研究成果

research

DMOの観光誘客への取組-マネジメントエリア別の分析:滋賀県の事例から-

Abstract

本稿では滋賀県にかかわる観光基礎統計を用いて、県の観光戦略に光をあて、観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動に注目し抱える課題を分析した。得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較した。注目している観光課題に違いがあるものの、その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたり、周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化してきており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。また、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

本文

1.滋賀県の観光動態と課題

筆者たちは、これまで関西各府県の観光産業の成果と課題を民間の観光業推進主体である観光地域づくり法人(以下、DMO)の活動を軸に分析してきた。具体的には、京都府、和歌山県、奈良県を例にとり、各府県の観光政策の特徴や課題をDMOの誘客策に注目し分析してきた。本稿では、同じ分析フレームに沿って、第四の事例として滋賀県の観光業を取り上げる。
さて滋賀県は、京都府という観光ブランドの隣接県という特徴を持つ。奈良県も同じ特徴を持つが、奈良県の場合は京都に対抗できるブランドと独自性を主張し、それに基づいて観光政策が立てられてきている。それに比べ、滋賀県はどちらかと言えば、京都府との一体性を意識しながら観光政策が作成されてきた経緯がある。本稿では、こういった経緯も踏まえながら、様々なデータから滋賀県の特徴を明らかにしたい。
滋賀県では、2014年1月に「滋賀県『観光交流』振興指針~訪れてよし、迎えてよし、地域よしの『観光・三方よし』~」を策定した。
この間、民間と行政が一体となって観光資源の発信や魅力の磨き上げおよび地域の受入環境の整備等の観光振興に向けた様々な取組を展開してきた。具体的には、東京・日本橋の情報発信拠点「ここ滋賀」のオープンや(一社)近江ツーリズムボードと(公社)びわこビジターズビューローの日本版DMO登録、「日本遺産 滋賀・びわ湖水の文化ぐるっと博」や観光キャンペーン「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」の開催などが挙げられる。取組の結果、観光入込客数が増加するなど一定の成果があったものの、①消費額の多い宿泊客数が横ばい、②インバウンド需要の増加による観光を取り巻く環境の変化、③定住人口の減少と高齢化が深刻となる中、交流人口増加の重要性、といった課題として指摘された。
こうした状況を踏まえ、前述の観光指針が2018年度に計画満了となったことから、新たな観光振興指針である『~観光を架け橋に、つなぐ滋賀、つづく滋賀~「健康しが」ツーリズムビジョン2022』が策定された(19年度)。滋賀県は本中期計画に基づいて観光振興の取組を進めてきた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により、観光を取り巻く状況は著しく変化したことから、滋賀県は22年度までの計画期間を1年前倒しで改定し、22年度を始期とする新たなビジョン「シガリズム観光振興ビジョン」を策定した。
「シガリズム観光振興ビジョン」において、滋賀県観光の課題として第1に挙げられているのは「滋賀ならではの魅力による宿泊・滞在型観光の推進(魅力向上と創出)」である。これを確認するためにまず、滋賀県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別にみよう。
図1-1は観光庁の『旅行・観光消費動向調査』より、宿泊旅行者と日帰り旅行者の推移を比較したものである。これまで分析してきた京都府、和歌山県、奈良県の事例に加え、本稿で取り扱う滋賀県を加えている。図からわかるように、京都府は日帰り、宿泊旅行者がいずれも多い。和歌山県は宿泊旅行者が日帰り旅行者を概ね上回る特徴がある。一方、京都府に隣接する、奈良県、滋賀県では日帰り旅行者が宿泊旅行者を常に上回っており、滋賀県には宿泊を伴う滞在型観光が観光課題であることが理解できる。

 

 

前述した「シガリズム観光振興ビジョン」では上記の課題に加えて、更に下表のような課題が指摘されている。

 

 

2.滋賀県DMOの比較

前節では関西1府4県における旅行者数の推移を宿泊と日帰り別に比較してみた。滋賀県においては宿泊を伴う滞在型観光が課題であることを確認した。本節では滋賀県の各DMOの観光振興における特徴と誘客に向けた主な活動をみていく。

 

2-1. 滋賀県 DMO の登録状況及びマネジメントエリア

滋賀県は日本最大の湖である琵琶湖を中心にして各DMOが存在し、互いに県、市町村、観光関連団体などと連携して観光振興に取り組んでいる。
表2-1には滋賀県におけるDMOの登録状況が示されている。2022年12月時点では、地域連携DMOに2法人((公社)びわこビジターズビューロー、(一社)近江ツーリズムボード)が登録認定、1法人((一社)比叡山・びわ湖 DMO)が候補認定。また地域 DMOに1法人((一社)近江八幡物産観光協会)が登録認定、1法人((公社)長浜観光協会)が候補認定されており、登録、候補合わせ計5法人が認定されている。

 

 

次に各DMOがマネジメント対象とするエリアについて紹介する。びわこビジターズビューローは、滋賀県全域をマネジメントエリアとしている。近江ツーリズムボードは、近江八幡市、彦根市、米原市、愛荘町、豊郷町、甲良町、多賀町をマネジメントエリアとし、民間企業を中心とした実施体制で当該エリアの観光地域づくりに取り組んでいる。近江八幡観光物産協会は、近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸とした中で観光物産振興を図ってきた。長浜観光協会は、長浜市をマネジメントエリアとしている。比叡山・びわ湖DMOは、滋賀県と京都府の府県境に位置する世界文化遺産・比叡山延暦寺を中心とした山内から山麓をマネジメントエリアとしている。

図2-1は、各DMOがマネジメントの対象とするエリアを示している。

 

2-2. DMOの設立経緯と観光資源

ここでは各DMOの設立経緯と観光資源をみていこう(表2-2)。

 

<びわこビジターズビューロー>
1952年に滋賀県観光連盟として設立。2016年に地域連携DMO候補法人に認定され、18年に改めて地域連携DMOとして登録された。
主な観光資源として、日本最大の湖である琵琶湖を中心とする自然、多賀大社などの寺社仏閣や大津祭りなどの歴史・文化的資源、ラ コリーナ近江八幡など観光施設、自然、歴史、文化と魅力的な観光資源を豊富に有している。

 

<近江ツーリズムボード>
2015年に近江インバウンド協議会として設立。16年に地域連携DMO候補法人に認定され、17年に改めて地域連携DMOとして登録された。

主な観光資源として、古くは中山道等の街道が多く集積する交通の要衝であり、日本酒製造に欠かせない清流や米など地域特有の食材を栽培する田園風景、名だたる武将たちが建立した寺社仏閣、彦根城など食文化や文化遺産を多く有している。

 

<近江八幡観光物産協会>
1956年に近江八幡観光協会として設立。2014年に安土町観光協会との統合を経て、20年に地域DMOとして登録された。
主な観光資源として、八幡堀、水郷めぐりなどの自然、近江商人やヴォーリズゆかりの建築物と町並み、安土城址などの歴史資源を有している。

 

<長浜観光協会>
1950年に長浜観光協会として発足。2018年に奥びわ湖観光協会と合併、20年に北びわこふるさと観光公社を統合し、22年に地域DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、豊かな自然環境、戦国の聖地、観音の里(仏教文化財の宝庫)、国友鉄砲ミュージアムなど多くの歴史的文化遺産を有している。

表 2-4 各 DMO の誘客ターゲット層と取り組み

 

 

 

<比叡山・びわ湖 DMO>
1989年に比叡山振興会議として発足。2022年に比叡山・びわ湖DMOとして設立し、地域連携DMO候補法人として認定されている。
主な観光資源として、ユネスコ世界文化遺産に認定されている比叡山延暦寺だけでなく、日吉大社、穴太衆石積、西教寺、おごと温泉など比叡山山麓にも魅力ある観光資源を有している。

 

 

2-3. 各DMOの特徴と活動状況

DMOの活動には県全域で共通して取り組んでいるものと、独自の活動がある。前者については、2018年に滋賀の魅力を7色のカテゴリー(歴、食、遊、癒、観、買、美)に分け、それぞれの魅力に出会える旅(「虹色の旅へ。滋賀・びわ湖」)や、琵琶湖を自転車で一周する「ビワイチ」(19年に国土交通省が定める「ナショナルサイクルルート」にビワイチが指定)などがある。これらに加え、それぞれのDMOがマネジメントするエリアの特徴を活かした活動を行っており、表1-1で示した滋賀県観光の課題にも取り組んでいる。表2-3は2018年からの各DMOの主な活動を示している。

 

<びわこビジターズビューロー(地域連携DMO)>
琵琶湖を中心とした県全域をマネジメントエリアとし、観光地域づくりの舵取り役として、各DMOや、県、各市町村などと観光戦略を着実に実施するための調整・仕組みづくり・プロモーション活動などを行っている。また、地域連携DMOとして、国や他府県および観光関連団体と連携した観光物産振興など、広域的な周遊滞在型観光活動に取り組んでいる(主に関連する課題①②⑥)。

 

<近江ツーリズムボード(地域連携DMO)>
琵琶湖の東側である湖東地域をマネジメントエリアとし、観光資源である国宝や重要文化遺産、地域特有の食文化などの情報を国内外へ発信、誘客プロモーションを行うとともに、インバウンド客向け飲食店マップの製作、彦根城の多言語解説文、アプリの作成などインバウンド客の受入れ環境の整備にも取り組んでいる。また、地域住民(市民・事業者・学生など)の観光地域づくりに関する意識啓発や参画促進のための活動にも取り組んでいる(主に関連する課題②⑤⑥)。

 

<近江八幡観光物産協会(地域DMO)>
近江八幡市をマネジメントエリアとし、まちづくりを基軸にした情報発信、プロモーション活動を中心に行っている。また、地域行事や学校教育との連携を図り、郷土愛の醸成やおもてなしの心を育み、市民や観光客の垣根を越えて訪れたくなる身近で馴染みやすいまちづくりにも取り組んでいる。さらにイベント催事での参画呼び掛け、演出や作業スタッフなど活動の幅を広げている(主に関連する課題⑤)。

 

<長浜観光協会(地域DMO)>
滋賀県の東北部に位置する長浜市をマネジメントエリアとし、長浜らしさを感じる体験型、交流型観光の推進に取り組んでいる。戦国、観音文化など長浜らしいテーマを持った体験型観光や、長浜固有の暮らし、食、文化を味わえる交流型観光、自然を体験できるアクティビティなどをプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出し、長浜の認知度を上げるプロモーション活動などに取り組んでいる。観光まちづくりに関する講演会等の企画、市民団体や住民に対して観光イベントを実施するなど意識啓発に取り組んでいる(主に関連する課題③④⑤)。

 

<比叡山・びわ湖DMO(地域連携DMO)>
滋賀県(大津市)と京都府(京都市)に跨る比叡山延暦寺を中心としたマネジメントエリアのイベント、ツアー開発に加え、琵琶湖でのサイクルクルージングや琵琶湖汽船船上でのイベント、さらにびわ湖エリアの観光団体や周辺の市町村とも連携して、旅行商品の開発、周遊パスの企画などに取り組んでいる。また、Wi-Fi整備などといった受入れ環境の整備にも取り組んでいる(主に関連する課題③⑥)。

表2-3 各DMOの主な活動状況

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』、各 DMO ホームページ等より作成

 

2-4. 各DMOの誘客ターゲット層と取り組みについて

 

各DMOは、誘客ターゲット層を国内客とインバウンド客の年齢層や趣味趣向、地域別などに分けて設定している。それぞれのターゲット層に対して、各DMOのマネジメントエリアが持つ魅力ある観光資源を組み合わせ、誘客活動に取り組んでいる。それらをまとめたのが表2-4である。

<びわこビジターズビューロー>
びわこビジターズビューローは国内客について、30~50代の旅行好きの女性をターゲットとしている。また、インバウンド客については東アジア、東南アジアからの訪日リピーターを重点ターゲットとし、自然や歴史、文化への関心が高い欧米豪の個人旅行客を開拓ターゲットとしている。ターゲット層に対し、SNSを活用した情報発信やターゲット国、地域への観光展へ出展するなど現地プロモーション、旅行会社やマスコミなどを招いた商談会や現地視察を行い、滋賀県の認知度向上に取り組んでいる。

 

<近江ツーリズムボード>
近江ツーリズムボードはインバウンド客をターゲットに、米豪の富裕層の訪日リピーターや東洋文化への関心が高いイギリス、フランスの富裕層、近隣国という便利さから何度も訪日するポテンシャルを秘めているアジア新興国(主にシンガポール、タイ、マレーシア)の富裕層をターゲットとしている。
米豪の訪日リピーターに対しては、滋賀県最高峰の伊吹山でのトレッキングといった、大自然を味わえるネイチャーツアーを、イギリス、フランスの富裕層に対しては、文化遺産に登録されている寺社仏閣でのプレミアムな文化体験ツアーの造成に取り組んでいる。またアジア新興国の富裕層は欧米豪に比べ訪日滞在日数が短い傾向にあり、半日もしくは一日で完結する景色や食を堪能するツアーの造成に取り組んでいる。

 

<近江八幡観光物産協会>
近江八幡観光物産協会は国内客については、40~70代の旅行に関心の高い女性と学びに関心の高い中高年、学校や職場の小グループをターゲットにしている。また、インバウンド客については欧州の個人客および中華系のビジネスマンをターゲットとしている。
主に国内旅行客をターゲットとしており、五感を通じての魅力を体験いただき、旅行に関心の高い女性の支持を得ることで、SNS や口コミによる情報発信、誘客を図る。また、学びや生き方に関心の高い中高年に対しては、エコツアーや自転車ガイドツアー、近江商人の精神を学ぶ、ヴォーリズ建築を巡るツアーなど本物の良さや魅力を感じてもらう上質な観光サービス提供に取り組んでいる。

 

<長浜観光協会>
長浜観光協会は国内客について、30~50代の旅行好きの女性と団体の教育旅行、修学旅行客をターゲットとしている。また、インバウンド客については欧州の個人旅行者およびアジア(台湾、香港、タイ等)からのリピーターをターゲットとしている。
国内旅行客に対しては、長浜らしいテーマを持った付加価値の高いプレミアムなパッケージ、長浜ブランドとして売り出す。また、教育旅行や修学旅行などの誘致に注力するとともに、長浜の伝統文化を活かした体験型の教育プログラム作成、市内宿泊施設等と連携した営業活動を実施する。
インバウンド客については、観光施設の展示やパンフレットの多言語表示、専門的通訳ガイドの育成など、受け入れ体制の整備に取り組んでいる。

 

<比叡山・びわ湖DMO>
比叡山・びわ湖DMOは国内客について、関西圏および東海圏の非日常体験・デトックスを求める30~50代のリピーターとその家族、ならびに首都圏在住で京都駅周辺の宿泊客の取り込みターゲットとしている。また、インバウンド客については欧米豪、アジアからの文化体験や知的欲求ニーズが高く、新たな旅先にも足を延ばす長期滞在の個人旅行客をターゲットとしている。
国内客については、比叡山地区を中心に、季節に合った歴史イベントや公共交通機関を利用した商品の造成など、地域限定のプロモーション活動に取り組んでいる。
インバウンド客については、芸術や文化からのアプローチ、SNS映えするスポットの増設などによる誘客活動に取り組んでいる。

表2-4 各DMOの誘客ターゲット層と取り組み

出所:観光庁『観光地域づくり法人形成・確立計画』より作成

 

3.DMOマネジメントエリアにおける宿泊施設と稼働率

前節では滋賀県に所在しているDMOの設立経緯及び活動状況をみた。本節では前述したDMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数(供給面)と稼働率(需要面)を取り上げ、その特徴を明らかにする。
なお、DMOは湖東地域を中心に活動しているが、県内の宿泊施設は琵琶湖を中心に点在しているため、ここでは湖西地域の高島市も加えて分析している。また、宿泊施設数と稼働率については観光庁の『宿泊旅行統計調査』個票データ8より計算している。
まず滋賀県における宿泊施設数の推移をタイプ別に見たのが図3-1である。図が示すように、滋賀県の宿泊施設数は2011年から16年にかけて減少傾向で推移したのち、17年以降はインバウンドの影響もあり増加傾向となる。うち、簡易宿所・その他が着実に増加している一方で、旅館は減少傾向で推移している。また、ビジネスホテルも減少傾向で推移している。

 

 

<大津市>
大津市をみれば(図3-2)、宿泊施設は全体として微増の傾向にある(2015年4月:144施設→19年12月:152施設)。内訳をみれば、旅館の施設数がこの間微減し(15年4月:38施設→19年12月:34施設)、簡易宿所が増加傾向にある(15年月:24施設→19年12月:35施設)。
稼働率をみれば、後掲の記述統計(表3-1)が示すように期間の平均稼働率は46.0%で、稼働率の最大値は59.3%、最小値は31.6%となっている。季節性をみれば、4月、8月に稼働率が上昇する傾向がみられる。稼働率の傾向としては2015年から18年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて低下傾向を示している。この理由については後述する。

 

<近江八幡市>
近江八幡市をみれば(図3-3)、この間宿泊施設数の水準は高くはないが、着実に増加傾向にある(2015年4月:17施設→19年12月:26施設)。うち、旅館、リゾートホテルやシティホテルの施設数は横ばい(15年4月:1施設→19年12月:1施設)である。一方、簡易宿所が増加(15年4月:4施設→19年12月:12施設)している。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.8%となっている。稼働率の最大値は61.4%、最小値は16.5%と、最大値と最小値の幅が44.9%ポイントと大きいことが特徴である。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2016年から17年にかけて上昇傾向を示している。18年に低下傾向を示したが、19年には再び上昇している。

 

<彦根市>
彦根市をみれば(図3-4)、この間の宿泊施設数は全体では微減の傾向にある(2015年4月:36施設→19年12月:32施設)。うち、ビジネスホテルは微増(15年4月:13施設→19年12月:16施設)している一方で、シティホテルは減少している(15年4月:1施設→19年12月:0施設)。また旅館(15年4月:7施設→19年12月:7施設)と簡易宿所(15年4月:3施設→19年12月:3施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は39.2%となっている。稼働率の最大値は60.3%、最小値は23.4%であり、最大値と最小値の幅は36.9%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から16年にかけて上昇傾向を示したものの、17年から18年にかけて低下した。19年以降は再び上昇傾向を示している。

 

<米原市>
米原市をみれば(図3-5)、宿泊施設は全体として減少傾向にある(2015年4月:39施設→19年12月:27施設)。うち、簡易宿所が半減(15年4月:14施設→19年12月:7施設)している。一方、旅館(15年4月:9施設→19年12月:9施設)、ビジネスホテル(15年4月:2施設→19年12月:2施設)やリゾートホテル(15年4月:1施設→19年12月:1施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は24.4%、最大値は63.5%、最小値は1.0%であり、両者の差は62.5%ポイントとなっている12。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から 18 年前半は横ばいで推移しているが、18年後半にかけて上昇傾向を示している。

 

<長浜市>
長浜市をみれば(図3-6)、宿泊施設は全体としてほぼ横ばい傾向にある(2015年4月:69施設→19年12月:70施設)。うち、旅館(15年4月:17施設→19年12月:19施設)や簡易宿所(15年4月:16 施設→19年12月:17施設)はいずれも微増している。なお、ビジネスホテル(15年4月:7施設→19年12月:7施設)は横ばいである。
稼働率をみれば、期間の平均稼働率は38.0%となっている。稼働率の最大値は55.9%、最小値は24.3%であり、両者の差は31.6%ポイントとなっている。また、4月、8月、11月に稼働率が上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては 2015年から17年にかけて横ばいで推移しているが、18年以降は幾分低下傾向を示している。

 

<高島市>

高島市をみれば(図3-7)、宿泊施設は全体として増加傾向にある(2015年4月:106施設→19年12月:116施設)。うち、旅館(15年4月:24施設→19年12月:26施設)やリゾートホテル(15年4月:2施設→19年12月:5施設)はいずれも微増している。また、不詳(15年4月:33施設→19年12月:42施設)も増加している。
稼働率をみれば、期間平均は12.6%と、その他のエリアに比して低いのが特徴である。稼働率の最大値は22.8%、最小値は7.2%で、両者の差が15.6%ポイントとなっている。また、8月に稼働率が大幅上昇する季節性がみられる。稼働率の傾向としては2015年から19年にかけてほぼ横ばいで推移している。

 

以上、DMOのマネジメントエリア別にみれば、宿泊施設数では大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。また、客室稼働率では、大津市の平均稼働率が他のエリアより高い一方で、高島市は低い特徴がみられた。季節性をみれば、近江八幡市、彦根市、米原市、長浜市では4月、8月、11月に稼働率が上昇するが、大津市では4月、8月に上昇する。一方、高島市については8月のみ上昇する傾向がみられる。

 

補論 昼夜間比率からみた大津市と京都市との近接性

前述した大津市の客室稼働率をみれば、2015年から18年にかけて高水準で推移し、18年後半以降低下がみられる。客室稼働率が高水準で推移していた背景として、大津市は京都市と近接していることもあり、京都市で宿泊できなかった訪日外客が大津市で宿泊していことが推察される。一方、18年後半以降低下した一因としては、インバウンド急増に一定程度対応した京都府内の宿泊施設の供給不足緩和が考えられる。このことを別の統計データから確認しよう。図3-8は大津市及び京都市における訪日外国人の滞在昼夜間比率(夜/昼)の推移を示している。
大津市と京都市の状況をみれば、2015 年における大津市の平均昼夜間比率は1.18に対して、京都市は0.54となっており、大津市が京都市を圧倒的に上回っている。しかし、16年以降、大津市の平均比率は低下傾向を示し、足下19年では0.86となっている。一方、京都市は16年以降、幾分上昇傾向を示しており、足下19年は0.61となっている。これは京都市における宿泊施設の供給制約が緩和されるにつれ、大津市における外国人宿泊者が減少したことを示唆している。

 

 

4.分析結果の整理と含意

2節では各DMOの活動状況と誘客ターゲット層を確認し、その取組を実現するための課題をみた。
表4-1は各DMOが注目している課題を整理したものである。加えて、われわれが推計した宿泊施設の客室稼働率の観点から季節性の特徴についても注目してみた。これらの分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

 

1. 滋賀県の各DMOにおける、それぞれの特徴や活動状況、マネジメントエリア、観光資源、誘客ターゲット層に対する取り組みを比較し、注目している観光課題の違いを確認した。その活動内容から県内広域を活動エリアとするDMOと限定された地域(地場)に密着した活動を行うDMOに分けられる。

2. びわこビジターズビューロー、近江ツーリズムボード、比叡山・びわこDMOは、滋賀県の認知度向上に向けた情報発信や持続可能な観光を実現させるための環境整備など、県内広域にわたる周遊滞在型観光の活動に注力している。

3. 近江八幡観光物産協会、長浜観光協会は、その地域ならではの食文化、暮らし体験や地域住民の郷土愛の醸成等、まちづくりを基軸とした地域密着の交流型観光の活動に注力している。

4. DMOのマネジメントエリア別に宿泊施設数と稼働率の動向をみれば、宿泊施設数は大津市と高島市を除くエリアで微減ないしは横ばいで推移している。稼働率は、大津市では春と夏に上昇する傾向がある。また、近江八幡市、長浜市、米原市、彦根市では春、夏、秋に上昇する。一方、高島市では夏に高まる傾向がある。季節性の平準化が重要となろう。

5. コロナ禍を経て観光スタイルが変化しており、琵琶湖を中心に各地域の自然資源や歴史文化遺産をつなぐ宿泊滞在型観光の促進も重要である。上記季節性の平準化の課題を踏まえれば、各地域ならではの観光資源を活かした閑散期の新たなコンテンツの造成が必要であろう。その際、滋賀県が強みとしている自然を活かしたグランピングやキャンプなどの魅力的なコンテンツを国内外の旅行者に訴求することも重要となろう。

6. 上記のような観光資源の磨き上げについて、DMOが行う観光地域づくりが一層重要となる。
その際、県域DMOと地域連携及び地域DMOが連携し、各地域の観光資源を繋ぐことで、観光客の滞在日数を増やすなど、地域間の連携を意識したコンテンツの造成も必要となろう。

関連論文

  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:5月レポート No.60

    インバウンド

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     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、5月の訪日外客総数(推計値)は304万100人。桜シンガポールやインド等における学校休暇や中国の大型連休があったことが影響し、3カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)では、3月は308万1,781人。うち、、観光客は277万1,105人と6カ月連続で200万人を超えており、単月として過去最高を更新した。

    ・先行きの訪日外客については引き続き堅調に推移すると見込まれる。一方で、訪日外客が一部の地域に集中する結果、オーバーツーリズムが深刻化しつつある。今後、地域の観光資源を一層磨き上げ、訪日外客へ訴求することで、広域観光を促進していくかが重要となろう。

     

     

    【トピックス1】

    ・関西5月の輸出額は前年同月比+10.4%と2カ月ぶりの増加。また、輸入額は同+8.1%と2カ月連続の増加となった。輸出の伸びが輸入のそれを上回った結果、関西の貿易収支は4カ月連続の黒字となり、黒字幅は拡大した。

    ・5月の関空への訪日外客数は79万8,812人となり、過去最高値を更新。全国と同様に好調を維持している。

    ・4月のサービス業の活動は一進一退で推移している。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比上昇。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が上昇に寄与し、2カ月ぶりの同上昇となった。

     

    【トピックス2】

    ・3月の関西2府8県の延べ宿泊者数は11,659.5千人泊で、2019年同月比+7.9%と7カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は8,039.3千人泊で、2019年同月比+0.1%と7カ月連続の増加だが、増加は小幅にとどまった。一方、外国人延べ宿泊者数は3,602.2千人泊で、同+30.3%と8カ月連続で増加し、増加幅は拡大。日本人宿泊者に比して外国人宿泊者は堅調に推移している。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期における関西各府県の訪問率をみれば、大阪府36.2%が最も高く、次いで京都府27.3%、奈良県7.7%、兵庫県4.9%、三重県0.8%、和歌山県0.8%、滋賀県0.4%、鳥取県0.2%、福井県0.1%、徳島県0.1%と続く。

    ・2024年1-3月期の関西2府4県の訪日外国人消費単価(旅行者1人1回当たりの旅行消費金額)は19年同期比+13.2%増加。費目別では、飲宿泊費や娯楽等サービス費が大幅増加した一方、買物代は減少した。訪日外客の消費行動はモノ消費からコト消費へ着実に移りつつある。

    ・関西2府4県の訪日外客数と消費単価を用いて、2024年10-12月期の関西における消費額を推計した。結果、訪日外客消費額は3,827億9,198万円となり、19年同期比では+32.2%とコロナ禍前を大きく回復した。

     

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  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年6月)<6月末発表の月次データ及びGDP2次速報改定を反映し、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.5%と上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

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  • 稲田 義久

    改定版:148回 景気分析と予測<建設総合統計の遡及改定で23年度実質成長率は下方修正 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.3%、25年度+1.2% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 7月1日発表の1-3月期GDP2次速報改定によれば、実質GDP成長率は前期比年率-2.9%となり、2次速報(同-1.8%)から下方修正された。2四半期ぶりのマイナスと成長率のパターンは前回より変化がなかったが、大幅な下方修正。このため、2024年度への成長の下駄が前回から低下した。2次速報改定で、下方修正されたのは民間住宅と公的固定資本形成である。これらの基礎統計である建設総合統計が4月発表時に過去値が大幅に遡及改定されたためである。
    2. 過去1年の実質成長率を2次速報改定と2次速報を比較すると、2023年1-3月期+0.4%ポイント上方修正だが、4-6月期-0.4%ポイント、7-9月期-0.3%ポイント、10-12月期-0.4%ポイント、24年1-3月期-1.0%ポイントといずれも下方修正となった。結果、23年度の実質成長率は-0.2%ポイント下方修正された。
    3. 2023年度の実質GDPは前年度比+1.0%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.8%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.6%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化。結果、GDPデフレータは同+0.5%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率-0.9%と2四半期ぶりの減少となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.0%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長である。
    5. 1-3月期GDP2次速報改定と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.3%、25年度+1.2%と予測。前回(148回予測)から、24年度を-0.2%ポイント、25年度を-0.1%ポイントそれぞれ下方修正した。24年4-6月期には自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。1-3月期の大幅下方修正により24年度成長率への下駄が低下したため、4-6月以降は回復が見込まれるものの、24年度平均成長率は低めにとどまる。内需と純輸出のバランスのとれた回復は25年度となろう。
    6. 実質賃金がプラス反転せず、また自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、インフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。加えて、7-9月期には定額減税の効果が表れるため可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 24年度前半にかけて消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から変化なし。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.6%、25年度+1.6%となる。
      予測結果の概要
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.134-景気は現況、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価上昇加速が景気下押し圧力-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気の判断は、現況、先行きともに悪化の兆しがみられるとした。現況判断CIは前月差上昇したが、基調判断を引き上げる程度ではなかったために前月から据え置いた。8月には「酷暑乗り切り緊急支援」が実施されるものの、電気・ガス負担軽減策終了につれてエネルギー価格の一時的な上昇が見込まれるため、景気の先行きに対して下押し圧力となろう。
    • 足下、生産は2カ月連続の増産。雇用環境は、失業率が4カ月ぶりに改善したものの、有効求人倍率と新規求人倍率はいずれも低下した。大型小売は、好調なインバウンド需要により百貨店を中心に持ち直している。貿易収支は輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、4カ月連続の黒字である。
    • 関西4月の生産は、2カ月連続の増産。業種別にみれば、生産用機械は半導体製造装置の増産が影響し、大幅上昇となった。
    • 4月の失業率は前月より改善し、就業者数と労働力人口の大幅な増加がみられた。また、就業率も前月より上昇し、足下の雇用情勢は回復傾向にある。ただし、昨年10‐12月期から1‐3月期にかけて停滞がみられたため、今後の動向に注意を要する。
    • 3月の現金給与総額は4カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より小幅拡大。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 4月の大型小売店販売額は31カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンドによる高額品の売上が堅調だったことから、26カ月連続のプラス。スーパーは飲食料品などの単価上昇が影響し19カ月連続で増加した。
    • 4月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりに前月比増加。持家が減少したものの、貸家と分譲は増加となり、着工数全体を押し上げた。
    • 4月の建設工事出来高は3カ月ぶりの前年比増加。民間工事、公共工事ともに全国に比して強い。5月の公共工事請負金額は前年比、前月比ともに2カ月連続の増加となった。結果、1-3月期の落ち込みから大幅回復した。
    • 5月の景気ウォッチャー現状判断、先行き判断DIいずれも3カ月連続で前月比悪化。物価の高止まりやコストの上昇が景況感に悪影響を与えている。
    • 5月は輸出入ともに前年比増加となった。輸出は好調な対中国と対欧米の影響で2カ月ぶりに増加に転じた。一方、輸入は対中及び対ASEANが堅調に推移し、対EUが増加に転じたため、2カ月連続で増加した。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は4カ月連続の黒字となった。
    • 5月の関空経由の外国人入国者数は過去最高値を更新し、インバウンド需要は好調を維持している。
    • 5月の中国経済は、生産の回復が停滞気味である一方、消費の回復は6カ月ぶりに加速した。しかし、雇用回復の遅れに加えて、不動産市場の不況も短期間での改善が望めないため、消費の更なる加速は期待しにくい。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

      【関西経済のトレンド】

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  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:4月レポート No.59

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、4月の訪日外客総数(推計値)は304万2,900人。桜の開花シーズンの影響もあり、2カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば2月は278万8,224人。うち、うち、観光客は254万8,085人と5カ月連続で200万人を超える水準となった。

     

    【トピックス1】

    ・関西4月の輸出額は前年同月比-1.8%と2カ月ぶりの減少。一方、輸入額は同+1.4%と2カ月ぶりの増加となった。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・4月の関空への訪日外客数は77万2,860人となり、過去最高値を更新した。

    ・3月のサービス業の活動は対面型サービス業を中心に悪化した。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比低下。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が低下に寄与し、4カ月ぶりの同低下となった。

     

    【トピックス2】

    ・1月の関西2府8県の延べ宿泊者数は9,352.4千人泊で、2019年同月比+7.9%と6カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は6,574.0千人泊で、2019年同月比+5.3%と6カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は2,778.4千人泊で、同+14.5%と7カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期関西(2府8県ベース)の国内旅行消費額(速報)は1兆350億円。新型コロナ5類移行後、初めての年始休暇の影響もあり、宿泊旅行消費、日帰り旅行消費ともに増加した

    ・国内旅行消費額のうち、宿泊旅行消費額は8,158億円、日帰り旅行消費額は2,193億円であった。

     

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  • 稲田 義久

    人口減少下における活力ある関西を目指して~2050年を見据えて~

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 日本・関西経済軸

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR研究統括兼数量経済分析センター長 稲田 義久

    研究計画

    研究の背景

    2024年4月に人口戦略会議は、全国地方自治体の「持続可能性」についての分析レポートを発表した。その中で、2020年から2050年までの間に若年女性人口の減少率が50%以上になる自治体(消滅可能性自治体)は全国1,729のうち744(43%)あるとし、関西は全198のうち門真市等81の自治体(41%)が該当している。まずは、この状況が前回2014年のレポートと比較して改善しているのか、そして今何が問題になっているかを把握する必要がある。

    国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の推計によると、日本の総人口は2023年の1億2,435万人から2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人になるとされている。特に関西(2府4県)は、全国や関東に比べて人口減少のスピードが速い。社人研の推計を基に2022年~2050年の減少率をみると、全国-19.4%、関東-7.5%に対し、関西は-23.3%となる。

    また、高齢化の進行も厳しい。社人研の推計によると2050年には生産年齢人口が5,540万人と2023年(7,395万人)比25.1%の減少、およそ4人に1人が75歳以上になるとされている。将来の労働力となる子どもの出生数も年々減少しており、人手不足によって社会インフラの維持が困難になる可能性も指摘されている。

    人手不足は足下でも深刻である。帝国データバンクによると、2023年の人手不足を理由とした倒産件数は260件で前年比1.9倍(前年:140件)と過去最多を更新した。業種別では建設業や運輸業が多く、生活に必要不可欠な職種(エッセンシャルワーカー)の人手不足は深刻である。

    一方で、労働参加率を上げ、特にサービス業の生産性を向上させれば人口が減少しても問題ないとする議論もあるが、最適解はどこにあるかについて検討する必要があると考える。

    そこで、全国に比して人口減少・高齢化が厳しい関西において、人口や労働等に関する様々な基礎データを整理し、加えてAPIRがこれまで蓄積してきたデータベースや知識を組み合わせながら総合的に分析しつつ、データを可視化することで、関西各府県及び自治体の特徴と課題を明らかにする。そして中長期的な視点で、この先人口が減っても豊かさと活力を維持・向上させていくための方策を模索していきたい。

    研究内容

    ●関西基礎統計の整理
    ・労働に関する基礎データ(就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査 等)を基に、関西の地域別、産業別、企業規模、性別、年齢別の5軸でデータベースを構築し、県民経済計算に対応できるようなシステム開発及びメンテナンスを行う。
    ・地域別将来人口推計データを整理しつつ、足下と比較して関西の特徴を明らかにする。

    ●関西における詳細なデータ分析と労働需給分析
    ・整理したデータベースを基に産業構造や雇用構造、年齢構造、賃金構造等から、関西が抱える労働問題を総合的に明らかにする。
    ・介護、建設、宿泊サービスの分野に焦点を絞って詳細なデータ分析を行い、どの職種に労働需給のミスマッチが起きるのかを明らかにし、中長期視点で解決策を検討する。

    ●経済成長を維持し、持続可能な社会をつくるための施策の検討
    ・労働需給の課題に対してどのような処方箋が考えられるか、有識者等から様々な視点での知見をもらい、関西において実現できる未来の姿を模索する。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・マクロデータの分析成果(関西経済白書、トレンドウォッチ)
    ・人口減少による人手不足の課題の共有化(研究会等での情報提供と議論)

    ・人手不足(特に介護、建設、宿泊分野)の解消に向けた対応の検討
    ・人口減少下においても人手不足を補い経済力を維持するための施策の立案

    研究体制

    研究統括・リサーチリーダー

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学 名誉教授

     

    サブリサーチリーダー

    松林 洋一  APIR主席研究員、神戸大学大学院経済学研究科 教授

     

    リサーチャー

    野村 亮輔  APIR副主任研究員
    吉田 茂一  APIR研究推進部員
    古山 健大  APIR研究推進部員
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年5月)<5月末の統計集中発表日のデータを更新して、4-6月期の実質GDP成長率予測を前期比年率+2.0%に上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

     

    4-6月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、生産サイドは同+2.4%、平均同+2.2%と予測する。市場コンセンサス(同+2.10%)は支出サイドとほぼ同じ成長率を予測(図表1参照)。

    図表1

     

    4-6月期インフレ予測の動態

    ▶4月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.2%と32カ月連続の上昇だが、インフレ率は2カ月連続で前月から縮小。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+2.4%と25カ月連続の上昇だが、インフレ率は8カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、4-6月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.4%、国内需要デフレータを同+0.6%と予測。交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.3%と予測する(図表2参照)。

    図表2

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  • 高林 喜久生

    大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下田 充 / 下山 朗 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

     

    1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
    2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
    3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
    4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.69 -足踏み局面から緩やかな持ち直しへ:先行きの回復は企業の賃上げペース次第-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 小川 亮 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 古山 健大

    ABSTRACT
    1. 2024年1-3月期の関西経済は、足踏み状況から緩やかな持ち直しに向かう局面にある。家計部門では、消費者センチメント、所得、雇用など力強い回復には至らないものの、底打ちの兆しが見られる。企業部門では、生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きであるが、景況感は堅調である。対外部門では、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しており、財輸出は持ち直してきている。
    2. 家計部門は一部に弱い動きも見られるが、緩やかに持ち直しつつある。大型小売店販売、センチメント、所得、雇用など多くの指標で回復ないし持ち直しの動きとなっている。実質賃金も依然として前年比マイナスが続いているが、底打ちの兆しが見られる。一方、住宅市場は低調である。
    3. 企業部門は、足踏みの状況が続いている。生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きとなっている。設備投資計画は、非製造業で前年の反動が見られるなど全国に比べてやや控えめとなっている。景況感は製造業・非製造業ともに堅調に推移している。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに底打ちの兆しが見られる。輸出は対中国向けの持ち直しを背景に4四半期ぶりの前年比プラスとなった。インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高など増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、請負金額・出来高とも前年を下回り、弱い動きとなった。
    6. 関西の実質GRP成長率を2024年度+1.2%、25年度+1.4%と予測。22年度以降1%台前半の緩やかな伸びが続く。24年度は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、24年度は-0.3%ポイント、25年度は-0.1%ポイントといずれも下方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は24年度+0.5%ポイント、25年度+1.0%ポイントとなり、緩やかな回復で成長を支える。公的需要は万博関連の投資により24年度+0.4%ポイントと成長を下支えるが、25年度には万博効果が剥落し、小幅寄与となる。域外需要は24年度+0.3%ポイント、25年度+1%ポイントとなる。
    8. 経済成長率を日本経済予測と比較すると、24年度は関西が全国を上回り、25年度はほぼ同程度となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要の押し上げにより全国を上回る伸びとなる。25年度は関西、全国とも民間需要が成長の牽引役となる。
    9. 今号のトピックスでは「関西各府県GRPの早期推計」および「各機関における大阪・関西万博の経済波及効果の比較」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:詳細版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを5%割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化した。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス、バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長となった。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期は自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。4-6月期以降は強めの回復を見込むが、1-3月期のマイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下した。このため24年度平均成長率は低めにとどまる。25年度は内需と純輸出のバランスのとれた潜在成長率を上回る回復となろう。
    6. 8四半期連続の実質賃金減少と自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、昨年春闘を上回る賃上げが実現し、インフレ高止まりの影響が剥落する、24年後半以降となろう。また、7-9月期には定額減税の効果から可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 2024年夏場にかけ消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

     

    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->