研究成果

research

大阪・関西万博の経済波及効果 -最新データを踏まえた試算と拡張万博の経済効果-

Abstract

本稿の目的は、万博関連事業費などの最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。今回の試算の背景にはCOVID-19パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響によるインフレの加速と供給制約の高まりがある。このような環境下においても、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があるとわれわれは考える。万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのチャンスであり、これを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。分析結果の要約と含意は以下のとおりである。

  1. 今回の最終需要は、万博関連事業費7,275億円、消費支出8,913億円と想定した。前回より前者は1,381億円(前回比+23.4%)、後者は1,047億円(同+13.3%)の上振れとなった。
  2. 上記最終需要をもとにAPIR関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した結果、生産誘発額は夢洲会場のみで発生する基準ケースで2兆7,457億円、夢洲会場以外のイベントによる追加的な参加(泊数増加)を想定した拡張万博ケース1で3兆2,384億円、加えてリピーター増を考慮した拡張万博ケース2で3兆3,667億円。前回よりそれぞれ3,698億円(前回比+15.6%)、4,509億円(同+16.2%)、4,849億円(同+16.8%)と上振れた。
  3. 得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものであり、明瞭な供給制約がないことを前提としている。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。
  4. また、試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのためにDXの活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。加えて万博が海外の旅行者に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。

本文

はじめに

本稿の目的は、最新データを踏まえた大阪・関西万博の経済波及効果の試算を示すとともに拡張万博の重要性を主張するものである。

産業連関表を用いて 3 度の試算を発表した。今回は 4 度目の試算となる。この背景には、試算の前提(万博関連事業費用)がこの間大きく上振れたことがある。

このため、万博開催に異議を唱える意見が増えていることも事実である。これらの点を踏まえて今回改定に踏み切った。振り返ってみると、政府試算が発表された 2017 年以降、世界経済や日本経済は大きな環境変化に直面することとなった。具体的には、COVID-19 パンデミックやロシアのウクライナ侵攻の影響である。結果、インフレの加速と供給制約の高まりが万博関連事業費用の上振れの重要な背景であり、これらが万博開催に否定的な意見につながったとも言えよう。

われわれはこのような環境変化の下でも、大阪・関西万博を開催することには重要な意義があると考えている。これまでの万博は産業発展や技術革新を国際的に披露する場であったが、最近は人類共通の課題解決を提言する場となっている。すなわち万博開催が、関西経済、ひいては日本経済の反転に向けてのまたとないチャンスであり、そこには重要な歴史的な意義があると考えている。またこのチャンスを生かすことは、反転を実現するための将来への投資でもある。

このような歴史的な意義に加えて、1970 年に開催された大阪万博では見られなかった新たな概念である「拡張万博」の重要性をわれわれは主張したい。拡張万博とは、「万博のテーマ・時間軸・空間軸の概念を拡張し、関西全体を仮想的なパビリオンに見立て、万博本体では実施しにくい事業も含めて様々な経済活動を展開する取り組み」を指す。これまでの万博の概念を拡大した理解となっている。拡張万博を意識することでより大きな成果が生まれると考えている。

なお、分析ツールとして用いている APIR 関西地域間産業連関表は、これまで未発表であった奈良県産業連関表 2015 年版を APIR で独自に推計して統合した暫定版であった。今回新たに 2023年 12 月に発表された奈良県の産業連関表をそれに置き換えた。このため、今回は関西地域間産業連関表(2015 年表:確定版)を用いた分析となっている。

以下の議論の展開は、1.で最新のデータを踏まえた大阪・関西万博の最終需要の再想定を示す。2.ではこれに基づいて、その経済波及効果の推計結果(基準ケースと拡張万博のケース)を示す。3.では分析のまとめとその含意を示す。

 

1. 大阪・関西万博の最終需要の再想定

ここでは、分析の前提となる最終需要の想定の変化を説明する。万博の開催により発生する最終需要は、①主催者および出展者等による万博関連事業費(会場建設費、運営費、関連基盤整備等)と、②来場者による消費支出に大別される。

図表 1 は前回と今回の最終需要想定とその変化を示している。今回の特徴は、これまでの会場建設費(主催者、出展者)、運営費(主催者、出展者)、関連基盤整備の各カテゴリーに加え、万博準備に向けた自治体費用が追加されたことである。

以下、カテゴリーごとに前回と今回の想定の変化を説明しよう。

1-1.万博関連事業費の変化

万博関連事業費は、大阪・関西万博関連事業の進捗を反映した国際博覧会協会(2023a 及び b)、大阪府市万博推進局(2023)、内閣官房国際博覧会推進本部事務局 経済産業省商務・サービスグループ(2023)及び有限責任監査法人トーマツ(2018)の公表資料をもとに想定する。

 

【会場建設費(主催者・出展者)】
会場建設費について、主催者の総計は前回想定した 1,847 億円から 503 億円増加し 2,350 億円が計上されている。主な内訳は、「パビリオン施設、サービス施設」が 1,579 億円、「基盤設備整備(電気、給排水工事等)」が 278 億円、「駐車場、エントランス」が 174 億円、「基盤整備(土木造成、舗装、修景工事等)」が 132 億円、「会場内演出、その他(調査設計費、事務費)」が 57 億円となっている。うち、インフレや供給制約の高まりの影響もあり、「パビリオン施設、サービス施設」の費用が前回の 1,103 億円から 476 億円増加しているのが特徴的である。

出展者の総計は前回の 650 億円から 374 億円増加し 1,024 億円が計上されている。主な内訳をみれば、「パビリオン施設、サービス施設」が 779 億円、「その他(調査設計費、事務費)」が 167億円、「会場内演出」が 77 億円となっている。前述した主催者側の建設費と同様に「パビリオン施設、サービス施設」が前回より 285 億円増加している。

 

【運営費(主催者・出展者)】
運営費について、主催者側の総計は前回の 809 億円から 550 億円増加し 1,359 億円が計上されている。主な内訳は、「会場管理・管理人件費等」が 767 億円、「計画・事業費調整等」が 155 億円、「企画事業・輸送事業等」が 143 億円、「広告・宣伝等」が 95 億円となっている。なお、前

回は設けられていなかった「会場内の安全確保に万全を期するための費用」の 199 億円が今回新たに計上されている。

出展者の総計は前回の 1,460 億円から 620 億円増加し 2,080 億円が計上されている。主な内訳をみれば、「会場管理・管理人件費等」が 1,248 億円、「広告・宣伝等」が 499 億円、「計画・事業調整等」が 333 億円となっている。

 

【関連基盤整備】
関連基盤整備の総計は前回の 1,128 億円から 822 億円減少し、306 億円となった。大幅減少した理由は、前回はインフラ整備に関係する費用をすべて計上していたが、今回は万博開催に発生する事業費のみを切り出して計上したためである。主な内訳は、「鉄道整備等(地下鉄中央延伸及び輸送力増強等)」が 47 億円、「道路改良等(此花大橋・夢舞大橋拡幅等)」が 199 億円、「南エリア埋立の追加工事」が 21 億円、「その他」が 38 億円となっている。

 

【万博開催に向けた自治体費用】
今回新たに計上された費用は万博開催に向けた自治体費用である。主に大阪府市が行う事業費で、総計は 156 億円が計上されている。主な内訳は、「参加促進」が 40 億円、「機運醸成等」が 39億円、「誘致に要した費用」が 4 億円、「万博開催に向けた機運醸成イベント等」が 47 億円、「万博期間中の会場内催事等」が 12 億円、「地域特性等を活かした機運醸成・ホスピタリティ向上」が24 億円、「未来社会への投資」が 4 億円、「大阪ヘルスケアパビリオンの事業費」が 20 億円となっている。なお、大阪府下の子どもたちへの招待費用については、運営費(主催者)に計上されており、二重計上をさけるため控除項目として計上した。

以上の各項目をまとめると、万博関連事業費の総計は 7,275 億円となり、前回の 5,894 億円から1,381 億円(前回比+23.4%)増加している。

 

図表 1 万博関連事業費の比較

出所:2025 年日本国際博覧会協会(2023a 及び b)、大阪府市万博推進局(2023)、内閣官房国際博覧会推進本部
事務局 経済産業省商務・サービスグループ(2023)及び有限責任監査法人トーマツ(2018)より作成

 

【各主体の万博費用負担】
図表 2 は万博関連事業費用の負担構造を各主体(大阪府市、国、経済界及び博覧会協会)別に示したものである。会場建設費(主催者)は2,350 億円を大阪府市、国、経済界の 3 団体でそれぞれ 1/3ずつ負担することとなっている。また、会場建設費(出展者)については大阪府市が出展する「大阪ヘルスケアパビリオン」の費用を大阪府、大阪市がそれぞれ 50 億円ずつ負担する。国については日本館の出展費用 360 億円を負担することとなっている。

運営費(主催者)は博覧会協会が 1,160 億円を負担し、費用についてはチケット収入及びその他の収入で賄われることになっている。また、国の 199 億円(「会場内の安全確保に万全を期するための費用」)が計上されている。なお、運営費(出展者)については、各主体の詳細な負担割合が把握できなかったため、合計(2,080 億円)のみを記載した。

関連基盤整備については、大阪府が 72 億円、大阪市が 233 億円それぞれ負担する。また、万博開催に向けた自治体費用については大阪府が 90 億円、大阪市が 67 億円となっている。

 

1-2.来場者による消費支出の変化

【消費単価の再想定】
消費単価の想定にあたっては、前回試算ではコロナ禍前の 2019 年平均の値を用いたが、今回は2023 年 1-9 月期平均の支出金額を用いている17。更に日本人及び外国人の平均支出額を平均泊数(日本人:2.2 泊、外国人:11.1 泊)で除して、1 人 1 泊ベースの消費単価に変換している(図表 3)。これをもとに人数や泊数を乗じて支出額が決まる(図表 4)。なお、消費単価の計算には、観光庁「旅行・観光消費動向調査」及び「訪日外国人消費動向調査」を基礎資料として用いた。

 

【消費支出の再想定】
大阪・関西万博の想定来場者数は、日本国際博覧会協会(2020)に従い、来場者総数を約 2,820 万人(1 日当たりの平均来場者数 15.4 万人)とする。その内訳は、広域関西エリアから約 1,560 万人、関西以外の国内地域から約 910 万人、海外から約 350 万人(同 1.9 万人)である。なお、2005 年の愛・地球博の来場者総数は2,204 万 9,544 人(1 日当たりの平均来場者数 12.0 万人)、うち海外からの来場者数は 104.9 万人であった。なお、2005 年の訪日外客数は 672.8 万人だが、足下の 2023年は 2,506.6 万人と 3.7 倍となっており、想定されている海外客数については実現の可能性は高いと考えられる。

ここで基準ケースとして、広域関西エリアからの来場者は日帰り、関西以外の国内地域からの来場者は関西で 1 泊すると想定する。また海外からの来場者は 3 泊 4 日と想定する。次に拡張万博ケースでは、万博参加の機運醸成によるリピーター増や、夢洲会場以外の各地で実施されるイベントへの追加的な参加を想定している。このケースでは、宿泊者数の泊数が増加するケース(以下では拡張万博ケース 1 と呼ぶ)と、これに加えて日帰り客が増加するケース(以下では拡張万博ケース 2 と呼ぶ)の 2 パターンを検討する。

拡張万博ケース 1・ケース 2 ともに、国内宿泊客の泊数は 1 泊から 2 泊に、海外客は 3 泊から 5 泊に、それぞれ増えるとする。また海外客の 2 泊増については、1 泊は大阪で、もう 1 泊は国内の宿泊客と同様のシェアになるとする。なお拡張万博ケースでの消費各費目の増加分については以下のように想定している。国内宿泊者について、宿泊費は 2 泊分、交通費、飲食費、娯楽サービス費については 1.5 泊分の単価を想定している。また、海外客について、宿泊は 5 泊分の単価、交通費、飲食費、娯楽サービス費については 4.5 泊分の単価を想定している。

これに加えてケース 2 では日帰り客の交通費・飲食費・娯楽サービス費が 20%増えるとする。愛知万博の経験によれば、来場者の約 40%がリピーターと報告されている。関西各自治体の努力により、すなわち関西各府県のパビリオン化により国内日帰り客が更に 20%増加し、大阪以外の当該地域を訪問するという想定を行った。2023 年 1-9 月期における関西圏の国内日帰り客(大阪府を除く)の訪問パターンを観光庁「旅行・観光消費動向調査」より計算し、その想定で各府県の消費支出額を試算した。

以上の想定の結果、来場者による消費支出は図表 4 のようになる。消費支出総額は、基準ケースでは 8,913 億円(前回比+1,047 億円、+13.3%)、拡張万博ケース 1 では 1 兆 1,654 億円(同+1,510 億円、+14.9%)、拡張万博ケース 2 では 1 兆 2,411 億円(同+1,765 億円、+16.6%)となる。

 

 

2. 経済波及効果の再推計

1.の最終需要の再想定を基に、APIR 関西地域間産業連関表を用いて経済波及効果を計算した。

3 つのカテゴリー(生産誘発額、粗付加価値誘発額、雇用者所得誘発額)からみた経済波及効果(基準ケース、拡張万博ケース 1、拡張万博ケース 2)が図表 5 に示されている。なお、府県別でみた経済波及効果(生産誘発額)については後掲参考図表 1 を参照。

生産誘発額は基準ケースで 2 兆 7,457 億円、拡張万博ケース 1 で 3 兆 2,384 億円、拡張万博ケース 2 で 3 兆 3,667 億円となる。

粗付加価値誘発額は基準ケースで 1 兆 5,847 億円、拡張万博ケース 1 で 1 兆 8,500 億円、拡張万博ケース 2 で 1 兆 9,265 億円となる。

雇用者所得誘発額は基準ケースで 8,357 億円、拡張万博ケース 1 で 9,672 億円、拡張万博ケース 2 で 1 兆 42 億円となる。

 

2-1.基準ケース:万博関連事業費の効果、消費支出の効果

図表 5 は万博関連事業費と消費支出の総効果であったが、以下では総効果を 2 つのカテゴリーに分割する。
図表 6 は基準ケースにおける経済波及効果を万博関連事業費と消費支出に分けて示している。

万博関連事業費の生産誘発額は 1 兆 4,102 億円、粗付加価値誘発額は 8,055 億円、雇用者所得誘発額は 4,632 億円となる。
消費支出の生産誘発額は 1 兆 3,355 億円、粗付加価値誘発額は 7,792 億円、雇用者所得誘発額は3,726 億円となる。

 

2-2.拡張万博の経済波及効果

図表 7-1 及び 7-2 は前述の図表 6 の基準ケースに対して、拡張万博ケースの経済波及効果を示している。

なお、拡張万博ケースの経済波及効果については消費支出のみに発現するので、図表 8 では消費支出への影響をみている。

拡張万博ケース 1 における消費支出の生産誘発額は 1 兆 8,282 億円、粗付加価値誘発額は 1 兆445 億円、雇用者所得誘発額は 5,040 億円となる。基準ケースに比して生産誘発額は 4,927 億円、粗付加価誘発額は 2,653 億円、雇用者所得誘発額は 1,315 億円それぞれ上振れしている。

拡張万博ケース 2 における消費支出の生産誘発額は 1 兆 9,565 億円、粗付加価値誘発額は 1 兆1,210 億円、雇用者所得誘発額は 5,410 億円となる。基準ケースに比して生産誘発額は 6,210 億円、粗付加価誘発額は 3,418 億円、雇用者所得誘発額は 1,684 億円それぞれ上振れしている。

2-3.府県別経済波及効果

図表 9-1 は基準ケースにおける府県別にみた経済波及効果(生産誘発額)を示したものである。

基準ケースでは大阪府が 2 兆 621 億円と他府県に比してその効果は圧倒的である。次いでその他地域が 4,846 億円、兵庫県が 722 億円と続く。なお、その他地域においても経済波及効果が発生しているが、これは主に大阪府で発生する新規需要の効果(直接需要)を満たすために、大阪府以外の他地域で一定程度の需要が発生していることを意味している。また、府県別の万博関連事業費及び消費支出の経済波及効果については後掲参考図表 2-1 及び 2-2 に示されている。

次に、拡張万博ケース 1 及び 2 での生産誘発額が基準ケースに比べてどの程度変化したかを、府県別にみてみよう。図表 9-2 は府県別の 2 つの拡張万博のケースと基準ケースを比較した場合の乖離幅を示したものである。図表が示すように、いずれのケースにおいても最も大きく増加しているのは、京都府(拡張万博ケース 1:1,721 億円、拡張万博ケース 2:1,882 億円)であり、次いでその他地域(拡張万博ケース 1:882 億円、拡張万博ケース 2:1,044 億円)、兵庫県(拡張万博ケース 1:793 億円、拡張万博ケース 2:997 億円)と続く。

また、後掲参考図表 1 が示すように経済波及効果の地域別シェアをみれば、大阪府のシェアが基準ケースの 75.1%から、拡張万博ケース 2 では 62.6%まで低下する一方で、他府県のシェアが上昇している。なお、消費支出分で見れば大阪府のシェアが基準ケースの 75.5%から、拡張万博ケース 2 では 53.8%まで低下しており、大阪府以外の他府県のシェアが一層上昇している。このように本試算結果は関西各地で観光客にとって魅力的なコンテンツ開発で盛り上げ、一層の日帰り消費や滞在型消費を促進することができれば、経済波及効果を十分に高められることを示唆している。

3. 分析のまとめと含意

【今回の経済波及効果の要約と比較】
図表 10-1 は前回と今回の最終需要の想定を比較したものである。前回は、万博関連事業費を5,894 億円としていたが、今回は最新のデータを反映し万博関連事業費を 7,275 億円とした。また、基準ケースの消費支出は前回 7,866 億円としたが、今回は 8,913 億円となった。前回より万博関連事業費は 1,381 億円(前回比+23.4%)、消費支出は 1,047 億円(同+13.3%)と上振れた。

また、前回と今回の経済波及効果を比較したのが図表 10-2 である。前回基準ケースの経済波及効果は全体で 2兆3,759億円であったが、今回は 2兆7,457億円と 3,698 億円上振れている(前回比+15.6%)。また、拡張万博の効果を考慮した場合、ケース 1 では 4,509 億円(同+16.2%)、ケース 2 では 4,849億円(同+16.8%)とそれぞれ上振れている。

なお、経済産業省(2017)では、入場者想定規模 3,000 万人、建設費(0.2 兆円)、運営費(0.2 兆円)、消費支出(0.7 兆円)の最終需要額が、全国への経済波及効果として、それぞれ0.4 兆円、0.4 兆円、1.1 兆円と試算している。

【試算の読み方と留保条件】
2.においては万博関連最終需要の値を想定し、APIR 関西地域産業連関表を用いてその経済波及効果を試算した。得られた試算値は、最終需要が発生した場合、その需要を満たすために直接・間接に一定の産業構造の下でどの程度の需要が諸産業に発生するかを計算したものである。ただし、産業連関分析で得られた経済波及効果は、明瞭な供給制約がないことを前提としている。2024 年問題が議論されているが、万博会場建設のボトルネックとなる可能性が出てくることには注意しておかなければならない。その意味で本試算値は一定の幅を持って理解される必要がある。

この試算結果を実現するためには供給制約の緩和は必須である。そのために DX(例えば建設業や交通における「MaaS」)の活用が重要となり、それが日本の潜在成長率を高めることになる。本試算では、万博関連需要(建設費、運営費、開催に向けた自治体費用)と消費支出にわけて経済波及効果を計算している。前者については供給制約の緩和が重要であり、後者については海外の旅行者が万博に興味を持ってもらうためには、万博と絡めた旅行コンテンツの磨き上げが重要となる。

補論:改訂地域間産業連関表について

平成 27 年奈良県産業連関表が令和 5 年 12 月 26 日に公表されたことを受けて、APIR 関西地域間産業連関表を再推計した。再推計に際しての変更は、元になる奈良県産業連関表を従来の暫定値から公表値に差し替えた点のみであり、他の情報及び推計の手順は従前と全く変わらない。

地域間表の作成という観点から重要なのは地域間の交易であり、この差異を地域間表に展開する前の奈良県表における移輸入率の変化により確認する。まず、移輸入率に関する差し替え前と後の相関係数は 0.959 である。変化の方向としては、移輸入率が差し替え前よりも上昇した部門が 51、低下した部門が 38、変化しない部門が 10 である。差し替え前後の移輸入率はある程度近い値をとりつつも、移輸入率が上昇した部門が相対的に多い。この傾向は、移輸出率についても同様である。

奈良県における移輸入率の上昇は、県内の生産誘発を低下させる方向に作用する。同様に、奈良県における移輸出率の上昇は、他県の生産誘発を低下させる方向に作用する。このことによる定量的な帰結を APIR 地域間産業連関表におけるレオンチェフ逆行列の列和により確認する。図表補論は、差し替え前と差し替え後のレオンチェフ逆行列の列和を比較し、奈良県、奈良県以外の関西各県、その他地域の 3 地域区分で変化の方向をまとめたものである。「部門数」とある列は、差し替えにより列和が上昇した部門、低下した部門、変化しない部門の数を示している。相対的に移輸入率が上昇したことを反映し、奈良県では低下した部門数が 74 と上昇した部門の 26 を上回っている。奈良県以外の関西各県も傾向は同じである一方、その他地域は反対に、上昇した部門数が 89 と低下した部門数の 19 を上回っている。すなわち、このことから明らかになる一点目の含意は、奈良県表の公表値への差し替えにより、関西各県から生じる生産誘発は減少し、その他地域は増加したという点である。ただし、定量的には、また異なる傾向が見てとれる。図表補論の「差分の統計量」とある列は、差し替え前後における列和の差分に関する平均値と中央値を示すが、奈良県の変化に比べて、奈良県以外の県・地域の変化はごく小さいことが分かる。すなわち、第二の含意としては、差し替えによる生産誘発の目に見える変化は奈良県にとどまっており、奈良県以外の地域においては微小な変化しか生じていない。

 

関連論文

  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.134-景気は現況、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価上昇加速が景気下押し圧力-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気の判断は、現況、先行きともに悪化の兆しがみられるとした。現況判断CIは前月差上昇したが、基調判断を引き上げる程度ではなかったために前月から据え置いた。8月には「酷暑乗り切り緊急支援」が実施されるものの、電気・ガス負担軽減策終了につれてエネルギー価格の一時的な上昇が見込まれるため、景気の先行きに対して下押し圧力となろう。
    • 足下、生産は2カ月連続の増産。雇用環境は、失業率が4カ月ぶりに改善したものの、有効求人倍率と新規求人倍率はいずれも低下した。大型小売は、好調なインバウンド需要により百貨店を中心に持ち直している。貿易収支は輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、4カ月連続の黒字である。
    • 関西4月の生産は、2カ月連続の増産。業種別にみれば、生産用機械は半導体製造装置の増産が影響し、大幅上昇となった。
    • 4月の失業率は前月より改善し、就業者数と労働力人口の大幅な増加がみられた。また、就業率も前月より上昇し、足下の雇用情勢は回復傾向にある。ただし、昨年10‐12月期から1‐3月期にかけて停滞がみられたため、今後の動向に注意を要する。
    • 3月の現金給与総額は4カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より小幅拡大。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 4月の大型小売店販売額は31カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンドによる高額品の売上が堅調だったことから、26カ月連続のプラス。スーパーは飲食料品などの単価上昇が影響し19カ月連続で増加した。
    • 4月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりに前月比増加。持家が減少したものの、貸家と分譲は増加となり、着工数全体を押し上げた。
    • 4月の建設工事出来高は3カ月ぶりの前年比増加。民間工事、公共工事ともに全国に比して強い。5月の公共工事請負金額は前年比、前月比ともに2カ月連続の増加となった。結果、1-3月期の落ち込みから大幅回復した。
    • 5月の景気ウォッチャー現状判断、先行き判断DIいずれも3カ月連続で前月比悪化。物価の高止まりやコストの上昇が景況感に悪影響を与えている。
    • 5月は輸出入ともに前年比増加となった。輸出は好調な対中国と対欧米の影響で2カ月ぶりに増加に転じた。一方、輸入は対中及び対ASEANが堅調に推移し、対EUが増加に転じたため、2カ月連続で増加した。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は4カ月連続の黒字となった。
    • 5月の関空経由の外国人入国者数は過去最高値を更新し、インバウンド需要は好調を維持している。
    • 5月の中国経済は、生産の回復が停滞気味である一方、消費の回復は6カ月ぶりに加速した。しかし、雇用回復の遅れに加えて、不動産市場の不況も短期間での改善が望めないため、消費の更なる加速は期待しにくい。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

      【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:4月レポート No.59

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、4月の訪日外客総数(推計値)は304万2,900人。桜の開花シーズンの影響もあり、2カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば2月は278万8,224人。うち、うち、観光客は254万8,085人と5カ月連続で200万人を超える水準となった。

     

    【トピックス1】

    ・関西4月の輸出額は前年同月比-1.8%と2カ月ぶりの減少。一方、輸入額は同+1.4%と2カ月ぶりの増加となった。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・4月の関空への訪日外客数は77万2,860人となり、過去最高値を更新した。

    ・3月のサービス業の活動は対面型サービス業を中心に悪化した。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比低下。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が低下に寄与し、4カ月ぶりの同低下となった。

     

    【トピックス2】

    ・1月の関西2府8県の延べ宿泊者数は9,352.4千人泊で、2019年同月比+7.9%と6カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は6,574.0千人泊で、2019年同月比+5.3%と6カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は2,778.4千人泊で、同+14.5%と7カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期関西(2府8県ベース)の国内旅行消費額(速報)は1兆350億円。新型コロナ5類移行後、初めての年始休暇の影響もあり、宿泊旅行消費、日帰り旅行消費ともに増加した

    ・国内旅行消費額のうち、宿泊旅行消費額は8,158億円、日帰り旅行消費額は2,193億円であった。

     

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  • 稲田 義久

    人口減少下における活力ある関西を目指して~2050年を見据えて~

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 日本・関西経済軸

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR研究統括兼数量経済分析センター長 稲田 義久

    研究計画

    研究の背景

    2024年4月に人口戦略会議は、全国地方自治体の「持続可能性」についての分析レポートを発表した。その中で、2020年から2050年までの間に若年女性人口の減少率が50%以上になる自治体(消滅可能性自治体)は全国1,729のうち744(43%)あるとし、関西は全198のうち門真市等81の自治体(41%)が該当している。まずは、この状況が前回2014年のレポートと比較して改善しているのか、そして今何が問題になっているかを把握する必要がある。

    国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の推計によると、日本の総人口は2023年の1億2,435万人から2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人になるとされている。特に関西(2府4県)は、全国や関東に比べて人口減少のスピードが速い。社人研の推計を基に2022年~2050年の減少率をみると、全国-19.4%、関東-7.5%に対し、関西は-23.3%となる。

    また、高齢化の進行も厳しい。社人研の推計によると2050年には生産年齢人口が5,540万人と2023年(7,395万人)比25.1%の減少、およそ4人に1人が75歳以上になるとされている。将来の労働力となる子どもの出生数も年々減少しており、人手不足によって社会インフラの維持が困難になる可能性も指摘されている。

    人手不足は足下でも深刻である。帝国データバンクによると、2023年の人手不足を理由とした倒産件数は260件で前年比1.9倍(前年:140件)と過去最多を更新した。業種別では建設業や運輸業が多く、生活に必要不可欠な職種(エッセンシャルワーカー)の人手不足は深刻である。

    一方で、労働参加率を上げ、特にサービス業の生産性を向上させれば人口が減少しても問題ないとする議論もあるが、最適解はどこにあるかについて検討する必要があると考える。

    そこで、全国に比して人口減少・高齢化が厳しい関西において、人口や労働等に関する様々な基礎データを整理し、加えてAPIRがこれまで蓄積してきたデータベースや知識を組み合わせながら総合的に分析しつつ、データを可視化することで、関西各府県及び自治体の特徴と課題を明らかにする。そして中長期的な視点で、この先人口が減っても豊かさと活力を維持・向上させていくための方策を模索していきたい。

    研究内容

    ●関西基礎統計の整理
    ・労働に関する基礎データ(就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査 等)を基に、関西の地域別、産業別、企業規模、性別、年齢別の5軸でデータベースを構築し、県民経済計算に対応できるようなシステム開発及びメンテナンスを行う。
    ・地域別将来人口推計データを整理しつつ、足下と比較して関西の特徴を明らかにする。

    ●関西における詳細なデータ分析と労働需給分析
    ・整理したデータベースを基に産業構造や雇用構造、年齢構造、賃金構造等から、関西が抱える労働問題を総合的に明らかにする。
    ・介護、建設、宿泊サービスの分野に焦点を絞って詳細なデータ分析を行い、どの職種に労働需給のミスマッチが起きるのかを明らかにし、中長期視点で解決策を検討する。

    ●経済成長を維持し、持続可能な社会をつくるための施策の検討
    ・労働需給の課題に対してどのような処方箋が考えられるか、有識者等から様々な視点での知見をもらい、関西において実現できる未来の姿を模索する。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・マクロデータの分析成果(関西経済白書、トレンドウォッチ)
    ・人口減少による人手不足の課題の共有化(研究会等での情報提供と議論)

    ・人手不足(特に介護、建設、宿泊分野)の解消に向けた対応の検討
    ・人口減少下においても人手不足を補い経済力を維持するための施策の立案

    研究体制

    研究統括・リサーチリーダー

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学 名誉教授

     

    サブリサーチリーダー

    松林 洋一  APIR主席研究員、神戸大学大学院経済学研究科 教授

     

    リサーチャー

    野村 亮輔  APIR副主任研究員
    吉田 茂一  APIR研究推進部員
    古山 健大  APIR研究推進部員
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年5月)<5月末の統計集中発表日のデータを更新して、4-6月期の実質GDP成長率予測を前期比年率+2.0%に上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

     

    4-6月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、生産サイドは同+2.4%、平均同+2.2%と予測する。市場コンセンサス(同+2.10%)は支出サイドとほぼ同じ成長率を予測(図表1参照)。

    図表1

     

    4-6月期インフレ予測の動態

    ▶4月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.2%と32カ月連続の上昇だが、インフレ率は2カ月連続で前月から縮小。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+2.4%と25カ月連続の上昇だが、インフレ率は8カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、4-6月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.4%、国内需要デフレータを同+0.6%と予測。交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.3%と予測する(図表2参照)。

    図表2

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  • 高林 喜久生

    大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下田 充 / 下山 朗 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

     

    1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
    2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
    3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
    4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.69 -足踏み局面から緩やかな持ち直しへ:先行きの回復は企業の賃上げペース次第-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 小川 亮 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 古山 健大

    ABSTRACT
    1. 2024年1-3月期の関西経済は、足踏み状況から緩やかな持ち直しに向かう局面にある。家計部門では、消費者センチメント、所得、雇用など力強い回復には至らないものの、底打ちの兆しが見られる。企業部門では、生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きであるが、景況感は堅調である。対外部門では、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しており、財輸出は持ち直してきている。
    2. 家計部門は一部に弱い動きも見られるが、緩やかに持ち直しつつある。大型小売店販売、センチメント、所得、雇用など多くの指標で回復ないし持ち直しの動きとなっている。実質賃金も依然として前年比マイナスが続いているが、底打ちの兆しが見られる。一方、住宅市場は低調である。
    3. 企業部門は、足踏みの状況が続いている。生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きとなっている。設備投資計画は、非製造業で前年の反動が見られるなど全国に比べてやや控えめとなっている。景況感は製造業・非製造業ともに堅調に推移している。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに底打ちの兆しが見られる。輸出は対中国向けの持ち直しを背景に4四半期ぶりの前年比プラスとなった。インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高など増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、請負金額・出来高とも前年を下回り、弱い動きとなった。
    6. 関西の実質GRP成長率を2024年度+1.2%、25年度+1.4%と予測。22年度以降1%台前半の緩やかな伸びが続く。24年度は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、24年度は-0.3%ポイント、25年度は-0.1%ポイントといずれも下方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は24年度+0.5%ポイント、25年度+1.0%ポイントとなり、緩やかな回復で成長を支える。公的需要は万博関連の投資により24年度+0.4%ポイントと成長を下支えるが、25年度には万博効果が剥落し、小幅寄与となる。域外需要は24年度+0.3%ポイント、25年度+1%ポイントとなる。
    8. 経済成長率を日本経済予測と比較すると、24年度は関西が全国を上回り、25年度はほぼ同程度となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要の押し上げにより全国を上回る伸びとなる。25年度は関西、全国とも民間需要が成長の牽引役となる。
    9. 今号のトピックスでは「関西各府県GRPの早期推計」および「各機関における大阪・関西万博の経済波及効果の比較」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:詳細版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを5%割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化した。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス、バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長となった。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期は自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。4-6月期以降は強めの回復を見込むが、1-3月期のマイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下した。このため24年度平均成長率は低めにとどまる。25年度は内需と純輸出のバランスのとれた潜在成長率を上回る回復となろう。
    6. 8四半期連続の実質賃金減少と自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、昨年春闘を上回る賃上げが実現し、インフレ高止まりの影響が剥落する、24年後半以降となろう。また、7-9月期には定額減税の効果から可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 2024年夏場にかけ消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

     

    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 小川 亮

    関西2府4県GRPの早期推計 No.3

    経済予測

    経済予測 » 関西2府4県GRPの早期推計

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    小川 亮 / 稲田 義久 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    【関西各府県のインバウンド消費の影響】

    ・2023年度の早期推計値をみれば、年度最終四半期の工業生産の落ち込みが影響し、大阪府を除いてすべての府県で前年比減少となっている。一方で、大阪府は同+1.1%と比較的好調を維持している。プラスを維持する要因の一つは、好調なインバウンド消費と考えられるだろう。

     

    【ポイント】

    ・2020年度のGRPは、COVID-19の経済的影響のもと、関西各府県のマイナスの寄与度が大きく増し、国全体(-4.1%)に近いマイナス成長。

    ・2021年度には、21年度には、反転して関西全体で+3.3%のプラス成長であった。

    ・2022年度では+1.1%となり回復の傾向が続いたが、23年度はインバウンドの押上げ効果があるなか製造業による不振が相殺した結果として-0.7%のマイナス成長になると予想される。

     

    コロナ禍からの回復過程(2019年度=100)
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.133-景気は足下、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価の高止まりがリスク要因-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下、先行きともに悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、1-3月期は大幅な落ち込み。雇用環境は、失業率は横ばいだが、就業者数と労働者数が減少しており回復に停滞がみられる。大型小売は、堅調なインバウンド需要が影響し持ち直している。貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小。先行きは自動車の生産回復が見込まれているものの、消費者物価の高止まりが景気の下押しリスクとなっている。
    • 輸送機械、生産用機械や電子部品・デバイス等の増産もあり、3月の生産は3カ月ぶりに前月比上昇した。しかし、1-3月期は、輸送機械の落ち込みが影響し、大幅減産となった。
    • 3月の失業率は前月からほぼ横ばいだが、就業者数と労働力人口に減少がみられた。また、就業率も前月より低下した。足下の雇用情勢に改善はみられず、労働需給はともに低調である。
    • 2月の現金給与総額は3カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より拡大した。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 3月の大型小売店販売額は30カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加やオケージョン需要が堅調だったことから、25カ月連続のプラス。スーパーも18カ月連続で拡大した。
    • 3月の新設住宅着工戸数は2カ月連続の前月比減少。持家、分譲は増加となったが、貸家は減少した。依然弱い動きとなっている。
    • 3月の建設工事出来高のうち、公共工事は3カ月連続の前年比減少。一方、4月の公共工事請負金額は4カ月ぶりに増加に転じた。
    • 4月の景気ウォッチャー現状判断DIは2カ月連続で前月から悪化。円安による輸入コストの上昇や物価の高止まりが影響した。また、先行き判断DIも引き続き警戒感が強いこともあり、2カ月連続で悪化した。
    • 4月の輸出は2カ月ぶりに前年比減少。中国向けは2カ月連続で持ち直したものの、EUと米国向けが大幅減少したためである。一方、輸入は2カ月ぶりの前年比増加。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は前年比縮小。
    • 4月の関空経由の外国人入国者数は桜の開花時期でインバウンド需要が高まり、開港以来最高値を更新。外国人入国者数は堅調に推移している。
    • 4月の中国経済は、生産は堅調な推移が続くが、消費の回復には停滞感が強まっている。雇用回復の遅れと不動産市場の不況には依然として大きな改善が見られない。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:速報版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった。
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう。
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長である。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期には自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。1-3月期マイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下したため、4-6月以降は回復が見込まれるものの、24年度平均成長率は低めにとどまる。内需と純輸出のバランスのとれた回復は25年度となろう。
    6. 実質賃金がプラス反転せず、また自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、春闘を上回る賃上げの実現とインフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。加えて、7-9月期には定額減税の効果が表れるため可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 24年度前半にかけて消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

    ※本レポートの詳細版については5/29(水)に公表予定

    予測結果の概要

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