研究成果

research

インバウンド需要におけるキャッシュレス決済についての分析 -「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査から-

Abstract

本稿では、「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」アンケート調査に基づいて、関西のインバウンド需要とキャッシュレス決済との関係を様々な角度から分析を行った。

本アンケート調査から得られた興味あるfindingsは以下の通りである。

 

①キャッシュレス決済の利用頻度や形態は国・地域によって異なり、欧州や北米からの訪日外国人客(以下、訪日外客)はクレジットカード利用が多い一方で、中国人は現金もしくはQRコードの利用頻度が高い。

 

②キャッシュレス決済の利便性について、多くの訪日外客が交通機関や買い物・飲食代支払い時に十分享受していないと感じているようである。また場所別では、飲食店やホテルではおおむね使いやすいと感じているが、バス等の交通機関や寺社仏閣や美術館などにおいては不便であると感じている割合が高い。

 

③なお、本アンケートでは訪日外客に旅程を通じて為替レートを意識しているか否かも質問している。回答結果は「旅マエ」までは為替レートをある程度意識するが、「旅アト」時には意識しないと答える割合が高くなる傾向がみられた。訪日外客は「旅アト」において今回の旅行を振り返るとすれば、滞在中(「旅ナカ」)においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い情報を本アンケートは提供していることになる。

 

今回のアンケート調査は、地域を関西に限定しているが、今後インバウンド需要を促進していくためにも、我が国のキャッシュレス決済をより一層充実させていくことが不可欠であることを示唆している。

本文

1. はじめに

筆者達はこれまでインバウンド・ビジネス産業の戦略を意識しながらマクロ、ミクロのデータに基づく分析を行ってきた。その分析結果から、今後のインバウンド・ビジネス戦略を考える視点として、「ブランド力」、「広域・周遊化」、「イノベーション」という3つのキーワードが重要であることを、昨年のAPIRシンポジウムで示した。しかしながら、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大を受け、2020年2月以降に行ってきた日本での水際対策の強化により、現在、訪日外客数は蒸発した状況にある。これによりインバウンド関連産業は大きな打撃を受け、ショックに対する産業の耐性が課題となっている。この状況下では、これまでのようにひたすら訪日外客数を増やすという数量のみを追求する戦略はもはや持続可能ではない。コロナ禍で訪日外客が蒸発している今の状況だからこそ、ポストコロナに向けたインバウンド・ビジネス戦略を再考する必要がある。本稿では、前述した3つの視点のうち、「イノベーション」について分析を行う。具体的には訪日外客のキャッシュレス動向に注目し、分析を行っていく。キャッシュレス決済のようなソフト面のみならずハード面のインフラを整備することで、ポストコロナの訪日外客に対してインバウンド・ビジネス産業は高い付加価値をもつサービスを提供できると考える。

本稿では国土交通省近畿運輸局が実施した「関西における訪日外国人旅行者動向調査事業」のアンケート結果の分析により、関西を訪れた訪日外客の興味深い動態を把握することが可能となった。

本アンケートでは以下の設問を設けている(ヒアリング調査内容については後掲の参考資料を参照)。

A.本人属性(国籍、年齢、性別、世帯年収)、B.旅行属性(旅行手配方法、訪日回数など)の基本的な情報に加え、C.体験・サービスの満足度について、D.決済方法(キャッシュレス決済方法など)について聞いている。加えて、E.関西各地域の費目別消費状況、といった従来のアンケートではあまりみられない内容についてもヒアリングを行っている。なお、ヒアリングの場所を意識したのが本アンケートの特徴でもある。すなわち場所を、旅行前(以下、「旅マエ」)、旅行中(以下、「旅ナカ」)、旅行後(以下、「旅アト」)の3地点に分けて訪日外客に聞いているため、彼らの消費動態の時間的なパターンについて詳細な情報が得られる。なお、各時点における国・地域のサンプルは図表1に示されている。

今回は前述した通り、多くの設問項目の中から「イノベーション」の観点より、D.決済方法についての情報に焦点を当てて分析を行う。

 

2. キャッシュレス決済がインバウンド需要に与える影響について

一般にキャッシュレス決済のポイントは、以下の観点から、財・サービスの購入がより容易になることにある。第1に手元に十分な現金は保有していないが、購入したい財・サービスを即座に消費できるという点である。つまり「消費の即時性」という利点を有している。

第2に、常に現金を手元に保有しておく必要はないという点である。高額の現金を手元に保有していると盗難等にあいやすいが、こうした「現金保有の危険回避性」という利点がある。第3に、クレジットカード(以下、クレジット)やデビットカード(以下、デビット)での決済は現金による支払いと比べ時間がかからない点である。限られた時間の中で消費を行わなければならない場合、「決済の迅速性」は大きな魅力となる。

第4に、カード等による決済は、決済終了後に利用状況(利用日時、利用場所、利用金額など)に関する情報がすべて把握できる。こうした「決済情報の把握性」は今後の消費計画を立てる上でも有益である。

ここで外国人訪問者が外国においてクレジットなどを用いて消費を行う場合、上記のキャッシュレス決済のメリットはどのように反映されているだろうか。以下では中国人観光客が日本で消費する場合を例にあげて説明する。

中国人が日本において日本の現金(円)で財・サービスを購入する際には、図表2が示すように、2段階の手続き=交換を行う必要がある。

 

 

第1段階は、自国通貨(人民元)を日本通貨(円)と交換しておく必要がある。この両替は訪日前に中国においても行うことができるが、日本での消費額が大きくなるにつれ、日本で行うケースが増えてくる。第2段階は現金(円)を希望する財・サービスと交換するという手続きである。

こうした2段階の交換手続きは決して容易な手続きとは言えない。通貨の両替は限られた場所でしか行うことができない(実際には外国通貨の両替は国際空港や都市部の両替店に限定される)。さらに両替の手続きは簡単ではなく、時間的なコストや、言語面での意思疎通の問題も無視できない。またそもそも訪問先で高額の現金を保有すること自体が危険である。

現金(円)を用いて日本で消費を行う際にも、さまざまな問題が発生する。希望する商品が見つかったとしても、中国人観光客が実際に購入する段階では、様々な障壁がある。例えば支払い時の現金提供と釣銭の引き渡しや面語での意思疎通の問題がある。こうした点は限られた日数で日本を訪問する観光客(とりわけ初めての訪問客)にとって極めて大きな障壁となる。

キャッシュレス決済は、このような 2 段階の手続きにおいて発生する諸問題を解決する手立てとなりえる。クレジットやデビットなどを利用すれば、自国通貨と外国通貨の交換を行う必要はなくなる。また希望する財・サービスを、十分な現金を保有していなくても、無用な心配や不安を排除して即時に購入することができる(「消費の即時性」「現金保有の危険回避性」「決済の迅速性」が満たされる)。さらに帰国後には、日本での消費に関して詳細な情報を得ることによって、次回以降の旅行計画に関する貴重な指針となる(「決済情報の把握性」が満たされる)。

以上の理由から、キャッシュレス決済の進展はインバウンド需要の増大を促進する可能性が高いと考えられる。翻ってわが国では現金決済が根強く、インバウンド需要を喚起させていく上で少なからず障壁となっているはずである。次節ではキャッシュレス決済についてアンケート調査から得られる情報を整理し、分析を行う。

3. キャッシュレス決済の動向

今回行われたアンケート調査では、関西における訪日外客のキャッシュレス決済に関する設問について回答が得られた。日本におけるキャッシュレス決済の普及は諸外国と比較すれば、まだあまり進んでいないという議論もされている。このためキャッシュレス決済の普及によるソフト・ハード両面のイノベーションは、キャッシュレス決済が日常行われている欧米豪からの訪日外客の誘客にも繋がり、更なるインバウンド需要の拡大も期待できる。そのため今後のインバウンド・ビジネス戦略を考えるうえでも、本アンケートから示唆に富む含意が得られることが期待できる。

3-1. 滞在中に使用した決済方法

アンケートでは最初に今回の日本滞在中の決済方法7について聞いてみた(質問 D1.「滞在中に使用した決済方法をお聞かせください(複数回答可)」)。図表3-1-1は訪日中国人客が日本滞在中に使用した各決済方法の割合を示しており、内訳をみると現金で決済したと答えた割合が 37.4%と高く、次いでQRコードが26.8%、クレジットが25.1%、デビットが10.6%と続いており、総じてキャッシュレスでの決済方法の割合が高いことが分かった。

 

 

次に欧州をみれば(図表3-1-2)、現金、クレジットでの決済割合は、いずれも46.7%を占めている一方で、デビットは6.7%と小さく、QRコードでの決済は見られなかった。

最後に北米をみれば(図表3-1-3)、現金での決済が46.4%と最も高い。次いで、クレジットでの決済は約42.9%、デビットが約10.7%となっている。なお、QRコードの決済は見られなかった。上述した国籍・地域別訪日外客の決済動態をみれば、以下の通りにまとめられる。

 

①中国、欧州、北米の訪日外客は現金での決済の割合が高いものの、②総じてみれば、キャッシュレス決済の割合は中国、欧州、北米のいずれの訪日外客においても高い。しかし、③キャッシュレス決済のうちQRコードをみれば、中国は決済方法の約1/4を占めているのに対し、欧州、北米では全く見られないのが特徴である。

 

 

次に、本人属性の世帯年収(質問A)と決済方法(質問D)との関係についてみる。

図表3-1-4は訪日中国人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。図が示すように、現金での決済では年収が10~20万元未満の人が多く、クレジットでは40万元以上の人が多い。デビットでの決済をみると、10~20万元未満または20~30万元未満の人が多い。次にQRコードの決済では、10~20万元未満の人が最も多いが、40万元以上の人も使用していることから、幅広く利用されている傾向が見られる。

このように訪日中国人客では現金での決済は比較的中位の年収の人が使用する傾向がみられるのに対し、クレジットでの決済は年収の多い人が使用している。一方、QRコードでの決済は、年収が中位の人だけでなく、高位の人も使用していることから、幅広い階層で使用されている傾向がみられる。こうしたQRコード決済が幅広い階層に利用されていることについては近年、中国においてアリペイやウィチャットペイなどに代表されるQRコード決済システムの普及が進んでいることが影響していると考えられる。

 

なお、図表3-1-5は訪日韓国人の決済方法毎の世帯年収の分布をみている。現金での決済をみれば、5,000万ウォン以上の年収の人が多く使用しており、次いで3,000~4,000万ウォンの層となっていることから、比較的年収が中位から高位の人が使用する傾向が見られる。次にクレジットをみれば、5,000万ウォン以上の年収の人が最も多く、次いで多いのが4,000~5,000万ウォン未満の人であることから、年収の高位の人が使用している傾向がみられる。なお、今回のアンケート調査ではQRコードでの決済の調査結果が得られなかった。このように訪日韓国人客にとっての決済は現金及びクレジットが主であり、特に年収が高位の階層においてその特徴が顕著に表れている。

図表3-1-6は訪日台湾人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。現金での決済は、60~100 万台湾ドル未満の年収の人が多く行っており、次いで100~150万台湾ドル未満、150万台湾ドル以上と続いている。次にクレジットをみれば、100~150万台湾ドル未満の年収の人が最も多く使用しているものの、その他の階層でも総じて使用する傾向が見られた。QRコードでの決済をみれば、60~100万台湾ドル未満、150万台湾ドル以上の年収の人が行っている傾向が見られる。

最後に、図表3-1-7は訪日香港人客の決済方法毎の世帯年収の分布を示している。現金での決済をみれば、10万香港ドル未満の年収の人が多いという特徴がみられた。次に、クレジットでの決済では、20~30万香港ドル未満と30~40万香港ドル未満の年収の人が多いのが特徴的である。

 

以上より、東アジア各国の世帯年収と各決済の利用関係についてみれば、①中国では世帯年収が概ね中位の人は現金、デビット、QRコード決済を使用するのに対し、高位の年収の人はクレジットやQRコードで決済する傾向が見られる。②韓国では、主として現金とクレジットでの決済だが、高位の年収の人はいずれの決済も行う傾向がある。③台湾では現金、クレジットでの決済が主で、現金ではやや中位の年収の人が使用する傾向があり、クレジットはやや高位の年収の人が使用する傾向があるもののその他の階層も使用していることから年収の違いで大きな差異はあまり見られない。④香港では現金とクレジットでの決済が主として行われており、現金決済は概ね平均的な年収より低位の人が行っており、クレジットは中位またはやや高位の収入の人が使用する傾向が見られる。

3-2 日本におけるキャッシュレス決済の進捗

次に日本における「キャッシュレス決済対応について、ご自身の国と比べて日本は進んでいるかどうか」という質問項目(D2.)から得られた結果をみる。日本と自国でのキャッシュレス決済動向を比較することにより、キャッシュレス決済の進捗状況の違いを客観的に整理することができる。その結果を示したのが図表3-2である。それぞれ、中国、欧州、北米、欧米豪のカテゴリーに分類して示しているが、日本ではキャッシュレス決済が進んでいる(Yes)と答えた割合が高かったのは北米のみで、中国は約75.3%、欧州は約71.4%、欧米豪は約 63.6%の割合で進んでいない(No)と答えている。本アンケート調査結果から日本のキャッシュレス決済の進捗をみれば、訪日外客に対してキャッシュレス決済の普及はまだ十分進んでいないようにみえる。

 

 

3-3. キャッシュレス決済における利便性:支出項目別

前項では日本におけるキャッシュレス決済の進捗について述べたが、本項ではキャッシュレス決済時の利便性を支出項目別についてみていく。図表3-3-1では訪日外客(全国籍)が買物、飲食、交通、娯楽サービス等、宿泊の各項目においてキャッシュレス決済を行った際、「一番不便だった時はいつか」という質問項目に答えた割合を示している(質問 D5.)。結果、一番不便だと感じていた時が交通費などを支払う時であり、最も不便を感じていない時は娯楽サービス等に関する支払い時であった。また買物と飲食で不便だと感じている割合が約 25%となっており、4人に1人は不便を感じているという結果が得られた。

 

 

次に国籍・地域別にみれば、中国の訪日外客は交通費の支払い時に不便だったと答えた割合が高く45.9%で、次いで飲食時の支払いが28.4%となっている(図表3-3-2)。欧州をみれば、中国と同じく交通費の割合が高く70.0%となっており、多くの人が不便だと感じていることがわかる。次いで買物と飲食が20%となっているのに対し、娯楽サービス等や宿泊には不便だとは感じてはいな
かった(図表3-3-3)。以上から、中国、欧州の訪日外客は交通関連でのキャッシュレス決済に不便さを感じている傾向が見られた。この結果からもわかるように、交通費の支払いや飲食の支払い時のキャッシュレス決済化はまだ遅れているように思われる。

 

 

 

3-4. キャッシュレス決済における利便性:支出場所別

前項では各費目によってキャッシュレス決済の利便性が国籍・地域別で異なることを明らかにした。本項では更に決済場所によってその利便性がどのように異なっているかを見ていく(質問 D6.)。

図表3-4-1は訪日中国人客が飲食店、鉄道、バス、タクシー、ホテル、旅館、寺社仏閣、美術館、ホステル・カプセルホテル、有料住宅宿泊、それぞれの場所におけるキャッシュレス決済の使いやすさを5段階で示している。もっとも使いやすい際は5、もっとも使いにくい際は1、普通程度である場合は3と答えている。

図を見れば、飲食店やホテル等では概ね使いやすいと答えている割合が多い一方、バスや美術館では使いにくいと回答している割合が高い傾向が見られる。これはキャッシュレス決済が普及している宿泊施設や外食チェーンの飲食店などでは不自由なく使える反面、キャッシュレス決済が行いにくいバスなどの交通機関やあまりキャッシュレス決済を導入できていない美術館等の施設においては課題があると言えるだろう。

 

図表 3-3-3 日本滞在中におけるキャッシュレス決済の利便性(欧州)

3-5. 決済時における為替レートの意識調査

最後に今回のアンケート調査では決済方法に関する質問項目だけではなく、「キャッシュレスで決済時する際、為替レート(自国通貨と円の交換レート)を意識しますか」という設問も行っている(D4.)。これまで筆者たちは、インバウンド需要における決定要因として、短期の観点から為替レートの変動が重要であると述べてきた。しかし、2.でも述べたように、キャッシュレス決済では、自国通貨と相手国側の交換レートを気にせず財・サービスを消費できるため、現金決済と比べてあまり為替レートを意識しないのではないかと考えられる。こうしたキャッシュレス決済が進むということは、煩雑な通貨の両替をすることなく財・サービスへの消費に繋がると考えられるため、消費拡大を意図するうえで非常に重要な意味を持つといえるだろう。

図表3-5-1は訪日外客の為替レートの意識を、「旅マエ」、「旅ナカ」、「旅アト」の3時点での調査結果を示している(全国籍ベース)。関空入港時の「旅マエ」で為替レートを意識していると答えた(Yes)割合は60.3%、旅行途中の「旅ナカ」では63.8%、関空出国時の「旅アト」では24.4%となっており、「旅マエ」、「旅ナカ」と比較して「旅アト」の割合は低下している。

次に訪日中国人客をみれば、為替レートを意識する割合は「旅マエ」では73.5%、「旅ナカ」では57.1%と次第に意識が低下する傾向が見られた。更に「旅アト」では20.8%となり、旅行時期に応じて為替レートの意識に変化がみられた(図表3-5-2)。

欧州の訪日外客をみれば、「旅マエ」での割合は66.7%であったが、「旅ナカ」では20.0%となり、旅行中ではあまり意識をせずに過ごす傾向がみられるようである。なお、「旅アト」については図表1-1が示すように回答は得られなかった(図表3-5-3)。

以上、為替レートの意識について本アンケートから得られた結果は以下の通りである。①「旅マエ」において訪日外客は為替レートに対して意識をしている割合が高いが、「旅アト」時には意識をしないと答える割合が多くなる傾向がみられた。②「旅アト」において、訪日外客は今回の旅行を振り返るということを考えれば、滞在中においてキャッシュレス決済で財・サービスを購入する際にあまり為替レートを意識しなかった、という興味深い示唆が得られた。

 

 

 

4. アンケート調査結果からの含意

今回のアンケート調査では、訪日外客は日本におけるキャッシュレス決済状況について、自国の状況と比して良いと感じる人もいるが、多くの人はあまり良いとは感じていないという結果が得られた。中でも、不便と感じている人が多かったのは、交通機関などの支払い時であった。近年、日本国内のバスやタクシーを利用する際、クレジットやQRコードでの決済が可能となってきているが、それでも訪日外客にとっては未だに不便と感じているようである。また、鉄道の利用時に関しても券売機などで切符を購入する際にキャッシュレス決済が対応可能の場所が増えているが、今回の調査結果をみれば訪日外客に対して、あまり認知されていないように思われる。

交通機関においてこうしたキャッシュレス決済可能が訪日外客に認知されることは、今後のインバウンド・ビジネス戦略を考えるうえで重要なポイントとなってくる。例えば、これまである目的地まで行くために料金を計算し、切符を現金で購入していたことが、キャッシュレス決済が普及することで、その煩雑さを幾分解消することが可能となり、今まで行けなかった場所にも訪れる機会が増えることが期待できよう。その際、重要なのはキャッシュレス化の多様性を考えることである。欧米豪の訪日外客は主にクレジット決済だが、アジア圏、特に中国ではQRコードでの決済が主流であることを鑑みれば、QRコード決済にも対応可能とする必要があると考える。

5. おわりに

以上、訪日外客のキャッシュレス決済に関する動態をアンケート調査から得られた結果より考察してきた。ポストコロナに向けた戦略を見据えて、キャッシュレス決済に代表されるイノベーションのためへのインフラ整備は、今後日本を訪れる外国人に対して非常に重要な意義を持つと言える。その際に、①キャッシュレス決済を行う場所のみならず、多様なキャッシュレス決済への対応可能性が重要である。また、クレジットだけでなくQRコードでの決済が増加していることを考えれば、それに対応した端末などの導入を行う必要も出てくるだろう。②これまでのように買物や宿泊を行う場所のみならず、交通、飲食や娯楽サービス等が行える場所においても、キャッシュレス決済対応を真摯に検討していく必要がある。

このように訪日外客の視点から見れば、キャッシュレス決済のインフラ整備についてまだ不十分な面はあるが、課題解決のために政府はキャッシュレス決済のインフラ整備を着実に進めている。また、2019年10月の消費税率引き上げに伴い、20年6月まで行われたキャッシュレス決済でのポイント還元事業は日本国内におけるキャッシュレス環境に少なからず影響を与えている。経済産業省(2020)によれば、この事業開始以降、キャッシュレス決済を導入した事業者の割合は26.7%(19年9月時点)から35.7%(20年5月時点)まで上昇した。また、消費者のキャッシュレス決済利用率についても週1回以上の利用が約6割以上となるなど、利用頻度は着実に増加しているように思われる。この際、特にQRコード決済の普及が進んでおり、その利用率は増加傾向で推移している。

こうしたQRコード決済の普及は、利用者の多いアジア(特に中国)からの訪日外客に対しての消費を考える上で重要となろう。こうしたインフラ整備が進むことにより、訪日外客のみならず国内客の消費意欲を促進することにも繋がることが期待されよう。

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    • 3月の現金給与総額は4カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より小幅拡大。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 4月の大型小売店販売額は31カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンドによる高額品の売上が堅調だったことから、26カ月連続のプラス。スーパーは飲食料品などの単価上昇が影響し19カ月連続で増加した。
    • 4月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりに前月比増加。持家が減少したものの、貸家と分譲は増加となり、着工数全体を押し上げた。
    • 4月の建設工事出来高は3カ月ぶりの前年比増加。民間工事、公共工事ともに全国に比して強い。5月の公共工事請負金額は前年比、前月比ともに2カ月連続の増加となった。結果、1-3月期の落ち込みから大幅回復した。
    • 5月の景気ウォッチャー現状判断、先行き判断DIいずれも3カ月連続で前月比悪化。物価の高止まりやコストの上昇が景況感に悪影響を与えている。
    • 5月は輸出入ともに前年比増加となった。輸出は好調な対中国と対欧米の影響で2カ月ぶりに増加に転じた。一方、輸入は対中及び対ASEANが堅調に推移し、対EUが増加に転じたため、2カ月連続で増加した。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は4カ月連続の黒字となった。
    • 5月の関空経由の外国人入国者数は過去最高値を更新し、インバウンド需要は好調を維持している。
    • 5月の中国経済は、生産の回復が停滞気味である一方、消費の回復は6カ月ぶりに加速した。しかし、雇用回復の遅れに加えて、不動産市場の不況も短期間での改善が望めないため、消費の更なる加速は期待しにくい。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

      【関西経済のトレンド】

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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:4月レポート No.59

    インバウンド

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    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、4月の訪日外客総数(推計値)は304万2,900人。桜の開花シーズンの影響もあり、2カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば2月は278万8,224人。うち、うち、観光客は254万8,085人と5カ月連続で200万人を超える水準となった。

     

    【トピックス1】

    ・関西4月の輸出額は前年同月比-1.8%と2カ月ぶりの減少。一方、輸入額は同+1.4%と2カ月ぶりの増加となった。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・4月の関空への訪日外客数は77万2,860人となり、過去最高値を更新した。

    ・3月のサービス業の活動は対面型サービス業を中心に悪化した。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比低下。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が低下に寄与し、4カ月ぶりの同低下となった。

     

    【トピックス2】

    ・1月の関西2府8県の延べ宿泊者数は9,352.4千人泊で、2019年同月比+7.9%と6カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は6,574.0千人泊で、2019年同月比+5.3%と6カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は2,778.4千人泊で、同+14.5%と7カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期関西(2府8県ベース)の国内旅行消費額(速報)は1兆350億円。新型コロナ5類移行後、初めての年始休暇の影響もあり、宿泊旅行消費、日帰り旅行消費ともに増加した

    ・国内旅行消費額のうち、宿泊旅行消費額は8,158億円、日帰り旅行消費額は2,193億円であった。

     

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  • 稲田 義久

    人口減少下における活力ある関西を目指して~2050年を見据えて~

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 日本・関西経済軸

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR研究統括兼数量経済分析センター長 稲田 義久

    研究計画

    研究の背景

    2024年4月に人口戦略会議は、全国地方自治体の「持続可能性」についての分析レポートを発表した。その中で、2020年から2050年までの間に若年女性人口の減少率が50%以上になる自治体(消滅可能性自治体)は全国1,729のうち744(43%)あるとし、関西は全198のうち門真市等81の自治体(41%)が該当している。まずは、この状況が前回2014年のレポートと比較して改善しているのか、そして今何が問題になっているかを把握する必要がある。

    国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の推計によると、日本の総人口は2023年の1億2,435万人から2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人になるとされている。特に関西(2府4県)は、全国や関東に比べて人口減少のスピードが速い。社人研の推計を基に2022年~2050年の減少率をみると、全国-19.4%、関東-7.5%に対し、関西は-23.3%となる。

    また、高齢化の進行も厳しい。社人研の推計によると2050年には生産年齢人口が5,540万人と2023年(7,395万人)比25.1%の減少、およそ4人に1人が75歳以上になるとされている。将来の労働力となる子どもの出生数も年々減少しており、人手不足によって社会インフラの維持が困難になる可能性も指摘されている。

    人手不足は足下でも深刻である。帝国データバンクによると、2023年の人手不足を理由とした倒産件数は260件で前年比1.9倍(前年:140件)と過去最多を更新した。業種別では建設業や運輸業が多く、生活に必要不可欠な職種(エッセンシャルワーカー)の人手不足は深刻である。

    一方で、労働参加率を上げ、特にサービス業の生産性を向上させれば人口が減少しても問題ないとする議論もあるが、最適解はどこにあるかについて検討する必要があると考える。

    そこで、全国に比して人口減少・高齢化が厳しい関西において、人口や労働等に関する様々な基礎データを整理し、加えてAPIRがこれまで蓄積してきたデータベースや知識を組み合わせながら総合的に分析しつつ、データを可視化することで、関西各府県及び自治体の特徴と課題を明らかにする。そして中長期的な視点で、この先人口が減っても豊かさと活力を維持・向上させていくための方策を模索していきたい。

    研究内容

    ●関西基礎統計の整理
    ・労働に関する基礎データ(就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査 等)を基に、関西の地域別、産業別、企業規模、性別、年齢別の5軸でデータベースを構築し、県民経済計算に対応できるようなシステム開発及びメンテナンスを行う。
    ・地域別将来人口推計データを整理しつつ、足下と比較して関西の特徴を明らかにする。

    ●関西における詳細なデータ分析と労働需給分析
    ・整理したデータベースを基に産業構造や雇用構造、年齢構造、賃金構造等から、関西が抱える労働問題を総合的に明らかにする。
    ・介護、建設、宿泊サービスの分野に焦点を絞って詳細なデータ分析を行い、どの職種に労働需給のミスマッチが起きるのかを明らかにし、中長期視点で解決策を検討する。

    ●経済成長を維持し、持続可能な社会をつくるための施策の検討
    ・労働需給の課題に対してどのような処方箋が考えられるか、有識者等から様々な視点での知見をもらい、関西において実現できる未来の姿を模索する。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・マクロデータの分析成果(関西経済白書、トレンドウォッチ)
    ・人口減少による人手不足の課題の共有化(研究会等での情報提供と議論)

    ・人手不足(特に介護、建設、宿泊分野)の解消に向けた対応の検討
    ・人口減少下においても人手不足を補い経済力を維持するための施策の立案

    研究体制

    研究統括・リサーチリーダー

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学 名誉教授

     

    サブリサーチリーダー

    松林 洋一  APIR主席研究員、神戸大学大学院経済学研究科 教授

     

    リサーチャー

    野村 亮輔  APIR副主任研究員
    吉田 茂一  APIR研究推進部員
    古山 健大  APIR研究推進部員
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年5月)<5月末の統計集中発表日のデータを更新して、4-6月期の実質GDP成長率予測を前期比年率+2.0%に上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

     

    4-6月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、生産サイドは同+2.4%、平均同+2.2%と予測する。市場コンセンサス(同+2.10%)は支出サイドとほぼ同じ成長率を予測(図表1参照)。

    図表1

     

    4-6月期インフレ予測の動態

    ▶4月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.2%と32カ月連続の上昇だが、インフレ率は2カ月連続で前月から縮小。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+2.4%と25カ月連続の上昇だが、インフレ率は8カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、4-6月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.4%、国内需要デフレータを同+0.6%と予測。交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.3%と予測する(図表2参照)。

    図表2

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  • 高林 喜久生

    大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下田 充 / 下山 朗 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

     

    1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
    2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
    3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
    4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.69 -足踏み局面から緩やかな持ち直しへ:先行きの回復は企業の賃上げペース次第-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 小川 亮 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 古山 健大

    ABSTRACT
    1. 2024年1-3月期の関西経済は、足踏み状況から緩やかな持ち直しに向かう局面にある。家計部門では、消費者センチメント、所得、雇用など力強い回復には至らないものの、底打ちの兆しが見られる。企業部門では、生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きであるが、景況感は堅調である。対外部門では、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しており、財輸出は持ち直してきている。
    2. 家計部門は一部に弱い動きも見られるが、緩やかに持ち直しつつある。大型小売店販売、センチメント、所得、雇用など多くの指標で回復ないし持ち直しの動きとなっている。実質賃金も依然として前年比マイナスが続いているが、底打ちの兆しが見られる。一方、住宅市場は低調である。
    3. 企業部門は、足踏みの状況が続いている。生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きとなっている。設備投資計画は、非製造業で前年の反動が見られるなど全国に比べてやや控えめとなっている。景況感は製造業・非製造業ともに堅調に推移している。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに底打ちの兆しが見られる。輸出は対中国向けの持ち直しを背景に4四半期ぶりの前年比プラスとなった。インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高など増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、請負金額・出来高とも前年を下回り、弱い動きとなった。
    6. 関西の実質GRP成長率を2024年度+1.2%、25年度+1.4%と予測。22年度以降1%台前半の緩やかな伸びが続く。24年度は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、24年度は-0.3%ポイント、25年度は-0.1%ポイントといずれも下方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は24年度+0.5%ポイント、25年度+1.0%ポイントとなり、緩やかな回復で成長を支える。公的需要は万博関連の投資により24年度+0.4%ポイントと成長を下支えるが、25年度には万博効果が剥落し、小幅寄与となる。域外需要は24年度+0.3%ポイント、25年度+1%ポイントとなる。
    8. 経済成長率を日本経済予測と比較すると、24年度は関西が全国を上回り、25年度はほぼ同程度となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要の押し上げにより全国を上回る伸びとなる。25年度は関西、全国とも民間需要が成長の牽引役となる。
    9. 今号のトピックスでは「関西各府県GRPの早期推計」および「各機関における大阪・関西万博の経済波及効果の比較」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:詳細版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを5%割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化した。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス、バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長となった。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期は自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。4-6月期以降は強めの回復を見込むが、1-3月期のマイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下した。このため24年度平均成長率は低めにとどまる。25年度は内需と純輸出のバランスのとれた潜在成長率を上回る回復となろう。
    6. 8四半期連続の実質賃金減少と自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、昨年春闘を上回る賃上げが実現し、インフレ高止まりの影響が剥落する、24年後半以降となろう。また、7-9月期には定額減税の効果から可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 2024年夏場にかけ消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

     

    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 小川 亮

    関西2府4県GRPの早期推計 No.3

    経済予測

    経済予測 » 関西2府4県GRPの早期推計

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    小川 亮 / 稲田 義久 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    【関西各府県のインバウンド消費の影響】

    ・2023年度の早期推計値をみれば、年度最終四半期の工業生産の落ち込みが影響し、大阪府を除いてすべての府県で前年比減少となっている。一方で、大阪府は同+1.1%と比較的好調を維持している。プラスを維持する要因の一つは、好調なインバウンド消費と考えられるだろう。

     

    【ポイント】

    ・2020年度のGRPは、COVID-19の経済的影響のもと、関西各府県のマイナスの寄与度が大きく増し、国全体(-4.1%)に近いマイナス成長。

    ・2021年度には、21年度には、反転して関西全体で+3.3%のプラス成長であった。

    ・2022年度では+1.1%となり回復の傾向が続いたが、23年度はインバウンドの押上げ効果があるなか製造業による不振が相殺した結果として-0.7%のマイナス成長になると予想される。

     

    コロナ禍からの回復過程(2019年度=100)
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.133-景気は足下、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価の高止まりがリスク要因-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下、先行きともに悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、1-3月期は大幅な落ち込み。雇用環境は、失業率は横ばいだが、就業者数と労働者数が減少しており回復に停滞がみられる。大型小売は、堅調なインバウンド需要が影響し持ち直している。貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小。先行きは自動車の生産回復が見込まれているものの、消費者物価の高止まりが景気の下押しリスクとなっている。
    • 輸送機械、生産用機械や電子部品・デバイス等の増産もあり、3月の生産は3カ月ぶりに前月比上昇した。しかし、1-3月期は、輸送機械の落ち込みが影響し、大幅減産となった。
    • 3月の失業率は前月からほぼ横ばいだが、就業者数と労働力人口に減少がみられた。また、就業率も前月より低下した。足下の雇用情勢に改善はみられず、労働需給はともに低調である。
    • 2月の現金給与総額は3カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より拡大した。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 3月の大型小売店販売額は30カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加やオケージョン需要が堅調だったことから、25カ月連続のプラス。スーパーも18カ月連続で拡大した。
    • 3月の新設住宅着工戸数は2カ月連続の前月比減少。持家、分譲は増加となったが、貸家は減少した。依然弱い動きとなっている。
    • 3月の建設工事出来高のうち、公共工事は3カ月連続の前年比減少。一方、4月の公共工事請負金額は4カ月ぶりに増加に転じた。
    • 4月の景気ウォッチャー現状判断DIは2カ月連続で前月から悪化。円安による輸入コストの上昇や物価の高止まりが影響した。また、先行き判断DIも引き続き警戒感が強いこともあり、2カ月連続で悪化した。
    • 4月の輸出は2カ月ぶりに前年比減少。中国向けは2カ月連続で持ち直したものの、EUと米国向けが大幅減少したためである。一方、輸入は2カ月ぶりの前年比増加。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は前年比縮小。
    • 4月の関空経由の外国人入国者数は桜の開花時期でインバウンド需要が高まり、開港以来最高値を更新。外国人入国者数は堅調に推移している。
    • 4月の中国経済は、生産は堅調な推移が続くが、消費の回復には停滞感が強まっている。雇用回復の遅れと不動産市場の不況には依然として大きな改善が見られない。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:速報版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった。
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう。
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長である。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期には自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。1-3月期マイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下したため、4-6月以降は回復が見込まれるものの、24年度平均成長率は低めにとどまる。内需と純輸出のバランスのとれた回復は25年度となろう。
    6. 実質賃金がプラス反転せず、また自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、春闘を上回る賃上げの実現とインフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。加えて、7-9月期には定額減税の効果が表れるため可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 24年度前半にかけて消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

    ※本レポートの詳細版については5/29(水)に公表予定

    予測結果の概要

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