ABSTRACT
リサーチリーダー
APIR主席研究員 関 和広 甲南大学知能情報学部教授
成果報告
景況感指数は、金融当局の政策決定や企業の生産計画、機関投資家・個人の投資判断等、様々な経済活動の拠りどころとして重要な役割を担っています。本プロジェクトでは、日々配信されるニュース記事のテキストデータを事前学習させた言語モデルに読み込ませ、景況感を数値として推定する「S-APIR指数」を開発しています。政府による既存の景況感指数に比べて速報性があり、日次での集計も可能なことが特徴です。2023年度は、様々なテキストデータの組み合わせや言語モデルの選定とその設定の違いが及ぼす影響について調査し、政府の景況感指数との相関をより高めてきました。
また、いくつか新たな機能も追加しています。例えば任意のキーワードを入力すると、それが指数にどのような影響を与えたのかについて可視化するだけでなく、そのキーワードを含む影響度の大きな文章(記事の一部)を例示したり、当月においてバーストしているキーワード(急上昇ワード)を表示したりする機能等です。
▶ S-APIR指数の機能についてはこちら よりご活用ください。
※2024年8月より一般公開中
当初計画
研究目的
従来、マクロ経済の動向を把握するには、集計データを用いることが一般的である。しかし、集計データは、リアルアイム性に欠けており、ミクロの経済要因を知るには不十分という課題がある。一方、昨今の情報技術の急速な進展により、国内外の経済活動において生成される大規模なデータ(ビッグデータ)が様々な形で利用可能になり始めている。きわめて豊富な情報を内包しているビッグデータの活用は、マクロ経済のより精緻な情勢判断と予測において、有効であると考えられる。このため、本研究プロジェクトではビッグデータの一つであるテキストデータを利用して、経済の動向を把握することを試みる。
研究内容
S-APIR指数(景気関連指数)を推定するため、Transformerを用いた大規模言語モデルを利用する。Transformerは、それ以前に用いられていた回帰的ニューラルネットワーク(RNN)のように単語の順番に入力して学習することはせず、文中の全ての単語を一度に入力することで全ての単語同士の依存関係を学習する。その処理を基本として、S-APIR指数を推定するモデルの精度向上を図る。
期待される成果と社会還元のイメージ
景気動向を代理する「S-APIR指数」を見ることで、企業の経営判断を行う際の議論に使えるようにする。そして、国や自治体に対しても、政策決定に活用していただくことを検討する。また、本研究の成果の一つとして期待できるデモ・システムを、会員企業に試行的に提供する。システムのユーザー自身が、デモ・システムへ興味ある単語を入力すると、その単語がS-APIR指数にどのような影響を与えているのか知ることができる。例えば、「大阪関西万博」という語を入力した場合、ミクロの波及メカニズム(例、建設需要)までは見ることができないが、大阪関西万博が最終的に景気動向へ正の影響を及ぼすのかどうかを調べるための、きっかけとなる。
研究体制
研究統括
リサーチリーダー
リサーチャー