地域統合におけるアジア中所得国と日本

研究プロジェクト 2018年度

ABSTRUCT

リサーチリーダー

主席研究員 後藤健太 関西大学教授

 

研究の背景

昨今のアジアは急速な経済発展を実現し、その存在感を日増しに高めている。20世紀後半「世界の工場」と呼ばれ、世界の一大生産拠点となったことはよく知られた事実だが、21世紀に入り、アジアはそれ以上の役割を果たすようになった。例えば、日本を仮想トップとするようなこれまでの経済秩序から、アジア中所得国企業を統括者とするグローバル・バリュー・チェーンが展開されているというのもその一つである。

生産工程は細かく分割され、それぞれの工程は国境を越え、多様な国の多様な企業が担っている。そして、そのプロセスの連鎖を日本ではなく、アジア中所得国企業が統括(ガバナンス)し始めた。こうした分業生産工程に日本企業あるいは関西企業がどう参入するか、その「接続力」が求められるようになってきている。2018年度はこうした日本企業のアジアでの立ち位置の変化や今後のアジア展開へのインプリケーションについて、過去(2016年度、2017年度)の研究を踏まえながら、書籍の出版に向けた準備(企画立案および出版社への働きかけ)、さらには執筆の開始に注力した。

 

研究概要

本研究では、まずは書籍化に向けて出版社への企画の売り込みを行った。書籍の概要を出版社に送付し、これに続いて「まえがき」および「目次案」も提出した。その後、出版社の編集および役員会議での審議を経て、12月初旬に企画が了承された。これを受けて執筆を開始し、現在「前書き」および「第一章」の執筆が完了、先方出版社との内容にかかわる打ち合わせおよび今後の執筆スケジュールに関する協議を進めている。大枠では2019年度内の出版に向けて執筆を進めるという予定である。なお、本案件は商業出版に向けた取り組みであるため、内容にかかわる具体的な開示は現段階では差し控えたい。

なお、本研究ではこの書籍執筆に関連し、中国に端を発するイノベーションの現状をより的確に把握・理解するために、中国・深圳市での訪問調査を実施した。中国の深圳市は「アジアのシリコンバレー」と称され、ベンチャーを始めとする多くの企業が新たな技術や製品を日々開発するイノベーションの一大拠点となっている。その背景の一つとして、モノづくりのためのサプライチェーンの成熟とベンチャーが起こりやすいエコシステムがうまく機能していることが挙げられる。電子・電機をはじめとした産業を対象とした組み立て加工という機能からスタートした深圳の産業構造は、その発展とともに部品(裾野産業)の集積を進めてきたが、これが現在のハードウェアをベースとしたイノベーション・エコシステムの展開の基礎となっている。

深圳では資金と技術力を持つベンチャー・キャピタルや、欧米(シリコンバレーなど)の投資家等をエコシステムに取り込み、また省および中央政府と大学が協同してスタートアップ支援事業を展開する組織なども機能している。さらに、資金的なフォローだけでなく、市場に進出するための教育プログラムの展開やビジネスマッチングなど起業しやすい環境づくりにも力を入れている。ただし他方では、製品の製造受託の生産現場では、人件費の高騰や諸政策等の要因で、労働力不足が顕在化しつつあり、深?のモノづくり環境にとっても新たな課題が浮上しているというのも事実である。

このような、日本以外で広がるエコシステムとどのような関係構築を行うのかについては、今後のアジアにおける日本のポジションと長期的な発展を考える際に重要となる。

内容

①分析の手法または現地調査の詳細

本年度は書籍発刊に向けての2016年度、2017年度の研究成果を補填する情報収集に加え、出版社との細かな原稿調整を行った。その関係で、国内(東京)出張を2回、さらには中国・深圳への調査を1度実施した。

②本研究のセールスポイント、具体的な工夫等

中所得国企業の台頭によるアジアの新たな展開について、これらの状況を示す断片的な情報は多いが、体系的に分析したものは極めて少ない。更にそうした状況を日本の視点で捉えることはダイナミックなアジア経済における今後の戦略を考えていくうえでも、有効である。

 

研究体制

①統括:アジア太平洋研究所 研究統括 猪木 武徳

②リサーチリーダー:アジア太平洋研究所主席研究員・関西大学経済学部教授 後藤 健太

③事務局:アジア太平洋研究所調査役 馬場 孝志

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