ABSTRACT
平成15年6月2日(財)関西社会経済研究所担当 宮原
●趣旨
地方分権に向け、三位一体の改革論議(補助金の廃止・縮減、交付税の改革、地方への税源移譲)が、それぞれ対立点を抱えながらも大詰めに近づいた。 この改革は、地方分権への大きな一歩であるが、論議の結果によっては、逆に、後退、スケジュールの遅れにもなりかねい恐れもある。関西は地方分権において 学界・経済界等各界あげて全国を先導してきた。こうした背景もあり、今回、急遽、本問題についての有識者の見解をとりまとめたものである。これが、地方分 権のための三位一体の「真の改革」に貢献することを期待するものである。(有識者の見解収集期間:5月22日?5月30日)
●見解をお寄せ頂いた有識者(順不同)
新川達郎 同志社大学大学院総合政策科学研究科長・教授
中川幾郎 帝塚山大学大学院法政策研究科教授
森信茂樹 政策研究大学院客員教授
林宏昭 関西大学経済学部教授
林宜嗣 関西学院大学経済学部学部長・教授
齊籐愼 大阪大学大学院経済学研究科教授
田中英俊 同志社大学大学院総合政策科学研究科客員教授
知原信良 大阪大学大学院法学研究科教授
大住荘四郎 新潟大学経済学部教授
長谷川裕子 関西経済連合会産業地域本部地域グループ次長
岸秀隆 監査法人トーマツ代表社員・公認会計士
上村多恵子 京南倉庫株式会社代表取締役
●有識者見解の要約 (文責:事務局)
* 新川達郎 同志社大学大学院総合政策科学研究科長・教授
・ 三位一体改革は国と地方の財政規律の確立であり、地方自治体の自己決定・自己責任体制の強化である。
・ 現在の改革論議には、それが目指す新たな社会像が見えない。成熟、低成長、少子高齢化のなかでの地域社会をセフティネットにした社会像としての分権化社会の創造と言う視点が大切。
・ 基本的なことよりも、増税ありき、補助金・交付金の削減先行がまかり通っているのは問題。改革の議論の仕方が問題。
・ 地方自治の財政自主権を保障する改革が必要。
* 中川幾郎 帝塚山大学大学院法政策研究科教授
・ 地方自治体の非効率と国依存体質の原因は、中央集権支配に基づく補助金・交付金システム。
・ 税財源の委譲がなければ、地方の自己決定・自己選択は絵に描いた餅。財政窮迫とは別次元の問題。
・ 財政調整機能は簡素な方式にし、基本的には共同税を主に構成にすべき。
* 森信茂樹 政策研究大学院客員教授
・ 危機的な財政赤字を踏まえ先ず、国・地方を通じた効率的な税の使い方を考えるべき。
・ 補助金を通じた国の関与・規制は原則撤廃。公共事業では、国の補助事業を廃止・縮減。
・ 地方の財政収支尻を保障する「交付税制度」そのものを廃止し、自治体間の調整は、一人当たり税収の均等化という客観的な調整に改め、その規模も縮小。
・ 補助金・交付税の削減によって確保される財源をもとに、地方へ税源移譲する。過去の国の債務(公共事業の国債充当分)も、その一部を国から地方へ移譲。
・ 財政諮問会議のような政府レベルの論議に、当事者の自治体の責任者を出席させ、効率化の具体的な数値をコミットさせることが必要。自治体の行政サービスの無駄は国をはるかに超える。
・ 三位一体改革、は各省、総務省、財務省、地方公共団体が一両づつ損をする「四方一両損」の改革で、最終的には、住民が受益するという改革であるべき。
* 林宏昭 関西大学経済学部教授
・ 国庫支出金の改革では、事業の責任、財政的責任が曖昧な現状を見直すべき。国庫負担の基準を施設や職員数ではなく、人口、高齢者、児童など財政需要を中心に改めるべき。
・ 税源移譲として、消費税収の地方への配分割合を高め、所得税減税と合わせた所得割住民税の比例化を検討すべき。
・ 「地域のための負担」という住民意識、「住民の負担による行政」と言う行政側意識の確立が大切。
* 林宜嗣 関西学院大学経済学部学部長・教授
・ 地方財政の効率化と地方分権改革は別個の問題。三位一体は同時並行で進めるべき。
・ 地方の歳出削減と地方交付税の縮減は改革のゴールであり、手段ではない。
・ 中央集権の実体をきっちり押さえた上での改革案でなければ、三位一体は迷走。
* 齊籐愼 大阪大学大学院経済学研究科教授
・ 大きな改革の場合、マクロや国民生活へのメリットを明らかにすべき。
・ 財源難の下で地方分権を実現するには、受益と負担がキーワード。歳出水準を調整するか、あるいは負担水準を調整するかといういわゆる「限界的財政責任」(現在これは専ら地方債に依存)を明確にすべき。
* 田中英俊 同志社大学大学院総合政策科学研究科客員教授
・ 地方分権が真に実体を持つには、国から自主財源を移管し地域が住民・企業・NPOとも一体となり自らの責任で政策の立案・遂行ができるようにすべき。
* 知原信良 大阪大学大学院法学研究科教授
・ 三位一体は同時決着すべき。
・ 全国共通の固有財源と地方独自の自主施策の両方が必要。単に国からの税源移譲だけを求めていたのでは国民の理解が得られない。
* 大住荘四郎 新潟大学経済学部教授
・ 歳出の削減と増税の具体的目標を設定する。
・ 優良自治体と一般自治体に振り分け、原則、優良自治体への国庫補助は撤廃、交付金は大幅削減。交付金の算定基準も人口などに局限する。
・ 将来、優良自治体になれなかった自治体は窓口機能のみをのこし、一般事務は都道府県がになう。
* 長谷川裕子 関西経済連合会産業地域本部地域グループ次長
・ 財政改革優先の考えは問題。三位一体は地方の自立・分権改革が目的。
・ 中央集権そのものが財政需要を肥大化。
・ まず交付税を改めるべき。交付税税源は地方に移譲し、新たに、住民に見える財政調整の仕組みを構築すべき。
* 岸秀隆 監査法人トーマツ代表社員・公認会計士
・ 地方公共団体における受益と負担の明確化が地方分権改革の目的。
・ 義務教育はナショナルミニマムであり国庫が負担しても良い。
・ 地方共同税の創設は地方の独自財源としての性格が明確になるので良い。
・ 財政調整交付金を恒久的措置とする場合は、「国が法令で一定の行政水準の維持を義務づけている事務を国が保障するための機能」に限定すべきである。
・ 「国税、地方税とも増税を伴う税制改革が必要」との案には絶対反対。
* 上村多恵子 京南倉庫株式会社代表取締役
・ 地方分権・地方主権の確立は、東京ではめったに話題にならないが、関西はじめ、地方ではずっと問題にしてきた。
・ 明治政府以来の東京を中心とする中央集権、官主導、平等志向、欧米キャッチアップ志向等を基礎とした国のあり方を、根本的に見直す大きな「国家のモデルチェンジ」である。
・ 「その時代に」「その地域に」「そこに住む」人々が、自ら考えもう少し身近に行動できる新しい国と地方の関係を創る必要がある。
・ 国・地方の歳出削減を含めた四位一体論で進めるべきものである。国の財政再建を優先するため、国庫補助金負担や地方交付金の削減が先で、本格的な税源移譲は後からという考え方はおかしい。