研究成果

research

DMOのインバウンド誘客の取組とその効果(2) -マーケティング・マネジメントエリアに着目した分析:和歌山県の事例から-

Abstract

本稿では和歌山県の主要な観光地域づくり法人(以下、DMO)を取り上げ、『観光客動態調査報告書』や観光庁の『宿泊旅行統計調査』の個票データを基礎統計として用いて、マーケティング・マネジメントエリア(以下、マネジメントエリア)別にインバウンド誘客の取組とその成果を分析する。分析を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

 

1.和歌山県の外国人宿泊者比率をDMOのマネジメントエリア別にみれば、高野町では約5割程度となっている。田辺市熊野ツーリズムビューロー(以下、TKTB)地域では約9%程度となっている。また、白浜町では7~8%台で推移している。

2.外国人宿泊者を国籍別にみれば、(1)高野町は、欧米豪のシェアが3割強と高く、一方、アジア地域のシェアも1割程度を占めている。(2)TKTB地域では、東アジア地域のシェアが5割程度と高い。しかし、(3)TKTB地域の一部である「熊野古道」ルートに限定すれば、欧米豪のシェアが5割弱に大幅上昇。この背景にはTKTBの欧米豪に対する同ルートへの誘客効果がみられる。(4)白浜町は、東アジアをターゲット層としているため、そのシェアは7割超と高い。一方、欧米豪のシェアは拡大しているが、高野町やTKTB地域と比較すると小さい。

3.TKTB地域と熊野古道ルートの比較から、同ルートの起点旧田辺市、終点新宮市や那智勝浦町ではアジア地域のシェアが高い。これは白浜町からこれらへの地域へとアジア人が周遊している可能性が高く、一層の地域連携の高まりが周遊性を拡大させる可能性を示唆している。

4.持続可能な経営の観点からすれば、これまで多くのDMOでは、単価の高い欧米豪へとインバウンドターゲット層をシフトさせてきたが、コロナ禍でこの戦略が変更を迫られている。インバウンド需要が完全に消滅している現在では、回復を見据えこれまでの内外比率を見直すことが喫緊の課題となっている。

本文

はじめに

人口減少下の日本の成長産業として重要視される新たな観光業では、DMOにその中心的な役割を果たすことが期待されている。新たな観光業においては、どちらかと言えば、急速に伸びてきたインバウンドの誘客戦略に力点を置いてきたが、コロナ禍はそれに大きな反省を迫った。すなわち、コロナ禍後のフェーズを想定して、インバウンドのみならず国内を含めた観光産業全体の高付加価値化を目指すことが課題となっている。
我々は関西の各府県の主要な特徴あるDMOの活動を取り上げ、その成果(誘客効果)を紹介するとともに、基礎統計に基づき観光政策の効果の数量的分析と課題の抽出を意図している。本格的な観光政策の数量分析に進む前の段階として、まず京都府、和歌山県、奈良県の特徴ある DMO を取り上げ、政策分析の基礎的研究を予定している。基礎的研究シリーズの前回報告(Trend Watch No.76)では、京都府のDMOを取り上げ、インバウンド誘客の取組とその効果を分析するとともに、課題を抽出した。

 

 

今回は、和歌山県の観光業(特徴あるDMO)を取り上げる。図1は最近の和歌山県における観光客の動態で、延べ宿泊者数の前年比伸び率とそれへの寄与度を国内客と訪日外客とに分けてみたものである。この間(2012~20年)で、延べ宿泊客総数の伸びが減少したのは、16年(-7.7%)、17年(-1.5%)、そして20年(-41.0%)の3年である。16年は、14年の消費増税による景気停滞の影響もあり国内客が大幅減少(-9.0%ポイント)したことに加え、訪日外客も前年(爆買い)の反動で伸びが減速した(15年:+2.4%ポイント→16年:+1.3%ポイント)。また20年には、コロナ禍の影響が大きく出ている。図が示すように、この間、国内景気(所得の変動)の影響を受け、国内宿泊客の全体への寄与度は大きく変動する一方で、訪日外客は一貫して全体の押し上げに寄与してきた(後掲参考図表1参照)。訪日外客が減少したのはコロナ禍の20年を除いて17年3のみである。和歌山県の外国人宿泊客の宿泊客総数に占める比率はこの間7%ポイント弱(12年:2.5%→19年:9.1%)と着実に上昇しているが、前回取り上げた京都府の25%ポイント(12年:14.2%→19年:39.1%)の上昇には及ばない。和歌山では国内客のシェアが京都府に比して依然高いことがわかる。以下では、このような特徴を持つ和歌山県観光業を対象に、観光政策の取組とDMOによる誘客効果分析を行う。

1. 和歌山県における観光施策の取組

アジア太平洋研究所(2021)で明らかにしたように、和歌山県では関西各府県に比して、観光行政を推進する人員体制及び予算規模が大きく、県が率先して県内にある各観光資源の宣伝を内外に行っている。また、DMOも各地域が持つ観光資源の魅力を外国人に訴求するために、海外への宣伝活動などを精力的に行っている。本節では、次節の分析の理解を容易にするために、まず和歌山県の観光施策の取組(1-1.)及び県内DMOの活動状況(1-2.と1-3.)を簡単に整理しておこう。

1-1. 和歌山県の観光行政の現状

和歌山県では、『和歌山県観光立県推進条例』を既に2010年に制定しており、それに基づき『和歌山県観光振興実施行動計画』を毎年策定し、観光行政を展開している。コロナ禍を受けて、新たに策定された最新の『和歌山県観光振興実施行動計画(観光振興アクションプログラム2021)』によれば、(1)安心・安全な観光地の形成、(2)「新たな旅のスタイル」の普及・促進、デジタル化の推進、(3)「蘇りの地、わかやま」キャンペーンの展開、(4)インバウンドの段階的回復に向けたプロモーション展開が主要施策の内容となっている。
うち、国内観光客誘客については、「蘇りの地、わかやま」キャンペーンを展開し、県内観光需要の喚起策を実施、コロナ禍からの観光産業の振興を行っている。また、県内の自然を活かした「水の国、わかやま」や太平洋岸自転車道と連携した「サイクリング王国わかやま」などの発信にも取り組んでいる。

インバウンド誘客については、アフターコロナに対応するように、アウトドア観光の推進や国立公園や南紀ジオパークと連携して誘客促進を行う予定である。ターゲット層としては、アジア、欧米豪と2つのカテゴリーを想定している。アジア向けでは「安全・安心」や「健康」、「アウトドア(屋外型)」、「サスティナビリティー(持続可能性)」をキーワードとした体験プログラムやツーリズムを、欧米豪向けでは世界遺産「高野山・熊野古道」などの歴史や伝統文化に加え、豊かな自然を生かした体験プログラムやガーデンツーリズムに取り組む予定である。
次項では、観光地域づくりを支えている DMO に注目し、その活動状況を示す。

 

1-2. 和歌山県内 DMO エリアの整理

和歌山県では、2021年11月時点で登録DMOが7社(地域連携DMO:1社、地域DMO:6社)、候補DMOが3社(地域連携 DMO:2社、地域 DMO:1社)存在する(表1)。

和歌山県のDMOの特徴は、世界遺産の高野山や熊野古道など自然、歴史文化を背景に活動している高野町観光協会、TKTBや紀州の環がある。また、県内で生産している農産品や海産物など食文化を背景に活動している高野山麓ツーリズムビューロー、紀の川フルーツ観光局や那智勝浦観光機構がある。民間の空港運営会社を中核に周辺自治体と連携する DMOに南紀白浜エアポートがあり、活動の背景は様々である。なお、2021年11月に県内全体をマネジメントエリアとする和歌山県観光連盟が登録されている。

 

 

図1は表1で示した和歌山県のDMOから主要DMOを選び、そのマネジメントエリア内の宿泊状況(2019年)をみたものである。

宿泊客総数(550万人泊)をマネジメントエリア別・降順にみれば、南紀白浜観光協会や南紀白浜エアポートの白浜町では約203万人泊、和歌山市観光協会の和歌山市では約102万人泊、TKTBや南紀白浜エアポートの田辺市では約47万人泊、那智勝浦観光機構や南紀白浜エアポートの那智勝浦町では約37万人泊、高野町観光協会の高野町では約22万人泊、南紀白浜エアポートの新宮市では約15万人泊となっている。

次項ではここから分析対象エリアを、①高野山を有するエリア(高野町)、②熊野古道を有するエリア(田辺市、那智勝浦町、新宮市)、③白浜エリア(白浜町)に3つに絞る。具体的には、高野町観光協会、TKTB、南紀白浜観光協会といった特徴のある3つのDMOを取り上げる。

 

 

1-3. 和歌山県主要DMOの設立と活動状況

本項では、和歌山県の主要DMOの設立の経緯と活動状況を時系列に沿って整理し、各エリアの特徴を確認する。その際、各DMOの活動状況を①情報発信、②受入環境の整備、③観光資源の磨き上げといった観点から整理し、またターゲット層の特徴にも注目する。

 

【高野町観光協会】
表2は世界遺産の高野山を中心に活動している高野町観光協会の活動状況を整理したものである。
高野町観光協会は2015年7月に設立、20年1月に地域DM として登録された。
これまで情報発信として地域コミュニティFMや国際線機内でのビデオ放映などを行い、受入環境の整備ではHPの多言語化やトイレの洋式化、キャッシュレス決済導入のサポートなどを行った。観光資源の磨き上げという点では、ナイトツーリズム、時間消費型観光の推進などを実施している。
また、22年夏に開業が予定されている高野山デジタルミュージアムのプロモーション活動も行っている。

 

【TKTB】
表3は世界遺産である熊野古道の保全や誘客に取組む TKTB の設立と活動状況を整理したものである。田辺市の合併7を契機に2006年に設立され、10年には法人化、旅行業登録を行い、着地型旅行業を開始した。19年3月に地域DMOとして登録され、21年度には観光庁から重点支援DMOとして選定されている。

これまで情報発信として2014年に田辺市とスペイン・サンティアゴ・デ・コンポステーラ市が観光交流協定を締結し、その後は共同プロモーションの実施や共通巡礼などを行いインバウンド客の誘客に成功している。また、受入環境の整備では、早くからインバウンド対策を実施しており、言語表現の統一化や自社で旅行業取引を行うことで、これまでに多くのインバウンド旅行客のデータを蓄積している。観光資源の磨き上げという点では、トラベルサポートセンター「熊野トラベル」の開設や熊野古道女子部の立ち上げ、「一人旅」「女子旅」をキーワードとしたコンテンツ開発を行っている。20年はコロナ禍で訪日外客が激減したことから、熊野古道の保全を目的に、クラウドファンディングを実施した。

出所:観光庁HP「観光地域づくり法人形成・確立計画」より筆者作成

 

【南紀白浜観光協会】
表4は南紀白浜観光協会の設立と活動状況を整理したものである。2016年5月にDMO白浜(仮称)設立準備協議会が発足し、7月に地域 DMO(候補法人)として登録された。18年4月に(一社)南紀白浜観光局が設立され、19年3月に地域DMOに登録された。また 21年4月に白浜観光協会との組織統合により(一社)南紀白浜観光協会が誕生した。

情報発信として、首都圏を中心としたプロモーションに取組み、2017年には田辺市との共同プロモーションや関西圏を中心とした合宿誘致事業を展開している。受入環境の整備という点では、20年に第3種旅行業を取得しており、自社での旅行商品の開発、販売を行っている。観光資源の磨き上げの点では、18年からインスタグラムによる写真投稿を促すフォトラリーを開催している。

 

【各DMOのターゲット層】
それぞれのDMOでは誘客ターゲット層を設定しており、それを整理したものが表5である。高野町観光協会では自主調査に基づき、国内観光客のうち特に若い世代をターゲットにしている。また、インバウンドではこれまで約8割が欧米地域であったが、今後の旅行形態が大きく変わることを見据え、新たな価値と需要を創造することとしている。
TKTBでは、これまでの実績から引き続き欧米豪をターゲットとするが、コロナ禍を受け国内観光客も重視している。特にアクセスの良さから首都圏及び関西圏に注目し、また首都圏の20~40代の女性に絞るなど、世代別に旅行商品を造成、プロモーションしている。

南紀白浜観光協会では、国内は首都圏を中心に知名度向上を図り、インバウンドはこれまでの実績から東アジア地域をターゲットとしている。

 

【市町村別の外国人シェア】
本節では各主要DMOに注目し、その設立と活動状況を整理した。次節では主要DMOの誘客分析を展開するが、本節の最後において、和歌山県の外国人宿泊者数の特徴を市町村別・国籍別に整理しておこう。

図3は2014年から19年のDMOエリア内の外国人宿泊者数の国・地域別シェアをみたものである。例えば、19年のアジアからの外客をみれば、白浜町(94.0%)が最も高く、また和歌山市(85.2%)、那智勝浦町(64.3%)も高いのが特徴的である。一方、田辺市(23.2%)や高野町(11.7%)では低い。欧米豪からの外客をみれば、高野町(86.8%)や田辺市(68.8%)のシェアが高いのに比して、和歌山市(10.0%)や白浜町(5.5%)は低い。また新宮市や那智勝浦町に注目すれば、熊野古道エリアであるため欧米豪(新宮市:54.7%、那智勝浦町:34.7%)のシェアが高いことに加え、白浜町と近接していることからアジア(新宮市:38.8%、那智勝浦町:64.3%)が高いことも特徴的である。
このように各DMOが取り組んでいる施策の影響もあり、各市町村によってシェアに違いがあらわれていると考えられる。

 

2. 和歌山県主要DMOのエリア別特徴と誘客効果分析

2-1.使用する基礎統計

本節では前節で取り上げた主要DMOについて、和歌山県『観光客動態調査報告書』に加え観光庁『宿泊旅行統計調査』の個票データ8という2つの基礎統計を用いて分析を行う。前者のデータからは、国内旅行者数や外国人宿泊者数のみならず、各市町村における宿泊施設数、宿泊施設のタイプや宿泊客の収容力といったなどが把握可能である。後者のデータでは、前者で把握できないより詳細な国籍別の外国人宿泊者の情報が利用できる。2つの統計を合わせて利用することで新たな特徴が見えてくる。

2-2. 『観光客動態調査報告書』からみた主要DMOのエリア別特徴

【宿泊施設数】
本項では『観光客動態調査報告書』を用いて、和歌山県全体の宿泊施設数や各主要DMOがマネジメントエリアとしている市町村の宿泊施設をタイプ別にみることで各エリアの特徴を明らかにする。また、各エリアの宿泊収容人数も確認する。
図4は和歌山県の主な宿泊施設数の推移を市町村別にみたものである。図が示すように、県全体の施設数は2010年の761軒から17年には664軒へと減少した後、18年以降増加傾向を示し、20年には922軒となっている。

 

次に図5ではDMOのマネジメントエリアとなる市町村に所在している宿泊施設をタイプ別に分けて推移をみたものである。各市町村の特徴は以下の通りである。

<高野町>
宿泊施設数は2010年の58軒から20年は56軒と微減しているものの、ほぼ横ばいで推移している。

また宿泊施設のタイプをみれば、宿坊のシェアが2010年:87.9%から20年:92.9%と圧倒的であり、ホテルや旅館などの宿泊施設はほとんど見られない。

<田辺市>
宿泊施設数は2010年の88軒から増加傾向を示し、20年には128軒と1.5倍増加している。

宿泊施設のタイプをみれば、民宿が最も多い(10年:42軒→20年:55軒)。次いで、旅館が多いが、10年の30軒から20年には24軒と幾分減少している。一方、ゲストハウスが17年の9軒から20年には23軒と約2.6倍増加している。

<新宮市>
宿泊施設数は2010年の24軒から20年には44軒と1.8倍増加している。

宿泊施設のタイプをみれば、ホテル、旅館、民宿がほぼ同水準で推移している一方で、近年は民泊が増加しており(18年:13軒→20年27軒)、20年には市全体に占めるシェアが 61.4%まで上昇している。

<那智勝浦町>
宿泊施設数は2010年の47軒から20年には51軒と微増している。
宿泊施設のタイプをみれば、民宿が2010年の25軒から 20年には11軒まで減少している一方で、18年以降ゲストハウスが増加しており(18年:12軒→20年22軒)、20年には町全体に占めるシェアが43.1%まで上昇している。

<白浜町>
宿泊施設数は2010年の 147軒から着実に増加しており、特に18年(178軒)から20年(297軒)にかけて急増している。

宿泊施設のタイプをみれば、総じて民宿が多いものの、近年では民泊が急増しており(18 年:14軒→19年:96軒→20年:141軒)、町全体の施設数を押し上げている。また、国内有数の観光地ということもあり、保養所、貸別荘などが他エリアに比して多いことが特徴である。

<和歌山市>
宿泊施設は2010年の66軒から20年には6 軒とほぼ横ばいで推移している。

宿泊施設のタイプをみれば、旅館が2010年の37軒から20年に14軒まで減少している一方でホテル(10年:20軒→20年29軒)が幾分増加している。また、ゲストハウス(17年:6軒→20年9軒)や民泊(18年:4軒→20年:9軒)も増加している。

最後に各市町村の宿泊施設の県内シェアを整理しておく。白浜町(2010年:19.3%→20年:32.2%)、田辺市(10年:11.6%→20年:13.9%)、新宮市(10年:3.2%→20年:4.8%)はいずれも上昇しており、2市町で県全体の 46.1%を占めている。一方、その他市町村(10年:43.5%→20年:30.2%)、和歌山市(10年:8.7%→20年:7.4%)、高野町(10年:7.6%→20年:6.1%)、那智勝浦町(10年:6.2%→20年:5.5%)はいずれも低下している。

 

【宿泊施設収容力】
図6は上述した宿泊施設の収容力を市町村別に示したものである。まず全体の特徴を述べたのち、各市町の特徴をみてみよう。

 

<全体の特徴>
2010年から20年間の推移をみれば、白浜町(10年:12,081人→20年:12,520人)、和歌山市(10年:5,326人→20年:5,619人)、田辺市(10年:3,563人→20年:3,996人)や新宮市(10年:852人→20年:1,077人)はいずれも増加している。一方で、高野町(10年:6,903人→20年:6,229人)や那智勝浦町(10年:6,465人→20 年:3,806人)は減少していることがわかる。

 

<高野町>
施設の収容力をみれば、2010年の6,903人から減少傾向となり18年には6,198人まで減少している。19年には6,208人へと増加に転じ、20年には 6,229 人となったが、10年の水準を下回っている。減少要因としては、宿坊の収容力の減少が大きく、10年の6,779人から17年に6,185人へ減少して以降、横ばいで推移している(後掲参考図表4参照)。

<田辺市>
施設の収容力をみれば、2010年の3,563人から15年には3,192人へ減少したものの、16年以降は増加傾向で推移している。増加要因としては、ホテルの増加が大きく、10年の602人から足下20年には1,188人と約2倍増加している。また、近年ではゲストハウスも増えており、17年の109人から20年は221人へと着実に増加している(後掲参考図表4参照)。

<新宮市>
施設の収容力をみれば、2010年の852人から増加傾向で推移し、20年には1,077人まで増加し
ている。増加要因としては、ホテルと民泊の増加が大きく影響しており、特に民泊は18年の90人
から足下20年には198人まで増加している(後掲参考図表4参照)。

<那智勝浦町>
施設の収容力をみれば、2010年の6,465人から減少傾向となり、20年には3,806人となっている。減少要因としては、旅館の減少が大きく、10年の5,763人から20年には3,108人まで減少している(後掲参考図 4参照)。

<白浜町>
施設の収容力をみれば、2010年の12,081人から16年の10,963人へ減少した後、17年以降再び増加傾向を示し、足下の20年は12,520人となっている。うち、ホテルの収容力が10年の1,475人から20年には2,436人まで増加し、民泊も18年の219人から20年は1,105人まで増加している(後掲参考図表4参照)。

<和歌山市>
施設の収容力をみれば、2010年の5,326人から増加傾向で推移し、足下20年は5,619人まで増加している。うち、ホテルの収容力が10年の2,455人から20年に3,971人まで増加している(後掲参考図表4参照)。

 

2-3. 『宿泊旅行統計調査』個票データからみた主要DMOのエリア別特徴

【宿泊者数、外国人宿泊者比率】
ここでは和歌山県内における宿泊者数の推移(2012~19年)を、宿泊者属性別及び地域別にみていく(図7及び参考図表5)。

全宿泊者数は2012年の2,657千人泊から14年の2,502千人泊に減少するも、好調なインバウンドの影響もあり反転に転じ、以降着実に増加し、19年には2,959千人泊となっている。
うち、日本人宿泊者数についても同様の傾向となっているが、2013~14年は2年連続で減少している。14年の消費増税の影響が大きい。15年以降は、増減を繰り返し、均してみれば微増にとどまる。

一方、外国人宿泊者数は急速に伸び、2016年に325千人泊とピークを迎える。以降、伸びは減速するものの、高水準を維持している。結果、12年と比較して19年は約4倍に拡大している(後掲参考図表5参照)。
2019年の宿泊者数を地域別にみると、白浜町(全宿泊者:101万7千人泊:日本人:94万3千人泊、外国人:7万4千人泊)が最も多く、次いでTKTB 地域(全宿泊者:62万 1千人泊:日本人:56万8千人泊、外国人:5万3千人泊)、高野町(全宿泊者:7万4千人泊:日本人:3万9千人泊、外国人:3万5千人泊)の順となる。

 

次に属性別宿泊者のシェアを地域別にみてよう(図8及び参考図表5)。

全宿泊者については、白浜町のシェアは高水準ながら縮小傾向にある(2012年:42.8%→19年34.4%)。TKTB地域では2012年(23.9%)から16年(30.1%)にシェアは拡大するも、足下19年(21.0%)は12年と同水準となっている。一方、高野町はこの間、約1~3%程度のシェアを維持している。

日本人宿泊者については、全宿泊者と同様に白浜町のシェアは低下するが(12年:43.3%→19年:35.6%)、依然高水準を維持している。TKTB地域のシェアは16年(31.6%)に拡大するが、足下19年(21.4%)は縮小している。一方、高野町はこの間、約1.5%程度のシェアを維持している。

外国人宿泊者については、白浜町のシェアは2014年にピークを迎え(34.8%)、以降は約 20%程度を維持している。TKTB地域のシェアは、14年、15年に 10%台に低下するも(14年:11.5%、15年:10.2%)、以降おおむね 20%台を維持している。高野町のシェアは、16年にかけて9%程度から5%程度まで低下したが、以降10%程度まで回復している(12年:9.1%→16年:4%→19年:11.4%)。
なお、県全体に占める3地域のシェア(2019年)は、全宿泊者及び日本人宿泊者では約60%、外国人宿泊者では約50%となっている。

 

図8では地域別のシェアをみたが、図9では各地域における全宿泊者数及び日本人宿泊者数を棒グラフで示し、全宿泊者に占める外国人宿泊者比率を折れ線グラフであらわしている。

<高野町>
全宿泊者数は2014年、16年に一旦落ち込むが、以降増加傾向となっている。一方、日本人宿泊者数はおおむね同水準での推移となっている。外国人宿泊者の比率は右肩上がりとなっていることから、高野町では外国人宿泊者数の増加が、全宿泊者数の増加につながっていることがわかる。なお、高野町の外国人宿泊者の比率は、足下の19年では約5割に近づいており、全宿泊者の半数が外国人となっている特徴的な地域である。

<TKTB 地域>
全宿泊者数は2016年をピークに減少傾向を示しており、日本人宿泊者数も同様の推移がみられる。一方、外国人宿泊者の比率は上昇傾向(12年:2.4%→19年:8.5%)を示していることから、外国人宿泊者数が増加していることがわかる。

 

<白浜町>
全宿泊者数は2012年減少傾向で推移したが、2016年に底打ちとなり、以降は増加傾向を示している。また、日本人宿泊者数も同様の傾向がみられる。一方、外国人宿泊者の比率は 17年にかけ上昇傾向を示し、以降7~8%で推移している。

 

【国籍別外国人宿泊者】
図9では、全宿泊者数と日本人宿泊者数を、また全宿泊者に占める外国人宿泊者比率の推移を地域別にみたが、ここでは外国人宿泊者に限定し、その国籍別の特徴をみる(図10~図13)。

<高野町>
図10をみると、2012~19年を通じて、欧米豪のシェアが高く(12年:48.7%→19年:33.9%)、中でもフランスが1~2割程度を占めている(12年:25.9%→19年:10.5%)。アジア地域のシェアをみると、高野町では1割程度で(12年:18.2%→19年:11.1%)、県内でも特徴のある地域となっている。なお、「国籍不明」のシェアが他地域と比べて高い年も多いため、動向に注意を要する。

 

<TKTB 地域>
図11をみると、この間、東アジア地域のシェアが高い(2012年:81.8%→19年:56.6%)。なかでも台湾のシェアが最も高く、13 年には単独で約 5 割を占める(48.0%)。15 年以降は欧米豪(12年:5.9%→19 年:27.5%)や東南アジア地域(12年:1.5%→19年7.8%)のシェアも上昇している。うち、スペインのシェアが19年には4%程度拡大しており、この背景には表3でみたように、14年のスペイン・サンティアゴ・デ・コンポステーラ市との観光交流協定締結の影響が考えられる。

 

<熊野古道ルートに限定したTKTB地域>

図11では田辺市、新宮市、那智勝浦町の3市町全域の国籍別シェアをみたが、図12では「熊野古道」ルートの宿泊施設を対象に絞り、その特徴をみる。

東アジア地域をみれば、TKTB地域では大きなシェア(2012年:81.8%→19年:56.6%)を示していたが、熊野古道ルートに限定した図12では3~4割程度にまで縮小している(12年:41.7%→19 年:30.9%)。

一方、欧米豪のシェアをみれば、TKTB地域ではシェア(2012年:5.9%→19年:27.5%)が小さかったのが、熊野古道ルートに限定すればシェアは大幅上昇している(12年:36.9%→19年:48.3%)。とりわけオーストラリア(12年:3.4%→19年:14.5%)、スペイン(15年:6.5%→19年:10.1%)などが比較的高いシェアを占めており、表5で示した通りTKTBがターゲット層としている欧米豪が着実に増加していることがわかる。

 

<白浜町>
図13をみると、白浜町では東アジア地域が7割を超えるシェアとなっており(2012年:91.2%→19年:76.4%)、空港及び海路からのアクセスも便利なことから、アジア地域から人気の旅行先であることがわかる。中でも中国のシェアが年々拡大しており、足下の19年では33.5%と、東アジア地域の中で最も高い。

一方、欧米豪のシェアは、12年が2.3%であったのに対し19年は 5.3%と拡大しているものの、高野町やTKTB地と比較すると低い。

 

3. 分析の整理と含意

前節では和歌山県の主要DMOの活動状況を整理し、各DMOの誘客効果について基礎統計を用いて分析を行った。これまでみたように和歌山県は世界遺産の自然、歴史文化や県内の食文化を観光資源として上手く活用しプロモーションを行うことで、インバウンド誘客に取り組んでき。結果、訪日外客は着実に増加してきた。分析結果を整理し、得られた含意は以下のようにまとめられる。

1. 2012~20 年において、延べ宿泊客総数の伸びが減少したのは、16年(-7.7%)、17年(-1.5%)、そして20年(-41.0%)の3年であるが、16 年は日帰り客数が増加した結果、県全体の観光入込客数では減少は 2 年にとどまり、着実に増加していることがわかる。宿泊客のうち、訪日外客は一貫して全体の押し上げに寄与している。

 

2. 県全体の宿泊施設数をみれば、2010年から17年にかけて減少した後、インバウンドブームの影響もあり、18年以降は着実に増加している。市町村別では、白浜町、田辺市、新宮市や那智勝浦町が増加している一方で、和歌山市や高野町はほぼ横ばいで推移している。また、施設タイプ別でみれば、白浜町や田辺市では、民泊やゲストハウスが近年増加しているのが特徴といえよう。

 

3. エリア別宿泊者数、外国人宿泊者比率をみれば、高野町では、日本人宿泊者数はおおむね同水準で推移しているが、外国人宿泊者比率は右肩上がりで上昇し、足下2019年では約5割となっている。TKTB地域では、日本人宿泊者が16年をピークに減少傾向を示す一方、外国人宿泊者比率は上昇傾向し、外国人宿泊者数が増加している。白浜町では、日本人宿泊者数は12年以降減少傾向で推移したが、16年に底打ちし、以降は増加傾向を示している。一方、外国人宿泊者比率は17年にかけ上昇傾向を示し、以降7~8%台で推移している。

 

4. 各エリアの外国人宿泊者を国籍別にみれば、

(1)高野町は、2012~19年を通じて、欧米豪のシェアが3割強と高く、中でもフランスが1~2割程度を占めている。一方、アジア地域のシェアも1割程度を占めており、特徴のある地域となっている。

(2)TKTB 地域では、東アジア地域のシェアが5割程度高く、なかでも台湾のシェアが13年には単独で約5割を占める。
また、欧米豪や東南アジア地域のシェアも上昇しており、うち、スペインのシェアは19年には4%程度まで拡大している。

(3)TKTB 地域を「熊野古道」ルートに限定すれば、東アジアのシェアが縮小する一方で、欧米豪のシェアが5割弱と大幅上昇していることがわかる。

(4)白浜町では、東アジア地域が7割超のシェアとなっており、中でも中国のシェアが年々拡大し、足下19年では33.5%と最も高い。一方、欧米豪のシェアは、19年には5.3%へと拡大しているが、高野町やTKTB地域と比較すると小さい。

 

5. TKTB地域と熊野古道ルートの比較で明らかになったように、地域全体ではアジア地域のシェアが高いが、「熊野古道」ルートに限定すれば欧米豪地域のシェアが高い。このことは、アジア地域のシェアが高い白浜町から熊野古道ルートの起点である旧田辺市、終点である新宮市、那智勝浦町へアジア人が周遊している可能性が高い。すなわち、一層の地域連携のたかまりが周遊性を拡大させる可能性を示唆していると考えられる。

 

6. これまで多くのDMOでは、単価の高い欧米豪へとインバウンドターゲット層をシフトさせてきたが、コロナ禍でこの戦略が変更を迫られている。例えば、TKTBでは、これまでの実績から欧米豪を引き続きターゲット層とする一方で、国内観光客の一層の開拓も重視している。持続可能な経営の観点からすれば、インバウンド需要が完全に消滅している現在では、これまでの内外比率を見直すことが喫緊の課題となっている。このことは、欧米豪の高い高野町においても同様であり、国内観光客の新たなターゲット層の開拓が課題とされている。

 

おわりに

アジア太平洋研究所(2019)で示したように、インバウンド需要の長期の決定要因としてブランド力の磨き上げが重要であることを指摘した。また、短期的な要因としては、自然災害やパンデミックを指摘した。今、まさにコロナ禍のようなパンデミックに上手く対応しつつ、ブランド力の一層の磨き上げで、持続可能な観光業を目指さなければならない。

本分析と2021年度のAPIRシンポジウムで明らかになったDMOの課題は、地域を支える特色のあるDMOとしてあり続けることである。そのためには、安定的な財源確保をするための施策や新事業に取り組むための人材確保が急務となろう。今回、新たに気付かされたことはコロナ禍の影響の大きさであり、具体的な課題は、インバウンドと国内観光のバランスをどのように保つかである。

また、インバウンドについても、水際対策の慎重な見通しのもとに、国籍比率を柔軟に見直す必要もあろう。このように、慎重な分析を踏まえた現実的なインバウンド需要の回復スケジュールを想定した対外戦略と、一方で国内観光の更なる磨き上げが重要となる。インバウンドのみならず国内を含めた観光産業全体の高付加価値化を目指すことが課題となっている。これらの課題に応えるためにも、次の報告ではタイプの異なるDMO(奈良県)について分析を行っていく。

関連論文

  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.134-景気は現況、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価上昇加速が景気下押し圧力-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気の判断は、現況、先行きともに悪化の兆しがみられるとした。現況判断CIは前月差上昇したが、基調判断を引き上げる程度ではなかったために前月から据え置いた。8月には「酷暑乗り切り緊急支援」が実施されるものの、電気・ガス負担軽減策終了につれてエネルギー価格の一時的な上昇が見込まれるため、景気の先行きに対して下押し圧力となろう。
    • 足下、生産は2カ月連続の増産。雇用環境は、失業率が4カ月ぶりに改善したものの、有効求人倍率と新規求人倍率はいずれも低下した。大型小売は、好調なインバウンド需要により百貨店を中心に持ち直している。貿易収支は輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、4カ月連続の黒字である。
    • 関西4月の生産は、2カ月連続の増産。業種別にみれば、生産用機械は半導体製造装置の増産が影響し、大幅上昇となった。
    • 4月の失業率は前月より改善し、就業者数と労働力人口の大幅な増加がみられた。また、就業率も前月より上昇し、足下の雇用情勢は回復傾向にある。ただし、昨年10‐12月期から1‐3月期にかけて停滞がみられたため、今後の動向に注意を要する。
    • 3月の現金給与総額は4カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より小幅拡大。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 4月の大型小売店販売額は31カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンドによる高額品の売上が堅調だったことから、26カ月連続のプラス。スーパーは飲食料品などの単価上昇が影響し19カ月連続で増加した。
    • 4月の新設住宅着工戸数は3カ月ぶりに前月比増加。持家が減少したものの、貸家と分譲は増加となり、着工数全体を押し上げた。
    • 4月の建設工事出来高は3カ月ぶりの前年比増加。民間工事、公共工事ともに全国に比して強い。5月の公共工事請負金額は前年比、前月比ともに2カ月連続の増加となった。結果、1-3月期の落ち込みから大幅回復した。
    • 5月の景気ウォッチャー現状判断、先行き判断DIいずれも3カ月連続で前月比悪化。物価の高止まりやコストの上昇が景況感に悪影響を与えている。
    • 5月は輸出入ともに前年比増加となった。輸出は好調な対中国と対欧米の影響で2カ月ぶりに増加に転じた。一方、輸入は対中及び対ASEANが堅調に推移し、対EUが増加に転じたため、2カ月連続で増加した。輸出の伸びが輸入の伸びを上回ったため、貿易収支は4カ月連続の黒字となった。
    • 5月の関空経由の外国人入国者数は過去最高値を更新し、インバウンド需要は好調を維持している。
    • 5月の中国経済は、生産の回復が停滞気味である一方、消費の回復は6カ月ぶりに加速した。しかし、雇用回復の遅れに加えて、不動産市場の不況も短期間での改善が望めないため、消費の更なる加速は期待しにくい。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

      【関西経済のトレンド】

    PDF
  • 野村 亮輔

    都道府県別訪日外客数と訪問率:4月レポート No.59

    インバウンド

    インバウンド

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    野村 亮輔 / 稲田 義久 / 松林 洋一

    ABSTRACT

    【ポイント】

    ・JNTO訪日外客統計によれば、4月の訪日外客総数(推計値)は304万2,900人。桜の開花シーズンの影響もあり、2カ月連続で300万人超の水準となった。

    ・目的別訪日外客総数(暫定値)をみれば2月は278万8,224人。うち、うち、観光客は254万8,085人と5カ月連続で200万人を超える水準となった。

     

    【トピックス1】

    ・関西4月の輸出額は前年同月比-1.8%と2カ月ぶりの減少。一方、輸入額は同+1.4%と2カ月ぶりの増加となった。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小した。

    ・4月の関空への訪日外客数は77万2,860人となり、過去最高値を更新した。

    ・3月のサービス業の活動は対面型サービス業を中心に悪化した。第3次産業活動指数、対面型サービス業指数いずれも2カ月ぶりの前月比低下。また、観光関連指数は旅行業や旅客運送業が低下に寄与し、4カ月ぶりの同低下となった。

     

    【トピックス2】

    ・1月の関西2府8県の延べ宿泊者数は9,352.4千人泊で、2019年同月比+7.9%と6カ月連続の増加となった。

    ・うち、日本人延べ宿泊者数は6,574.0千人泊で、2019年同月比+5.3%と6カ月連続の増加。また、外国人延べ宿泊者数は2,778.4千人泊で、同+14.5%と7カ月連続で増加した。

     

    【トピックス3】

    ・2024年1-3月期関西(2府8県ベース)の国内旅行消費額(速報)は1兆350億円。新型コロナ5類移行後、初めての年始休暇の影響もあり、宿泊旅行消費、日帰り旅行消費ともに増加した

    ・国内旅行消費額のうち、宿泊旅行消費額は8,158億円、日帰り旅行消費額は2,193億円であった。

     

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  • 稲田 義久

    人口減少下における活力ある関西を目指して~2050年を見据えて~

    研究プロジェクト

    研究プロジェクト » 2024年度 » 日本・関西経済軸

    RESEARCH LEADER : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    リサーチリーダー

    APIR研究統括兼数量経済分析センター長 稲田 義久

    研究計画

    研究の背景

    2024年4月に人口戦略会議は、全国地方自治体の「持続可能性」についての分析レポートを発表した。その中で、2020年から2050年までの間に若年女性人口の減少率が50%以上になる自治体(消滅可能性自治体)は全国1,729のうち744(43%)あるとし、関西は全198のうち門真市等81の自治体(41%)が該当している。まずは、この状況が前回2014年のレポートと比較して改善しているのか、そして今何が問題になっているかを把握する必要がある。

    国立社会保障・人口問題研究所(以下、社人研)の最新の推計によると、日本の総人口は2023年の1億2,435万人から2056年に1億人を割り、2070年には8,700万人になるとされている。特に関西(2府4県)は、全国や関東に比べて人口減少のスピードが速い。社人研の推計を基に2022年~2050年の減少率をみると、全国-19.4%、関東-7.5%に対し、関西は-23.3%となる。

    また、高齢化の進行も厳しい。社人研の推計によると2050年には生産年齢人口が5,540万人と2023年(7,395万人)比25.1%の減少、およそ4人に1人が75歳以上になるとされている。将来の労働力となる子どもの出生数も年々減少しており、人手不足によって社会インフラの維持が困難になる可能性も指摘されている。

    人手不足は足下でも深刻である。帝国データバンクによると、2023年の人手不足を理由とした倒産件数は260件で前年比1.9倍(前年:140件)と過去最多を更新した。業種別では建設業や運輸業が多く、生活に必要不可欠な職種(エッセンシャルワーカー)の人手不足は深刻である。

    一方で、労働参加率を上げ、特にサービス業の生産性を向上させれば人口が減少しても問題ないとする議論もあるが、最適解はどこにあるかについて検討する必要があると考える。

    そこで、全国に比して人口減少・高齢化が厳しい関西において、人口や労働等に関する様々な基礎データを整理し、加えてAPIRがこれまで蓄積してきたデータベースや知識を組み合わせながら総合的に分析しつつ、データを可視化することで、関西各府県及び自治体の特徴と課題を明らかにする。そして中長期的な視点で、この先人口が減っても豊かさと活力を維持・向上させていくための方策を模索していきたい。

    研究内容

    ●関西基礎統計の整理
    ・労働に関する基礎データ(就業構造基本調査、賃金構造基本統計調査 等)を基に、関西の地域別、産業別、企業規模、性別、年齢別の5軸でデータベースを構築し、県民経済計算に対応できるようなシステム開発及びメンテナンスを行う。
    ・地域別将来人口推計データを整理しつつ、足下と比較して関西の特徴を明らかにする。

    ●関西における詳細なデータ分析と労働需給分析
    ・整理したデータベースを基に産業構造や雇用構造、年齢構造、賃金構造等から、関西が抱える労働問題を総合的に明らかにする。
    ・介護、建設、宿泊サービスの分野に焦点を絞って詳細なデータ分析を行い、どの職種に労働需給のミスマッチが起きるのかを明らかにし、中長期視点で解決策を検討する。

    ●経済成長を維持し、持続可能な社会をつくるための施策の検討
    ・労働需給の課題に対してどのような処方箋が考えられるか、有識者等から様々な視点での知見をもらい、関西において実現できる未来の姿を模索する。

    期待される成果と社会還元のイメージ

    ・マクロデータの分析成果(関西経済白書、トレンドウォッチ)
    ・人口減少による人手不足の課題の共有化(研究会等での情報提供と議論)

    ・人手不足(特に介護、建設、宿泊分野)の解消に向けた対応の検討
    ・人口減少下においても人手不足を補い経済力を維持するための施策の立案

    研究体制

    研究統括・リサーチリーダー

    稲田 義久  APIR研究統括兼数量経済分析センター長、甲南大学 名誉教授

     

    サブリサーチリーダー

    松林 洋一  APIR主席研究員、神戸大学大学院経済学研究科 教授

     

    リサーチャー

    野村 亮輔  APIR副主任研究員
    吉田 茂一  APIR研究推進部員
    古山 健大  APIR研究推進部員
  • 稲田 義久

    日本経済(月次)予測(2024年5月)<5月末の統計集中発表日のデータを更新して、4-6月期の実質GDP成長率予測を前期比年率+2.0%に上方修正>

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久

    ABSTRACT

    5月発表データのレビュー

    ▶今回の予測では5月末までに発表されたデータを更新。また1-3月期GDP1次速報を追加した。家計消費関連指標、公共工事、及び国際収支状況を除けば、4-6月期GDP推計に必要な基礎月次データのほぼ1/3が更新された。

    ▶GDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%と2四半期ぶりのマイナス成長。CQM最終予測の予測誤差はほぼ想定内に収まった。

    ▶4月の生産指数は前月比-0.1%と2カ月ぶりのマイナスだが、1-3月平均比+2.6%上昇した。経産省は生産の基調判断を「一進一退ながら弱含み」と据え置いた。

    ▶4月を1-3月平均と比較すれば、建築工事費予定額は+14.0%、資本財出荷指数は+3.0%上昇した。民間住宅や民間企業設備は前期の低迷から回復。1-3月期の実質総消費動向指数は前期比+0.1%と4四半期ぶりの小幅増、公共工事は同+5.6%と3四半期ぶりのプラスとなった。

    ▶4月の輸出入動向(日銀ベース)を1-3月平均と比較すれば、実質輸出額は+1.3%、実質輸入額は+2.9%、それぞれ増加した。実質財貨純輸出の実質GDP成長率に対する寄与度はマイナスとなっている。

     

    4-6月期実質GDP成長率予測の動態

    ▶今回のCQM(支出サイド)は、4-6月期実質GDP成長率を前期比年率+2.0%、生産サイドは同+2.4%、平均同+2.2%と予測する。市場コンセンサス(同+2.10%)は支出サイドとほぼ同じ成長率を予測(図表1参照)。

    図表1

     

    4-6月期インフレ予測の動態

    ▶4月の全国消費者物価コア指数は前年同月比+2.2%と32カ月連続の上昇だが、インフレ率は2カ月連続で前月から縮小。一方、コアコア指数(除く生鮮食品及びエネルギー)は同+2.4%と25カ月連続の上昇だが、インフレ率は8カ月連続で減速している。

    ▶今回のCQMは、4-6月期の民間最終消費支出デフレータを前期比+0.4%、国内需要デフレータを同+0.6%と予測。交易条件は悪化するため、ヘッドライン(GDPデフレータ)インフレ率を同+0.3%と予測する(図表2参照)。

    図表2

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  • 高林 喜久生

    大阪・関西万博の経済波及効果 -3機関による試算の比較-

    インサイト

    インサイト » トレンドウォッチ

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    高林 喜久生 / 入江 啓彰 / 下田 充 / 下山 朗 / 稲田 義久 / 野村 亮輔

    ABSTRACT

    本稿では3機関(経済産業省、大阪府市、アジア太平洋研究所(以下、APIR))の産業連関表による大阪・関西万博の経済波及効果の試算を比較し、試算結果の違いを分析した。その結果、各機関が想定した最終需要の大きさが違うこと、取り扱う最終需要の範囲が異なること、加えて産業連関表の対象地域が異なることが、経済波及効果の違いを生じさせていることが明らかとなった。分析を整理し、得られた含意は以下の通りである。

     

    1. 経済波及効果を比較するうえで、まず最終需要の想定が重要である。最終需要のうち、万博関連事業費(建設投資・運営・イベント・その他)及び来場者消費において、APIRが経済産業省及び大阪府市の想定を上回っている。
    2. 経済産業省と大阪府市は発生した需要額(発生需要)をそのまま用いて経済波及効果を計算しているのに対し、APIRでは2府8県以外のその他地域分を除いた直接需要ベースで行っており、そこからも効果の違いが表れている。
    3. 経済産業省は全国表、APIRは2府8県とその他地域の産業連関表を含む関西地域間産業連関表を用いているので、両者がカバーする地域は同一である。そのため、経済波及効果を発生需要もしくは直接需要で除した両者の乗数には大きな違いはない。一方、大阪府域への経済波及効果はAPIRの方が大きい。理由は、大阪府市が用いている産業連関表は大阪府内を対象とするものであり、府県間をまたいだ経済波及効果を考慮できないためである。
    4. より高い経済効果を実現するためにも来場者消費の効果の引上げが重要となろう。そのためにもAPIRが主張する「拡張万博」のコンセプトが重要であり、それに基づいた旅行コンテンツの一層の磨き上げが重要となる。
    PDF
  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Quarterly No.69 -足踏み局面から緩やかな持ち直しへ:先行きの回復は企業の賃上げペース次第-

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 入江 啓彰 / 小川 亮 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 野村 亮輔 / 吉田 茂一 / 古山 健大

    ABSTRACT
    1. 2024年1-3月期の関西経済は、足踏み状況から緩やかな持ち直しに向かう局面にある。家計部門では、消費者センチメント、所得、雇用など力強い回復には至らないものの、底打ちの兆しが見られる。企業部門では、生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きであるが、景況感は堅調である。対外部門では、インバウンド需要はコロナ禍前の水準以上に回復しており、財輸出は持ち直してきている。
    2. 家計部門は一部に弱い動きも見られるが、緩やかに持ち直しつつある。大型小売店販売、センチメント、所得、雇用など多くの指標で回復ないし持ち直しの動きとなっている。実質賃金も依然として前年比マイナスが続いているが、底打ちの兆しが見られる。一方、住宅市場は低調である。
    3. 企業部門は、足踏みの状況が続いている。生産は自動車工業の大幅減産で弱い動きとなっている。設備投資計画は、非製造業で前年の反動が見られるなど全国に比べてやや控えめとなっている。景況感は製造業・非製造業ともに堅調に推移している。
    4. 対外部門のうち、財貿易は輸出・輸入ともに底打ちの兆しが見られる。輸出は対中国向けの持ち直しを背景に4四半期ぶりの前年比プラスとなった。インバウンド需要は順調に回復している。関空経由の外国人入国者数、免税売上高など増加傾向が続いている。
    5. 公的部門は、請負金額・出来高とも前年を下回り、弱い動きとなった。
    6. 関西の実質GRP成長率を2024年度+1.2%、25年度+1.4%と予測。22年度以降1%台前半の緩やかな伸びが続く。24年度は日本経済を上回る伸びとなる見通し。前回予測に比べて、24年度は-0.3%ポイント、25年度は-0.1%ポイントといずれも下方修正。
    7. 成長に対する寄与を見ると、民間需要は24年度+0.5%ポイント、25年度+1.0%ポイントとなり、緩やかな回復で成長を支える。公的需要は万博関連の投資により24年度+0.4%ポイントと成長を下支えるが、25年度には万博効果が剥落し、小幅寄与となる。域外需要は24年度+0.3%ポイント、25年度+1%ポイントとなる。
    8. 経済成長率を日本経済予測と比較すると、24年度は関西が全国を上回り、25年度はほぼ同程度となる。24年度は設備投資や公共投資など万博関連需要の押し上げにより全国を上回る伸びとなる。25年度は関西、全国とも民間需要が成長の牽引役となる。
    9. 今号のトピックスでは「関西各府県GRPの早期推計」および「各機関における大阪・関西万博の経済波及効果の比較」を取り上げる。

     

    予測結果表

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:詳細版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを5%割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化した。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス、バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長となった。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期は自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。4-6月期以降は強めの回復を見込むが、1-3月期のマイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下した。このため24年度平均成長率は低めにとどまる。25年度は内需と純輸出のバランスのとれた潜在成長率を上回る回復となろう。
    6. 8四半期連続の実質賃金減少と自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、昨年春闘を上回る賃上げが実現し、インフレ高止まりの影響が剥落する、24年後半以降となろう。また、7-9月期には定額減税の効果から可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 2024年夏場にかけ消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

     

    予測結果の概要

     

    ※説明動画は下記の通り5つのパートに分かれています。

    ①00’00”~01’42”: Executive summary

    ②01’42”~26’14”: 第148回「景気分析と予測」 <自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測>

    ③26’14”~36’10”: Kansai Economic Insight Quarterly No.69 <足踏み局面から緩やかな持ち直しへ―先行きの回復は企業賃上げペース次第―>

    ④36’10”~38’45”: トピックス1 <関西2府4県GRPの早期推計>

    ⑤38’45”~43’34”: トピックス2 <大阪・関西万博の経済波及効果—3機関による試算の比較->

  • 小川 亮

    関西2府4県GRPの早期推計 No.3

    経済予測

    経済予測 » 関西2府4県GRPの早期推計

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    小川 亮 / 稲田 義久 / 吉田 茂一

    ABSTRACT

    【関西各府県のインバウンド消費の影響】

    ・2023年度の早期推計値をみれば、年度最終四半期の工業生産の落ち込みが影響し、大阪府を除いてすべての府県で前年比減少となっている。一方で、大阪府は同+1.1%と比較的好調を維持している。プラスを維持する要因の一つは、好調なインバウンド消費と考えられるだろう。

     

    【ポイント】

    ・2020年度のGRPは、COVID-19の経済的影響のもと、関西各府県のマイナスの寄与度が大きく増し、国全体(-4.1%)に近いマイナス成長。

    ・2021年度には、21年度には、反転して関西全体で+3.3%のプラス成長であった。

    ・2022年度では+1.1%となり回復の傾向が続いたが、23年度はインバウンドの押上げ効果があるなか製造業による不振が相殺した結果として-0.7%のマイナス成長になると予想される。

     

    コロナ禍からの回復過程(2019年度=100)
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  • 稲田 義久

    Kansai Economic Insight Monthly Vol.133-景気は足下、先行きともに悪化の兆し: 生産回復が見込まれるが物価の高止まりがリスク要因-

    経済予測

    経済予測 » Monthly Report(関西)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 豊原 法彦 / 関 和広 / 野村 亮輔 / 郭 秋薇 / 劉 子瑩 / 吉田 茂一 / 古山 健大 / 宮本 瑛 / 新田 洋介 / 壁谷 紗代

    ABSTRACT
    • 関西の景気は、足下、先行きともに悪化の兆しがみられる。足下、生産は3カ月ぶりの増産だが、1-3月期は大幅な落ち込み。雇用環境は、失業率は横ばいだが、就業者数と労働者数が減少しており回復に停滞がみられる。大型小売は、堅調なインバウンド需要が影響し持ち直している。貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は縮小。先行きは自動車の生産回復が見込まれているものの、消費者物価の高止まりが景気の下押しリスクとなっている。
    • 輸送機械、生産用機械や電子部品・デバイス等の増産もあり、3月の生産は3カ月ぶりに前月比上昇した。しかし、1-3月期は、輸送機械の落ち込みが影響し、大幅減産となった。
    • 3月の失業率は前月からほぼ横ばいだが、就業者数と労働力人口に減少がみられた。また、就業率も前月より低下した。足下の雇用情勢に改善はみられず、労働需給はともに低調である。
    • 2月の現金給与総額は3カ月連続の前年比増加となり、伸びは前月より拡大した。しかし、物価上昇に追いついておらず、実質賃金の減少が続いている。
    • 3月の大型小売店販売額は30カ月連続の前年比増加となった。うち、百貨店はインバウンド需要の増加やオケージョン需要が堅調だったことから、25カ月連続のプラス。スーパーも18カ月連続で拡大した。
    • 3月の新設住宅着工戸数は2カ月連続の前月比減少。持家、分譲は増加となったが、貸家は減少した。依然弱い動きとなっている。
    • 3月の建設工事出来高のうち、公共工事は3カ月連続の前年比減少。一方、4月の公共工事請負金額は4カ月ぶりに増加に転じた。
    • 4月の景気ウォッチャー現状判断DIは2カ月連続で前月から悪化。円安による輸入コストの上昇や物価の高止まりが影響した。また、先行き判断DIも引き続き警戒感が強いこともあり、2カ月連続で悪化した。
    • 4月の輸出は2カ月ぶりに前年比減少。中国向けは2カ月連続で持ち直したものの、EUと米国向けが大幅減少したためである。一方、輸入は2カ月ぶりの前年比増加。結果、貿易収支は3カ月連続の黒字だが、黒字幅は前年比縮小。
    • 4月の関空経由の外国人入国者数は桜の開花時期でインバウンド需要が高まり、開港以来最高値を更新。外国人入国者数は堅調に推移している。
    • 4月の中国経済は、生産は堅調な推移が続くが、消費の回復には停滞感が強まっている。雇用回復の遅れと不動産市場の不況には依然として大きな改善が見られない。そのため、4-6月期の景気は1-3月期より大きな改善が見込まれないと予想される。

    【関西経済のトレンド】

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  • 稲田 義久

    148回景気分析と予測:速報版<自動車減産の影響は一時的、緩やかな回復を予測 - 実質GDP成長率予測:24年度+0.5%、25年度+1.3% ->

    経済予測

    経済予測 » Quarterly Report(日本)

     / DATE : 

    AUTHOR : 
    稲田 義久 / 下田 充

    ABSTRACT
    1. 5月16日発表のGDP1次速報によれば、1-3月期実質GDPは前期比年率-2.0%減少し、2四半期ぶりのマイナス成長となった。実績は市場コンセンサス(ESPフォーキャスト5月調査)の最終予測(同-1.17%)から下振れた。またCQM最終予測(支出サイド)は同-1.4%となり、予測誤差はほぼ想定内に収まった。
    2. 1-3月期の実質GDP成長率(前期比-0.5%)への寄与度を見ると、国内需要は同-0.2%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。うち、民間需要は同-0.4%ポイントと4四半期連続のマイナス寄与。民間最終消費支出、民間住宅及び民間企業設備はいずれも減少した。一方、純輸出も同-0.3%ポイントと2四半期ぶりのマイナス寄与となった。不正問題発覚に伴う自動車減産の影響が民間最終消費支出、民間企業設備や輸出の減少に表れたようであるが、影響は一時的にとどまろう。
    3. 結果、2023年度の実質GDPは前年度比+1.2%と3年連続のプラスとなったが、成長率を年度内(前年同期比)でみると-0.4%と3年ぶりのマイナス成長であった。このため、2024年1-3月期の実質GDPは再びコロナ前のピークを割り込んだ。
    4. デフレータを見ると、1-3月期の国内需要デフレータは前期比+0.7%と13四半期連続のプラスだが、交易条件は6四半期ぶりに悪化。結果、GDPデフレータは同+0.6%と6四半期連続で上昇し、名目GDPは前期比年率+0.4%と2四半期連続の増加となった。2023年度の名目GDPは前年度比+5.3%と3年連続のプラス。バブル崩壊の影響が残る1991年以来の高成長である。
    5. 1-3月期GDP1次速報と新たな外生変数の想定を織り込み、2024-25年度日本経済の見通しを改定。実質GDP成長率を、24年度+0.5%、25年度+1.3%と予測。前回(147回予測)から、24年度を-0.3%ポイント下方修正、25年度を+0.2%ポイント上方修正した。24年4-6月期には自動車の減産や輸出の反動減からの回復を予測している。1-3月期マイナス成長のため24年度成長率への下駄が低下したため、4-6月以降は回復が見込まれるものの、24年度平均成長率は低めにとどまる。内需と純輸出のバランスのとれた回復は25年度となろう。
    6. 実質賃金がプラス反転せず、また自動車減産(耐久消費財大幅減)の影響もあり、1-3月期の実質民間最終消費支出は4四半期連続の減少となり、減少幅も前期から拡大した。実質賃金のプラス反転は、春闘を上回る賃上げの実現とインフレ高止まりの影響が剥落する24年後半以降となろう。加えて、7-9月期には定額減税の効果が表れるため可処分所得の増加も期待できるため、民間消費は緩やかに持ち直そう。
    7. 24年度前半にかけて消費者物価インフレ率は加速する。結果、消費者物価コア指数のインフレ率を、24年度+2.4%、25年度+1.7%と予測する。前回予測から+0.4%ポイント、+0.3%ポイントそれぞれ上方修正した。GDPデフレータは23年度交易条件改善の裏が出るため、24年度+1.4%、25年度+1.5%となる。

    ※本レポートの詳細版については5/29(水)に公表予定

    予測結果の概要

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