研究成果

research

DMOの観光誘客の取組とその効果(3) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:奈良県の事例から-

Abstract

1.  宿泊施設数をみれば、県全体の宿泊施設数は増加傾向にある。うち、奈良市などを含むAエリアでは増加しているが、吉野町などが含まれるDエリアでは減少傾向で推移している。また、宿泊施設数をタイプ別にみれば、Aエリアでは旅館が減少する一方でホテルが増加傾向で推移している。また、Dエリアでは旅館、簡易宿所ともに減少している。

2.  宿泊施設の定員数をみれば、Aエリアではホテルの定員数の増加が全体の押し上げに寄与しているが、Dエリアでは旅館の減少が影響し、全体を押し下げている。旅館の平均稼働率をみれば、Aエリア31.1%に対し、Dエリア11.8%と極端な低水準にとどまっている。これまで宿泊施設不足が課題であったが、この問題は県北部では着実に解消されつつある。一方、県南部では低稼働率と宿泊施設の不足は解消されていない。

3.  外国人宿泊者比率は、WEST NARAエリアや吉野町では着実に上昇しているが、奈良市のシェアは圧倒的に高い。京都府の分析事例と同様に、集中している地域からいかに他地域への周遊を促進させるかが今後の課題となる。すなわち、県南部への宿泊を伴うプログラムの造成が重要となろう。

4.  このためにも、各DMOが行う誘客プロモーション及びコンテンツ開発は重要である。例えば、地域の自然資源を活用した体験プログラムの造成などの、県南部へ外国人観光客のみならず日本人観光客をも周遊させる魅力的な仕組みづくりが一層重要となろう。その際、外国人と日本人とに分けるだけでなく、外国人に対しては国・地域ごとの嗜好に合わせて各地域がもつ強みを訴求することが重要となろう。

本文

はじめに

コロナ禍による緊急事態に対応するために、奈良県の観光戦略の改訂版である『奈良県観光総合戦略』の概要では、「日帰り観光客の比率が高く、1人あたり観光消費額が低いことから、経済活性化のためには、1人あたり観光消費額が高い、宿泊を伴う周遊・滞在型観光を促進することが必要。また、県内全域への周遊につなげるため、交通・道路体系のさらなる整備や、奈良県産食材を使ったおいしい食の提供などの要素も必要」とされている(表1、強調太字(ボールド)は筆者)。
上記の観光総合戦略から本稿では「日帰り観光客の比率」、「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」や「観光資源の磨き上げ」をキーワードに分析を行った。はじめに「日帰り観光客の比率」について、観光庁『旅行・観光消費動向調査』からこれまでに分析を行った京都府、和歌山県と奈良県における日帰り旅行者数及び宿泊旅行者数を比較しよう(図1)。図をみれば、京都府は日帰り旅行者、宿泊旅行者がいずれも多く、和歌山県は宿泊旅行者が日帰り旅行者を総じて上回っている。一方、奈良県は宿泊施設不足の影響もあり、日帰り旅行者が宿泊旅行者を常に上回っており、県の観光戦略においても指摘されている宿泊を伴う周遊・滞在が依然課題であるといえよう。次節では「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」に注目して県内の宿泊施設の状況から観光動態について分析を行う。

 

 

 

1. 奈良県の観光動態

本節では奈良県が公表している『奈良県宿泊統計調査』を基礎統計とし、県の観光動態を整理、分析する。前述した「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」の観点から、県が抱える宿泊施設不足の課題に注目し、県内の宿泊施設数、宿泊施設タイプや収容人数等の基礎データから、図2で示しているエリアごとの特徴を明らかにする。なお、エリア別の分析については後述するDMOのマネジメントエリアに関係する市町村(奈良市、斑鳩町、吉野町)を含むA及びDエリアに限定する。

本統計調査におけるエリア区分は以下の通りである。
A:奈良市、生駒市、天理市、大和郡山市、香芝市、平群町、三郷町、上牧町、王寺町、斑鳩町、安堵町、田原本町、広陵町、山添村
B:大和高田市、橿原市、葛城市、桜井市、御所市、明日香村
C:宇陀市、曽爾村、御杖村、東吉野村
D:吉野町、大淀町、下市町、黒滝村、天川村
E:五條市、野迫川村、十津川村
F:川上村、上北山村、下北山村

 

1-1. 『奈良県宿泊統計調査』からみた主要エリア別特徴

【宿泊施設数】
図3は県内の宿泊施設数の推移をエリア別に見たものである。施設総数は2011年の553件から16年には429件まで減少したが、好調なインバウンドの影響を受け17年以降増加傾向に転じ、足下20年は502件となった。ただ、11年の水準を依然下回っていることに注意が必要である。ちなみに、20年における京都府の宿泊施設総数は4,343件、和歌山県は922件といずれも奈良県を上回っており、他府県と比べて宿泊施設が比較的少なく、宿泊施設の不足感が確認できる。

 

エリア別にみれば、奈良市や斑鳩産業がマネジメントエリアとする斑鳩町を含むAエリアは2011年の205件から16年に158件まで減少するも、17年以降増加し、20年は218件となっている。
この背景には後述するように簡易宿所の増加が寄与していると考えられる。また、吉野ビジターズビューローがマネジメントエリアとする吉野町を含むDエリアをみれば、11年の121件から17年に95件まで減少し、18年以降は微増にとどまり11年の水準に戻っていない(20年99件)。

 

 

次に図4はエリア内の宿泊施設数をタイプ別にその推移をみたものである。各エリアの特徴は以下の通りである。

<Aエリア>
エリア内の宿泊施設数をタイプ別にみれば、旅館は2011年の117件から減少傾向で推移し、17年に底打ちし(63件)、足下20年には75件となっている。この間、旅館は42件の純減である。次にホテルをみれば、11~16年までは3件(33件→36件)の微増、17~20年にかけては15件の大幅増加(36件→51件)となった。この間、18件の純増である。簡易宿所をみれば、11年から14年にかけて減少傾向で推移するも、15年以降増加に転じ、インバウンド需要拡大の影響を受け20年には92件まで増加している。この間、37件の純増である。Aエリアでは、旅館数の減少をホテルと簡易宿所の増加が補っている。

<Dエリア>
エリア内の宿泊施設数をタイプ別にみれば、旅館は2011年の54件から減少傾向で推移し、足下20年には38件となっている。この間、16件の純減となっている。次に簡易宿所をみれば、11年の49件から14年にかけて減少傾向で推移し、15年以降幾分増加したものの、16年以降は再び減少に転じ、20年は42件となっている。この間、7件の純減である。Dエリアでは、宿泊施設はいずれも減少している。

 

 

【宿泊施設の定員数】
宿泊受け入れ能力を把握するのに重要なのは、宿泊施設数より定員数の増減である。ここでは各エリアにおける宿泊施設の定員数の推移をみる(図5)。
はじめにAエリアの定員数をみれば、2011年(1万4,324人)から減少傾向で推移し、15年(1万1,922人)には底にうち、以降増加傾向を示している。足下20年は1万5,125人と11年の定員数を800人程度上回っている。この背景には、ホテル数および定員数の増加が影響している。この間、旅館の定員数が3,000人弱の減少に対して、ホテルの定員数は3,700人程度増加した。一方、簡易宿所はほとんど変化がない(後掲参考図表参照3)。
次にDエリアをみれば、2011年(7,510人)から微減または横ばい傾向で推移しており、20年は4,350人まで減少している(19年は6,525人)。うち、旅館の定員数が年々減少(11年3,349人→20年2,442人)していることに加え、簡易宿所も低調(11年1,276人→20年835人)であり、20年はキャンプ場が大幅減少(19年2,884人→1,073人)している影響が大きい(後掲参考図表参照3)。

 

 

【宿泊施設の定員稼働率】
前掲の図5では各エリアの宿泊施設の定員数を確認したが、ここではAとDエリアにおける宿泊施設の定員稼働率6の推移を月次ベースでみてみよう。なお、宿泊施設の稼働率は両エリアで比較可能な旅館に注目している。また稼働率の季節性をみるためにも月次ベースで確認している。
図6が示すように、Aエリアでは主として5月、10月に上昇する一方で、Dエリアでは4月、8月に上昇する傾向(季節性)がみられる。
また、エリア別宿泊施設定員稼働率(後掲参考図表4)に基づく記述統計(後掲参考図表5)が示すように、2011年~19年間の平均旅館稼働率は A エリアでは 31.1%だが、Dエリアでは11.8%と低い。次に両エリアの稼働率の最大値と最小値をみれば、Aエリアでは54.5%、12.9%、最大値と最小値の幅は41.6%ポイントあるのに対し、Dエリアでは37.6%、1.8%、最大値と最小値の幅は35.8%ポイントである。Aエリアと比べてDエリアでは稼働率の最小値が2%程度と極端に低い時期がある。吉野町を含むDエリアでは、桜の開花時期や夏のレジャーシーズンに観光客が集中している一方で、閑散期である時期には観光客がほとんど訪問していないこともあり、季節の平準化が課題であると言えよう。

 

 

2. 奈良県主要 DMO のエリア別特徴と誘客効果分析

2-1. 奈良県内 DMO エリアの地理的分布

奈良県観光総合戦略では、「宿泊を伴う周遊・滞在型観光の促進」が重要視されているとともに、「観光資源の磨き上げ」についてはDMOの役割が重視されている。まず、奈良県に所在するDMOの分布状況を確認しよう。
図7及び表2が示すように、奈良県内には2つの地域 DMO(斑鳩産業と吉野ビジターズビューロー)と1つの地域連携 DMO(奈良県ビジターズビューロー)が存在している。
斑鳩産業は、民間会社を経営しつつも、DMOとしても活動しているという特徴を有している。斑鳩町をマネジメントエリアとしているが、2021年に近隣自治体である大和郡山市・平群町・三郷町・安堵町・王寺町と連携して「WEST NARA広域観光推進協議会」を設立し、観光誘客に取り組んでいる。
吉野ビジターズビューローは、吉野町をマネジメントエリアとし、町内の各観光協会、商工会、地元金融機関、農林漁業者等、幅広い分野の関係者と連携し観光誘客策を進めている。
また奈良県ビジターズビューローは、奈良市内に位置し、県全域をマネジメントエリアとしている。

 

 

 

2-2. 奈良県主要 DMO の設立と活動状況

次に前項で示したDMOの活動状況をみていこう。
表3は斑鳩産業の設立経緯と活動状況を示している。斑鳩産業は2014年1月に法人が設立され、19年1月に地域DMO(候補法人)として登録された。同年2月には観光拠点「奈良斑鳩ツーリズムWaikaru」を開設し、7月に一棟貸の宿である「いかるが日和」のオープンに取り組んだ。20年1月に改めて地域DMOとして登録され、前述のように 21 年には「WEST NARA広域観光推進協議会」を設立するなど精力的に観光振興に取り組んでいる。
情報発信としては、ホームページの多言語化やプロモーション動画作成などを行っている。受入環境の整備としては前述した「奈良斑鳩ツーリズム Waikaru」において英語対応が可能なスタッフの雇用やホームページを改良し予約システムの多言語化を行った。また、観光資源の磨き上げにおいては、体験コンテンツ造成、二次交通整備(周遊タクシー・バギー・レンタサイクル)等を行っている。

 

 

表4は吉野ビジターズビューローの活動状況を整理したものである。2013年2月に法人が設立、19年3月に地域DMO(候補法人)として登録され、21年11月に改めて地域DMOとして登録された。情報発信としてはECサイトの開設、自社商品ブランドの開発や行政と連携したプロモーション活動を行っている。受入環境の整備では、吉野山地内に無料のWi-Fiスポットを設置し、観光資源の磨き上げとしては旅行業(第2種)を取得し、多様なツアーの企画を行っている。なお、吉野町が16年に行った「吉野町観光マーケティング調査(平成28年度)」を基にDMOは後述するターゲット層を想定している。

 

 

表5は県域DMOである奈良県ビジターズビューローの活動状況を整理したものである。2009年に設立され、16年4月に地域連携DMO(候補法人)として登録され、18年3月に改めて地域連携DMOとして登録された。情報発信としては、外国人誘客のためのプロモーション活動を奈良県と連携して行っている。受入環境整備としては、橿原市の観光案内所である「かしはらナビプラザ」の運営を受託し、国内外の観光客へ情報発信を行っている。また、観光資源の磨き上げとして、外国人旅行者向けの体験プログラム、十津川村の地域資源を活かしたツアーや体験プログラムの造成等を行っている。

 

 

各DMOは誘客ターゲット層を国内客とインバウンド客に分けてそれぞれ設定しており、それらをまとめたのが表6である。
斑鳩産業は国内客について、首都圏の50~70代または3世代(親・子・孫)グループの宿泊客や、近畿・中部圏の日帰り客をターゲットとしている。また、インバウンド客については欧米豪をターゲットとしている。
吉野ビジターズビューローは国内客について、地域の歴史遺産や自然資源を活かし、個人旅行者(都市部在住の女性)、自然志向型の家族世帯や定年退職後の夫婦世帯などをターゲットとしている。また、インバウンド客については、日本文化に理解があり知的好奇心を持つ外国人やロングトレイルなどの山歩きで自然景観を楽しむ外国人をターゲットとしている。
奈良県ビジターズビューローは国内客について、奈良好きの個人旅行者や首都圏を中心とした富裕層の個人旅行者をターゲットとしている。また、インバウンドについては富裕層の欧米豪を中心とした個人旅行者をターゲットとしている。
以上をみれば、各DMOとも欧米豪を中心としたインバウンド客の誘客に取り組むとともに、国内旅行者をもターゲットとしている特徴がある。そこで次項では、各DMOに関係する市町村における日本人及び外国人宿泊者の動向を観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データから確認する。

 

 

2-3. 『宿泊旅行統計調査』個票データからみた主要DMOのエリア別特徴

はじめに斑鳩産業が設立した「WEST NARA 広域観光推進協議会」の構成市町村のエリア(以下、
WEST NARA エリア)をみれば、全宿泊者数は2012年から14年にかけて増加傾向を示し、15年には一旦減少した。16年は増加したものの、以降は横ばいで推移し、19年は再び減少している。
また日本人宿泊者も同様の傾向がみられる。一方、外国人宿泊者比率をみれば、12年の1.5%から15年に4.8%まで上昇し、以降4%程度で推移している。
次に吉野ビジターズビューローがマネジメントエリアとする吉野町をみれば、全宿泊者数は2012年から14年にかけて減少傾向で推移するが、15年以降増加に転じたのち、16年は再び減少した。
その後、17年に一旦増加するも、以降は減少傾向が続いている。一方、外国人宿泊者比率をみれば、12年の0.7%から上昇傾向を示し、15年には6.0%まで上昇した。その後16年以降、低下傾向を示していたが、19年には8.8%まで上昇している。
最後に奈良市における宿泊者の動向を確認する。全宿泊者数をみれば、2012年以降、16年まで増加傾向で推移し、17年に一旦減少するも、18年以降再び増加に転じている。次に日本人宿泊者数をみれば、12年以降、微増ないし横ばい傾向で推移している一方で、外国人宿泊者比率は12年の3.6%から上昇傾向で推移し、19年に24.7%まで上昇している。このように日本人宿泊者が横ばいで推移している中、外国人宿泊者が全宿泊者数を押し上げている。

 

 

 

 

【国籍別外国人宿泊者のシェア】
図8では、全宿泊者数と日本人宿泊者数及び全宿泊者数に占める外国人宿泊者比率を地域別に見たが、ここでは外国人宿泊者に限定し、国籍別の特徴を見てみよう。

<WEST NARA エリア>
図9をみると、東アジアのシェア(青枠)が2012年から15年にかけて上昇したが(12年:50.7%→15年:70.7%)、16年以降低下傾向で推移している(16年:56.9%→19年:25.8%)。うち、台湾のシェアが大幅低下している(12年:39.2%→19年:7.1%)。
一方、欧米豪のシェア(赤枠)をみれば、2017年以降上昇しており(17年:23.3%→19年:54.8%)、うち、フランスのシェア(白抜き)が19年には全体の3割程度を占めている(17年:5.7%、18年:20.1%、19年:31.0%)。

 

<吉野町>
図10をみると、吉野町では東アジア地域のシェアが総じて高いものの、2015年以降シェアは低下傾向を示している(15年:56.7%→19年:39.4)。中でも、中国のシェアが高く、約2~4割程度を占めている(12年:40.8%→19年:29.2%)。
欧米豪のシェアをみれば、2012年から13年にかけてシェアが上昇し(12年:25.8%→13年:34.0%)、14年以降は2割程度のシェアで推移している(14年:28.9%→19年:23.9%)。うち、アメリカやフランスのシェアが一定程度占めている特徴がみられる。

 

<奈良市>
図11をみると、奈良市では2012年以降東アジアのシェアが年々上昇している(12年:30.1%→19年:65.4%)。うち、中国のシェアをみれば、爆買いの影響もあり14年(32.9%)から15年(49.8%)にかけて、16.8%ポイント上昇している。その後も上昇傾向が続き19年は56.0%と全体の5割強を占めている。
一方、欧米豪のシェアをみれば、2012年から16年にかけて低下し(12年:33.1%→16年:14.7%)、足下19年は17.5%と幾分上昇しているものの、東アジアと比べれば依然低い。

 

3. 分析の整理と含意

これまで基礎統計を用いて、1.では県内の宿泊施設数、定員数及び稼働率をみることによって、次に2.では各DMOが関係する市町村の延べ宿泊者数及び国籍別外国人宿泊者シェアの動態を分析することにより、奈良県の観光戦略が抱える課題に光をあてた。これらの分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 宿泊施設数をみれば、県全体の宿泊施設数は増加傾向にある。うち、奈良市などを含むAエリアでは増加しているが、吉野町などが含まれるDエリアでは減少傾向で推移している。また、宿泊施設数をタイプ別にみれば、Aエリアでは旅館が減少する一方でホテルが増加傾向で推移している。また、Dエリアでは旅館、簡易宿所ともに減少している。

2. 宿泊施設の定員数をみれば、Aエリアではホテルの定員数の増加が全体の押し上げに寄与しているが、Dエリアでは旅館の減少が影響し、全体を押し下げている。旅館の平均稼働率をみれば、Aエリア31.1%に対し、Dエリア11.8%と極端な低水準にとどまっている。これまで宿泊施設不足が課題であったが、この問題は県北部では着実に解消されつつある。一方、県南部では低稼働率と宿泊施設の不足は解消されていない。

3. 宿泊者数や外国人宿泊者比率をみれば、WEST NARAエリアでは日本人宿泊者数は微増または横ばいで推移している一方、外国人宿泊者比率は 2012 年以降上昇し、4%程度で推移している。吉野町では、全宿泊者数が概ね減少傾向で推移している。一方、外国人宿泊者比率は12年から15年にかけて上昇し、足下19年は8.8%まで上昇している。奈良市では、日本人宿泊者数が微増または横ばいで推移している中、外国人宿泊者比率が12年以降上昇傾向で推移し、19年には約25%まで上昇している。

4. 国籍別外国人宿泊者のシェアをみれば、WEST NARAエリアでは、東アジアが一定程度占めているものの、足下は台湾を中心に低下傾向で推移している。一方、欧米豪が2017年以降上昇しており、うちフランスが19年に3割を占めている。吉野町では、東アジアが総じて高いが、15年以降低下している。欧米豪は14年以降、2割程度で推移しており、うちアメリカやフランスなどが一定程度を占めている。奈良市では、東アジアが圧倒的に高く、うち中国が5割強を占めている。一方、欧米豪は幾分上昇しているが、東アジアと比べれば低い。

5. 外国人宿泊者比率は、WEST NARAエリアや吉野町では着実に上昇しているが、奈良市のシェアは圧倒的である。京都府の分析事例と同様に、集中している地域からいかに他地域へ周遊させるかが今後の課題となる。すなわち、県南部への宿泊を伴うプログラムの造成が重要となろう。

6. このためにも、各DMOが行う誘客プロモーション及びコンテンツ開発は重要である。例えば、地域の自然資源を活用した体験プログラムの造成などの、県南部へ外国人観光客のみならず日本人観光客をも周遊させる魅力的な仕組みづくりが一層重要となろう。その際、外国人と日本人とに分けるだけでなく、外国人に対しては国・地域ごとの嗜好に合わせて各地域がもつ強みを訴求することが重要となろう。

おわりに

京都府、和歌山県の事例を踏まえ、本稿の前半では基礎統計を用いて奈良県観光の課題を確認し、後半ではDMOのマネジメントエリア別に誘客効果分析を行った。結果、戦略で示された課題である「宿泊を伴う周遊・滞在型観光」の一層の促進が重要であることが確認できた。AエリアとDエリアとの比較から明らかになったように、県内全域への周遊につなげるためにも、交通・道路体系の整備に加え、観光客の宿泊を促進するためのコンテンツ作りが必要である。その際、県の戦略にもあるように奈良県産の食材を使った食の提供などのブランド力の磨き上げも重要となろう。
これまでに筆者たちが行った京都府、和歌山県、奈良県の分析から得られた含意をまとめると、各府県とも各地域が保有する自然、歴史文化遺産を活かしたプロモーションを展開し、訪日外客を着実に増加させてきた。一方で、京都市や奈良市の例が示すように訪日外客が圧倒的に集中する地域とそうでない地域がある。またこれらの地域では比較的日帰り客が多く、宿泊客の拡大に対応できていない。すなわち、宿泊需要のポテンシャルを失っていることになる。こういった課題は、コロナ禍を経験することで見えてきた。今後のインバウンド戦略を考えれば、他地域へ分散・周遊を実現できるプログラム開発が重要となろう。インバウンド需要が回復にするつれて、各自治体はコロナ禍を受けた戦略に基づき、観光地域づくりのかじ取り役を担うDMOの役割がより一層重要となる。
今後は「広域・周遊」という分析視角に注目し、上記以外の関西各府県における観光分析をおこなっていく。

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    • 4月の大型小売店販売額は31カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンドによる高額品の売上が堅調だったことから、26カ月連続のプラス。スーパーは飲食料品などの単価上昇が影響し19カ月連続で増加した。
    • 4月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりに前月比増加。持家が減少したものの、貸家と分譲は増加となり、着工数全体を押し上げた。
    • 4月の建設工事出来高は3カ月ぶりの前年比増加。民間工事、公共工事ともに全国に比して強い。5月の公共工事請負金額は前年比、前月比ともに2カ月連続の増加となった。結果、1-3月期の落ち込みから大幅回復した。
    • 5月の景気ウォッチャー現状判断、先行き判断DIいずれも3カ月連続で前月比悪化。物価の高止まりやコストの上昇が景況感に悪影響を与えている。
    • 5月は輸出入ともに前年比増加となった。輸出は好調な対中国と対欧米の影響で2カ月ぶりに増加に転じた。一方、輸入は対中及び対ASEANが堅調に推移し、対EUが増加に転じたため、2カ月連続で増加した。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は4カ月連続の黒字となった。
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    都道府県別訪日外客数と訪問率:4月レポート No.59

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    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

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    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、4月の訪日外客総数(推計値)は304万2,900人。桜の開花シーズンの影響もあり、2カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば2月は278万8,224人。うち、うち、観光客は254万8,085人と5カ月連続で200万人を超える水準となった。

     

    【トピックス1】

    ・関西4月の輸出額は前年同月比-1.8%と2カ月ぶりの減少。一方、輸入額は同+1.4%と2カ月ぶりの増加となった。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・4月の関空への訪日外客数は77万2,860人となり、過去最高値を更新した。

    ・3月のサービス業の活動は対面型サービス業を中心に悪化した。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比低下。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が低下に寄与し、4カ月ぶりの同低下となった。

     

    【トピックス2】

    ・1月の関西2府8県の延べ宿泊者数は9,352.4千人泊で、2019年同月比+7.9%と6カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は6,574.0千人泊で、2019年同月比+5.3%と6カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は2,778.4千人泊で、同+14.5%と7カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期関西(2府8県ベース)の国内旅行消費額(速報)は1兆350億円。新型コロナ5類移行後、初めての年始休暇の影響もあり、宿泊旅行消費、日帰り旅行消費ともに増加した

    ・国内旅行消費額のうち、宿泊旅行消費額は8,158億円、日帰り旅行消費額は2,193億円であった。

     

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  • 稲田 義久

    人口減少下における活力ある関西を目指して~2050年を見据えて~

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 日本・関西経済軸

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR研究統括兼数量経済分析センター長 稲田 義久

    研究計画

    研究の背景

    2024年4月に人口戦略会議は、全国地方自治体の「持続可能性」についての分析レポートを発表した。その中で、2020年から2050年までの間に若年女性人口の減少率が50%以上になる自治体(消滅可能性自治体)は全国1,729のうち744(43%)あるとし、関西は全198のうち門真市等81の自治体(41%)が該当している。まずは、この状況が前回2014年のレポートと比較して改善しているのか、そして今何が問題になっているかを把握する必要がある。

    国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の推計によると、日本の総人口は2023年の1億2,435万人から2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人になるとされている。特に関西(2府4県)は、全国や関東に比べて人口減少のスピードが速い。社人研の推計を基に2022年~2050年の減少率をみると、全国-19.4%、関東-7.5%に対し、関西は-23.3%となる。

    また、高齢化の進行も厳しい。社人研の推計によると2050年には生産年齢人口が5,540万人と2023年(7,395万人)比25.1%の減少、およそ4人に1人が75歳以上になるとされている。将来の労働力となる子どもの出生数も年々減少しており、人手不足によって社会インフラの維持が困難になる可能性も指摘されている。

    人手不足は足下でも深刻である。帝国データバンクによると、2023年の人手不足を理由とした倒産件数は260件で前年比1.9倍(前年:140件)と過去最多を更新した。業種別では建設業や運輸業が多く、生活に必要不可欠な職種(エッセンシャルワーカー)の人手不足は深刻である。

    一方で、労働参加率を上げ、特にサービス業の生産性を向上させれば人口が減少しても問題ないとする議論もあるが、最適解はどこにあるかについて検討する必要があると考える。

    そこで、全国に比して人口減少・高齢化が厳しい関西において、人口や労働等に関する様々な基礎データを整理し、加えてAPIRがこれまで蓄積してきたデータベースや知識を組み合わせながら総合的に分析しつつ、データを可視化することで、関西各府県及び自治体の特徴と課題を明らかにする。そして中長期的な視点で、この先人口が減っても豊かさと活力を維持・向上させていくための方策を模索していきたい。

    研究内容

    ●関西基礎統計の整理
    ・労働に関する基礎データ(就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査 等)を基に、関西の地域別、産業別、企業規模、性別、年齢別の5軸でデータベースを構築し、県民経済計算に対応できるようなシステム開発及びメンテナンスを行う。
    ・地域別将来人口推計データを整理しつつ、足下と比較して関西の特徴を明らかにする。

    ●関西における詳細なデータ分析と労働需給分析
    ・整理したデータベースを基に産業構造や雇用構造、年齢構造、賃金構造等から、関西が抱える労働問題を総合的に明らかにする。
    ・介護、建設、宿泊サービスの分野に焦点を絞って詳細なデータ分析を行い、どの職種に労働需給のミスマッチが起きるのかを明らかにし、中長期視点で解決策を検討する。

    ●経済成長を維持し、持続可能な社会をつくるための施策の検討
    ・労働需給の課題に対してどのような処方箋が考えられるか、有識者等から様々な視点での知見をもらい、関西において実現できる未来の姿を模索する。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・マクロデータの分析成果(関西経済白書、トレンドウォッチ)
    ・人口減少による人手不足の課題の共有化(研究会等での情報提供と議論)

    ・人手不足(特に介護、建設、宿泊分野)の解消に向けた対応の検討
    ・人口減少下においても人手不足を補い経済力を維持するための施策の立案

    研究体制

    研究統括・リサーチリーダー

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学 名誉教授

     

    サブリサーチリーダー

    松林 洋一  APIR主席研究員、神戸大学大学院経済学研究科 教授

     

    リサーチャー

    野村 亮輔  APIR副主任研究員
    吉田 茂一  APIR研究推進部員
    古山 健大  APIR研究推進部員
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年5月)<5月末の統計集中発表日のデータを更新して、4-6月期の実質GDP成長率予測を前期比年率+2.0%に上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

     

    4-6月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、生産サイドは同+2.4%、平均同+2.2%と予測する。市場コンセンサス(同+2.10%)は支出サイドとほぼ同じ成長率を予測(図表1参照)。

    図表1

     

    4-6月期インフレ予測の動態

    ▶4月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.2%と32カ月連続の上昇だが、インフレ率は2カ月連続で前月から縮小。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+2.4%と25カ月連続の上昇だが、インフレ率は8カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、4-6月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.4%、国内需要デフレータを同+0.6%と予測。交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.3%と予測する(図表2参照)。

    図表2

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  • 高林 喜久生

    大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下田 充 / 下山 朗 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

     

    1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
    2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
    3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
    4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.69 -足踏み局面から緩やかな持ち直しへ:先行きの回復は企業の賃上げペース次第-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 小川 亮 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 古山 健大

    ABSTRACT
    1. 2024年1-3月期の関西経済は、足踏み状況から緩やかな持ち直しに向かう局面にある。家計部門では、消費者センチメント、所得、雇用など力強い回復には至らないものの、底打ちの兆しが見られる。企業部門では、生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きであるが、景況感は堅調である。対外部門では、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しており、財輸出は持ち直してきている。
    2. 家計部門は一部に弱い動きも見られるが、緩やかに持ち直しつつある。大型小売店販売、センチメント、所得、雇用など多くの指標で回復ないし持ち直しの動きとなっている。実質賃金も依然として前年比マイナスが続いているが、底打ちの兆しが見られる。一方、住宅市場は低調である。
    3. 企業部門は、足踏みの状況が続いている。生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きとなっている。設備投資計画は、非製造業で前年の反動が見られるなど全国に比べてやや控えめとなっている。景況感は製造業・非製造業ともに堅調に推移している。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに底打ちの兆しが見られる。輸出は対中国向けの持ち直しを背景に4四半期ぶりの前年比プラスとなった。インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高など増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、請負金額・出来高とも前年を下回り、弱い動きとなった。
    6. 関西の実質GRP成長率を2024年度+1.2%、25年度+1.4%と予測。22年度以降1%台前半の緩やかな伸びが続く。24年度は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、24年度は-0.3%ポイント、25年度は-0.1%ポイントといずれも下方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は24年度+0.5%ポイント、25年度+1.0%ポイントとなり、緩やかな回復で成長を支える。公的需要は万博関連の投資により24年度+0.4%ポイントと成長を下支えるが、25年度には万博効果が剥落し、小幅寄与となる。域外需要は24年度+0.3%ポイント、25年度+1%ポイントとなる。
    8. 経済成長率を日本経済予測と比較すると、24年度は関西が全国を上回り、25年度はほぼ同程度となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要の押し上げにより全国を上回る伸びとなる。25年度は関西、全国とも民間需要が成長の牽引役となる。
    9. 今号のトピックスでは「関西各府県GRPの早期推計」および「各機関における大阪・関西万博の経済波及効果の比較」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:詳細版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを5%割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化した。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス、バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長となった。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期は自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。4-6月期以降は強めの回復を見込むが、1-3月期のマイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下した。このため24年度平均成長率は低めにとどまる。25年度は内需と純輸出のバランスのとれた潜在成長率を上回る回復となろう。
    6. 8四半期連続の実質賃金減少と自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、昨年春闘を上回る賃上げが実現し、インフレ高止まりの影響が剥落する、24年後半以降となろう。また、7-9月期には定額減税の効果から可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 2024年夏場にかけ消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

     

    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 小川 亮

    関西2府4県GRPの早期推計 No.3

    経済予測

    経済予測 » 関西2府4県GRPの早期推計

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    小川 亮 / 稲田 義久 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    【関西各府県のインバウンド消費の影響】

    ・2023年度の早期推計値をみれば、年度最終四半期の工業生産の落ち込みが影響し、大阪府を除いてすべての府県で前年比減少となっている。一方で、大阪府は同+1.1%と比較的好調を維持している。プラスを維持する要因の一つは、好調なインバウンド消費と考えられるだろう。

     

    【ポイント】

    ・2020年度のGRPは、COVID-19の経済的影響のもと、関西各府県のマイナスの寄与度が大きく増し、国全体(-4.1%)に近いマイナス成長。

    ・2021年度には、21年度には、反転して関西全体で+3.3%のプラス成長であった。

    ・2022年度では+1.1%となり回復の傾向が続いたが、23年度はインバウンドの押上げ効果があるなか製造業による不振が相殺した結果として-0.7%のマイナス成長になると予想される。

     

    コロナ禍からの回復過程(2019年度=100)
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.133-景気は足下、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価の高止まりがリスク要因-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下、先行きともに悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、1-3月期は大幅な落ち込み。雇用環境は、失業率は横ばいだが、就業者数と労働者数が減少しており回復に停滞がみられる。大型小売は、堅調なインバウンド需要が影響し持ち直している。貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小。先行きは自動車の生産回復が見込まれているものの、消費者物価の高止まりが景気の下押しリスクとなっている。
    • 輸送機械、生産用機械や電子部品・デバイス等の増産もあり、3月の生産は3カ月ぶりに前月比上昇した。しかし、1-3月期は、輸送機械の落ち込みが影響し、大幅減産となった。
    • 3月の失業率は前月からほぼ横ばいだが、就業者数と労働力人口に減少がみられた。また、就業率も前月より低下した。足下の雇用情勢に改善はみられず、労働需給はともに低調である。
    • 2月の現金給与総額は3カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より拡大した。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 3月の大型小売店販売額は30カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加やオケージョン需要が堅調だったことから、25カ月連続のプラス。スーパーも18カ月連続で拡大した。
    • 3月の新設住宅着工戸数は2カ月連続の前月比減少。持家、分譲は増加となったが、貸家は減少した。依然弱い動きとなっている。
    • 3月の建設工事出来高のうち、公共工事は3カ月連続の前年比減少。一方、4月の公共工事請負金額は4カ月ぶりに増加に転じた。
    • 4月の景気ウォッチャー現状判断DIは2カ月連続で前月から悪化。円安による輸入コストの上昇や物価の高止まりが影響した。また、先行き判断DIも引き続き警戒感が強いこともあり、2カ月連続で悪化した。
    • 4月の輸出は2カ月ぶりに前年比減少。中国向けは2カ月連続で持ち直したものの、EUと米国向けが大幅減少したためである。一方、輸入は2カ月ぶりの前年比増加。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は前年比縮小。
    • 4月の関空経由の外国人入国者数は桜の開花時期でインバウンド需要が高まり、開港以来最高値を更新。外国人入国者数は堅調に推移している。
    • 4月の中国経済は、生産は堅調な推移が続くが、消費の回復には停滞感が強まっている。雇用回復の遅れと不動産市場の不況には依然として大きな改善が見られない。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:速報版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった。
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう。
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長である。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期には自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。1-3月期マイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下したため、4-6月以降は回復が見込まれるものの、24年度平均成長率は低めにとどまる。内需と純輸出のバランスのとれた回復は25年度となろう。
    6. 実質賃金がプラス反転せず、また自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、春闘を上回る賃上げの実現とインフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。加えて、7-9月期には定額減税の効果が表れるため可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 24年度前半にかけて消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

    ※本レポートの詳細版については5/29(水)に公表予定

    予測結果の概要

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