方向に進んでいるが、最終需要の勢いは極めて弱い。またデフレ圧力の高まりで、今後1年の物価につい て、横ばいないし下落と見る消費者の割合は、初めて50%を超えた。景気ウォッチャーの見方でも、景気を「やや悪くなっている」と「悪くなっている」と評 価する割合は全体の5割弱もあることに注意しなければならない。これらはいずれも民間消費を押し上げるにはインパクトに欠ける。
    月次データの結果には良いものと悪いものとが入り交ざっており、同じデータでも両面が垣間見られる。景気回復期のデータの特徴といえよう。たしかに、この時期、景気診断は非常に難しいが、具体的でなければならない。

    【超短期予測の見方】
    われわれの超短期モデル予測の特徴を一言でいえば、”Go by the Numbers”である。予測において、月次データと四半期GDPを統計的にリンクしているのである。したがって、毎週、具体的に数字で示すことができ る。現時点では、4月の実績と5月、6月の月次データの予測値からGDPを予測している。今月の日本経済の見通しで示したように、4-6月期予測の特徴 は、純輸出の前期からの減少幅が縮小傾向にあるが、民間需要、特に、民間住宅と民間企業設備が弱い点である。今後2ヵ月で、公的需要と純輸出の回復が、ど こまで民間需要の弱さを相殺できるかが、実質GDP成長がプラスに転換できるかのポイントになる。たしかに、景気は改善の方向にあるが、経済がプラス成長 に転換しているかの判断は難しい。現時点での民間エコノミストの見方は、好調な鉱工業生産統計の影響を大きく受けていると思われる。鉱工業生産の経済全体 に占めるシェアは高々20%であることに注意しなければならない。〔稲田義久]

    日本
    <マーケットは1-3月期が景気の底、超短期予測は慎重>

    6月11日発表のGDP2次速報値によれば、1-3月期の実質GDP成長率は前期比年率-14.2%となり、1次速報値(同-15.2%)から1%ポイ ントの上方修正となった。この結果、2008年度の実質GDP成長率は1次速報値の-3.5%から-3.3%へと上方修正された。
    実質GDP成長率上方修正の主要因は、民間企業設備及び民間在庫品増加である。実質民間企業設備は1次速報値の前期比-10.4%から同-8.9%へと 上方修正され、実質GDP成長率に対する寄与度は、-1.6%ポイントから-1.3%ポイントへと0.3%ポイント上昇した。また民間在庫品増加も1次速 報値の-0.3%ポイント(寄与度ベース)から-0.2%ポイントへ上方修正された。
    6月15日の予測では、1-3月期GDP2次速報値と12日までの月次データが更新された。支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長 率は、純輸出の減少幅は縮小するが、民需(特に、民間住宅、民間企業設備)が不調となるため、前期比-1.4%、同年率-5.5%となる。
    7-9月期の実質GDP成長率は、前期比-2.5%、同年率-9.7%と予測している。実質GDP成長率のマイナス幅が7-9月期に拡大するのは、内需 の減少幅は縮小するが、実質輸入の大幅増加により純輸出が再び悪化するためである。足下の輸入物価の大幅下落の影響を受け、7-9月期の輸入物価予測値が 大幅下落するため、実質輸入の予測値が上振れする。
    主成分分析モデルは、4-6月期の実質GDP成長率を前期比年率-2.6%と予測している。また7-9月期を同-6.2%とみている。
    支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、4-6月期が-4.1%、7-9月期が-7.8%となる。図から明らかなように、この4週間、4-6月期の予測は上昇トレンドにあるが、依然としてマイナス成長にとどまっている。
    一方、別のアグリゲート指標である実質総需要(国内需要+輸出)の動きをみれば、4-6月期は前期比年率-4.5%、7-9月期同-3.8%と減少幅は緩やかに縮小している。このように成長率のマイナス幅は縮小の傾向にあるが、依然としてマイナス領域にある。
    マーケットでは、1-3月期が景気の底(したがって、4-6月期がプラス成長)という見方が広まっているが、超短期予測はそれほど楽観的ではない。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    6月5日の超短期予測では、同日に発表された5月の雇用統計までを更新している。グラフからわかるように、4月22日以来の実質GDP成長率の下降トレ ンドが止まり、上昇トレンドへの反転の可能性を示した。これはGDPのみならず、総需要、国内需要、最終需要などの他のアグリゲート指標についても同様に 見られた。6月5日の超短期予測の1回だけの予測結果によって景気の転換点を判断するには無理があるが、これまでの深刻な景気後退が緩やかになってきたこ とは認めてよいだろう。マーケットでは、5月の雇用減がコンセンサスの525,000人よりかなり低い345,000人となったことから、リセッションが 終結に向かいつつあるとの楽観的な見方がでてきた。
    しかし、景気先行指標としての平均週労働時間は、4月の33.2時間から5月には33.1時間へと減少した。もちろん、景気の遅行指標としての失業率は 今もって上昇を続けており5月には9.4%にまでなった。これは1983年8月以来の高さである。さらに、雇用減少は18ヵ月連続して続いている。これは 1981-82年のリセッション時と同じ記録である。
    このように労働市場の停滞を反映して、超短期モデルによる賃金・俸給の予測は、今期・来期とそれぞれマイナスの伸びを予想しており、個人消費支出の増加 に期待がもてない。しかし、6月5日の超短期予測では、4月の所得サイドの統計を更新することによって、政府から個人への移転所得の急増、個人の税支払い の減少が予測され、個人所得が今期、来期にそれぞれ1.9%、1.7%伸びると予測している。すなわち、景気刺激策の個人所得への効果がでてくる。一方、 最近の消費者センチメント・コンフィデンスの急速な高まりを考えると、個人所得の増加が個人消費の増加に結びつく可能性も高い。そうなれば、今回の超短期 予測で示された景気の転換点がより現実的となるだろう。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    関西エコノミックインサイト 第1号(2009年6月9日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析?関西経済の現況と予測?」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    「関西エコノミックインサイト」は、関西経済の現況の解説と、計量モデルによる将来予測を行ったレポートです。関西社会経済研究所が公表する日本経済予測と連動しており、原則として四半期ごとに公表いたします。

    第1号(2009年6月)の概要は以下の通りです。

    1. 関西経済は、世界経済の低迷に伴う輸出の急激な落ち込みにより、総じて停滞している。ただし中国経済に回復の兆しが見られることや、生産・在庫の調整が緩やかに進んでおり、景気の下げ止まりを示唆する指標が出始めている。

    2. 関西経済の実質GRP成長率は2009年度-1.8%、2010年度-0.3%と予測する。景気対策による民間消費の刺激および公的需要の大幅拡大を織り 込んでいるが、それでもなおマイナス成長となる。仮に景気対策が行われなかったとすると、2009年度の関西GRP成長率は-3.7%となる。

    3. 2010年度は景気対策の効果が剥落し、-0.3%と小幅ながらマイナス成長となる。ただし世界経済の回復と関西地域での企業設備投資が堅調であることから、日本経済より落ち込みは緩やかに推移する。

    PDF
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    第78回 景気分析と予測(2009年5月26日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    5月20日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受け、2009-2010年度の改訂経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2009年度1-3月期実績の評価‥‥当期の実質GDP成長率(一次速報)は、前期比▲4.0%、同年率▲15.2%と、戦後最大の落ち込みとなり、4期 連続のマイナス成長を記録した。これまで景気の牽引役であった輸出の急激な落ち込みと、民間需要(特に民間最終消費と企業設備)の減少が原因であり、輸出 に大きく依存する日本経済成長モデルの脆弱性が示される。これにより09年度の日本経済は▲4.9%の「成長率のゲタ」を履くことになる。

    * 2009年度の改訂見通し‥‥2009年度の実質GDP成長率は▲2.2%となる(前回予測▲3.7%から上方修正)。海外経済の回復は期待できないが、 大型補正予算による需要の前倒しが起こり、大不況は回避できるであろう。大型補正予算が実現されない場合よりも経済成長率は3.0%ポイント引き上げられ る。

    * 2010年度の改訂見通し‥‥世界経済の緩やかな回復により純輸出の寄与はプラスに転じるものの、大型補正予算の効果が剥落するため、小幅ながらマイナス成長にとどまる。2010年度の実質GDP成長率は▲1.1%と3年連続のマイナス成長となろう。

    * 当研究所では、「経済危機対策」の効果を見積もるにあたり、アンケート調査を実施した(アンケートの調査結果は5月13日に記者発表を行っている)。この 調査結果、ならびに予算内容の精査の結果から、「経済危機対策」は実質GDPを最大で3.2%押し上げる(08年度補正予算を含む)効果を持つと検証され た。

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年5月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2009年度補正予算のマクロ経済への効果とその含意: アンケート調査に基づく検討>

    【はじめに】
    関西社会経済研究所(KISER)では、麻生内閣による経済危機対策についてアンケート調査(ウェブベース)を行い、5月13日に速報結果を報告した。一 方、5月20日発表された1-3月期の実質GDP(1次速報値)は前期比年率-15.2%と戦後最大の落ち込みとなった。これをうけて、KISERは26 日に日本経済の四半期見通しを発表する。これまで財政・金融政策の効果をマクロモデルのシミュレーションを通じて分析してきたが、より正確を期すために、 昨年以来、マクロ・ミクロの両アプローチから検討している。今回のアンケート結果のミクロ情報がマクロモデル分析に援用される。本コラムでは、先般発表し たアンケート調査結果を精査し再検討した結果から、その政策効果や含意に焦点を当ててみよう。

    【アンケート結果の精査と政策効果の推計】
    アンケート調査では、経済危機対策(補正予算)のうち、低炭素革命関連、(1)エコカー購入への補助、(2)グリーン家電普及促進、(3)太陽光発電システム購入への補助、(4)住宅などの購入にかかわる贈与税の減免などを取り扱った。
    補正予算(財政政策)の効果により発生する需要の推計は、基本的にはアンケートによる回答率に母集団である世帯数(エコカーは保有台数)を乗じて計算し ている。1,000というサンプルから出来るだけ正確に母集団の行動を推計するため、速報発表後に回答率の精査を行うとともに母集団の選択にも注意を払っ た。さらに、政策に関係なく購入する予定者の割合から潜在的な需要を割り出し、それが業界の最近の販売量と大きく相違しないかチェックも行っている。
    1.エコカー
    今回の精査では、車を持っている人のうち(車歴13年以上90、13年未満631)、今後1年以内の車の購入予定がないと答え、さらに、新車購入の予定 はなかったがこの政策により新車を購入すると答えた人(車歴13年以上3、13年未満16)のみをカウントした。この比率を車歴13年以上、13年未満の それぞれの台数に乗じる。ちなみに、2008年3月末の乗用車登録台数は4,147万台(車歴13年以上817万台13年未満3,330万台)である。

    スクラップ促進策とエコカー減税による追加的な需要創出効果は、合計、111.7万台となる。これに1台あたり200万円(インサイト、プリウスの最も安いランクの価格を参考とする)をかけると、約2兆2,334億円が政策効果となる。
    2.グリーン家電
    現在グリーン家電(テレビ、冷蔵庫、エアコン)のいずれも購入予定はないが、制度が実施されるならエコ家電を購入したいと答えた人の中で、それぞれのエ コ家電を購入すると答えた人のみが今回の政策による追加的購入の該当者とみなしている。全サンプルに対する割合は、テレビは8.5%、エアコンは 6.6%、冷蔵庫は7.0%である。この割合を2009年3月時点の世帯数(労働力調査)に乗じて追加需要を、さらに当該エコ家電の平均単価を乗じて金額 を推計している。エコ家電のうち、テレビとエアコンについては全世帯数を母集団としているが、冷蔵庫については2人以上の一般世帯を母集団としている。

    グリーン家電普及促進策による追加的な需要創出効果は、合計、1,010.4万台となり、約1兆480億円が政策効果となる。
    3.住宅用太陽光発電システム
    2005年国勢調査によると、全世帯4,906万世帯のうち、持家一戸建の世帯は2,539万世帯である。全世帯数は、直近2009年3月時点には、 5,059万世帯になっている。全世帯数の伸び率から、直近の持家一戸建数は2,618万戸と推計できる(2,539×5,059/4906)。この世帯 数が補助金対象になる。補助金対象者のうち、アンケートで太陽光発電システムをぜひ設置したいと答えた人の割合(24/494=4.9%)をかけると、 128.3万戸となる。
    これに実現可能性バイアスを考慮する。一戸建住宅を所有していると答えた人と太陽光発電システム補助金制度を利用したことがある、と答えた人の比率は 5.5%(=25/458)である。これに直近の持家一戸建推計数2,618万戸をかけると、142.9万戸となる。しかし実際には、1997-2005 年度の累積設置戸数は25.3万戸程度で利用実績は小さい(財団法人新エネルギー財団のデータ調べ)。すなわち、17.7%(=25.3/142.9)し か実際には設置されていないことになる。
    これを修正係数とすると、アンケートベースの128.3万戸に17.7%をかけた22.7万戸が新しく太陽光発電設備を設置する戸数になる。結局、250万円/戸×22.7万戸=5,675億円が追加的な需要効果と推計できる。

    最後に、贈与税制度の拡充による住宅投資創出効果をアンケートから推計しようとしたが、質問が正確に理解されていない可能性があり、今回は推計しなかっ た。グリーン家電や乗用車のような耐久消費財については、経済条件が多少変化しても購入意思が実現される可能性は高いが、住宅のような高額な買い物につい ては別物であると判断した。この政策の効果の推計には不確実性が付きまとうためである。

    【アンケート結果の経済政策への含意】
    以上の推計結果は、速報の段階よりはスケールダウンされたが、われわれは経験上確度の高い結果であると考えている。低炭素革命関連の補正予算により、民 間最終消費支出に3兆8,489億円の追加需要が2009年度に発生すると考えられる。2008年度の民間最終消費支出は290.6兆円であるから、民間 最終消費支出を1.3%引き上げることになる。経済全体では0.7%程度の引き上げとなろう。
    もっともこのアンケートは4月時点での経済情勢にもとづく消費者の追加需要を推計していることに注意しなければならない。最近発表されている夏のボーナ スの予測を見れば、前年比20%程度の減少を避けられないようである。大型の耐久消費財(big ticket items)の購入にはボーナスが決定的に重要である。これからは所得制約が強まることがはっきりしているから、ここで示した推計には上方バイアスがか かっている可能性があることを指摘しておこう。
    最後に、低炭素革命関連の補正予算の効果で2009年度に発生する追加需要は2010年度には消滅することを忘れてはいけない。ちょうど消費税引き上げ の駆け込み需要と同じである。その結果、2009年度には民間最終消費支出は成長促進要因となるが、2010年度には0.7%程度の抑制要因に転じるので ある。仮にその部分を世界経済の回復による外需が相殺してくれれば、日本経済は大不況からうまく脱出できることになる。結局、外需頼みの回復といえよう。 景気回復はダブルディップ型になる可能性が高いことを指摘しておこう。 (稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <4-6月期日本経済、楽観は禁物>

    5月20日に発表された1-3月期GDP1次速報値によれば、同期の実質GDPは前期比-4.0%、同年率-15.2%と前期(-14.4%)を上回る 大幅なマイナスとなった。下落率は戦後最悪となり、昨年4-6月期以来4四半期連続のマイナス成長を記録した。この結果、2008年度の成長率は -3.5%となった。実績は直近の超短期モデル予測(支出サイドモデル、主成分分析モデルの平均値:-17.4%)やマーケットコンセンサス予測(ESP フォーキャスト:-15.9%)を小幅下回る結果となった。超短期モデル予測の動態を見れば、2月の月次データが利用可能となった2月末の予測において は、すでに-14%程度の大幅な成長率予測へ下方シフトが起こっている。超短期予測は2ヵ月程度早く大幅落ち込みを予測できたことになる。
    1-3月期の成長率が戦後最大の落ち込み幅となった主要因は、輸出の急激な落ち込みと低調な民間需要(民間最終消費支出と民間企業設備)である。日本の 景気の落ち込み幅は、他の先進国、米国(年率-6.1%)やEU(約年率-10%)のそれを大きく上回っている。これは、輸出に大きく依存した日本経済成 長モデルの脆弱性を引き続き示したことになる。
    ただ、3月には生産や輸出が前月比でプラスに転じたことにより、マーッケトでは4-6月期は前期比でプラス成長になる可能性がささやかれている。
    1-3月期のGDPを更新した今週の支出サイドモデル予測によれば、4-6月期の実質GDP成長率は、内需と純輸出が引き続き縮小するため、前期比-1.9%、同年率-7.5%と予測される。前期よりマイナス幅は縮小するものの依然としてマイナス成長が続くとみている。
    4月の多くのデータが利用可能ではなく、予測モデルでは時系列モデルによる予測値を用いているため、今回のようにほとんどデータが急激な下方トレンドを 示している状況では転換点の予測は後ずれする。4月のデータが利用可能となれば、実質GDP成長率のマイナス幅が縮小することは予想できるが、プラスに転 じるかについては次回の予測を待ってみたい。プラス要因として補正予算の効果が期待できるが、新型インフルエンザ等マイナスの要因もあるからである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    米景気に対して注意深いながらも楽観的な見方が広まってきた。最も良い例は5月5日のバーナンキFRB議長の議会両院経済委員会での証言である。彼は  ”昨年秋以降の急激な景気悪化のペースがかなり緩やかになってきた”とコメントをし、景気が2009年4-6月期において安定化することを示唆した。確 かに、最近の新規失業保険申請件数の増加はピークを打ち、雇用減少の緩和、製造業の平均週労働時間の上昇、NAHB(全米住宅建設業者協会)住宅市場指数 の1月以降の反転している。景気後退の象徴となっていた労働市場・住宅市場のこれ以上の悪化が止まる兆候をみて、マーケットは彼の証言を受け入れている。
    市場エコノミストの4-6月期経済成長率の予測は-0.5%から-1.5%の範囲にある。これは今週の超短期モデルの予測値と近い(前期比年率-1.1%)。
    景気判断するのにトレンドが重要である。ミシガン大学の消費者コンフィデンス指数、特に将来指数は2月の50.5から急速に上昇し始め、6月には 69.0にまでなっている。グラフが示すように、超短期モデル予測も3月6日の予測から4月24日の予測まで、4-6月期実質GDP伸び率の予測値が緩や かな上昇トレンドを示し、米景気の安定化を示していた。しかし、5月1日以降になるとこれまでの緩やかな上昇トレンドが急速に下降トレンドに転換し始め た。超短期モデルの予測が景気の転換点を示すのに少なくとも市場より1ヵ月早いことが理解できる。今後の超短期予測にもよるが、おそらく1ヵ月後には、” 第2四半期における景気安定化”という注意深い楽観的な見方が幾分悲観的な見方に変わる可能性が高い。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年4月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか?>

    関西経済予測のアウトライン:2009-2010年度
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。今回われわれは、日本経済予測と整合的な形で、関西経済についても予測を行った。ベースラインを要約すれば、以下の様である。
    関西の実質GRP成長率は2009年度▲3.2%、2010年度+0.7%と予測する。第77回景気予測では、日本経済の実質GDP成長率について 2009年度▲3.7%、2010年度+1.5%と予測されていることから、関西経済は、日本経済と比較して落ち込み幅は緩やかに留まるが、回復局面では スピード感に欠く、といった予測のストーリーである。
    需要項目の中で、特徴的な予測結果となっているのは企業設備投資である。2009年度▲13.6%、2010年度▲0.8%と予測している。ただし、大阪湾ベイエリア地域での環境関連投資が進めば、上ぶれする可能性があることに注意しておこう。
    関西経済にとっての中国の役割
    また、輸移出については、2009年度▲2.6%、2010年度+1.6%と予測している。関西の輸出においては、アジア、特に中国が大きな役割を担っ ている。ここで、関西における輸出構造を中国を中心に確認しておこう。下図は2008年における関西の輸出相手地域のシェアを示したものである。関西の輸 出16.5兆円のうち、アジアは約10兆円で6割を占めており、特に中国はその3分の1(3.3兆円)を占めている。中国に対する輸出を品目別にみると、 電気機器や原料別製品といった品目の割合が高い(それぞれ32.1%、19.4%)。一方、輸送用機器はあまり輸出されておらず、ウェイトが低い (1.0%)。

    中国の財政刺激策の大きさ
    最近、中国の財政刺激策にスポットライトが当っている。ただし、財政規模4兆元が一人歩きをしている感がある。この規模の財政刺激策が実現した場合、ど の程度の経済拡張効果があるか見てみよう。2008年の名目GDPが30.067兆元であるから、4兆元は13.3%に相当する規模である。仮に乗数(国 民所得の拡大額÷有効需要の増加額)を1.5とした場合、6兆元の追加的な需要となり、名目GDPを約20%引き上げるという計算になる。
    ここで注意が必要である。意外と看過されているのは、この財政支出期間が2年を目処にしており、一部は昨年末から前倒しされていることである。なかには 単年度で4兆元が支出されてその効果を計算していると読める分析もある。それにしても、4兆元が仮にすべて真水として支出された場合、1年間で名目GDP を最大約10%押し上げる効果をもつと考えてよい。
    中国の財政刺激策は関西経済にとって救世主となるか
    われわれは関西経済の予測とともに、中国経済の実質成長率がベースラインから加速した場合、関西経済に与える効果(中国経済高成長ケース:シミュレー ション1)を計算している。ベースラインでは中国の実質GDP成長率を2009年+6.2%、2010年+8.3%と想定しているが、これが両年にわたっ て8.5%にシフトアップするケースをシミュレーションしている。
    シミュレーション結果によれば、中国経済が政府の目標に近い成長率(ここでは8.5%)を実現できた場合、関西経済の輸出を2009年度0.3%、 2010年度0.42%拡大するにとどまる。金額(2000年実質価格ベース)にして、それぞれ、336億円、479億円である。実質GRPは、2009 年度0.03%、2010年度0.05%の増加にとどまる。金額にしてそれぞれ283億円、411億円である。意外と効果は小さいのである。
    KISERの関西経済モデルでは実質輸出関数が推計されている。所得弾力性は0.864、価格弾力性は-0.651となっている。所得変数としては、中 国、米国、EUの実質GDPを2005年の3ヵ国の輸出シェアで加重平均したものを用いている。中国経済の成長率2.3%ポイントの上昇(6.2%から 8.5%へ)は、関西の実質輸出を0.3%押し上げることになる。
    中国経済に加えて、米国とEUの成長率がベースラインより2%ポイント上昇した場合、関西の実質輸出はベースラインから1.8%拡大することになる(シ ミュレーション2)。これらのシミュレーションが示唆するものは、関西経済にとって確かに中国経済の回復はそれなりの効果を持つが、決して大きくない。大 事なのは世界経済が一致して拡張的な財政・金融政策をとらない限り、大不況から脱出できないのである。16日に中国の1-3月期経済成長率が発表された が、前年同期比+6.1%に減速した。4半期ベースでは統計がさかのぼれる1992年以来の低い伸びにとどまった。この現実からも、中国経済の財政刺激策 の効果に過度の期待をかけないほうが無難である。(稲田義久・入江啓彰)

    日本
    <先行指標に一部明るさがみられるが1-3月期は前期を上回る2桁のマイナス>

    4月20日の予測では、3月の一部と2月のほぼすべての月次データが更新された。3月のデータで特徴的なのは、一部の先行指標に改善が見られたことであ る。3月の消費者態度指数は3ヵ月連続の前月比プラスを記録し、同月の景気ウォッチャー調査の現状判断DIも3ヵ月連続で改善した。このように企業や消費 者の心理は2008年12月に底を打ち改善傾向を示しているが、水準は昨年秋口の値に等しく依然として低い。すなわち、前年同月では引き続き低下している が、悪化幅が縮小し始めたのであり、秋口以降の急速な落ち込みが減速しているのである。このように先行きに明るさが見られるものの、現状は非常に厳しいと いえる。
    支出サイドモデル予測によれば、1-3月期の実質GDP成長率は、内需が大幅縮小し純輸出も引き続き縮小するため、前期比-4.7%、同年率 -17.5%と予測される。10-12月期を上回るマイナス成長が予想され、この結果、2008年度の実質GDP成長率は-3.2%となろう。ちなみに4 月14日に発表された4月のESPフォーキャスト調査によれば、1-3月期実質GDP成長率予測のコンセンサスは前期比年率-12.76%となっている。 われわれの超短期予測はコンセンサスから5%ポイント程度低いといえよう。
    1-3月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.8%となり、2期連続のマイナス。実質民間住宅は同-8.6%と3期ぶりのマイナス となる。実質民間企業設備は同-12.2%と5期連続のマイナスとなる。実質民間企業在庫品増加は2兆8,400億円となる。実質政府最終消費支出は同 0.4%増加し、実質公的固定資本形成は同0.6%増加する。国内需要の実質GDP成長率(前期比-4.7%)に対する寄与度は-2.8%ポイントとな る。
    財貨・サービスの実質輸出は同22.1%減少し、実質輸入は同11.4%減少にとどまる。このため、純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-1.9%ポイントとなる。
    4-6月期の実質GDP成長率については、内需は停滞し、純輸出も引き続き縮小するため、前期比-1.5%、同年率-5.7%と予測している。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を前期比年率-16.0%と予測している。また4-6月期を同-9.5%とみている。
    この結果、支出サイド・主成分分析モデルの実質GDP平均成長率(前期比年率)は、1-3月期が-16.7%、4-6月期が-7.6%となる。両モデルの平均で見れば、2009年後半は引き続きマイナス成長となり、当面景気回復の糸口が見つからないようである。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    4月29日に2009年1-3月期のGDP速報値が発表される。その2週間前における同期の実質GDP伸び率(前期比年率)に対する市場のコンセンサス は-4%?-5%である。一方、超短期モデルは実質GDP伸び率を、支出サイドから-0.2%、所得サイドから-1.7%、そしてその平均値(最もありえ る値として)を-0.9%と予測している。
    この超短期予測が正しいとすれば、2008年10-12月期(実質GDP成長率:-6.3%)を米国経済の景気の底と見ることができる。実際に、バーナ ンキFRB議長のように、景気をそのようにみるエコノミストもいる。しかし、世界的なリセッションによる大幅な輸出入の減少が2009年1-3月期の数字 上の景気判断を難しくしている。
    名目輸出入に関しては2009年の1月、2月の実績値が既に発表されている。従って、この2ヵ月の平均値を10-12月期の月平均値と比べることができ る。名目財輸出、同サービス輸出、同財輸入、同サービス輸入の減少率は、前期比年率でそれぞれ-45%、-16%、-57%、-17%となる。超短期予測 は時系列モデル(ARIMA)で3月以降を予測している。財とサービスを合わせた名目輸出、同輸入の下落率はそれぞれ-37%、-51%となる。すなわ ち、輸出入が共に3月に減少すると予測している。一方、輸出入価格は季節調整前だが、3月までの実績値がそろっており、前期比年率でそれぞれ-9%、 -24%である。
    その結果、超短期予測は1-3月期の実質輸出、同輸入の下落率を前期比年率でそれぞれ-32%、-51%と予測している。すなわち、世界的なリセッショ ンの結果このような実質輸出入の大幅な減少が生じており、米国では更に実質輸入の落ち込みが実質輸出の落ち込みを大きく超えることから、数値上実質GDP の伸び率が高くなる。実質輸出入がこのようにそれぞれ大幅に減少するとき、純輸出の予測には多くの不確実性が伴う。
    そのため、正しい景気判断をするにはGDPから純輸出を除いた実質国内需要で景気を判断するのが良い。超短期予測は1-3月期の実質国内需要の伸び率を -5.7%と予測しており、これは2008年10-12月期-5.9%とほとんど変化はない。すなわち、1-3月期の実質GDPの伸び率が市場のコンセン サスよりも高くなっても、同期の経済状況は前期と同じように悪かったと判断すべきであり、米国経済の底は2008年10-12月期から更に深くなっている と見るべきである。超短期予測が1-3月期の実質GDPが市場のコンセンサスに近くなるのは、季節調整後の輸入価格と3月の輸入を超短期予測が共に過小評 価している場合である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年3月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <大不況脱出にはGDP比2%の財政規模で大丈夫か?>

    予測のアウトライン
    関西社会経済研究所(KISER)は2月22日、10-12月期GDP1次速報値を織り込んだ第77回景気予測を発表した(HP参照)。予測結果(ベー スライン)を要約すれば、2009-10年度の実質GDP成長率を-3.7%、+1.5%と見込んでいる。ここでいうベースラインは、予測期間において景 気対策が含まれないケースである。
    ベースラインでは、日本経済は2008年4-6月期から2009年4-6月期まで5期連続のマイナス成長を経験して、7-9月期に小幅のプラス成長に転 じるものと予測している。この間、景気(実質GDP)のピークから底までの落ち込み幅は約8%である。ピークから約8%の需給ギャップが発生するとみてよ い。
    麻生内閣の経済対策の内容
    景気対策については不確実性が高いが、現時点での情報で麻生内閣の3次にわたる景気対策(いわゆる3段ロケット)の効果を推計してみよう。金額でみる と、(1)第1次補正予算は11.5兆円程度、(2)第2次補正予算案は27兆円程度、(3)12月19日閣議決定の「生活防衛のための緊急対策」は財政 上の対応10兆円程度と金融面の対応33兆円程度の計37兆円程度(「生活対策」のための財政措置6兆円除く)の規模である。総額75兆円(財政措置12 兆円程度、金融措置63兆円程度)が景気対策にあてられる。真水である財政措置は対GDP比では2%程度である。(下図参照。総理官邸HPより)

    景気対策の効果を推計するために、KISERモデルでは二次補正、21年度予算のうち事業規模のはっきりする4つの経済政策の効果を検討した。具体的に は、(1)定額給付金(2兆円)、(2)住宅ローン減税(3,400億円)、(3)法人企業税制(4,300億円)、(4)その他財政支出(2.54兆 円)である。 いずれも住宅ローン減税を除き、2009年4-6月期から実施されるものとする。住宅ローン減税は1-3月期から遡及して実行されると想定している。モデ ルにおける操作は以下のようである。

    政策変数の設定:景気対策シミュレーション  規模  時期
    ①定額給付金  民間最終消費支出関数の定数項修正  3,200億円  2009年2Q
    ②住宅ローン減税  民間住宅投資関数における金利の引下げ  0.14%ポイント  2009年1Q以降
    ③法人税減税  法人税率の引下げ  0.7262%ポイント  2009年2Q以降
    ④その他の財政支出  政府最終消費と公的資本形成を増加  2.54兆円  2009年2Q、3Q
    ⑤景気対策  政策①から④の同時実施

    景気対策の効果:2009年度への影響
    現時点で想定される景気対策を反映したシミュレーションによると、2009-10年度の実質GDP成長率はそれぞれ-2.9%、+0.6%となる。すな わち景気対策(シミュレーション?ベースライン)は2009年度の成長率を0.8%ポイント引き上げる効果を持つことになる。2009年度経済に与える個 別対策の効果を見ると、(1)定額給付金は、実質GDPを6,450億円、0.12%押し上げる。 (2)住宅ローン減税は、実質GDPを2,120億円、0.04%引き上げる。(3) 法人税減税により、実質GDPを2,570億円、0.05%上昇させる。(4)その他財政支出(2.54兆円)は、実質GDPを4.191兆円、 0.80%の引き上げることになる。合計で実質GDPを4.7兆円、0.9%引き上げることになる。
    財政措置GDP比2%の合理的根拠
    現在までに想定できる麻生内閣の景気対策は、真水規模5.31兆円で2009年度の実質GDPを0.9%押し上げることになるが、問題は個別の政策効果 である 。われわれのシミュレーションから得られる含意は、政策をより効果的にするには、定額給付金のようなメニューではなく、より直接的な財政支出が必要である ことを示唆している。KISERの調査によれば、2兆円の定額給付金は3,200億円の追加的消費しか生み出さず、実質GDPを0.12%引き上げにとど まる。一方、2.54兆円がより直接的な支出に向かうと実質GDPを0.8%引き上げる。両者の政策効果の差は明瞭である。すなわち、高い乗数効果が期待 でき、中期的にも生産力効果を持つ環境インフラ、エネルギー関連に、より直接的な財政支出が振り向けられるべきということである。
    最後に、簡単な試算を示そう。第1の試算は2009年度にマイナス成長から脱却するためにはどの程度の財政規模が必要か。もし財政がより直接的な支出に 振り向けられたならば、約11.7兆円[直接的な財政支出の規模(2.54兆円)×マイナス成長脱却に必要な成長率(3.7%)/景気対策による実質 GDP成長率上昇(0.8%)=必要な財政支出規模(11.7兆円)]の規模が必要となる。
    第2の試算は2008年1-3月期のピークから2009年4-6月期の底まで8.0%の需給ギャップの解消には、同様に25.4兆円[2.54兆円×(8.0%/0.8%)]が必要となる。
    日本経団連は25兆円の財政出動を提唱しているが、それなりの根拠があるといえよう。またG20では米国は各国にGDP比2%の財政支出を要請したとされているが最低限の線として十分な根拠を持つといえよう。

    日本
    <1-3月期実質GDP成長率は前期を上回る2桁のマイナス>

    3月16日の超短期予測では、2月の物価関連の一部のデータと1月のほとんどの月次データが更新された。また10-12月期のGDP2次速報値が追加さ れた。2次速報値では、実質GDPの伸び率は、1次速報値の-12.7%(前期比年率)から-12.1%(同)へと小幅の上方修正にとどまった。成長率の 上方修正の主因は実質民間在庫品増加が上方修正されたことによる。決して明るいニュースではない。
    データを更新した結果、支出サイドモデルは1-3月期の実質GDP成長率を前期比-4.1%、同年率換算-15.5%と予測している。この結果、2008年度成長率を-3.1%となろう。また4-6月期の成長率を前期比-1.3%、同年率-5.3%と見込んでいる。
    実質成長率(前期比-4.1%)への寄与度は、内需は-2.0%ポイント、純輸出は-2.1%ポイントである。民間需要では、実質民間最終消費支出は前 期比-0.4%、実質民間住宅は同-6.8%、実質民間企業設備は同-10.1%と、いずれもマイナスの伸びを予測している。公的需要では、実質政府最終 消費支出は同+0.1%、実質公的固定資本形成も同+0.1%と小幅のプラスを見込んでいる。外需では、実質輸出は同-19.2%、実質輸入は同 -6.2%といずれも低調である。
    一方、主成分分析モデルは、1-3月期の実質GDP成長率を同年率-13.2%と予測している。 4-6月期については同-7.4%と予測している。
    この結果、支出サイド、主成分分析モデルの平均でみると、実質GDP成長率(前期比年率)は1-3月期-14.3%、4-6月期は-6.9%といずれも マイナス成長が予測されている。現時点では、1-3月期の経済は10-12月期を上回る2桁のマイナス成長になろう。4-6月期はマイナス幅が縮小する が、依然として厳しい状況にある。ただ1-3月期に大規模な在庫調整が進展すれば、年後半にはマイナス成長から脱却できる可能性がある。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国

    今の景気を判断するのに実質GDPのみに頼ると、現実の景気の深刻さをも見間違える。グラフに見るように、2009年1-3月期の実質GDP伸び率は2月 2日まで急速に悪化し、その後2月20日まで回復傾向にあった。しかし、2月20日以降、再び景気は下降し始めたものの、3月13日の超短期予測では実質 GDP伸び率を支出サイド、所得サイドからそれぞれ+0.1%、-1.8%と予測し、その平均値は-0.9%となっている。
    確かに、1?3月期もマイナス成長を予測しているが、約-1%の落ち込みではそれほど深刻な経済状況とはいえないであろう。しかし、これは米国、そして 海外諸国の深刻なリセッションから米国の実質輸出が前期比年率で40%、実質輸入が50%と大幅に下落すると予想されているためである。景気を実質総需要 (=GDP+輸入)からみると、超短期モデルはその伸び率を-10%と予測している。また、実質国内需要(=GDP-純輸出)と国内購買者への実質最終需 要(GDP-在庫増-純輸出)の伸び率はそれぞれ-5.5%と予測されている。このように、経済をGDPとその他のアグリゲート指標で見ることによって、 今の景気状況は-1.0%から-10.0%と非常に幅広いものになることを理解しておくことが重要である。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    米国経済最新事情(2009年3月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2008年度

    ABSTRACT

    (財)関西社会経済研究所
    政策提言グループ 長尾正博
    このショートペーパーは、関西発展戦略構築の一助とすべく「米国のタウンマネジメント手法に学ぶ」をテーマに、3月8日より1週間、大阪市立大学の嘉 名先生、矢作先生、金先生に同行して、ニューヨーク、クリーブランド、ボストンへ出張した時に体感した米国経済最新事情についてのレポートです。その主要 な部分は、UniCredit Markets & Investment Banking の主席エコノミストである Roger Kubarych 氏のご教授によるものであり、紙面を借りてあらためて御礼申し上げます。

    現在世界が直面している経済恐慌の引き金をひいた米国そのものの経済事情は次の3点に要約できます。すなわち1点目は、直近の特に消費行動を中 心とした経済事情についてです。労働省が発表した雇用統計によれば、先月(2009年2月)の失業率が25年振りに8%を超え、昨年12月の小売りも最悪 の状態となりました。しかし、今年に入って車関係の販売を除けば、1?2月の売り上げは前月比プラスに転じた様です。季節要因を除いた小売りの前月比推移 は、昨年12月がマイナス3.2%だったのに対して、今年の1月がプラス1.6パーセント、2月がプラス0.7パーセントとなりました。クリスマス商戦で 大幅に増えた在庫を販売店が値下げをしたことは大きな要因のひとつですが、必需品を中心に需要の回復が見られます。エレクトロニクス分野では、趣味趣向度 の高いビデオカメラやデジカメの販売は依然苦戦を強いられているものの、カラーテレビの販売は前年を上回る兆しが見られます。旅行や外食などの贅沢を慎む 代わりに、家に居てテレビ番組を楽しむというライフスタイルでは、テレビはなくてはならないものなのです。DVDの次世代技術であるブルーレイも自宅で映 画などの高画質映像を楽しみたいということから、プレーヤーならびにソフトも好調のようです。出張日最後の14日の土曜日は、ジョージ・ワシントン・ブ リッジを渡って、ニュージャージー州の代表的なショッピングセンターであるガーデン・ステート・モールを訪問してみました。すると、モールの周りの駐車場 は買い物客で一杯で、今回の様に時間的に余裕の少ない出張では、パーキングスペースが空くのを待って、モールの中を覗いてみるということはできませんでし た。
    但し、米国内でも地域別にみると、経済事情は違っています。今回の訪問先の一つであるオハイオ州のクリーブランド市は、Kubarych 氏も指摘された様に、シュリンキングシティの代表格であり、その落ち込みは相当ひどい様です。私たちが泊まったクラウンプラザホテルの専用バス運転手も、 そこで25年働いているそうですが、今年に入って宿泊客ががた減りで、現在は週の内、3日間しか出勤させてもらえないとのことでした。各州はそれぞれ独自 の対策(失業保険の上積み等)に追われているようです。

    2点目は、米国の消費者が「自分達は貧乏(poor)である。」ことを真に自覚し、お金の使い方(expenditure habit)を根本的に変えてきているという構造的な側面です。持ち家は彼らの「金の成る木」でした。常に売買益が期待でき、結婚すれば、小さいながらも 家を買います。家族が増えるにつれ、また、給料が上がるにつれて、大きな家に買い換えていく訳です。このキャピタルゲインが旺盛な消費を呼んできました。 また株や色々な証券商品も彼らの財産であり、これを充てに借金をしながらも、ふんだんにお金を使い、ある意味では、世界経済の牽引役となってきたと言えま す。これらの前提が、特に昨年10月を境に大きく崩れたのです。典型的なサラリーマンでそろそろ引退しようかと思ってた人も、401K(確定拠出年金) で、老後の生活に備えてきた例えば40万ドルが、ある日突然その半分の20万ドルに減った訳です。持ち家は、特に若い年代で最近家を買った人、または買い 換えたという人々は、キャピタルロスに直面しています。住居の次にお金が掛かるのが子供の教育です。年間の授業料はいい私立大学の場合、4?5万ドル掛か ります。奨学金をもらえる子供でないと大変です。これまで新車にどんどん買い替えてきた人も、もっと長く乗ることになるでしょう。ニュージャージ州に住ん でいる私の友人は車の修理工場を経営されていますが、最近は小さな修理が減って大きな修理が増えている、何とか今の車を乗り続けようとしているとコメント されていました。
    以上を要約すると、これまで謳歌していた土地や金融商品による資産効果(wealth effect)が、現在逆効果(negative wealth effect)となって現れているということです。 可処分所得に対する貯蓄率は、昨年の7?9月は1.3パーセントであり、それ以前も1パーセント以下の状況が続いていました。それが、昨年12月は3.9 パーセントに上昇し、今年1月は5.0パーセントへと、急速に増えています。一方、日本の貯蓄率(家計調査による)も、最近は5パーセント程度にまで減っ ておりますが、20年前は、12パーセント程度と高率でした。現在米国で起こっている土地価格下落によるさまざまの影響は、1990年代初頭の日本の類似 していることもあり、私たちの経験が米国再生のヒントになるのは間違いないと思います。

    最後の3つ目のアジェンダは、この状態がどれだけ続くかということです。
    Kubarych 氏による米国経済の予測は、実質GDPの伸び率でみて、今年はマイナス2.1パーセント、2010年は、プラス1.3パーセントでした。景気先行きの鍵を 握る家(housing)の動向ですが、2月の新規着工件数が前月比(年率、季節修正値)22%上昇したとニュースが帰国後入ってきました。ところが同氏 によれば、これは2月だけの一時的な数字で新規着工件数の下落は年末まで続くとのことです。家の価格が底をうつのは来年一杯まで掛かるという予測もありま す。私は家の価格が景気上昇のきっかけになると考えていましたので、同氏の予測は、オバマ政権の景気対策を考慮し、上積みされたものであることを改めて認 識しました。先行き不透明感の強い個人消費、家計とは対称的に、企業業績は雇用調整などを通じて比較的早く回復する可能性があるとのことですが、前項で述 べたように、「これまでの不況とは構造的に違っている。例えば失業率の動きから説明すれば、2007年7月以降から直近までの数字は、1973年7月以降 の数字と、ほぼ同期している.....。」とのこと、今回はnegative wealth effectという構造的な変化は根強いものがあり、悪い状態が一層長期化するかもしれません。

    当研究所の「日本経済」の最新予測は、2009年度マイナス3.7パーセン ト、2010年度プラス1.5パーセントと、Kubarych 氏による「米国経済」の予測に比べると更に悪いが、これは、政府の経済対策の違いに起因すると思われます。私はこれまで、30年以上も米国を見てきました が、この国は本当に「問題解決型」思考が根付いており、情緒的で「問題座視型」が主流を占める日本との違いを痛感させられます。今回の出張の主目的である 「タウンマネジメント」手法でも、それが如実に出ており、「問題解決型」思考を取り入れグローバル市場で活躍する日本の製造業に対し、日本の公的機関、公 共政策の復活がない限り、本当に日本は取り残されてしまうでしょう。

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    マクロモデル研究会で報告(2009年7月)

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2009年度

    ABSTRACT

    2009年7月24-25日、日本経済研究センター(東京)で開催されたマクロモデル研究会において、当研究所の入江研究員が「関西経済予測モデルの開発と応用」というテーマで報告を行いました。報告論文はディスカッションペーパーNo.15に公開しています。

    また、マクロモデル研究会に参加した当研究所分析チームスタッフが業務と関連の深い報告をピックアップしてレポートとしてまとめました(研究会の全ての報告概要は、日本経済研究センターのホームページでご覧になれます)。

    PDF
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    第77回 景気分析と予測(2009年2月24日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    2月16日の政府四半期別GDP一次速報の発表を受け、2008-2009年度の改訂および2010年度の最新経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2008年度10-12月期実績の評価‥‥当期の実質GDP成長率(一次速報)は、前期比▲3.3%、同年率▲12.7%と、第一次オイルショック期 1974年1-3月期に次ぐ急激な落ち込みとなり、3期連続のマイナス成長となった。これまで景気の牽引役であった輸出の急激な落ち込みと、低調な民間需 要が原因であり、輸出に大きく依存する日本経済成長モデルの脆弱性が示唆される。

    * 2008年度、2009年度の改訂見通し‥‥2008年度の実質GDP成長率は▲2.8%と7年ぶりのマイナス成長に転じよう(前回予測▲1.3%から大 幅下方修正)。主要貿易相手国である米国・EU経済のマイナス成長、消費の減速および企業設備の減少による民需の落ち込みの影響である。民需の回復が停滞 し、世界経済の不況が深化するため、2009年度の実質GDP成長率は▲3.7%(前回予測▲1.4%から大幅下方修正)と2年連続のマイナス成長とな る。

    * 2010年度の見通し‥‥2009年後半に一旦プラス成長に戻るが、緩やかながら持続的なプラス成長に転じるのは2010年以降となろう。2010年度の実質GDP成長率は+1.5%となろう。

    * 以上の標準予測に対して、追加的経済対策として定額給付金、住宅ローン減税、法人税減税、その他の財政支出の4つの政策を同時に実施した場合の効果は2009年度の実質GDPを約0.9%程度拡大させると検証された。

    * 関西経済は急激に悪化しており、成長率は2008年度▲2.2%、2009年度▲3.1%、2010年度+1.6%と予測している。

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年2月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <日本経済は底割れするのか?-中国・米国のデータからは外需回復の兆しも‐>

    リーマン・ショック以降、鉱工業生産指数の落ち込みは未曾有のものである。2008年10-12月期の同指数の落ち込みは前期比-11.9%と戦後最悪を 記録した。図からわかるように、落ち込み幅は第1次石油危機の時期を大きく上回っている。かつてないスピードと下落幅である。まるで金融指標の変化(株価 のフリーフォール)を見ているようである。生産市場の急激な変化は労働市場に負荷を与え始めてきている。まずは非正規労働者の解雇から始まり、大幅な生産 調整が続けば、次に正規労働者の調整につながることは容易に想像できる。このような急激で大幅な落ち込みは何を意味しているのであろうか。
    まず(1)今回の生産の落ち込みが、世界同時不況と関連していることである。次に(2)企業の売上減少に対する対応が過去に比べてすばやくなったことである。
    内閣府によれば、最近の景気の山は2007年10月である。景気後退後1年も経て急激に落ち込むというのは世界経済の同時不況が大きく影響している。それ は輸出市場の大幅落ち込みを意味するから、成長を輸出に大きく依存している国にとってはその影響は大きい。韓国やシンガポールでは10-12月期の生産が 2桁の落ち込みを経験していることからもよくわかる。
    企業の需要の変化に対する対応が早くなってきた点を見ていこう。出荷と生産のずれは在庫となって表れるが、その対応の変化の時系列、すなわち在庫循環図 (在庫指数と出荷指数の相関図)を見れば一目瞭然である。以下に、鉱工業、電子部品・デバイス工業、輸送機械工業(除く船舶・鉄道)の在庫循環図(四半期 ベース)を示してある。鉱工業全体で見れば2008年10-12月期は第4象限に、すなわち意図せざる在庫の積みあがり局面にあることがわかる。しかし業 種別に在庫調整を見ると、異なる局面が表れてくる。例えば、電子部品・デバイス工業は全体と同じ局面にあり、足元の需要(出荷)減が急激であり在庫が大幅 に積みあがっていることがわかる。一方、輸送機械工業では、足元は第3象限にあり出荷の大幅減に在庫調整が進んでいる局面にある。
    急激な鉱工業生産の落ち込みを反映して、10-12月期の経済成長率は2桁のマイナスになった。このためマーケットは悲観的なムード一色である。近視眼的 な見方をすれば、日本経済は底割れするのではないかと。しかし、上で見たようにすべての業種で意図せざる在庫が積み上がっているわけではない。日本のリー ディング産業の中には、在庫調整がかなり進捗している業種もある。問題は全体としていつ在庫調整が進むかである。答は外需(海外市場)の回復の時期次第と いうことになるが、中国では4-6月期に在庫調整が終わるとも予測されているし、米国のISM新規受注も回復の兆しを見せている。これらはよいニュースで ある。自動車のような産業では、海外の需要が持ち直せば国内生産はすぐに回復することを示唆している。急激な経済の落ち込みは、急激な回復の可能性がある のである。16日に発表された10-12月期の実質GDP成長率は前期比年率-12.7%と悲惨な結果になったが、それは過去の経済パフォーマンスである から、悲観色をいっそう強める必要はない。

    日本
    <1-3月期実質GDP成長率は2期連続で2桁のマイナス?>

    米国と中国の10-12月期実質GDP成長率の発表(1月)についで、2月13日にEU(27ヶ国)、16日に日本の実績が発表された。10-12月期の EUの実質GDP成長率は前期比-1.5%、日本のそれは同-3.3%と大幅なマイナス成長となった。日本の実質成長率は年率換算で-12.7%となり、 3四半期連続のマイナス成長。また減少率は第1次石油危機時の1974年1-3月期の年率-13.1%につぐ35年ぶりの大きさとなった。この結果、 2008暦年の実質成長率は-0.7%と9年ぶりのマイナス成長となった。
    10-12月期の実質成長率(前期比-3.3%)への寄与度を見ると、内需が-0.3%ポイント、純輸出が-3.0%ポイントとなっている。世界同時不況 の影響で輸出が過去最大の落ち込みとなったことが影響している。たしかに第1次石油危機時には今回を上回るマイナス成長を記録したが、74年4-6月期に はプラス成長に戻っている。今回の問題は先行き回復の兆しが見えないことである
    10-12月期GDP統計を更新した超短期(支出サイド)モデルによれば、2009年1-3月期の実質GDP成長率を前期比-2.4%、同年率換算 -9.4%と予測している。2期連続で2桁のマイナス成長となる可能性が高い。この結果、2008年度の成長率は-2.8%となろう。
    1-3月期の実質成長率(-2.4%)のうち、内需が-0.5%ポイント、純輸出が-1.9%ポイントと輸出減が内需減につながる悪循環となっている。内 需のうち、実質民間最終消費支出は前期比+0.3%増加し、実質民間住宅は同5.3%減少する。実質民間企業設備も同3.0%減少する。実質政府最終消費 支出は同横ばい、実質公的固定資本形成は同1.3%減少する。財貨・サービスの純輸出は引き続き縮小する。実質輸出は同10.6%減少し、実質輸入は同 2.9%増加するためである。
    4-6月期の実質GDP成長率についても、内需拡と純輸出は引き続き縮小するため、前期比-1.3%、同年率-5.1%と予測している。
    内需のうち、実質民間最終消費支出は前期比+0.2%増加し、実質民間住宅は同2.2%減少する。実質民間企業設備は同1.0%減少する。実質政府最終消 費支出は同0.6%増加し、実質公的固定資本形成は同1.4%減少する。純輸出のうち、実質輸出は同4.9%減少し、実質輸入は同3.4%増加すると予測 している。
    日本政府は先進国で一番早く不況から脱出すると宣言したが、逆に一番遅くなる可能性が高まっている。政治的混乱でタイムリーな財政政策は期待薄であり、結 局、海外市場の回復に依存せざるをえないからである。今こそ政治休戦をしてでも、成長戦略を意識した経済政策が望まれる。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <最悪期を過ぎた米国経済?>

    2008年10-12月期実質GDP成長率(速報値)は前期比年率-3.8%となり、マイナス幅は市場コンセンサス予測(-5.4%)や超短期モデル(支 出サイドモデル)の予測(-4.9%)より小幅となった。超短期モデル予測のマイナス成長が政府公表値より大きかった理由は、輸入を過大に予測したことに ある。実際、商務省経済分析局(BEA)は12月の名目輸入を前月比で5.4%減少すると仮定した一方、超短期モデルはARIMA(時系列モデル)から 6.9%の増加になると予想した。そのため、超短期モデルは実質輸入(NIPA(国民所得生産計算)ベース)を1,110億ドルも過大に推定した。
    今回の超短期モデル予測ではBEAの仮定した12月の名目財輸出入を実績値として用いている。また、連邦政府の雇用者所得以外の消費支出を推定するのに、 超短期モデルでは、連邦政府支出をブリッジ方程式の説明変数として使用している。ところで、TARP(Troubled Asset Relief Program: 不良債権救済プログラム)からの2,430億ドルの資産購入(2008年10-12月期)は、GDP推計には計上されないことから、その分を10-12月 期の連邦政府支出から差し引いて、連邦政府の雇用者所得以外の消費支出を推定している。
    その結果、今週の超短期予測では2009年1-3月期の実質GDP成長率(年率換算)を支出サイドから-1.0%、所得サイドから+0.4%と予測してお り、少なくとも現時点では米国経済の最悪期は過ぎたものと考えられる。しかし、今期の経済成長率も2008年7-9月期、10-12月期と同じようにマイ ナスになる可能性は十分に考えられる。オバマの景気刺激策が緊急に実施されることが望まれるが、減税政策が少なく景気刺激パッケージ(Stimulus Package)というよりも民主党議員に都合のよい支出パッケージ(Spending Package)の色合いが濃くなっている。そうなると、景気刺激策が十分でないにもかかわらず、政府の累積債務が膨張するだけとなる。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2009年1月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <2009年度の日本経済・関西経済>

    年末年始にかけて、関西社会経済研究所では、リーマン・ショック以降の急激に変化する足下の状況を織り込み、昨年11月に発表した予測を改定するとともに、新たに関西経済の予測を行った。(予測改定の詳細は研究所HPに掲載)
    2009年度の日本経済
    今回の景気回復(2002年2月-07年10月)のメイン・エンジンは純輸出であり、かつ戦後の日本経済の景気回復局面でも最も寄与度が高い項目であっ た。今や成長のメイン・エンジンが逆回転し始めている。これを印象付ける象徴的なイベントは、2008年11月の貿易統計と鉱工業生産指数の落ち込みで あった。10-12月期の実質GDP成長率は2桁に届くほどのマイナスが予測されており、かつてない景気後退となりそうである。
    7-9月期GDP2次速報値を織り込み予測を改訂し、実質GDP成長率を2008年度-1.3%、2009年度-1.4%とした。前回(11月)予測から 2008年度は1.1%ポイントの、2009年度は1.5%ポイントの大幅な下方修正である。前回予測では捉えきれなかった、リーマン・ショック以降の急 速な経済の悪化が反映されている。
    2008年度の実質GDP成長率は前年の+1.9%から-1.3%へと7年ぶりのマイナス成長に転じる。民間需要の寄与度は-0.7%ポイントと、前年度 の+0.5%ポイントから大きく低下する。公的需要は-0.2%ポイントの寄与となり、純輸出の寄与度は前年の+1.2%ポイントから-0.4%ポイント へと大幅低下する。
    日本の主要貿易相手国のうち米国とEU経済の成長率は2009年にはマイナス成長となり、新興諸国の成長率も減速する。このため2009年度には純輸出の寄与度のマイナス幅は拡大する。
    2009年度の実質GDP成長率は-1.4%と2年連続のマイナス成長となる。民間需要の回復は期待できず、純輸出の寄与はさらに低下する。内外需の寄与 度を見ると、民間需要は前年の-0.7%ポイントから-0.8%ポイントと小幅悪化、公的需要は+0.1%ポイントとなる。純輸出の寄与度は前年の -0.4%ポイントから-0.7%ポイントへと更に低下する。
    幸いなことに原油価格や商品価格が大幅に下落しており、これが徐々に最終財価格に波及するであろう。このため、2008年度のコア消費者物価指数前年 比+1.3%となるが、2009年度は-0.4%とデフレに転じる。国内企業物価指数は同+3.6%、同-3.7%、GDPデフレータは同-0.7%、 同+0.9%と予測している。物価上昇率がプラスに転じるのは2010年度に入ってからである。
    景気回復は2010年度と見込んでいるが、景気回復が感じ取れるのは2010年後半からと予測している。2009年度の成長率の四半期パターンは一様な落 ち込みの後の回復の様相を呈さず、2008年末から2009年初にかけて経済は大がかりな生産調整が起こり、2009年央に一旦落ち着くものの、2009 年後半から2010年初にかけて再び落ち込むという、いわばダブルディップ型のリセッションを予測している。2009年度は非常にBumpy(荒っぽい) な経済となろう。
    2009年度の関西経済
    関西経済は、全国と比較して設備投資が相対的に底堅いことや、アジア向け輸出が緩やかな減速にとどまることから、昨年後半時点では、2009年度は緩やか な調整にとどまるとみていた。しかし、足下この想定には疑問符がつき始めた。2009年度の関西経済は前年度の-0.7%に続き、-0.8%と2年連続の マイナス成長となると見込まれる。
    雇用・所得環境の悪化、金融危機の深刻化を背景とした株安などから、個人消費および住宅投資のマインドは低調に推移するとみられる。企業の収益環境が厳し さを増すなか、投資意欲の低下に伴い、鈍化傾向であるものの、既に確定している大型投資が下支えとなると考えられる。近畿地区の企業短期経済観測調査をみ ても関西の投資計画は全国と比べ底堅さを維持している。ただし、パナソニックの薄型テレビ用パネル投資の約1,300億円の削減(2009年1月9日発 表)にも見られるように、今後下振れする可能性もある。
    これまで米国、EUの景気減速により、関西以外の地域では純輸出が減少し始めていたが、関西はアジア向けの割合が高く比較的持ちこたえていた。2009年 に入り、新興諸国および国内他地域の景気減速が顕著となり、タイムラグを持って関西に影響が出てきた。関西の地域別輸出動向をみると、2008年11月に は北米・EU向けよりもアジア向けの減少幅が大きい結果となっている。このような状況から、今後関西の輸出も減速していくとみられ、他地域よりも急激に悪 化するリスクがある。

    日本
    <10%近い下落が予想される10-12月期実質GDP成長率>

    今回の日本経済超短期モデル予測では、一部の12月データと多くの11月データが更新されている。最新の(支出サイドモデル)予測によれば、10-12月 期の実質GDP成長率は、前期比-2.4%、同年率-9.3%と見込まれる。前月の予測(-4.3%)から大幅の下方修正となった。
    今回の大幅下方修正を象徴的に示唆するデータは、2008年末に発表された11月の鉱工業生産と貿易収支である。11月の鉱工業生産指数は前月比8.1% 低下し、2ヵ月連続のマイナスとなった。下落幅は、政府が比較可能なデータを公表して(1953年2月)以来、最大となった。業種別に見ると、輸送機械工 業、一般機械工業、電子部品・デバイス工業等の輸出関連産業で落ち込みが大きかった。製造工業生産予測調査によると、12月の生産は前月比-8.0%、1 月は同-2.1%と予想されている。10-12月期の鉱工業生産指数は4期連続のマイナスになるのは確実で、かつてない景気後退になりそうである。
    11月の貿易収支は2ヵ月連続の赤字を記録した。輸出額は2ヵ月連続で前年の水準を下回り、下げ幅は月次統計が比較可能な1980年以来の最大(前年同月 比-26.5%)となった。輸入額も前年比14ヵ月ぶりのマイナス(同-13.7%)となった。輸出入の大幅減少は内外の市場が急速に収縮していることを 意味する。
    これらのデータを反映した12月末の超短期予測によれば、実質GDP成長率予測はそれまでの前期比年率-3%?-4%程度から、一気に同-9%程度に低下 した(図参照)。5%ポイントという大幅な予測の修正は、1993年から開始した週次ベースの超短期予測で初めての経験である。かつてないスピードで景気 の減速が起こっているのである。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比-0.3%となる。実質民間住宅も同-5.5%と、ともに2期ぶりのマイナス。実質民間 企業設備も同-1.6%となる。一方、実質政府最終消費支出は同+0.6%、実質公的固定資本形成は同+0.5%、それぞれ増加する。このため、国内需要 の実質GDP成長率(前期比-2.4%)に対する寄与度は-0.4%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は同6.1%減少し、実質輸入は同8.9%増加する。名目ベースの輸出入がそれぞれ同-15.1%、-12.1%と同程度の減少 にとどまっているが、円高の影響を受け輸出デフレータが同-9.6%と下落する以上に、輸入デフレータが円高に加え国際商品市況の急下落により同 -19.3%と輸出デフレータの下落幅を大きく上回るためである(交易条件の改善)。このため、実質純輸出の実質GDP成長率に対する貢献度は-2.0% ポイントとなる。
    2009年1-3月期の実質GDP成長率については、内需拡大は小幅にとどまり、純輸出は引き続き縮小するため、前期比-1.6%、同年率-6.1%と予測している。この結果、2008年暦年の実質GDP成長率は-0.3%、2008年度は-2.0%となろう。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <両刃の剣: 景気刺激策と財政赤字>

    1月9日の超短期モデル予測は、2008年10-12月期の米国の実質GDP成長率を-5%?-6%と予測している。これは市場のコンセンサスより約1% 低い。また2009年1-3月期もマイナス成長が見込まれている。このようななか、1月20日にワシントンに入る次期大統領のオバマは1月8日、できるだ け速やかに景気刺激対策を議会で通過させるために、“米経済の回復と再投資計画”を発表した。景気刺激策の主な内容は次の通りである;
    ・ 3年間に代替エネルギーの生産を2倍にする。
    ・ 連邦政府の建物の75%を近代化する。
    ・ 200万戸に対してエネルギーの効率化を促進する。
    ・ 5年以内にすべての医療記録をコンピューター化する。
    ・ 学校に新しいコンピューターと技術を供給する。
    ・ 代替エネルギー供給のためのスマートグリッドの導入。
    ・ 全米におけるブロードバンドの拡張。
    オバマは更に労働者家計の95%に対して1,000ドルの減税を考えている。オバマはスピーチの中で景気刺激策の規模について明言はしていないが、約8,000億ドルと推定されている。
    一方、連邦議会予算局(CBO)は1月7日、“2009、2010財政年度の予算と経済見通し”を発表した。CBOは現在決まっている政策にのっとって予 算・経済予測をすることから、オバマの景気刺激策によるコストは考慮されていない。にもかかわらず、その内容は以下のように市場にとってショッキングな内 容であった。
    ・ 財政赤字は2009年度には1.2兆ドルにまで拡大する。GDP比率でみれば8.3%になる。
    ・ 実質GDP成長率は2009年に2.2%の下落となる。
    ・ 失業率は2009年、2010年度にはそれぞれ8.3%、9.0%にまで上昇する。
    ・ 2008年Q3?2010年Q2の期間において住宅価格は更に14%低下するだろう。
    オバマは景気刺激策による財政赤字拡大というジレンマを熟知しているため、景気刺激策を長期の経済成長の基盤に向けている。しかし、金融危機回避のために は、まだ住宅ローン貸し手のバランスシートの改善、住宅の抵当化の低減など課題が残っており、新大統領の船出は経済問題だけでも困難を極めている。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]

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    第76回 景気分析と予測(2008年12月29日)

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    ABSTRACT

    「日本経済のマクロ経済分析」研究成果報告
    (主査: 稲田義久・甲南大学経済学部長・教授
    高林喜久生・関西学院大学経済学部教授)

    当研究所のマクロ経済分析プロジェクトチームでは、在阪の大手企業・団体の若手スタッフの参加の下で研究会を組織し、予測に必要な景気の現状分析、外生変数の想定について共同で作業を行っている。
    「景気分析と予測」については、四半期ごとに年4回(2003年度までは年2回)発表している。
    2005年度より四半期予測作業において、日本経済超短期予測モデル(CQM)による、直近2四半期のより正確な予測値を取り入れている。
    12月9日の政府四半期別GDP二次速報の発表を受け、2008年末までに公表されたデータを織り込んだ、2008-2009年度の改訂および2010年度の最新経済見通しとなっている。
    ポイントは以下の通り。

    * 2008年度の改訂見通し‥‥2008年度の実質GDP成長率は▲1.3%と7年ぶりのマイナス成長に転じよう(前回予測▲0.2%から大幅下方修正)。 今回の景気回復(2002年2月-2007年10月)のけん引役は純輸出であったが、米国およびEU経済の減速により純輸出が大幅に減速、また雇用環境の 悪化により民間最終消費支出が低迷するため、民需の寄与もマイナスに転じる。

    * 2009年度の改訂見通し‥‥世界経済がゼロないしマイナス成長に陥る可能性が高く、新興諸国の成長率も減速するため、純輸出はさらに低下する。また民需 の回復も期待できず、2009年度の実質GDP成長率は▲1.4%と2年連続のマイナス成長となる。また、原油価格や商品価格の下落によりデフレ圧力が強 まり、2009年度のコア消費者物価指数は前年比▲0.4%、国内企業物価指数は同▲3.7%とデフレに転じる。

    * 2010年度の見通し‥‥2010年度の実質GDP成長率は+1.2%と予測している。物価上昇率がプラスに転じるのは2010年に入ってからとなるであろう。

  • 熊坂 侑三

    今月のトピックス(2008年12月)

    インサイト

    インサイト » コメンタリー

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    熊坂 侑三

    ABSTRACT

    <不況の深化とセンチメントの悪化>

    9月のリーマンブラザースの破綻を契機とする世界金融危機の深化は、世界の実物経済に大きな影響をもたらしている。また、その影響が及ぶスピードはかつて ないほど急速である。日本経済にとって、主要な輸出市場である米国やEUの経済がマイナス成長に陥り、もう一つの柱である新興市場諸国の経済成長率も減速 傾向が目立ってきている。
    今月の日本経済の見通しで述べているように、最近の経済動向を要約すれば、生産の大幅減少、純輸出の収縮と特徴付けられる。今回の不況は海外発の要因が大 きく影響している。世界経済はこの間急速に悪化し、同時不況となっている。これに抗するために、主要諸国は先進国も新興国も金融緩和と財政拡大にむけて協 調しているが、これが明確な効果を生み出し、世界経済が底打ち反転することが、日本経済の回復に決定的に重要である。
    このような性格を持つ今回の不況に対して、政府の打つ経済政策はおのずと限定されてこよう。重要なのは景気の底割れを防ぐことであり、生産の大幅削減や雇 用の調整が家計の本格的な消費削減につながらないような工夫が必要となる。そこで最近の消費者や景気ウォッチャーたちのセンチメントの動向を見てみよう。
    11月の消費動向調査によれば、一般世帯の消費者態度指数は28.4となり、2ヵ月連続で過去最低を更新した。前年同月比では11.4ポイント下落して 24ヵ月連続の悪化を記録した。11月は世界経済の急激な落ち込みと輸出の収縮を背景に、国内の雇用の先行きや所得減への懸念が強く表れた結果となった。 指数を構成する4項目の意識指標はすべて前年から悪化したが、インフレ期待の低下から暮らし向きや耐久消費財の買い時判断に関する意識指標では底打ちや改 善の傾向が見られた。しかし、雇用環境に関する意識指標は21.1(前年同月比-22.0ポイント)で、悪化幅の拡大が目立った。
    また同月の景気ウォッチャー調査によれば、現状判断DIも過去最低を更新した。前年比では17.8ポイント低下し25ヵ月連続の悪化となった。指数構成指 標の1つである雇用関連DIは同26.2ポイント低下し、27ヵ月連続で悪化している。2001年10月の悪化幅40.7ポイントまで至っていないが、今 後急速な悪化幅の拡大が予想される。
    このように消費者や景気ウォッチャーたちの雇用のセンチメントは夏以降急速に悪化している。年度末にかけては生産の大幅削減の確率が非常に高くなってい る。実際、15日に発表された日銀12月短観では大企業の業況判断DIは前回調査から21ポイント悪化した。これは1974年9月調査以来の悪化幅 (-26ポイント)となっている。これから生産削減、雇用削減は避けられないであろうが、この動きが消費減退に繋がる負の連鎖を断ち切らねばならない。す なわち、消費者のセンチメントの大幅悪化を防ぐ工夫が必要である。消費者には、今回は前回のように本格的なリストラにはならないという安心感を与えるよう な政策を準備し、また、生活の安心を取り戻すため一定の生活防衛のためのセーフティーネットを充実しなければならない。11月の「今月のトッピクス」で追 加経済対策(10月30日決定)の効果をあまり評価しなかったが、今回新たに出てきた政府の経済対策のうちで、職を失った人に対する住宅支援などは評価で きる。要は消費者のセンチメントの悪化を防ぎ、生産・雇用の削減から消費の本格的削減という負の連鎖を断ち切ることがもっとも重要で、世界景気が底打ちす るまでの政策課題となる。

    日本
    <不況感が強まる10-12月期経済>

    今回の予測では一部の11月データと10月のほぼすべてのデータが更新されている。これらの動向を要約すれば、生産の大幅減産、純輸出の収縮と特徴付けられる。
    今週の超短期モデル(支出サイド)は、10-12月期の実質GDP成長率を、内需は小幅拡大にとどまり純輸出が大幅に縮小するため、前期比-1.1%、同 年率-4.3%と予測している。予測は6週連続で下方修正が続いている。この結果、2008年暦年の成長率は+0.1%にとどまろう。
    10-12月期の国内需要を見れば、実質民間最終消費支出は前期比+0.1%となる。実質民間住宅は同-4.4%と2期ぶりのマイナス、実質民間企業設備 は同+1.2%となる。実質政府最終消費支出は同+0.4%、実質公的固定資本形成は同2.0%減少する。このため、国内需要の実質GDP成長率(前期比 -1.3%)に対する寄与度は+0.2%ポイントとなる。
    財貨・サービスの実質輸出は前期比2.3%増加し、実質輸入は同15.3%増加する。不況下の経済で実質輸入が大幅増加するのは不思議な気がするが、理由 は以下のとおりである。まず名目ベースの輸出入は輸出が同-6.2%、輸入が-5.7%と同程度の減少にとどまっている。一方、デフレータは急激な円高と 国際商品市況の大幅下落により異なった動きを見せている。輸出デフレータが同-8.3%下落するが、輸入デフレータは円高に加え国際商品市況の急下落によ り同-18.2%と輸出デフレータの下落幅を大きく上回っている。このため、実質純輸出は前期から大幅に縮小し、実質GDP成長率に対する寄与度は -1.3%ポイントと大きなマイナスの貢献となる。
    2009年1-3月期の実質GDP成長率については、内需拡大は小幅にとどまり、純輸出は引き続き縮小するため、前期比-0.7%、同年率-2.9%と予測している。この結果、2008年度の実質GDP成長率は-1.1%となろう。
    このように、2008年度の経済成長率は4-6月期の前期比年率-3.7%、7-9月期同-1.8%に続き、年度後半もマイナス成長が持続し、当面は回復の展望が描けない厳しい状況となっている。

    [[稲田義久 KISERマクロ経済分析プロジェクト主査 甲南大学]]

    米国
    <NBERの苦しいリセッション宣言‐significant な落込みが a few months 続くこと‐>

    12月1日に全米経済研究所(NBER)の景気基準日付け決定委員会は2001年3月から始まった今回の景気拡大が2007年12月に終わり、リセッショ ンに入ったことを宣言した。通常のリセッションの定義は2四半期連続しての実質GDPのマイナス成長であるが、NBERはリセッションを「経済全体におけ る景気活動のsignificant(?) な落ち込みが、a few months (2,3ヵ月?)以上続くこと」と定義し、それらは生産、雇用、実質所得、その他の経済指標に表れると付け加えている。リセッションを定義するときは、 significantなどと言う恣意的な言葉は使わないほうがいい。超短期モデル予測は2007年12月から2008年4月まで景気がスローダウンして きたことは認めるが、景気は2008年4月-6月に急速に拡大していたことを示している。実際に2008年4-6月期の経済成長率は超短期モデル予測とほ とんど同じ+2.8%と高いものであった。
    また超短期モデルは2008年6月以降再び景気がスローダウンしていることをはっきりと認めている。特に2008年10-12月期において、9月12日以 降、支出サイドからの実質GDP成長率は-5%を下回っている。まさに、現在は大不況(グレート・リセッション)とも呼べる状況である。
    NBERがリセッションの公式宣言を行った日に株価のダウ平均が700ドル近く下落したように、NBERの決定は市場に大きな影響を与える。もしも、リ セッションをNBERの定義に従うならば、米経済は2007年12月-2008年4月、2008年6月-現在 とダブル・ディップ・リセッションにあることをNBERは認めることである。むしろ、従来のリセッションの定義に矛盾することなく、リセッション入りを宣 言するならば2008年6月をリセッションの開始年月とすべきである。

    [[熊坂侑三 ITエコノミー]]