研究成果

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大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

Abstract

本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

 

  1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
  2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
  3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
  4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。

本文

はじめに

足下の変化を踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果について 3 機関(経済産業省、大阪府市、APIR)の試算が出そろった。経済産業省とAPIRは全国への効果を分析し、また大阪府市とAPIRは大阪府域への経済波及効果を試算した。

時系列的に整理すると(図表 1 参照)、最初の大阪・関西万博の経済波及効果の試算は経済産業省が2017 年 4 月17日に発表した(経済産業省(2017))。そこでは、万博関連事業費としては、建設費が0.2 兆円、運営費が0.2兆円、また来場者関連消費は0.7兆円と想定されている。これらの最終需要による経済波及効果は、万博関連事業で0.8兆(建設費:0.4兆円、運営費:0.4兆円)、来場者関連消費で1.1兆円、総計1.9兆円となっている。

その後、APIR は3度にわたって経済波及効果の試算を行った。しかし、2023 年末に経済状況の変化を踏まえ、国及び大阪府市が大阪・関西万博関連事業費用の見直しを行った結果、費用の上振れが確認された。これらの変化を反映した経済波及効果の再試算の機運が高まった。

2024 年1月24日にAPIRは最新のデータに基づき新たな万博関連事業費と来場者消費の想定の下、改訂試算を行った。それによれば、経済波及効果は全国で約 2.7 兆円、大阪府域で約 2.1 兆円となった。同年3月29日に経済産業省は万博全体の経済波及効果の総額を約2.9兆円と発表した。それを受け大阪府市は4月 12 日に、万博開催に伴う府域への経済波及効果を約 1.6 兆円と試算した。

これら3機関の経済波及効果は全国(APIR:2.7兆円、経済産業省:2.9兆円)と大阪府域(APIR:2.1 兆円、大阪府市:1.6兆円)で差異がみられる。

本稿はこのような差異がどのような理由から発生しているのかを検討したものである。以下、1.において試算結果の違いが発生する理由を最終需要(建設・運営費、来場者消費)の差異と最終需要の取り扱い範囲の差異から説明する。2.においては、3機関の経済波及効果を乗数により比較しつつ、利用する産業連関表の相違による影響を検討する。3.では分析のまとめと含意を示す。

1. 試算結果が異なる理由

同じ地域を対象とする産業連関表を用いて、同じ外生変数(最終需要)の値を用いれば、その経済効果は近似するはずである。以下で説明する検証の結果より、APIR と経済産業省の試算が異なる原因は、異なる最終需要の与え方であることがわかった。

1-1.最終需要の想定

<建設投資・運営・イベント・その他>

最終需要のうち、まず建設投資、運営・イベントの想定の違いを説明する。

建設投資は、主催者による支出と出展者による支出に分かれる。建設投資のうち主催者による支出は、3 機関とも 2,350 億円である。また出展者による支出は、経済産業省・大阪府市の想定が1,187 億円、APIRの想定は1,024億円となっており、前者が後者を163億円ほど上回る。

運営・イベントでは、APIR は主催者運営費を 1,359 億円と想定しているのに対し、経済産業省と大阪府市では会場管理費として1,160億円を想定している。出展者運営費としては、APIRは有限責任監査法人トーマツ(2018)の試算値に基づき2,080億円と想定している。一方、経済産業省と大阪府市は大阪府市万博推進局(2024)の試算値に基づき、イベント参加等 129 億円、出展費 2,201億円と想定している。

さらにAPIR試算では万博開催にあたっての関連基盤整備費306億円と自治体費用156億円を追加計上している。

結果、建設投資、運営・イベント計では、APIRが6,813億円、経済産業省及び大阪府市が7,027億円となり、後者が前者を214億円上回る。その他(関連基盤整備及び自治体費用)の想定462億円を加えると、APIR が7,275 億円となり、経済産業省及び大阪府市の想定を248億円上回ることになる。

 

<来場者消費>

次に来場者消費の想定の違いを説明する。APIR の想定では、『旅行・観光消費動向調査』及び『訪日外国人消費動向調査』のデータを用いて、日本人及び外国人の 1 回あたりの旅行支出額(2023 年 1-9 月期平均)を、平均泊数(日本人:2.2 泊、外国人:11.1 泊)で除して、1 人 1 泊ベースの消費単価に変換している。これをもとに万博開催時の来場者数や泊数を乗じて支出額を 8,913億円とした。一方、経済産業省及び大阪府市の算出根拠は現時点では把握可能ではないものの、来場者消費は7,050 億円としている。結果、APIR の想定が経済産業省と大阪府市の想定を1,863億円上回ることとなる。

図表2は経済産業省、大阪府市及びAPIRが想定した最終需要を比較したものである。

1-2.発生需要と直接需要の違い

最終需要が当該地域に発生したとしても、その需要は全額が当該地域の産品により賄われるわけではなく、一部は移入・輸入という形で地域外から調達される。当該地域に経済波及をもたらすのは当該地域の産品に対する需要であることから、移輸入分は最終需要から控除し、われわれはこれを「直接需要」とよぶ。経済産業省の分析では輸入の扱いは明らかではないが、全国表を用いる以上、少なくとも移入分を控除することはできず、国内で発生した最終需要の全額を計上している。一方、APIRの分析では、関西2府8県内産品に対する最終需要(上で定義した直接需要)を分析の出発点としている。

それを図示したのが図表3である。①は関西2府8県で発生した需要(発生需要)のイメージであり、表側は需要の発生地域をあらわす。確認しておくと、ある地域で需要が発生するということは、その地域内で財・サービスが購入されたということを意味する。次に、購入される財・サービスの調達地域、すなわち生産地を区分する。そのイメージが②であり、ここでは 2 府 8 県(黄)、地域外(緑)、海外(青)の3つに生産地を区分している。地域外からの調達は移入であり、海外からの調達は輸入に相当する。最後に③においては、需要を生産地域別に組み替えている。③の表側は、需要の発生地域ではなく、需要を賄う生産地域であることに留意されたい。われわれの経済波及効果の算出においては、域内産品(2府8県)への需要のみを考慮し、これを直接需要とよんでいる。

図表4はAPIRが想定した発生需要と直接需要の比較である。関西2府8県の発生需要は、建設・運営・その他で7,275億円、来場者消費で8,913億円だが、直接需要ベースでは、建設・運営・その他で6,855億円、来場者消費で7,000億円となる。次に大阪府域の発生需要をみると、建設・運営・その他で7,275億円、来場者消費で8,471億円だが、直接需要ベースでは建設・運営・その他で6,855 億円、来場者消費で6,784億円となる。

建設・運営・その他の発生需要はほぼ地場で調達するため、他地域からの移入や輸入を反映した漏出率は 5.8%と低い値となる。一方、来場者消費については、全国で 21.5%、大阪府域で19.9%と他地域に需要が漏出する割合が高くなる。

 

2. 3機関試算の経済波及効果比較

本節では前節で示された発生需要ないし直接需要に基づいて計算された APIR、経済産業省と大阪府市の経済波及効果を比較する。

2-1.全国への経済波及効果:APIRと経済産業省

大阪・関西万博開催による全国への経済波及効果を、建設・運営・その他と来場者消費に分けて比較したのが、図表 5 である。表が示すように経済産業省では発生需要を建設・運営・その他で7,027 億円、来場者消費で7,050億円、全体で1兆4,077億円と想定している。この発生需要を基に計算された経済波及効果は前者で1兆5,378億円、後者で1兆3,777億円、合計で2兆9,155億円となっている。

APIR では前節で説明したように実際の計算には関西2府8県における直接需要を用いている。このため、建設・運営・その他は6,855億円、来場者消費は7,000億円、全体で1兆3,856億円となり、これらを基に算出された経済波及効果は前者で1兆4,102億円、後者で1兆3,355億円、合計で2兆7,457億円となる。

経済産業省が試算した経済波及効果を発生需要で除した乗数をみれば、建設・運営・その他で2.2、来場者消費で2.0、全体で2.1となっている。一方、APIRが試算した経済波及効果を直接需要で除した乗数をみると、建設・運営・その他で2.1、来場者消費で1.9、全体で2.0となっており、経済産業省試算の乗数とほぼ同じである。経済産業省は全国表、APIRも2府8県とその他地域から構成される地域間産業連関表を用いておりカバーする地域は同一(日本国内)である。これが、乗数が近似する原因であろう。

2-2.大阪府域への経済波及効果: APIRと大阪府市

大阪府域への経済波及効果の試算を、建設・運営・その他と来場者消費に分けて比較したのが、図表 6 である。表が示すように大阪府市では経済産業省と同様の最終需要、すなわち発生需要を用いている。この発生需要を基に計算された経済波及効果は前者で8,965億円、後者で7,217億円、合計で1兆6,182億円となっている。

APIR は全国での試算と同様に大阪府域における直接需要を用いており、その額は建設・運営・その他は6,855 億円、来場者消費は6,784 億円、全体で1兆3,640億円となる。これらを基に算出した経済波及効果は、前者で1兆535億円、後者で1兆86億円、合計で2兆621億円となる。

大阪府市が試算した経済波及効果を発生需要で除した乗数をみれば、建設・運営・その他が1.3、来場者消費が1.0、全体で1.1である。一方、APIRの経済波及効果を直接需要で除した乗数をみると、前者が1.5、後者が1.5、全体で1.5となっている。APIRの乗数が大阪府市のそれを上回る理由は、以下のようである。大阪府産業連関表は大阪府単独の地域内表であるため、府外への経済波及は漏出したままであり、府内に戻ってこない。一方、APIR関西地域間産業連関表は、関西2府8県とその他地域を接続した表であり、大阪府以外の関西 1 府8県及びその他地域への経済波及が跳ね返り効果として再び大阪府に経済波及効果をもたらす。この跳ね返り効果により、大阪府市試算に比べて、APIR試算の経済波及効果の乗数の方が大きな値をとっている。

2-3.参考:最終需要ベースによる経済波及効果

前節では、APIR が想定した直接需要を基に経済波及効果を試算したが、本節では参考としてその他地域への需要(移入)を考慮した全国及び大阪府域への経済波及効果を示そう(図表7)。ここでは輸入は存在せず、最終需要は全て国内産品への需要と想定している。この想定は経済産業省及び大阪府市の試算の想定と同じである。

全国で発生する最終需要は建設・運営・その他が7,275億円、来場者消費が8,913億円、全体で1 兆6,188 億円と想定している。これらを用いた経済波及効果は、前者で1兆4,921億円、後者で1 兆7,220億円、合計で3兆2,141億円となる。直接需要を出発点とするケース(図表5の下段)に比べると、経済波及効果の合計は4,684億円、率にして約17%増加している。

大阪府域で発生する最終需要は建設・運営・その他が7,275億円、来場者消費が8,471億円、全体で1兆5,746億円と想定している。これらを用いた経済波及効果は、前者で1兆1,166億円、後者で1兆2,698億円、合計で2兆3,864億円となる。経済波及効果の合計に関する図表6との比較では、金額で3,243億円、率にして約16%の増加である。

乗数は図表5、図表6とほぼ同じであるが、最終需要の取扱いにより経済波及の効果は少なからず変化しうることが確認できる。

3. 小括

以上、3機関による経済波及効果の試算を比較し、結果の違いについて分析を行った。差異が生じる主な原因は、各機関が想定した最終需要そのものが異なること、経済波及の計算に用いる最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なること、以上の点であることを明らかにした。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

1. 2024年1月のAPIR試算では、万博開催に伴う経済波及効果は全国で約2.7兆円、大阪府域で約2.1兆円であった。また経済産業省は全国での効果が約2.9兆円、大阪府市は大阪府での効果が約1.6兆円と発表した。3機関の経済波及効果の結果には幾分差異がみられる。

2. 想定した最終需要をみれば、建設投資、運営・イベント・その他計では、APIRが7,275億円、経済産業省及び大阪府市が7,027億円と想定しており、前者が後者を248億円上回る。また来場者消費では、APIRは全国で8,913億円、大阪府域で8,471億円と想定しているのに対して、経済産業省及び大阪府市は7,050億円と想定している。結果、APIRは全国で1,863億円、大阪府域で1,421億円上回る。

3. 経済産業省と大阪府市はインプットとして発生需要ベースの値を用いているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで経済波及効果を試算していることから結果の違いが表れている。

4. 経済産業省は全国表、APIRは関西2府8県及びその他地域を対象とする地域間産業連関表を用いているので、両者は同じ地域を対象としている。経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した乗数は近似した値をとる。

5. 大阪府市が用いた産業連関表は、大阪府内を対象とした産業連関表であるため、府内で完結する経済波及のみが考慮される。すなわち、府内から府外に波及し、それが更に府内に波及するという、県境をまたいだ経済波及効果を考慮することができない。一方、APIR 関西地域間表ではそのような府県間の波及のフィードバックが把握できるため、経済波及効果はより高く算出される。

6. 以上、3 機関の経済波及効果が異なる理由を示した。ただし、いずれの結果を実現するためにも経済に明瞭な供給制約がないことが重要である。また、各機関の試算では、万博関連需要と来場者消費にわけて経済波及効果を計算しているが、より高い経済効果を実現するためにも後者の効果の引上げが重要となろう。そのためにも APIR が主張している「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。

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    関西地域間産業連関表2015年表の利活用:2020年表作成に向けての準備

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生(大阪経済法科大学経済学部 教授)

    研究計画

    研究の背景

    関西2府8県+1地域を対象地域とする唯一無二の地域間産業連関表である。本研究プロジェクトでは、これまで様々な事象による経済社会活動に対する影響について産業連関表を用いて府県別・産業部門別に推計してきている。今後関西においては、2025年大阪・関西万博をはじめとするイベントの開催、さらにIRを機とした新たな産業の展開が予想され、産業連関表を用いた様々な経済分析が重要である。

    研究内容

    ・関西地域間産業連関表2020年版の作成に向けたWebアンケート調査の実施
    ・2020年時点と2023年時点のデータを取得し、コロナ禍と平時の比較分析
    ・関西地域間産業連関表2015年版を使用し、各種イベントの経済分析
    ・国、大阪府市、APIRの3機関による大阪・関西万博の経済波及効果を比較・分析
    ・対中貿易減速による関西各府県への影響についての分析
    ・関西地域間産業連関表2015年版を用いた経済構造の分析、2011年版との比較分析
    ・分析結果を関西経済白書やAPIRの各種レポートに掲載、マスコミ取材時、セミナー等における経済波及効果試算の一層のPR

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。

    これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

    研究体制

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

     

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授

     

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部商経科教授
  • 稲田 義久

    大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 野村 亮輔 / 高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充

    ABSTRACT

    本稿の目的は、万博関連事業費などの最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。今回の試算の背景にはCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響によるインフレの加速と供給制約の高まりがある。このような環境下においても、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があるとわれわれは考える。万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのチャンスであり、これを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。分析結果の要約と含意は以下のとおりである。

    1. 今回の最終需要は、万博関連事業費7,275億円、消費支出8,913億円と想定した。前回より前者は1,381億円(前回比+23.4%)、後者は1,047億円(同+13.3%)の上振れとなった。
    2. 上記最終需要をもとにAPIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した結果、生産誘発額は夢洲会場のみで発生する基準ケースで2兆7,457億円、夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定した拡張万博ケース1で3兆2,384億円、加えてリピーター増を考慮した拡張万博ケース2で3兆3,667億円。前回よりそれぞれ3,698億円(前回比+15.6%)、4,509億円(同+16.2%)、4,849億円(同+16.8%)と上振れた。
    3. 得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものであり、明瞭な供給制約がないことを前提としている。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。
    4. また、試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのためにDXの活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。加えて万博が海外の旅行者に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。
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  • 高林 喜久生

    決定版:2023年阪神・オリックス優勝の地域別経済効果 -リーグ優勝、ポストシーズン、優勝関連セール及び優勝パレードの総合分析-

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    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    2023年のプロ野球は、セントラル・リーグが阪神タイガース、パシフィック・リーグがオリックス・バファローズ、ともに関西に本拠地を置く球団が優勝した。またクライマックスシリーズはセ・パ両リーグともリーグ優勝チームが勝ち上がり、59年ぶりに関西勢同士の対決、いわゆる「関西ダービー」が実現した。結果、日本シリーズは阪神が38年ぶり2回目の日本一に輝いた。
    本稿は、高林ほか(2023)、APIR関西地域間産業連関表プロジェクトチーム(2023)での阪神タイガースおよびオリックス・バファローズの優勝の分析に加え、クライマックスシリーズ、日本シリーズ、その後の優勝関連セール及び優勝パレードによる経済波及効果も含めた「決定版」となるレポートである。分析結果の概要は以下の通りである。

     

    1. 全国で発生する経済波及効果総計は1,607億3,300万円、うち直接効果は719億9,900万円、間接効果は887億3,300万円となった。

    2. 関西2府8県では経済波及効果は935億5,700万円であるが、関西を除くその他地域では671億7,600万円。うち、関西が58.2%、その他地域が41.8%を占めており、その他地域では大部分が間接効果となっている。これは、関西での需要を満たすため、関西以外の他府県で一定の需要が発生していることを意味している。

    3. 関西各府県での効果をみると、うち大阪府は427億2,200万円(26.6%)、兵庫県は250億8,700万円(15.6%)となっており、2府県で42.2%と関西地域(58.2%)の大部分を占める。

    4. 優勝関連セールについては、経済波及効果は大阪府(62.8%)が圧倒的な割合を、優勝パレードについては大阪府(42.1%)、兵庫県(35.4%)と2府県で効果の77.5%を占めている。

    5. 今回のリーグ優勝、ポストシーズン及び優勝パレードの2府4県の経済波及効果は関西の名目GRPを0.05%程度押し上げる。全国ベースでは名目GDPを0.01%程度押し上げる。

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  • 高林 喜久生

    2023年阪神・オリックス優勝の地域別経済効果-APIR関西地域間産業連関表による分析-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    2023年のプロ野球は、セントラル・リーグは阪神タイガース、パシフィック・リーグはオリックス・バファローズと、ともに関西に本拠地を置く球団が優勝した。本稿では、高林ほか(2023)に引き続き、阪神タイガースおよびオリックス・バファローズの優勝による経済波及効果について、APIR関西地域間産業連関表を用いて計測した。分析結果の概要は以下の通りである。

    1. 両球団の優勝により全国で発生する経済波及効果は1,283億7,300万円となった。うち阪神による効果は1,011億5,800万円、オリックスは272億1,400万円と、阪神優勝の経済波及効果はオリックス優勝の4倍程度となっている。

    2. 関西各府県での効果をみると、阪神の場合、大阪府268億7,000万円(効果全体の6%)、兵庫県172億1,800万円(同17.0%)。オリックスの場合、大阪府94億1,100万円(同34.6%)、兵庫県31億7,100万円(同13.0%)と、いずれも圧倒的に2府県に集中している。ただ阪神に比して、オリックスの経済波及効果は大阪府により大きく発生することがわかる。

    3. 関西二球団の優勝による経済波及効果は、関西以外の地域でも479億円発生する。これは、関西以外の地域のファンによる消費に加え、関西での直接需要を満たすために関西以外の地域で一定程度の需要が発生していることを意味している。

    4. 阪神のファン人数はオリックスの6倍であることを考慮すると、上記の数値から計算されるオリックスファンの1人当たり経済波及効果は阪神を上回っていることになる。この背景にはSNS等を通じたPR活動による着実なファン人口の増加に加え、より付加価値の高い消費単価の反映がある。

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  • 高林 喜久生

    2023年阪神タイガース優勝の地域別経済効果:速報版 -APIR関西地域間産業連関表による分析-

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    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下山 朗 / 下田 充 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    今回の阪神タイガース優勝は慶賀に堪えない。本稿では、阪神タイガース優勝により発生する新規需要を球場観戦時の消費及び球場外の消費(優勝セール含む)に分けて想定した上で、APIR関西地域間産業連関表を用いてその経済波及効果を計測した。その際、地域経済に与える影響という視点が重要であり、この観点から分析を行った。分析結果を整理し、得られた内容は以下の通りである。

     

    1. 阪神タイガースの優勝により全国で発生する経済効果総計は1,051億2,400万円、うち直接効果465億8,700万円間接効果585億3,800万円となった。

    2. うち、関西(2府8県ベース)の経済効果は686億9,600万円関西を除くその他地域では364億2,800万円となる。

    3. 地域間交易を考慮した関西地域間産業連関表の分析によれば、全体の効果は、関西に65.3%、その他地域に34.7%配分される。関西を除く地域では364億円の経済効果を発生させているが、その大部分は間接効果である。すなわち、関西での直接需要を満たすため、関西以外の他府県で一定程度の需要が発生していることを意味している。

    4. 次に関西各府県での効果をみると、大阪府は306億4,400万円(29.2%)兵庫県は172億7,000万円(16.4%)圧倒的に2府県に効果が集中している。

    5. 阪神のファン数は減少しているにもかかわらず、今回の優勝は一定の経済効果をあげている。これから得られる含意としては、新たなファン層の拡大やリピーター率の向上によりファン数の減少トレンドを抑制し、加えてファンサービスの高付加価値化による消費単価の引き上げにより一層の経済効果が期待できよう。

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  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2023年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 大阪経済法科大学経済学部教授

    研究成果

    2023年度は、APIRが独自に開発した「関西地域間産業連関表」の2015年版を作成し、これを用いて、各種イベントにおける経済波及効果を試算・公表し、大きな反響を呼び各種のメディアに数多く取り上げられました。

    59年ぶりに行われた阪神・オリックスの関西ダービーの経済波及効果では、①公式戦およびポストシーズンにおける球場観戦や球場外での消費、②リーグ優勝および感謝セール、③優勝パレードに伴う様々な消費を精緻に想定し、関西各府県への経済波及効果を936億円と算定しました(日本全体では1607億円)。その中でも、大阪府と兵庫県を中心に効果が大きく、関西のGRP(域内総生産)を0.05%程度押し上げると分析しました。

    また、国、自治体等から公表された最新のデータを基に、大阪・関西万博の経済波及効果を試算しました。万博関連事業費と来場者消費に分けて、基準ケース※2と観光客が万博会場外のイベントや施設を訪れる「拡張万博」※1ケース1※3、2※4における経済波及効果をそれぞれ算定しました。結果、基準ケースで2兆7,457億円、拡張万博ケース1で3兆2,384億円、拡張万博ケース2で3兆3,667億円と試算しました。
     
    ※1拡張万博:万博のテーマ・時間軸・空間軸の概念を拡張し、関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、万博本体では実施しにくい事業も含めて様々な経済活動を展開する取り組み

     

    当初計画

    研究の背景

    関西2府8県+1地域を対象地域とする唯一無二の地域間産業連関表である。当プロジェクトでは様々な事象による経済社会活動に対する影響について産業連関表を用いて府県別・産業部門別に推計してきている。今後関西においては大阪・関西万博をはじめとするイベント、さらにIRを機に新たな産業が予想され、産業連関表を用いた様々な経済分析が重要である。

     

    研究内容

    ・奈良県DATA取得後に正式版関西地域間産業連関表の作成:奈良県のDATAの差し替えを行い再度統合作業とバランス調整を行う

    ・昨年度算出した大阪・関西万博の経済波及効果の再算出:万博アクションプランVer3を反映し、さらに正式版関西地域間産業連関表完成後に再度試算する。

    ・分析結果を関西経済白書、APIRの各種レポートへの掲載、マスコミ取材時、セミナー等における経済波及効果試算のPR

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、経済部門の一部をAPIRのホームページ上で発表する。また、分析成果は景気討論会や環太平洋産業連関分析学会やセミナー等で報告することを予定している。

    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行う上での重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

    研究体制

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部商経科教授
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  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表2015年表の作成と利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2022年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 大阪経済法科大学経済学部教授

     

    研究目的

    これまで、本プロジェクトでは、COVID-19が経済社会活動にもたらした影響について、産業連関表を用いた分析を行ってきた。2020年度は,COVID-19感染拡大が関西のスポーツ関連産業に与えた生産減少額を「負の経済波及効果」として府県別・産業部門別に推計した。また、2021年度は,観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、独自の観光産業の分析を行うとともに、観光消費額減少が地域経済にもたらす経済波及効果や、観光関連消費回復のための需要喚起策として行われた「Go Toトラベル事業」の効果についても分析を行った。2021年度の研究成果は『アジア太平洋と関西―2021年関西経済白書』の「Chapter6 関西と観光産業:産業連関表を用いた分析」にまとめられている。

    また、APIRでは前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成や利活用に関する研究に継続して取り組んでいる。2021年度は2020年度に実施した基礎調査(関西居住者や関西への来訪者を対象に、消費費目や金額、消費場所などについて尋ねたWEBアンケート調査)の結果をまとめ、関西経済白書に掲載するとともに、2015年の関西地域間産業連関表(以下、2015年表)作成のために、統合中分類(107部門)をベースに統合・調整を行うなどの基礎作業を実施した。それを受けて、2022年度は,2015年表の完成を目指すとともに、その利活用を行う。

     

    研究内容

    1)「2015年 APIR関西地域間産業連関表」の作成
    2021年度、地域間表の作成に必要な関西2府8県(福井県、三重県、滋賀県、京都府、大阪府、兵庫県、奈良県、和歌山県、鳥取県、徳島県)の「2015年地域産業連関表」をほぼ全て入手し、入手した府県については産業分類の統合・調整を行い、産業中分類(107部門)をベースに2015年表の作成作業を行った。2022年度はこの作業を継続するとともに、未公表の県については暫定版をAPIRで推計し、それを用いて地域間表の統合作業を行う(暫定版の作成)。その後、当該府県より2015年の産業連関表が公表され次第、差し替え・再度統合作業・バランス調整を行う(確定版の作成)という二段階の作業を行う(※1)。
    また、作業過程において必要な移出入等に関する情報について、APIRマクロ経済研究プロジェクト等のネットワークを活用して府県の統計担当者へのヒアリングを行う(※2)。
    (※1)本項を執筆している5月23日時点で、対象府県のうち、奈良県のみ未公表である。
    (※2)これまでに関係が深い大阪府、兵庫県、和歌山県などを予定している。
    2)「2025年大阪・関西万博 」の経済波及効果の分析
    足下で入手できる最新の情報に基づき、「2025年大阪・関西万博」の経済波及効果の推計を行う。
    なお、2025年大阪・関西万博の経済効果は2019年の関西経済白書で試算を行っているが、コロナ禍による訪日外国人の激減,予算額の変更等が報道されていることを受け、来場者数や訪日外国人の人数、工事費等について再検討を行う。必要な情報については、APIR所内の万博検討チームや万博関連プロジェクトとも連携して、効率的な把握に努める。
    3)インフラ整備の経済効果に関する勉強会
    2021年度に引き続き、「2025年大阪・関西万博」に関連した取り組みを行っている組織や、広域的な交通ネットワーク整備や今後備えるべき災害への対応など,関西で問題となっているインフラ課題について専門家を招聘し、勉強会を行う。
    2022年度は、事業整備を通じた生活の質向上や時間短縮による生産性向上といった「ストック効果」に着目するとともに、産業連関表やマクロ計量モデルを用いてどのように分析を行うかといった手法面についても議論を行う。年2回程度実施を検討している。
    4)対外的な成果報告
    メンバーは各々の立場で分析結果を報告することを通じて、積極的な対外発信に努める。。

     

    研究体制

     
    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

     
    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授

     
    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部教授
    藤原 幸則  APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授
    木下 祐輔  大阪商業大学経済学部専任講師

     

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会や外部の研究会で報告することを予定している。
    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表2015年表の作成と応用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2021年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR上席研究員 高林 喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは、前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成や利活用に関する研究に継続して取り組んでいる。
    COVID-19は経済社会活動に大きな影響をもたらし、特に観光産業に大きな打撃を与えた。世界的な感染拡大に伴い、観光消費額は日本人、外国人ともに大きく落ち込んだ。観光消費額に関する統計は「旅行・観光消費動向調査」などがあるが、観光消費額の減少が地域経済にどのような経済波及効果をもたらすか分析した研究は少ない。したがって、2021年度は観光産業に焦点を当て、全国や関西各府県の産業連関表を用いて分析を行う。
    また、昨年度末にかけて地域間表の作成に必要な関西2府8県の「2015年地域産業連関表」がほぼ出そろったことから、「2015年 APIR関西地域間産業連関表(以下2015年表)」の作成を行う。

     

    研究内容

    1)観光庁TSAに基づく観光産業分析のフレームワークの構築
    現在入手できる最新版の全国表である経済産業省「平成29年 延長産業連関表(平成27年基準)」の各産業部門を観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、「観光部門」と「非観光部門」に分割し、他産業と比較した観光産業の特徴を明らかにする。同様に、関西2府8県の「2015年地域産業連関表」を用いて、観光産業の特徴を分析する。
    2)「2015年 APIR関西地域間産業連関表」の作成
    2020年度実施したWEBアンケート結果を基に、府県間の取引関係を示した交易マトリックスを更新する。また、関西2府8県の「2015年地域産業連関表」から統合小分類をベースに産業部門の統合・調整を行い、2015年表の作成を行う。
    3)インフラ整備の経済効果に関する勉強会
    2025年に予定されている大阪・関西万博に向けた交通ネットワークの整備や今後備えるべき災害への対応を始め、関西で課題となっているインフラに関する勉強会を数回程度実施する。

    既存の研究との差異は以下の2点である。
    1つ目は、観光庁「旅行・観光サテライト勘定(TSA)」に基づき、観光に関連する産業を「観光部門」と「非観光部門」に分割する。観光産業はすそ野が広く、産業連関表の産業分類では観光関連とそれ以外が分かれておらず、分析が粗くなってしまうという問題がある。そのため、観光部門と非観光部門を分けることで、分析の精緻化を図っている。
    2つ目は、分析ツールとしてAPIRが持つ2015年表を用いることである。現存する最新版の関西の地域間産業連関表はAPIRが作成した2011年表のみである。地域間かつ広域で経済活動を把握することができる地域間産業連関表について、年次を2015年に更新したものを用いることで2011年表よりも直近の経済構造を反映でき、より実態に即した分析が可能となると考えられる。
    なお、関西地域間産業連関表の対象地域は広域関西2府8県であり、関西広域連合や関西観光本部の対象地域をカバーしている。これにより関西を広域で捉えた際の経済波及効果等の分析を行うことが可能となる

     

    <研究体制>

    研究統括

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学名誉教授

    リサーチリーダー

    高林 喜久生 APIR上席研究員、関西学院大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充   日本アプライドリサーチ研究所主任研究員
    下山 朗   大阪経済大学経済学部教授
    入江 啓彰  近畿大学短期大学部准教授
    藤原 幸則  APIR上席研究員、大阪経済法科大学経済学部教授
    木下 祐輔  APIR調査役兼研究員

     

    期待される成果と社会貢献のイメージ

    成果物である2015年表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会など外部の研究会で報告することを予定している。
    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行う上での重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2020年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    上席研究員 高林喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは,前身の関西社会経済研究所の時代から、関西における地域間産業連関表の作成に取り組んでいる。昨年度の自主研究プロジェクト(関西地域間産業連関表の利活用と2015年表に向けての検討)では、「2011年版APIR関西地域間産業連関表(以下,2011年表)」を暫定版から確定版へと改定するとともに、利活用に重点を置くという趣旨からG20大阪サミットや夏の甲子園開催、大阪・関西万博などを対象に経済波及効果の分析を行った。これらの成果は夏のフォーラムやトレンドウォッチ、『アジア太平洋と関西』等で発表し、これらを通じて地域間産業連関表の有用性を伝えることができた。

    その一方で、対象年である2011年から約10年が経過し、関西経済を取り巻く状況は大きく変化している。インバウンド需要の増大による交流人口の拡大や、交通網整備によるインフラ整備、グローバル・サプライチェーンの進展による貿易構造の変化は関西の経済構造に大きな影響を与えている。そのため、地域間かつ広域で経済活動を把握することができる地域間産業連関表は、今まで以上に関西経済の分析に重要な役割を果たすと考えられる

    産業連関表は通常、5年ごとに更新されるため、次のベンチマークイヤーは2015年である。2011年から15年にかけては,2013年以降のアベノミクスによる景気の好転、14年以降の外国人観光客急増とそれに伴うインバウンド需要の高まりなど、関西経済にとって重要な出来事が多く起こった期間でもある。ただし、関西各府県における2015年産業連関表の公表はまだ一部府県にとどまっているため、2015年を基準年とした作表に着手できるのは、来年度以降となる。そこで2020年度は、2011年APIR関西地域間産業連関表をベンチマークとした、2015年の関西地域間産業連関表延長表(以下、2015年延長表)作成を行うとともに、引き続き2011年表を利用した分析に取り組む。なお、本年度の調査研究で実施するWEBアンケート等の交易マトリックスに関する調査結果は、来年度以降に実施する2015年基準表の作成においても利用することを見込んでいる。

     

    研究内容

    WEBアンケート結果を利用し2015年延長表の作成作業を行うとともに、今後関西地域で開催が予定されている大規模イベント等の経済波及効果の推計について検討する。作業過程で蓄積された知見や分析の成果はトレンドウォッチなどの形で適宜報告を行うとともに、学会などでも対外発表を行いたい。

    1)「2015年 APIR関西地域間産業連関表延長表」作成に向けた基礎調査の実施

    2011年表作成時に実施した調査から得られた課題(サンプルサイズや設問の尋ね方)を踏まえ、WEBアンケート調査を実施する。

     

    2)「2015年 APIR延長関西地域間産業連関表延長表」の作成

    1)で得られたアンケート調査結果を利用し、府県間の取引関係を示した交易マトリックスを更新するとともに、2015年延長表の作成を行う。

     

    3)対外的な成果報告

    メンバーは各々の立場で2011年表を活用した分析結果を報告することを通じて、積極的な対外発信に努める。

     

    研究体制

    研究統括

    稲田義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、 甲南大学教授

    リサーチリーダー

    高林喜久生  上席研究員、関西学院大学経済学部教授

    リサーチャー

    下田 充  日本アプライドリサーチ研究所主任研究員

    下山 朗  奈良県立大学地域創造学部教授

    入江啓彰  近畿大学短期大学部准教授

    藤原幸則  APIR主席研究員

    木下祐輔  APIR調査役・研究員

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    近畿経済産業局「近畿地域産業連関表」は2005年表を最後に作成中止となっており、当研究所の表が関西を対象とする唯一の本格的な産業連関表となる。対象地域は広域関西2府8県で、関西広域連合や関西観光本部の対象地域をカバーしている点も特徴である。また、年次を2015年に更新することで、2011年表よりも直近の経済状況を反映できることから、2015年延長表を活用した分析や対外発表等は非常に価値が高いと考えられる。

    加えて、産業連関表は政策評価を行う上での基礎資料でもあるため、所内の他の自主研究(インバウンド等)とのクロスオーバー、関連する調査を受託することでの外部資金獲得等が期待できる。

    成果物である2015年延長表は、2011年表と同様、部門を集約した上でAPIRのホームページ上で発表を行う。また、分析成果は景気討論会や学会や外部の研究会で報告することを予定している。

    地域間産業連関表を用いることで、関西における府県間・産業間の相互取引関係・供給構造の分析や、経済波及効果の推計を通じた政策評価を客観的かつ定量的に行うことが可能となる。これらの分析結果は、自治体の担当者にとっても、政策形成を行ううえでの重要な指針となるだけでなく、関西経済の現状および構造的特徴を説明する際の貴重な資料として活用されることが期待できる。また、外部資金獲得についても、既に受託している大阪府の調査(新型コロナウイルス感染症に関する大阪経済への影響分析等調査)の中で、産業別の影響を推計した結果を報告するなどして活用している。

     

    <研究会の活動>

    研究会・分科会

  • 高林 喜久生

    関西地域間産業連関表の利活用と2015年表に向けての検討

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2019年度 » 経済予測・分析軸

    RESEARCH LEADER : 
    高林 喜久生

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    上席研究員 高林喜久生 関西学院大学経済学部教授

     

    研究目的

    APIRでは,前身の関西社会経済研究所の時代から,関西における地域間産業連関表の作成に取り組んでいる.昨年度の自主研究プロジェクト(2011年版・APIR関西地域間産業連関表の作成と活用)では,2011年度に2005年表作成後,7年ぶりに同連関表の改訂作業を実施した。

    「2011年版APIR関西地域間産業連関表(以下2011年表)」は現在暫定版が完成している。2011年表は対象地域の拡大,産業部門数の拡大,交易マトリクスの作成を通じた域外取引の精緻化など,地域の取引実態を正確に反映させるための様々な工夫を行った。その結果,自治体やシンクタンクにおける経済波及効果推計だけでなく、アカデミックな研究としても耐えられる質の高いものとなっている.そこで,今年度は暫定版を確定版へと修正するとともに,産業連関表自体の利活用に重点を置いて取り組む。

     

    研究内容

    1)「2011年版APIR関西地域間産業連関表」確定版への更新

    昨年度の研究成果である2011年表は現在暫定版である.これを自治体の統計担当者へのヒアリングや,各部門の推計に利用した既存統計を再度見直すことで,暫定版を確定版へと修正する.

    2)関西が会場となる大規模イベントの経済波及効果の推計

    2019年度はG20やラグビーワールドカップの開催が予定されている.また,翌年以降もワールドマスターズゲームズ(2021年)やIR開業(2024年)、大阪・関西万博(2025年)など,関西地域が会場となる大規模イベント開催が多数予定されており,これらのイベントがもたらす経済波及効果の推計を行う.

    3)対外的な成果報告

    夏頃を目途に,2011年表(確定版)を基に関西地域における取引構造について報告する成果報告会を実施する.また,各々の立場で2011年表を活用した分析結果を報告することを通じて,積極的な対外発信に努める。

    4)2015年産業連関表作成に向けた交易マトリックスの更新に向けての準備作業

    次の産業連関表のベンチマークイヤーは2015年である.2011年から15年にかけては,2013年以降のアベノミクス,14年以降の外国人観光客急増によるインバウンド需要の高まりなど,関西経済にとって重要な出来事が多く起こった重要な期間でもある.よって,交易マトリックスの更新を行うことで,2015年の関西地域間産業連関表作成の準備作業を行う。

     

    研究体制

    研究統括

    稲田義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、 甲南大学教授

    リサーチャー

    下田 充  日本アプライドリサーチ研究所主任研究員

    下山 朗  奈良県立大学地域創造学部教授

    入江啓彰  近畿大学短期大学部准教授

    藤原幸則  APIR主席研究員

    木下祐輔  APIR調査役・研究員

     

    期待される成果と社会還元のイメージ

    関西全体を一地域として捉えた近畿経済産業局の「近畿地域産業連関表」は2005年表を最後に作成中止となっており,本表が関西地域を対象とする唯一の本格的な2011年表となる.そのため,2011年表を活用した分析結果や対外発表等は非常に価値が高い.

    また,2011年表は政策評価を行う上での基礎資料でもあることから,所内の他の自主研究(インバウンドや地域創生等)とクロスオーバーが期待できる。

    2011年表を確定版へと修正作業を行うとともに,関西経済の構造分析を行い、また今後関西地域で開催が予定されている大規模イベントの経済波及効果の推計についても検討する予定である。こうした作業の過程で蓄積された知見は,トレンドウォッチ,コメンタリーの形で適宜報告を行うとともに,学会などでも対外発表も行いたい。

     

    <研究会の活動>

    研究会・分科会

    ・2019年4月26日  第1回研究会開催

    ・2019年5月17日  第1回分科会開催

    ・2019年6月7日   第2回分科会開催

    ・2019年6月25日  第3回分科会開催

    ・2019年7月30日  第4回分科会開催

    ・2019年10月28日  第5回分科会開催(予定)