中期的な原油価格の目安

研究プロジェクト 2008年度

ABSTRUCT

原油価格(ここでは油種WTI)の値動きは非常に荒く(volatile)、予測しづらい。この1年の値動きを 振り返ってみよう。米国でサブプライムローン問題が注目された2007年7月には、1バーレル70ドルをつけ、9月半ばに80ドルを突破、10月後半には 90ドルを抜け、2008年2月半ばにはついに100ドルという記録的な水準に達する。KISERの前回の四半期景気予測時点(5月20日)では120ド ル半ばであった。原油価格はさらに加速を続け、7月3日に145.28ドルのピークをつける。以降マーケットは弱気に転じ、直近の8月15日では 113.77ドルとピークから30ドル以上も下落している。このように非常に荒い値動きを示してきたが、7月で見るとこの1年で2倍になったという事実の 持つ意義は大きい。

われわれの景気予測では原油価格(モデルではWTI、ドバイ、ブレントの平 均)は外生変数であるが、この1年間のトレンドを持った荒い値動きから、その想定は常に上方修正となった。中期的な原油の均衡価格についてはほぼ推測がつ くが、短期的にはそれから乖離する部分の予測が非常に難しい。
短期の原油価格については、基本的にはタイトな需給バランスと地政学的な問題により高値は避けられないが、需給条件から決まる部分以外の投機を含むプレ ミアム部分が相当あると考えられている。最近の経済産業省の分析(通商白書2008年第1章)では、2008年4月の原油価格(125.5ドル)のうち、 在庫の変化で説明できる部分が74.7ドルで、プレミアムが50.8ドルと推計されている。
中期的な均衡価格の目安として参考になるのが、代替エネルギーのコストであり、現在では70ドル程度と考えられている。もう1つの参考価格が、原油生産 者がその実質価値を維持した場合の価格である。1980年以降、世界の消費者物価指数は2.5倍になっているから、当時の原油価格40ドルを考慮すると、 現在原油価格が100ドル程度と見込まれるのである。このことから、直近の原油価格はピークから30ドル程度下落しているが、さらに100ドルを目指して 値を下げる可能性がある。ただ、基本的には需給条件がタイトなことから、一方的な下落は想定しづらく、やがて底打ちして高値の水準がしばらく続くと思われ る。
今回の四半期予測(8月20日発表)では、最近の価格動向を反映させて2008年7-9月期を前回予測の想定より11ドル程度上方修正した(106.6 ドル→117.8ドル)。需要期の2008年末には120ドル前半間まで上昇し、2009年は120ドル程度の高値圏で推移するが、年末には110ドル台 に緩やかに低下すると想定する。

原油価格には、需給条件で説明できる部分以外に投機を含むプレミアム部分が相当 あるようである。最近の経済産業省の分析(通商白書2008年第1 章)では、2008年4月の原油価格(125.5ドル)のうち、在庫の変化で説明できる部分が74.7ドルで、プレミアム部分が50.8ドルと推計されて いる。

各国予測要約

【日本】
<年後半の経済、不況に陥らないためのポイントは「民間最終消費」と「輸出」>
4-6月期の日本経済は4四半期ぶりのマイナス成長となった。8月13日に発表されたGDP1次速報値によれば、同期の実質GDPは前期比 -0.6%、同年率換算-2.4%のマイナス成長となり、1-3月期の同年率換算+3.2%から大幅な低下であった。図からわかるように、実績はほぼ市場 コンセンサス予測(-2.0%)と同じであった。超短期予測は、支出サイドモデル予測が前期比-0.9%、主成分分析モデル予測が同-1.6%といずれも 若干過大推計となった。今回の予測動態を振り返れば、6月初旬以来、超短期モデル、市場コンセンサスともにマイナス成長を予測しており、早くから低調な経 済が一致した見方となっていた。
4-6月期の実質GDP成長率への寄与度を見れば、国内需要は経済成長率を0.6%ポイント引き下げ、また純輸出の寄与はゼロとなった。
今回の特徴は、民間需要、公的需要、輸出のすべての需要項目で減少したことである。民間需要では、実質民間最終消費支出、実質民間住宅の低迷が実質 GDP成長率を0.3%ポイント、0.1%ポイントそれぞれ引き下げた。公的需要も経済全体の成長率を0.2%ポイント引き下げた。
加えて、4四半期ぶりのマイナス成長には、米国経済低迷による輸出の減少が影響している。これまで経済成長を牽引してきた実質輸出は同2.3%低下し、 経済成長率を0.4%ポイント引き下げた。実質輸入は同2.8%大幅下落し、3期ぶりのマイナスとなった。輸入の減少は経済全体の成長率を0.5%ポイン ト引き上げたが、輸出がほぼ同程度減少したので、実質純輸出の実質GDP成長率への貢献はゼロとなった。
4-6月期のGDPを反映した最新の超短期モデル予測によれば、7-9月期の実質GDP成長率は前期比+0.5%、同年率換算+2.2%と高めの見通しと なっている。2期連続のマイナス成長は今のところ避けられそうである。また10-12月期は前期比+0.4%、同年率換算+1.8%の予測となっている。 この結果、現時点では2008暦年の経済成長率は1.2%と見込んでいる。
マーケットの見方からすれば、若干強気の予測となっているようである。たしかに年末にかけての景気減速は否めないが、不況に陥らないためのポイントは民間最終消費支出と輸出の動向にあるといえよう。その意味で、7月の通関統計が最初の重要なデータとなろう。

【米国】
<7月半ばから景気は下降状態にある?メンタルリセッションからリセッションへ?>
2008年4-6月期の経済成長率が1.9%(速報値)と発表され、多くのエコノミストが懸念していたリセッション懸念とは程遠いものとなった。 この速報値が発表される直前の市場のコンセンサスは2.2%であり、超短期予測も2.8%を支出サイドから予測していた。速報値が市場のコンセンサスや超 短期予測よりもかなり低い経済成長率となったのは、製造業の実質在庫増が-324億ドルと大幅なマイナスになったことにある。センサス局の毎月の製造業在 庫統計からこのような大幅な在庫減は想定されないことから、この大幅減は在庫評価調整によるものである。ちなみに、在庫をGDPから除いた実質最終需要の 4-6月期の伸び率は+3.9%と非常に高い。
このように最終需要の伸びが高い成長率は今後の経済成長に希望をもたらすものであるが、超短期予測では、グラフにみるように8月15日の予測で7-9月 期の支出・所得サイドからの平均実質GDP伸び率を-0.5%と予測している。さらに悪いことは、7月半ばから景気が下降状態にあることである。原油価格 の下落傾向、株式市場の持ち直し傾向など明るい材料があるものの、次のような懸念材料がある。
* 個人消費のうち、サービス支出がスローダウンしており、耐久財支出がマイナス成長を続けている。
* 還付税の経済への影響が10-12月期にはかなり小さくなるだろう。
* 設備・ソフトウエア投資の回復が遅い。
* 住宅市場の停滞が続く。
* 在庫調整も長引くと思われる。
* ドル高から純輸出の改善がみられなくなる。
* 賃金・俸給の伸び率が前期比年率3%?4%と非常に小さい。
* インフレ率(3%?5%)がFRBの許容範囲を大きく超えることから、景気のスローダウンに対して政策金利引き下げが難しくなる。

【中国】
<7月の経済指標は勢いを強めている>
国家統計局発表の7月の経済指標によれば、中国経済は4-6月期に減速したものの、7-9月期の始めに勢いを強めている。注目すべきは、インフレ圧力は消費者物価では幾分緩和したが生産者物価では引き続き強いことである。
小売販売額は、2008年上半期の前年同期比+21.4%に続いて、7月も前年比+23.3%と好調である。 北京オリンピックが旅行や小売販売を後押ししたことは確実である。商品部門の好調により、投資も勢いを強めている。
4-6月期の貿易黒字は減速したが、7月は反発した。同月の貿易黒字は253億ドルとなり、前年同月比+4%となり、年初以来もっとも高い伸びを記録し た。中国の対米貿易黒字は前年同月比+13.8%の164億ドルと拡大し、米国にとって中国は、日本を抜いて最大の貿易相手国になった。対EU貿易黒字は 同+22.9%増加して150億ドルとなった。
工業生産は依然強い勢いを維持しているが、最近やや減速している。7月の工業生産は前年同月比+14.7%を記録したが、昨年7月の同+18.0%から は低い伸びとなっている。同月の鉄鋼生産の伸びは40%を上回り、繊維生産は同10%増加したが、自動車生産量は同8%にとどまっている。またセメント生 産は同6.8%増加した。
われわれは、中国経済が2008年7-9月期、10-12月期に幾分ながら減速するものの強い成長モメンタムを維持するものと予測する。7-9月期の実質GDP成長率を+10.5%、10-12月期は+10.4%と予測する(いずれも累積ベース)。
インフレについてみると、7-9月期の消費者物価指数は前年同期比+6.2%、10-12月期は同+5.6%と、いずれも4-6月期の同+7.8%から 減速する。一方、生産者物価指数は、今後6ヵ月をみると減速傾向は見られず高い伸びを維持するものと予測する。すなわち、7-9月期は前年同期 比+9.9%、10-12月期は同+9.7%と見ている。

[ウエンディ・マック ペンシルベニア大学客員研究員]

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