関西における健康投資の経済評価

研究プロジェクト 2016年度

ABSTRUCT

リサーチリーダー

研究員 木下祐輔

 

研究目的

近年、高齢化の進展や医療ニーズの多様化を受け、健康・医療産業は大きく成長している。疾病は当事者だけでなく、彼らを支える家族や友人、勤める職場や地域社会にまで幅広い影響を与え、大きな経済・社会的損失をもたらす。そのため、疾病の治療や予防に対する関心が年々高まっている。

2015年度の調査では、関西地域を対象に医療サービスの利用者である患者数や医療費の将来推計を行うことで医療需要の見通しを示すとともに、予防活動を通じた健康寿命の増進が医療費の抑制と、新たな雇用創出にもつながることを指摘した。

しかし、医療費は疾病がもたらす損失の一部でしかない。なぜなら疾病は、疾患の治療にかかる直接的な費用(入院・外来患者に要する治療費、薬剤費用等)だけでなく、死亡によって喪失した将来所得、治療のための通院や労働損失や家族の支え(インフォーマルケア)といった間接的な損失も生じさせるためである。

そのため、2016年度調査では、関西を対象に疾病がもたらす間接費用に着目し、「疾病コスト分析(Cost of Illness)」の考え方に基づき、損失額の推計を行う。その際、推計するだけでなく、関西における特徴についても分析を行いたいと考えている。

 

研究内容

2016年度調査は「疾病コスト分析(Cost of Illness)」の考え方に基づき、損失額の推計を行う。

疾病コストは大きく、「直接費用(Direct cost):疾患の治療にかかる費用(入院・外来患者に要する治療費、薬剤費用、自立支援法関連サービス等)」と間接費用(Indirect Cost)の2つに分けられる。

特に、間接費用については、疾患で早期に死亡したことによって喪失した将来所得(死亡費用(Mortality Cost))と疾病の治療をするための通院、あるいは病気の状態によって発生する労働損失(罹病費用(Morbidity Cost))に分けられる。また、罹患費用は、企業に勤める人の心身の不調による欠勤(Absenteeism)と出勤しているにも関わらず心身の不調により頭や体が働かず、生産性が低下してしまう状況(Presenteeism)に分けられる。米国の研究では、病気による経済損失の71%が生産性の低下が占め、欠勤の29%よりも大きな損失をもたらすため、問題であることが指摘されている。

具体的な調査手法としては、以下の4つを想定している。

(1)疾病コスト分析における文献調査

分析の基本となる疾病コスト分析について、間接費用を中心に推計を行っている先行研究に着目する。具体的な推計方法の確認が目的。

(2)アンケート調査の実施

疾病がもたらす労働損失について、アンケート調査を実施することで、病欠や病気によって正常に頭が働かなかった時間などを調査する。アンケート調査項目は、在日米国商工会議所(ACCJ)が2011年に実施した「疾病の予防、早期発見及び経済的負担に関する意識調査」に基づき、検討する。

(3)疾病コストの推計

(1)(2)の調査結果に基づき、関西における疾病がもたらす間接費用の推計を行う。対象となる間接費用は、死亡費用と罹患費用(Absenteeism, Presenteeism)を想定している。また、2015年度に実施した医療費の推計結果を用いることで、関西における疾病コストの全体額を推計する。また、間接費用が直接費用の何倍になるかといった点についても検討したい。

(4)健康経営を実施している企業へのインタビュー(仮)

現在、国は従業員の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる企業に着目し、「健康経営を行う企業」として注目している。関西地域で健康経営に取り組む企業を対象に、健康経営を導入した経緯や効果などについてインタビューすることで、最終的な提言へと結び付けたいと考えている。

上記に加え、昨年に引き続き既存の提言や報告書のサーベイを行うとともに、医療関係学会・各種セミナーへの参加、学識者へのヒアリングも必要に応じて実施する。

 

統括

稲田義久 APIR数量経済分析センターセンター長、甲南大学教授

オブザーバー

加藤久和 明治大学教授

島 章弘 APIRシニアプロデューサー

 

期待される成果と社会還元のイメージ

今後は、医療ニーズの受け皿を病院から在宅へと移す施策も行われるなど、地域が社会保障の担い手となることが期待されている。地域単位での間接費用を推計した研究はこれまでになく、保健行政に取り組む自治体職員の参考になると考えられる。健康・医療関連企業にとっても疾病がもたらす費用に関する定量的な数値を公表することで、事業計画や市場規模見通し等にも利用可能できよう。また、健康経営については、現在東京証券取引所と共同で、健康経営に取り組む企業を「健康経営銘柄」として選定し公表しており、市場からの関心も高い。

pagetop
loading